闇の奥 ~昭和二十年の幻想入り~   作:くによし

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紅の自警団⑮

 霊夢がなだめて何とか外部の人間にお引き取り願った後、ようやく藤花は棺から這い出る事が出来た。

「もう……どんな喜劇やの」

「しばらく死んだことにするってのはあんたの発案でしょうが」

 呆れ顔の霊夢に、藤花はそうやったね…とげんなりした顔をして見せる。

 そのまま、先刻の騒動で確認できなかった助っ人、というかルーミア相手にも歯が立たない藤花に代わる実働部隊のメンツを眺めた。

 まず、いつの間にか二笑亭へ到着している魔理沙。これは彼女が頼んだようなものなので当然だ。霊夢も並んで異変解決、妖怪退治の誉れ高い実力者と言える。自分が仇を討つといった手前もあるのでじゃあお願いしますねなどといって任せきりには出来ないが、歴戦の兵士というものは周囲に助言を与えるだけでも部隊の実力向上に一役買うという事を藤花は心得ていた。

 そして妹紅。何かと正邪の登場により討伐が進んでいないのは確かだが、第一目標はあくまでも高堂である。妹紅と共に奴の始末をつけない事には、この事件は締まらない。

「えーと、それから……」

 言葉に詰まったのは、まず口にしたいと思う話題が二つ、これまで確認した面々の後ろに控えていたからである。

情景として描写するならば、霊夢、魔理沙そして妹紅の後ろにまだ人影が三つあり、ひとつは見知らぬ水兵。そして残り二つは誰に呼ばれたのか口をあんぐり開けて固まっている奬とサキだったからだ。

「………どちらさん?」

 最終的に、藤花は顔見知りの奬とサキの顔につっこむのを後回しにし、まず知らない相手を知ることを優先した。

「ああ、そうだった。私がさっき引き留めたんだ」

「魔理沙、あんた本当に人集めてなかったのね」

「昨日知ったばかりなんだ、あちこちにナシを通すだけでも結構大変なんだよ」

 どうやら、さっき押し寄せてきた近所の人たちに帯同してきた尼さんや付添いの妖怪から引っこ抜いたらしい。

「あー、やっぱり初めましてだよな。こちら煙草屋の藤花さん、んでこちらは村紗水蜜さんだ」

魔理沙が妙に紹介慣れしているのが気になったが、曰く外来人は恐怖が薄いのか仕事をするにあたり、妖怪に声掛けするのを里出身者に比べて躊躇わない傾向にあるらしい。

という事は夏衣と略衣が混ざったようなこのムラサと呼ばれる子も妖怪か……。流石幻想郷と感嘆する暇もない。

「ムラサはんね、よろしゅう。……その成りやと、やっぱり武器は水になるんかな」

「自前の柄杓と、あとここでは振り回しかねますが錨であります!あ、自分の事はキャプテンでも何でも読んでください!」

 目を丸くしてしまった。船幽霊であることはともかく、あります調で話す人など数年ぶりだ。もしかして帝国海軍の血も少し入っているのではと訝しんだが、そんなことは無いらしい。

「まあ、あんまり先人にタメで指図するんもあれやし、ムラサはんで呼ばせてもらうね。キャプテンやけど……えらい丁寧やね。船長やったらもう少し偉そうでも…」

「藤花さん」

「アッハイ」

「船には、船長がいますが船主もいるんでありますよ」

「そ、そうやね……」

 こちらの手中を伏せるのは魔理沙を通じて文へ打診してある。対価として正邪逮捕、高堂逮捕もしくは射殺となった場合の独占スクープを要求されているが、それ位いくらでもくれてやろう。まずは自分と妹紅でムラサを支援に回しつつ確保し、余力があれば正邪を追って最悪彼女は霊夢と魔理沙に花を持たせるというのも手だ。

「ああ、そうだ」

 ムラサが何事か思い出したようだ。短すぎる袴から丸められた紙片を引っ張り出す。

「死んだ事にして正解だったみたいですね。今朝、里にこんなものがばら撒かれていて」

 そう言って差し出された紙を見て藤花は再び目を丸くする。自身の手配書だ。大陸で軍閥に追われた事もあるので今更驚くことでもないが、どこから出るのか懸賞金の額まで書いてある。

「ごひゃっかんもん……」

「あー、そういえば」

 やり取りを横で眺めていた魔理沙も気付いたようだ。

「そうだよ、森でルーミアが変なこと言ってた!"五百貫文もらったー"って。あれ、この事だったんだな」

「殺人予告みたいなもんやん。自警団に言うて応援頼まれへんかな」

「いやーそれが、私も声かけてみたんだけどね。懸賞金をかけてるのは正邪みたいだけど今一つ証拠に欠けるから怪文書以上の扱いにならないってけんもほろろでさ」

「全く、厄介ごとが減ると思って警防団の時に協力したのにこれじゃあね」

 自分で持ち込んだらしい煎餅の封を切りながら、霊夢もため息ひとつついて懸念を表する。正邪に手を焼かされ続けている藤花だったが、この二人の反応を見る限り逮捕に情熱を注いでいるというか「またか」という反応であるように見受けられる。やはりきりのない相手なのだろう。

「待てよ」

 火種を妹紅と共有しつつ、一服始めた藤花がムラサを上から下へと眺めながらつぶやく。

「ムラサはん、あんたがウチを殺した事にしてくれへん?」

 水に放り込まれてから突拍子もない提案を連発し続ける藤花に、妹紅が咽せ、他のメンツも首を傾げている。だが藤花は至って真面目なのだ。

「ど、どんだけ設定を練るつもりなのさ……」

「あいつら、ウチの死体は見てへんから戦果不確実って事で懸賞金かけたんやろ。てことは、ウチにトドメ刺したってやつが現れたら首実検に現れるんと違うかな」

 行き当たりばったりではあるが、手繰りかけた糸を切れるままにするのは惜しいという意見は他も同様だった。闇雲に探すよりは、決戦場も分かるこの計画に拠るのが今のところ唯一の案として全員が承服する。

 具体的な作戦案を練る前に、まず藤花がしなければならなかったのは、放置され、口をようやく手動で閉じた奨とサキに驚かせて済まなかったと謝る事だった。

 

   *

 

 翌日、里の広告塔に張り紙が出された。

「水煙草えびすアリマス 村紗水蜜」

 えびすと言えば現代においては福の神のようなイメージだが、遠回しに水死体を意味する単語でもある。

 煙草のえびす。

怪文書をばら撒いた下手人がこれを見て理解すれば、近いうちに死体もしくは殺した証拠を検めに来るだろうと予想する。そして警戒心がそれなりにあるなら、集合場所は罠の張りやすい里内ではなく外であろうとも。

高堂の言動を聞く限りそこまで賢くないのではと藤花は心配したが、正邪だけでも気付けば必ず動きが見られると他の面々は断定した。流石に五百貫文は手にできないと思われるので、ムラサには藤花が追って個人的に礼をするという事で落ち着いている。

「今度こそ逃がさへんつもりやけど、こう出歩かれへんってのは不便なもんやなあ」

「死んだふりするって言い出したのは藤花じゃん」

 変装に使用した服を取りに来た魔理沙が、中庭に面した縁側で腰を下ろして出されたお茶をすすっている。葬式以来、高黍屋は故人の遺志で博麗神社に寄進されたという事で表向き処理されており、藤花に代わって買い出しに行く妖怪の姿が度々目撃される事も相まって「神社にたむろする妖怪が乗っ取った」という噂が立ち、今のところ押し入ってくる輩はいない。

「霊夢はんみたいなこと言う……」

 そう言って藤花がぱくついているのは、魔理沙の手土産の団子である。いくら幻想郷と言えども、普通の人間が死んだ後に素知らぬ顔で表をほっつき歩くわけにもいかない。

結果、外に出られないとなると食事やお茶の時くらいしか娯楽が無くなってしまったのだ。鈴奈庵に事情を話して退屈しのぎの雑誌でも取り寄せようかと思ったが、これ以上計画の手の内を明かす対象を増やすと成功がおぼつかなくなるので涙を呑んで我慢した。

「魔理沙はん、鞄からガラガラ聞こえとったけど、酒とか持ってへんの?」

「残念ながらこれは酒じゃないんだなぁ……」

 中庭の陽光に目を細め、魔理沙は苦笑した。傍らの鞄を開けて取り出して見せたのは、コルク栓で封印されたフラスコであった。中には僅かに濁った青い液体が波打っているようだが、破損防止のために薄いゴムが巻かれている為に中身が何であるのかを具に観察することは出来なかった。

「何それ、魔女の秘薬?」

「これはあれさ、こう持って……投げると」

 そう言って魔理沙はフラスコの首を掴み、球体が上に来るように保持すると振りかぶって投擲する動作をスローモーに再現して見せた。さながら大陸で見た柄付き手榴弾の扱いを想起させる。

「…爆発する?」

 自然と導き出された答えに、魔理沙は得意げに鼻を鳴らして首肯した。酒というかモロトフカクテルというか、と考え込んでいると、これ何かと便利じゃないかと思い至る。

「魔理沙はん、これ売ってくれへん……?」

「え、何あんたも紅魔館に本借りに行くの?」

「いやいやいやいや……そうやなくてウチは里を……里を守るためやんか」

 里を吹き飛ばしたくて、と口にしかけて止めた。魔理沙も、ああ高堂に使うのかといって納得したらしい。いくら払えばいいのか分からないのと、魔法使いと聞く彼女には紙幣などより別のものがよいのかと想像して大陸で換金目的に秘匿していた宝石付き指輪を持ってきて見せてみる。

 何となく魔法使いだから薬草や宝石、というのは安直すぎる気もしたが当の魔理沙は濡れてきれいだなーなどと言って眺めていたのでまんざら悪い選択でもなさそうだ。

「どっから出してきたかって詮索は無しやで」

「これをね……いいよ」

 魔理沙は膝から先を庭先に出してぶらぶらさせたまま、上体を寝かせて指輪の宝石を眺めている。藤花もすぐ横で寝そべり、傍らのフラスコボムを指でつついたりしていた。

「見たところ沢山あるみたいやけど……ウチがお願いしたらまた作ってくれる?」

「いいけど……もうお金や宝石はいらないかな」

「え、じゃあどう……」

 気付けば、寄り添って寝転がっていた魔理沙の片足が藤花のそれへとかけられ、足首を絡ませてきていた。二人の間にあった手も、自然と結ばれる。

「うーん……私も最近けっこう退屈してたとこだからね」

「もう…分かったって」

 自宅の土地だが、藤花は周囲をチラと見てから襦袢の前を首元から二つ三つと開いていく。

「全部買うよ」

「いいとも、袖口に仕込んで持ち運べる小型版もつけるよ」

 魔理沙が上体をひねり、顔を藤花の胸元へと載せる。藤花の鼻孔を、髪から立ち上る少し湿った甘い香りがくすぐった。

「高いか安いかは……やってみなくちゃ分かんない………」

 藤花の中国服の前合わせを、魔理沙は歯と舌で器用に外していく。綿布で全周から押さえられていた藤花の胸が戒めから放たれ、重量に従って少し揺れた。

 

 

 

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「そう……上手いよ、魔理沙……もうドルアーガの塔やわ……」

時とともに激しさを増す魔理沙のディープダンジョンに、藤花はエキサイトバイクしていた。正直、年下に見える魔理沙では十分満足できるボンバーキングは得られないと思っていたのだが、彼女の繰り出すディープダンジョンは、思った以上のビックリマンワールド。

「藤花……どう?月風魔伝?」

「ああ………すごい、源平討魔伝や……」

 藤花の上で、腰をエグゼドエグゼスする魔理沙のポパイを愛撫する。

「愛してるよ、魔理沙……こんなじゃじゃ丸の大冒険しちゃった以上、もうあんたをディグダグしたりせえへんから……」

「うん………ぅ、ん……ディグ…ダグしないでっ……私達…もうチャレンジャーなんだから………」

藤花は魔理沙のピンボールを舌でバブルボブルし、魔理沙はエグゼドエグゼスを更にマッハライダーする。

「ああ………魔理沙、あんたは最高のマイティボンジャックや……!」

「私……もう…駄目……スペランカーしちゃう………」

魔理沙の水戸黄門はもうメタルマックスだ。

するといきなり、ムラサが急に扉をデビルワールドした。

「あんたたち……ハリキリスタジアーム!!」

 

   *

 

「いてて……まさか壺酒が飛んでくるとはなぁ」

 二人の情事は「いいところ」で食料を買い込んできたムラサの乱入で中断され、錨ではなく買ってきた壺酒で頭をかち割られそうになるという形で幕を閉じた。

 二笑亭の風呂場は浴槽が二つあるこれまた奇妙なもので、大小がそれぞれ上流、下流に位置しており、上の浴槽からあふれた湯はそのまま一段下の小さい浴槽に溜まるようになっている。

 魔理沙は下段の小ぶりな浴槽で足を投げ出して浸かっており、時折滴の垂れる天井をぼんやりと眺めていた。

 洗い場で酒臭い頭を洗っていた藤花は、今一度湯をかぶると、浴槽の縁に柔らかな尻を載せて魔理沙を見下ろす。

「いや、でもこれで準備は整ったわ……あとは決戦前に、続き、しとく?」

 魔理沙の鼻先へ、濡れた藤花の足がするりと持ち上げられる。魔理沙が悪戯っぽく笑った。

「ちょっと、船長に罐焚きをさせておいて全然反省してないじゃないですか!!今晩の会合場所教えませんよ!!」

 窓の外からムラサの厳重なる抗議の声が降り注ぎ、二人は顔を見合わせた。

 




「玄関開けたら~」から佐々木くん達が再登場です。
えっちなシーンはやろうと思いつつテーマがぶれるかな……と思って村紗に乱入してもらいました。あります口調なのは中の人の趣味なのでご容赦ください。
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