闇の奥 ~昭和二十年の幻想入り~   作:くによし

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永遠の竹林支部②

「……で、その海野警備局長てのはどんな人なん」

「藤花ってばアンテナ低いなぁ。確かあの人も外来人さ。なんでもここへ来て二、三日でスペルカードを習得した超の付くスピード出世株だよ。来て二週間はあちこちから有名人が興味を持って顔を見に来たっていうから、大したもんだよね」

 中央本部の建物の廊下で、藤花と雷鼓は目当ての人物が現れるのを待っていた。これまで藤花が相対してきた外来人といえば、野望や能力で何かと凶暴な一手に出る印象があったが、その海野とやらは順調に出世コースへ乗ることを選んだらしい。悪人になるよりはマシだが、いざ藤花が行動を起こす時にそれ以上の頭のキレを見せつけられないかだけが心配だ。

 丁度その時、廊下の奥から団員が一人足早にやって来て警備局長が奥の部屋でお待ちですと告げた。警備局長室と札が出された部屋がそれらしい。成程多忙なのだろう。

「失礼します……」

「おぅ、君達か!」

 入室して二人は目を丸くした。付喪神としての雷鼓の実年齢などはさておき、他の幹部と比較してもまだ若く見える。全体的に幼く見える妖精でも無ければ本当のスピード出世なのだろう。神童とは彼の事を言うのかもしれない。

「堀川、雷鼓です…」

「と、藤花です」

「丁度前の警防団に入った時も、私は君達と同じくらいの年齢だった……。こう見えてもね、昔は血の気が多い方でね」

幹部と言えども、まだ年も離れているかどうかという来訪者を眺めつつ早くも思い出話が入り始めている。藤花と雷鼓はチラと互いに目を合わせた。

「まあ、幻想入りして三日で紅魔館のお嬢さんに手を上げた位ですから……あ、し、失礼しました」

 思わず口が滑り、いつもならそちら側のポジションである藤花ですらギョッとして雷鼓を振り返った。海野も目に見えて激怒したりしなかったが、雑談はそれきりとなり、どうぞと促されて部屋の奥に鎮座する彼の机の前へ通された。輝夜はすぐ怒鳴ってゲーム機などが飛んでくるが、もしかしたら超優しい方なのかもしれない。

「里の自警団と言いつつ沢への出張を命じるのは大変心苦しいが……河童の技術は里の運営にも大きく影響している。また水源地が不明生物に汚されれば生活に与える衝撃は計り知れない」

「……局長、その生物とやらに、特徴は」

「強力な顎で河童の捕獲装置も簡単に破られたそうだ。また皮膚も硬く、ちょっとの打撃ではビクともせんかったと……後は、接近してくる時は水面に目玉が二つ飛び出していたと言っていたな」

 目玉が飛び出しているとか怖すぎる。藤花は捜査の行く末を憂いた。しかし、海野警備局長はあくまで自信満々の笑みで立ち上がり、二人を励ますように力強く頷いた。

「無理難題を押し付けようとは思っていないよ。目撃情報や河童の投入した機械の情報も、既にこれだけまとめさせてある。ここはスピード以上に、私の顔も立てて頑張ってくれたまえ。無論、協力は惜しまないつもりだ」

「!!……はい!」

 

   *

 

「スピード以上やて、聞いた?」

 太陽の降り注ぐ廊下で、警備局長室を辞し笑顔で歩く二人の姿があった。安泰な幹部の椅子に収まってもなお溌剌と動く警備局長の姿に感動したのか、若き(?)自警団員二人はしきりに彼の事で盛り上がっている。余程白熱しているらしく、すれ違う自警団員が思わず振り返る程の声量だ。

「"手を上げな"」

 雷鼓が、犯人をホールドアップする刑事よろしく指鉄砲を構えて見せる。藤花が犯人役で両手を上げてみる。

「"スピード以上のものを持ち合わせてなきゃ、私には勝てないぜ"」

「………クール!今度からこれやな!」

 藤花も、犯人に対する決め台詞の決定版のように思えたのだろう。思わず口許を押さえてにやける顔を隠さざるを得なくなっていた。雷鼓も満足げに頷き、歩調を再び相棒と揃えて廊下の歩行が再開される。

「流石違うぜ、次期団長候補は……」

「ウチの姫様なんて」

「"面白そうね!"」

「"減俸!"」

「これやもんなぁ……」

 息もぴったりに輝夜のものまねをしている二人を、またしても怪訝な顔をして団員がすれ違う。だが二人はまだ留まるところを知らない。

「"こう見えても、昔は血の気が多い方でね"」

「似とるなぁ……」

「ふふ、似てる?海野警備局長に」

 新たな宴会芸を習得したかとしたり顔の雷鼓に、藤花が資料を詰めた封筒を持った手を上げて制止する。だが彼女の顔も雷鼓に似たり寄ったりでにやけている。

「いやいや、海野警備局長が、ウチらの生き方に似てる」

「ちょっと待ってよ……」

 はっとした顔で雷鼓が相棒を見やった。

「って事は、私ら将来」

「次期団長候補!」

「バラ色の老後じゃん!」

「「んん………運が良いからなァ私らは!!!」」

「うるさいわよあんた達ィ!」

 よく分からない方程式を組み上げ、老後まで彩られてしまった二人の爆笑を、後ろから関係者の聞き取りに来ていたらしい霊夢が怒鳴りつけた。

 

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