闇の奥 ~昭和二十年の幻想入り~   作:くによし

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「すべての時代は続くものを夢見る」
 Jules Michelet(1798-1874)


叛乱編  照星
幻想郷はいかにして近代軍備に触れたか


 この章を始める前に、藤花が過ごした幻想郷の山の情勢について記しておきたい。

 

 

 

「あった!あれだよ」

 草むらをかき分け、瑞色で鮮やかに浮かび上がる円形が進んでいた。傍に寄ってみれば、それは目庇を有する帽子であると判別出来ただろう。

 彼女達は同じ色の服をまとい、それぞれが異なる工具を雑然と詰め込み、しかし同じく自らの体型よりも大きく膨らんだシルエットの背嚢を装備していた。

 幻想郷に住まう河童は、皆一様にこの出で立ちで行動している。人間の観察眼は、河童に技術者集団としての技能も付与していた。

 声を上げた一人が指差した先、森の翠の波の中に、人工的な直線が見えた。

「………沢山あるね」

 周囲の自然から明らかに浮いている木と鉄の造形物。木の部分ですら生存競争に意味をなさない光沢を帯び、意志を持った者の手による工作の跡だと見て取れる。

「猟師が持ってるタネガシマに似てるなァ。でも構造は随分と違うみたい」

 目的地に到達した河童達は、各々の興味が示した物体を手に手に取りあげ矯めつ眇めつしていた。一人は道具と共に散らばった真鍮色の金属製品を取り上げる。しばらく光に透かしたり、手に取って匂いを嗅いだりしていたが、やがて小さく頷いた。

「………こっちは弾だね」

「おっ、抜けた。それ貸してよ……ここまで便利になってるのに沢山転がってるなんて、妙だな」

 素人が銃を触れるとなると、機構への無知ゆえに下手に動かす事は避けるはずである。しかし、好奇心が勝ったのか無知ゆえの蛮勇か、河童は拾い上げた一丁を左手で保持すると槓桿を動かし、滑走するままに引き切って薬室を開放してみせた。一人がグイと顔に近づけ、目に見える範囲で原理を理解しようとそれを前後左右に傾けてみせる。そっと指を入れると、底だと思っていた金属の板が擦れる音を立てて沈み込む。

「大きい口が開くなら、これも入りそうだね。前から入れるんじゃないんだ」

「………やってみよう」

 幸い、油分は残っている。底が動くという事は、何かが収まるのだ。相棒の河童達は、銃を手にした代表格が口に出さずとも、一発ずつ弾丸を拾ってきては手渡した。

「こいつが………1……やっぱりだ、3、4、5発と、入った!」

 兵士でもないのに、河童は弾を込めると掌を使って槓桿を元あった位置へと押し戻し、すっかり元の姿にしてしまった。しかし、今は弾が入っている。武器の体裁が整ったのだ。

「撃つのは戻ってからにしようよ」

「それもそうだね……じゃあ、考えが合ってるなら」

 河童は激発せず、しかし槓桿を再び操作すると小気味よく金属のかみ合わせが外れる音がして薬室から弾を放出する。弧を描いて、弾は地面へと落ちた。

「思ったより便利そうだねえ、5発も入るなんて」

「でも、なんで便利な武器が外から流れてきたんだろ」

「人間同士やる事だもの。おおかた……6発入るやつを作った方が勝ったんじゃないの」

 最終弾を排莢し終えた河童は首をすくめた。仲間達も銃の背景についての考察を止め、戦利品として持ち帰るべく周囲の探索を再開した。一人だけ、背嚢ではなくごつい無線機を担いでいた者がどこかと交信を開始する。

「もしもし、親ガエル、こちらオタマ五。送レ」

「こちら親ガエル、送レ」

「親ガエルへ、こちらオタマ五。森にて新型のタネガシマを複数発見。回収終え次第戻る、送レ」

「オタマ五へ、親ガエル了解。昼食はキノコ雑炊としたい。送レ」

「親ガエルへ、こちらオタマ五。雑炊の具を再送乞う。送レ」

 間の抜けた無線を交わす河童達はおろか、遠く指呼の間に霞む山で惰眠を貪る天狗達も、今日という日が転換点となった事を、この時まだ知る由もなかった。

   *

 

「これを?」

 工場兼研究所で、作業の手を休めた河童の一人が、片隅に山積された小銃や軽機関銃を見やり、視線を入口に立つもう一人の河童、そして窓外を遠ざかってゆく朱色の葉の紋様を描いた車の列を眺めた。何かを見比べているように。

「さーて、忙しくなるぞ」

 仔細を掴みかねている同僚を尻目に、河城にとりは肩を鳴らして何やら気合十分である。

「にとりセンパイ、さっきの話、ちょっと立ち聞きしてましたけど、私達ちょっと便利に使われすぎじゃないですか」

「そうでもないよ」

 不安げな同僚は、発言の端々から年数や立場で後輩であると推測できた。それゆえか、にとりも立ち姿もラフに物入からキュウリを取り出してパキリと一口かぶりつく。

「でもでも、量産したブツは他所へ売れないんでしょ。それに技術の応用で製品が出来ても里にも他にも出しちゃいけないなんて」

「それを補っても数が凄いんだよ」

 分かっちゃいないなあ、とにとりはキュウリの摂取作業を止めることなく、空いた手の人差し指を伸ばして左右に振って見せる。後輩はやや察しの悪い性格であるようだ。

「天狗の偉いさん……この場合、烏天狗か……は、あれを一部の妖怪のおもちゃにしておかないって言ってるんだよ。今回の顧客は、"山"だよ」

「山ァ……って事は」

「そういう事だね」

 口を真一文字に結び、唇を噛んでいた後輩も、背後にできた銃火器の山と、天狗の象徴である八つ手葉マークの車列が帰って行った妖怪の山を見比べてハッとする。

 分かっただろう、とキュウリを食べ終わったにとりは後輩の肩を叩き、付近の地図が貼られた壁へと向き直った。

「明日……いや、今夜からでも工場の建設に取り掛かろうか。改めて言っておくけど、さっきの天狗の注文はただのテッポウ鍛冶の依頼じゃない。小銃、機関銃、火砲、それを載せる車両……それらの弾、その補修部品、その訓練装置、おまけにその運用に必要な施設の仕様ときた。これは、これは小さくないね……いま私達が受けたのは、武器程度じゃない、やっこさん達は”軍隊”を納入してくれって言ってきたのさ!………さッ、分かったら呼称かけるんだ。こりゃ七代先までキュウリ食べ放題だぞ!!」

「が、合点です!」




あけましておめでとうございます。(2025年1月)
藤花ちゃんの刑事コンビパートをいくつか続けてまいりましたが、自分の描く幻想郷はいかに近代武器を手にしたのか、そして何故自警団も持てるようになったのか、それは藤花の幻想郷脱出という穏やかでない計画にいかに関わってくるのか……解説の為に挟んだパートでしたが、今後もご期待、お楽しみいただけると幸いです。
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