闇の奥 ~昭和二十年の幻想入り~   作:くによし

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永遠の竹林支部④

 騒乱冷めやらぬニトマートからよろよろと脱出した藤花と雷鼓は、ひとまず手近な電話に辿り着き輝夜へと捜査進捗の第一報を入れた。

「了解、ご苦労ね。じゃあ今日は戻らなくても構わないから、目撃者への聞き込みと河童との折衝をよろしくね。中央へ鈴仙を遣る用事があるから、本部へはその時報告させておくわ」

「はぁ……おおきに。なんや総出で忙しいみたいやね」

「確かにね。まあそんな時期なんでしょう里は。月に影響されて事故が増える程度だしね」

 どういうわけかそこここで忙しいようだが、沢で遊んでいていいのだろうか。

正直、巨大生物も一度は河童が取り逃がして神社などに助力を求めたものの、次は彼女ら(彼ら?)の威信にかけて捕獲しようとしているように見えた。

「で、支部長、何だって」

 通話を終え、スローモーな動きで受話器を戻す藤花の横顔を、雷鼓が覗き込む。

河童のアジトがあるという沢の近くへ向かうには話を通してから出発するのが無難だろう。しかし、ニトマートはまだ営業時間内であり、にとりが手すきになる時間までにはまだかなりの余裕がある。となれば雷鼓の、より正確に言うならば二人の興味は、これから飲みに行ける店はどこかという点であった。

「………あぁ、ごめんな。とりあえず中央にはうどんげちゃんが行くから報告に戻らんでええって」

「ッヤッホーィ!飲むぞー!」

 

   *

 

「あれ」

  日の沈まぬうちから開いている店は少ない。その中から二人が選び、のれんをくぐったのは比較的小さい店であった。それゆえに早々に開店して利益を上げようという魂胆かもしれないが、こっちの都合に合う時間帯に開いていればどんな場所でも文句はなかった。

「霊夢はん、こんな時間に何してるん」

 カウンター式の比較的近代的に見える造りの店内、気持ちよく一直線に並ぶ構造物と椅子のラインに突如挟まる赤い影。

 藤花の声に振り返ったのは他でもない博麗霊夢であったのだ。

「あん?それはこっちの台詞よ。あんた達、河童のとこへ行ったって聞いたけど」

「情報早いなぁ、それはこれからやで。ニトマート閉まって、にとりはん出てくるまで暇やねん。それまで抜き打ちの風紀検査やで」

 店主が怪訝な顔をするので、藤花は冗談ジョーダンと言って自身の発言を打ち落とした。霊夢はといえばクスリともせず鼻を鳴らすばかりだ。

「風紀検査ね、そのメンツで。ほーん」

 他に客もいないが、自然と二人は霊夢に隣り合わせて椅子を引く。この調子だと早くから盛況になると踏んだのか、モダンにもレコードをかけ始めた。

「霊夢はんもその様子やとまだ一合目ってとこかな」

「わ、私は退治終えて中央に報告に行ってようやくのご飯よ」

「最近里じゃお水をお猪口でやるのが流行ってるんです?もう、霊夢さんたら風流なんですからぁ」

 霊夢を挟んで藤花と反対側に座った雷鼓が、目ざとく中身の空いた器を見つけてニヤリと笑い、冗談めかして揺すった。

「もう、今日は仕事終わりゆっくり飲めると思ったのにぃー……」

 入店早々に絡みついてくる二人組に辟易してしまったのか、霊夢は食器をかき分けながらゆっくりとカウンターに突っ伏す。

「ははは、ごめんて。霊夢はん人気者やから、周りに自然と人が集まるんやって」

「フォローになってない!」

 ぷりぷりする霊夢をなだめつつ、藤花と雷鼓はそれぞれ好きに注文し、「幻想郷に明るいうちから酔ってはならないという法は無い」という歌が即興で作り上げられた。雷鼓がいるので無論楽器はドラムのみである。

 藤花がラバウル小唄を基にしたものだから当初はゆったりとしたペースだったものが、酒が入り雷鼓にロックの魂が降ってきたのかいつの間にかペースが上がり、それにつられて増える増えるわ徳利の森。

「……なんか最近竹林の支部も忙しいけど、毎年里ってこんなもんなん?」

「どうかしらね。仕事の波なんてあってないようなものだし、暇なときはずーっと暇よ。あでも、命蓮寺の方もなんかザワついてたわね」

 遅れを取り戻そうというつもりか分からないがハイペースで杯を乾かす藤花達に比べ、霊夢の手の動きはまだ緩い。

「いや霊夢はん、すごいわホンマに、妖怪退治とか」

「あんた分かりやすい酔い方するわね……仕事よ、仕事なんだから当然って、こんな話もしょっちゅうしてる気がするわ」

「雰囲気に呑まれてるけど割とシラフやでウチ。いやでも、ウチが外におったときの職場じゃ吸血鬼とか妖怪に真昼間会うた時の対処法なんて教えてくれへんかったもん」

「そりゃそうでしょ。そこいらで教えてもらえるなら私、仕事にあぶれちゃうじゃない」

 それでも霊夢は分かりきった顔で藤花の称賛の言葉をいなしている。

「はいはい、もういい時間でしょ。さっさと河童のとこ行ってきなさい」

「あッ、もうそんな時間か。早いなぁもう。霊夢はん、よかったらまた今度一緒に飲まへん?」

「ああ、別にいいわよ」

「やたー!おっちゃん、この竹の子って妹紅のとこのやんね。これ美味しい……今度真似さしてもらお」

 席を立ちつつも皿に残るつまみを二、三口に放り込み、慌てて二人は店を後にした。

 

   *

 

「藤花ってば、えらく霊夢にご執心だったじゃん。狙ってるの?」

「いや、昼間輝夜はんに電話した時も、なんか忙しそうやったから季節柄でもあんのかなと思って。その辺は土地の先輩にも聞きたいとこやねんけど」

 そう言った藤花は傍らの雷鼓を振り返るが、彼女はあくまで手を横へ払った。

一応藤花からすれば雷鼓とて立派な付喪神であり、弾幕だって派手なのが撃てるらしい。その時点で相当強いと認識していたのだが、謙遜だろうか。

「こう見えてもまだ新参扱いでさ、若さが素敵だなんて、誰にも言わせないよん」

「訳わからへん……」

 さっきの店で地獄マタタビ酒をちゃんぽんしたのが効いているのか、よく分からないことを口走り始め、セクシーに腰を動かしてポーズを決めている相棒を残し、足早に道を急いだ。

   *

 

 急ぐ道の背景は、草の波に乗せて流れてくる虫の音で下がりゆく気温と夜の長さを思い起こさせ、歩く者に背筋がシンと震える冬の残り香を思い出させた。藤花と雷鼓も酔いをやや醒まし、酒の滴から空に瞬く星へと思いを切り替えている。

 ニトマートの前でも考える事は同じなのか、にとりが店じまいを終えて瓶を傾けている最中だった。

「へい、朋友」

 果汁かと思いきやきゅうりの酒らしい。いかにもな飲料だったが、おかげでにとりは若干ご機嫌だった。乾杯の仕草の後に勢いよく呷られ、そして喉を鳴らしてまた数口飲み込まれて戻った瓶が、深みのある水音を立てる。

「お仕事お疲れさん。きょう話しとった目撃者の子、今日の内に会うとく事って出来るかな」

「多分まだ工場にいるよ。あそこは開発熱心なやつが多いから遅くまでやってるしね」

 勿論私もそうだけど、とプライドの高さを思わせる一言を言い添え、行ってみますかの一言で歩みが再開された。

 きゅうりのおかげか、にとりも若干饒舌になっており、手持ちの捜査資料以上の事をぽろりとこぼすのもしばしばであった。矢鱈と秘密主義だったのではなく、外部に事件が知れ渡っているものの、やはり河童は河童で解決したいという意向があるのだろう。

 藤花も今後の為、その点は保証すると言い、日暮れの迫る濃緑の森の巨大な影に包まれつつ、にとりの言う工場とやらを目指した。

 

   *

 

 沢への立ち入りは流石に許しが出ず、そこから少し離れているという工場へ直接案内された。確かに、水質保全の観点から言っても水の流れに直結した工場は河童自身としてもまずいのだろう。藤花としても、河童が自らアジトから離れていると明言した場所なら心置きなく戸を叩けるだろうとも心得ていた。

 木々の間に広がる地に、ポンと珍妙な工場が建っていた。規模としては町工場よりは流石に大きかったが、人から妖怪にまで技術の成果をお届けしているという割には小さく感じる規模だ。もしかしたら他にもあるのかもしれなかったが、今日は工場見学が目的ではないので"ごましお"とあだ名されている目撃者を訪ねる事だけを考えた。

 とはいえ、信仰心、畏敬の念を失わせないために技術力が極端に制限された里の光景を見慣れてしまった目には、ここの工場ですら藤花に外界の繁栄を強く想い起させずにはいられない。せいぜい家内制手工業の里に比べれば、原動機の音や小気味よい工具、果ては溶接の音すら聞こえてくるその建屋は、現代科学に魅了されその"戦果"までまざまざと見せつけられた近代戦争に直結した。

「どったの、もしかして大きい音苦手とか?」

「そんなんやったら太鼓とコンビ組まへんやろ……大丈夫やで。行こか」

 木とトタン板めいた軽い金属で組まれた建屋に近づくと、何となく違和感の根源が分かった。通常、工場と言えば製品の量産と出荷が対になっている。が、ここの建屋は輸送に使う乗り物のアクセスが良くない森に立っており、道路もさほど整備されていない。実際木々の合間を縫う道があり、古ぼけたトラックが停まっているが、幻想郷の住民の数を考えると何を生産するにしてもあれでは輸送力不足なのは明白だ。

 聞き込みの前に、ひとつだけ質問させてもらった。

「にとりはん、ここは何造ってるん?」

「造れと言われれば何でもやっちゃうけどさ」

 巨大な背嚢を背負い直し、にとりが少し得意げに振り返った。手を振る仕草がついているという事は、厳密には工場ではないのだろうか。

「何も売るために作るだけが河童じゃないからね。何でも工場って呼んじゃうけど、からくりの解明や試験は仕事に似た遊びだから。ま、賢そうに言うならあそこは研究所だね」

 そう聞くとなんだか納得できた。心にゆとりが出てきたせいか、少し口寂しさを覚えて胸の物入れに手を突っ込もうとしたが、にとりに咳払いされて止めた。何故に妖怪や物の怪の類は煙草が駄目なのか。それは流石に今質問する事ではないのだろう。煙草と共に胸にしまっておくことにして、眼前に迫った建屋を見上げた。

「入ってすぐに部屋があるから、そこで待ってて」

 工作機器の音がするのだから、当然と言えば当然だが電気が通っている。電灯に照らされた金属なのか合板なのかよくわからない材質の戸が軽い音を立てて開き、中へと招き入れられた。

 外見に違わず、中身も藤花の知る外の工場とそう変わらない。奥へ続く廊下を踏破し、もう一つの戸をくぐれば河童たちの工作現場を目にする事が出来ただろうが、先程にとりからそれはかなわない旨はすでに通告されている。今の彼女らが許されているのは、脇に開いたまた別の戸の奥、飯場とも休憩室ともつかない畳敷き十畳程度のスペースで待機している事だけだ。

河童のイメージカラーなのか、にとりの服と同様の水色に染まったつなぎをまとった姿が二、三休んでいるのが見える。

それだけではなく、藤花でもまず見た事のないテレビジョンが設置されており、総天然色の映像が流されていたのだ。試験的なものなのかすでに妖怪の間には膾炙しているものなのか不明だが、休んでいる河童たちは新参者である藤花達をチラと振り返った後、すぐに画面に見入る姿勢に戻ってしまった。

「じゃ、待ってて」

「アッハイ」

 にとりが去ってしまうと気安く話しかけて良いのか分からない。致し方なく雷鼓と顔を見合わせ、河童たちの背中越しに何やらニュースらしき映像と音声を鑑賞する事にした。

 

「昨日、うろ覚えのパチュリーイラストを騙し取っていた詐欺グループが、摘発されました。このグループは"幻想郷うろ覚えのパチュリーイラストコレクション財団マヨヒガ支部"を名乗っていたとされ、"今、本部のある冥界ではうろ覚えのパチュリーイラストが高騰していて、幾らあっても足りないくらいだ。頭の飾りが逆でもいいから殴り描いてほしい"などと、言葉巧みにフェルトペンを握らせ、主婦や妖怪などから凡そ十万枚に及ぶうろ覚えのパチュリー氏のイラストを騙し取った疑いが持たれております。騙し取られたイラストの中には、ナイトキャップのデザインをレミリア氏と混同したと思われるものや、辛うじてパチュリー氏と分かる頭巾の女性からフキダシが出ていて"そーれのまいっ"と書かれたものなど、希少価値の高いものも含まれていると見られ、妖怪の山では作品の行方を全力で捜索しております」

 

「……何やこれは」

 妖怪の世界は謎が多すぎる。天狗の軍勢と接触する前に、もう少し勉強させてもらおう。藤花が謎の決意を固めていた最中、背後で扉の開く音がして、聞き覚えのあるにとりの声と「自警団の人?」という問いが投げかけられた。

   *

 

 内容を掴みかねるニュースに熱中する理由も無くなった。藤花と雷鼓は、にとりが連れてきた河童すなわち最初の目撃者へ挨拶する為に、向かい合うまで体を回し、立ち上がる。

「自警団の、雷鼓です」

「………藤花です」

「やっ、どーも。縹汐音です」

 戸の脇へ退いたにとりに並び、背丈も顔の雰囲気も良く似ており、服も共通のつなぎを着ているものの、顔のそばかすで聞いていた通りの印象の河童が立っていた。河童のお肌手入れ事情なぞ知る由も無い藤花であったが、少なくとも彼女だけは見分けられるだろうと勝手に判断した。

「里からの応援だって。こないだ見かけた時の事、話してあげてよ。んじゃ、私はこれで上がるから」

 これで用済みとばかりに、にとりはくるりと後ろを向いて片手を振って見せた。すかさず、ごましおと背後でテレビを見ていた河童達が「おつかれさまでーす」と声を上げる。

 戸口へにとりが消えると、テレビの雑音も消えて代わりにどやどやという押し寄せてくる河童の足音と雑談が辺りに満ち始めた。見回してみれば、休憩室の河童達も立ち上がって親しい間柄と見える誰かの顔を見つけて次々にくっついて帰っていくところであった。

「あれれ、みんな帰ってまうん?」

「そりゃあ、定時ですから」

「律儀だな……」

 とりあえず藤花達も出ていく河童へ会釈して見送った。そこで、ある事に気付く。

「汐音ちゃんは帰れへんの?」

「ごましおで、いいですよ」

 少し照れくさそうに、ごましおが頬を指でかいて苦笑した。河童の性格に個人差があるのだろうが、ニトマートの一件以来どうも苦手意識の抜けなかった藤花にとって、ありがたい話ではある。そして眼前の河童は続けた。

「今日は、あたしが当直なもんで。泊まり込みです。間に合わせでよければご飯作りますけど、お腹空いてます?」

「おぉ……おおきに」

 一瞬、きゅうり尽くしだったらどうしようかと心配になったが、ごましおが缶詰を引っ張り出してきたので安心した。聞けば、いじってる内に生産ラインができてしまい、里から現物払いで持ってこられる食べ物をとりあえず加工しているらしい。藤花がいつか畑から失敬して回った野菜もどこかに入っているのだろう。

「あとはー、これ!」

「キ……」

「"きゅーかんばー・えーる"って、何……?」

 傷だらけの、如何にも工場の休憩室に似つかわしい古びた卓袱台に重い音を立てて瓶が置かれた。藤花らが読んだ通り、ラベルが貼られており、商品名の横ではコミカルにアレンジされた河童(おそらくにとりだろう)が笑顔で「よっ、やってる?」と問いかけてきている。

「キュウリ味のビールを飲めばいいと思うよ」

 

   *

 

「えっ、それで、鼻づらが見えた時どうしたん」

 ごましおからの聞き取りは、酒が入った事もあり居酒屋の雑談めいて賑やかなものになっていた。

キュウリ味のビールとは全く想像できなかったが、味噌か何かで少々くどい味付けの缶詰の野菜煮や川魚の肝でこってりした舌がさっぱりと洗われて非常に爽快な気持ちになれる。これは外界でも売れるのではないだろうか。

「それでさ」

 ごましおも酒精に顔を赤らめ、妙に饒舌になっている。朋友とは藤花が言い出した言葉だが、早速膝を突き合わせて酒など飲めば、種族の違いも乗り越えられるというものなのだろうか。とすれば、にとりもそのうち酒に誘うのが吉かもしれない。

「こっちに向かってきてるのが分かった瞬間、あたしの中のクールタッチのゲバルトが熱く燃え始めてね。捕まえられないんじゃ一発ぶん殴ってお引き取り願おうと思ったのさ!」

 クールは英語だしゲバルトはドイツ語である。興奮すると横文字がぽんぽん飛び出すタイプなのかもしれないが、なんだか内地で学生を相手にしているような感覚になってきた。

「そうそう、気になったんやけど立ちあがったら大きさはどんなもんやろ?想像で」

「あれ、立てるのかな。あたしが見た限りじゃずっと泳いでたけど水から出てた鼻から……尻尾?あたりまででヒトの大人と同じようなもんだったけどなあ。たぶん四足歩行だね。歩行機械にしたら面白いかもしんない。うんうん。おぷてぃかる・もーびる」

「お、おう」

 資料を作った段階では河童の口も重かったのだろう。ごましおの語る情報は、当初"恐竜"という単語に形容された藤花らのイメージを大きく塗り替えるものであった。そして、藤花が紙をもらって万年筆を走らせ、ある一枚の図を描き上げた。

「おーっ、あたしが見たのもそんな感じだ!」

「もしかしてやけど……ワニやな、それ」

「ワニか!………永遠亭に戻ってさ、てゐちゃんに"ご先祖の仇を討て"ってけしかけたら解決しないかな」

 雷鼓の提案に、藤花の肘ががくりと卓袱台から落ちた。

「そっちのワニやのうて。真水に住む肉食の怖いやつやね」

「なんだってそんな生き物が」

「とっ捕まえて取調べしてみる?」

 冗談めかして藤花が笑って振り返ると、雷鼓は西洋人よろしく手を広げて首をすくめて見せた。

 しかし、ごましおはというと何やら真面目な顔をして考え込んでいる。

「ご、ごましおちゃん。冗談やで……?」

「あー、いや。取調べは任せるけどさ、種類が分かれば捕獲もしやすくなるかな」

  ひとまず、相手がジュラ紀の恐竜などではないという情報が一同を安心させた。ワニの特徴や捕まえ方は鈴奈庵か、より詳しい情報が欲しければパチュリーあたりを訪ねるのが良いだろう。いつしか聞き込みもビールの空き瓶が増えるにつれ、やれ女のここをみて良し悪しを判断するであるとか、やれどんな妙な肴で酒をやったことがあるだとか、関係ない話題に移って行った。

「いやいや、真の酒飲みはカステラでもぐいぐいいけるもんやねんで!」

「あッははは、そんなの藤花だけだって」

 酔った河童というものを初めて見たが、つなぎを上半身だけ脱いで肌着だけになり、ぶらつく腕の部分を腰で縛っている出で立ちなので今一つ昔話の妖怪という実感がわかない。よれた肌着に浮かび上がる体のラインは妙に艶かしいが、頬を紅潮させて「尻子玉は無いよー?」などと本当にあったところでご相伴にあずかるにはちょっと抵抗のある提案をしてくるあたりはそれっぽいといえばそれっぽい。

「流石にそれには及ばへんよ……雷鼓はん、遅くならんうちに里戻って、輝夜はんに報告しよか」

「ああ、もういい時間か」

「えー、泊まって行けば?」

 ごましおの提案がまさかのものであったので、藤花は思わず目を瞬かせた。

「困った時はお互いさまの朋友じゃん!こういう時なら、尚更ね」

 

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