「……あぁ!ようやっと終わったなー」
湖畔に歩み出て、森よりも少し明るい空気にひとつ伸びをして、藤花が感慨深げに呟いた。
「慧音もほめてくれるかな」
「そらそうやろ……おっ」
銃声を聞きつけてきたのだろうか、見覚えのある横長のヘッドライトが闇を照らしながらこちらに向かってくる。あれは懐かしき紅魔三号だ。
「ぉーぃ!」
遠くに美鈴の声が聞こえてくる。よくよく見てみると、2ドアの車によくも押し込んだものだと思える人数の歓声を伴っていた。
「おぉ……慧音も来てる!」
「よ、よう分かったなこの距離で」
笑って手を振り返そうとした刹那。
ざり。
と背後で地面を踏みしめる音。慌てて振り返ると、木の枝に体を託した高堂が、森からよろめきつつ出てくるところであった。
「えぇ………」
「不死身かあいつは……」
二人のつぶやきが届いたのか、高堂はゆっくりと顔を上げてニヤリと笑った。
再び銃声。
遠くに紅魔三号が急制動をかける音が聞こえてくる。
藤花は先ほどから正邪のガバメントを使っていたが、この一発で弾が切れてしまった。奬から受け取ったグロックも沈黙して久しい。こうなるとただ、筒先から立ち上る細い硝煙の筋を、追うばかりだ。
と、視界の隅で銀髪の影が揺れた。
「妹紅!?」
目の前の高堂も、力と弾いずれかが尽きたのか動かない。そして、彼は倒れた。
「妹紅ってば!」
「………………だいじょぶ、かすっただけ」
「………ばっかやろぉ」
緊張の糸が切れた藤花がよれよれの言葉を絞り出し、妹紅を助け起こした。
「しっかし、何やねんあいつは」
「これでまた生き返ったら……ギャグだな」
「それ言うたらギャグあんたやん」
「すみませんね何回もほんと」
妹紅が苦笑し、藤花からハンケチをもらって腕を縛り上げた。
そこでようやく、駆け付けたメンツの歓声が再び湧き起る。停車したレパードによじ登り、美鈴や影狼が手を振っている。よくよく見れば湖には姫様も顔を出している。
二人は顔を見合わせた。そして笑顔を駆けつけてきた一同へと向ける。
「いぇい!皆さんご苦労!」
「言うたやろ。ウチらは運がええんやって」
大団円を目指して歩いていく二人の背後で、まさかのギャグが再開した事に気付いたのは、一番視点を高くしていた美鈴だった。目をこれでもかと見開き、振っていた手を慌てて二人を指さす動きへと変える。その驚愕は周囲に伝染し、レパードの周辺の皆が妙な動きで指差す踊りと化す。遠くからでは声も正確に伝わらず、藤花と妹紅は踊りから全てを察するほかないが、察する事などできない。
「え、何してるんあれ……」
「んん?……あ、もしかしてこれ?大丈夫だいじょーぶ!」
妹紅が傷を縛った腕を振り、健在ぶりをアピールしてみる。
そうじゃない。一同の不思議な動きに変化はない。怪訝な顔をする藤花と妹紅、とりあえず指差しポーズを並んで真似してみる。
「いぇーい」
だが口々に何を叫んでいるのかわからないが、向こうの動きがさらに激しくなる。
「何やのもう、腰が入ってないって?」
「とりあえず付き合っておこうよ。いくよ、せーの」
「イェェェエイ!」
腰など振って笑顔で指差す二人はそれなりに絵になったが、ここへ来てお迎えの動きに変化が生じた。横向きの指が、今度は下だ、下だと指しはじめたのだ。
「え、何今度は、下?」
「なんだよもーわがままだなー、ああいいともさ踊ってやる踊ってやるとも!藤原妹紅が!」
「おお!踊ったれおどったれぃ!」
妹紅がアンクルブーツで軽快に地面など蹴り、藤花が思っていたよりもアップテンポで西洋風なタップを見せつけた。これでもう文句はあるまい。一通りの足の動きを見せつけたと思った瞬間、車の傍のメンツが一斉に元来た方向へ逃げ始めたのだ。
「藤花……」
「どゆこと?」
「藤花」
「なに」
藤花が隣を見やると、妹紅は最後のステップを踏んだ姿勢で固まっていた。その顔は、逃げて行った集団でも、藤花でもなく足元の一点を見つめている。そして、妹紅はゆっくりと片足を上げた。
手榴弾が転がって来ていた。
二人が勢いよく振り返ると、高堂があおむけに倒れ、地面にどさりと落ちる瞬間だった。
もう一度足元を見る。
やっぱり手榴弾だ。
「……んああああぁぁぁぁーーーーッ!!!!!」
湖畔に、火柱が上がった。
「妹紅ー!」
「藤花ァー!」
慧音や美鈴を筆頭に、駆け付けた一同が大急ぎで爆発現場へたどり着いた。
吹き飛んだ枝や大小の石が吹き上げられた土にまみれて散乱しており、いつもの静かな情景とはまるで変ってしまっている。
「藤花さん……妹紅さん…」
湖からは、飛び込んで爆発を避けようとした赤蛮奇と影狼を、姫が両脇に抱え、涙していた。
もうすぐ夜が明ける。気付けば藤花達の追いかけっこも覚悟していた時間よりも大幅にオーバーしていたのだ。
遂に高堂は倒された。
だがそれ以上に、二人が爆発に巻き込まれた事に一同はショックを受けていた。
……だが、だが。もうひとつおまけに、だが、その時、森の折り重なった朽木の一部が動いたのだ。
それは汚れ切った白い襦袢をまとった腕を突き出させ、その腕が周囲の木をどかせようと動く。
「……ああ、くそぅ」
「どうなってんだこりゃ」
泥だらけの藤花と妹紅が、這い出してきた。
「全くもう……」
「「死ぬかと思った!………けほっ」」
(もこう編・完)
しばらく更新に間が開いてしまいましたが、みなさんいかがお過ごしですか。
個人的にめーりんに次いで妹紅が好きだったので第二章のヒロインを勤めてもらいました。そして個人的に倒したかったイキリ外来人とがちんこバトルさせられたので良かったかなぁという感じです。
ある時期に一世を風靡した幻想入り小説「東方〇戦録」、めーりんをいじめた罪は重い。震えなくていいから永遠に眠れ。
というわけで創作は殺意がないと書けないなと思った冒頭~第二章でした。
これからは書きたいパートをつなぎつつ、どうオチへつなげていくかという流れになると思います。
感想とかこのキャラは出ないのかとか、コメントいただけたら励みになります。
では最近スパイっぽくなくなってきた主人公・藤花の活躍をもうしばらくお付き合いいただければと思います。
では、かしこ。