闇の奥 ~昭和二十年の幻想入り~   作:くによし

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前回よりかなり間が空いてしまいました。
私生活が忙しくなかなか時間が取れずにいましたが、藤花の冒険も佳境、なんとかエタらせずに完結に持って行きたいと思います。


自警団本部の禍梯①

『山の妖怪、森の妖精と共同声明に向け会談最高潮へ』

 藤花がそんな見出しを新聞に見止めたのは、暮れも押し迫った空っ風ふく人里のカフェ店内であった。

 

   *

 

 これまで、藤花は幻想郷を脱する手段として霊夢をはじめとする住人の力に頼むことなく人里の存続を不可能なものとし、システムを崩壊させる手段を模索しては失敗に終わっている。否、どれひとつ実行が不可能だったと表現して差し支えなかった。

 里の水道分布を調べ、病毒の流布や火災の発生に乗じて水路を破壊し、里内部のインフラ破壊と人間の生存を脅かす計画、いうなれば破壊工作。これは藤花一人の力で実行するには調達とタイミングをあわせる事があまりにも難しかった点もあるが、その後の工作計画についても、書類に謎の虫食いが発生し、火の気のない物置にボヤ騒ぎが発生したあたりで藤花も察したのである。

 なんとしても、人妖のバランスと幻想郷のシステムを守る方に動いている者がいる。或いは、この空間そのものがそういった考えすら許さない篭なのだと。

 

 

   *

 

 そこへ以前から文を通じて山の情報を入手するようにしていた。その矢先の妖怪・妖精対立の情報と最悪の状況を回避するための外交努力の動きに関するニュース。

「やっぱこれかなァ……」

 周囲に聞こえないような声量で以て、藤花は己が考えをかえりみた。カップのコーヒーはまだ熱い。一応ここでは高級な嗜好品に分類されるもので、その出費は決して軽くは無かったが、彼女の思索にふける時間にとって必需品といえた。

 以前から注目していなかったわけではない。もしかして戦火が全体に広がれば恐れ崇拝する人間を脅かすかその数を大きく減らす災いとなり、外部へ逃走する一助となり得るのではないかと思ったこともあった。(なお藤花は過去どこかの天邪鬼が幻想郷の破壊を目的としたテロルを企図した件を知らず)

 だが、その筋書きも幻想郷を知らぬゆえの甘い見通しと言わざるを得ない。そもそもとしてここの決闘、戦闘は弾幕勝負に一本化されており、あっちもこっちも秘密兵器を繰り出して戦う近代戦争とは無縁の掟があるのだ。今年の冬に開戦したとて、戦闘の煤で黒く染まった雪が降るような事態には至るまい。

 己が認識を改める必要がある――――と、藤花が無感動に視線を滑らせた先に興味深い見出しが躍っていた。

『和平の道の果てに唐栗支隊解体も』

「………………」

 唐栗支隊、すなわち外界のカラクリを運用する白狼天狗の実験部隊である。一時期しきりに天狗は科学をも凌駕せしとしきりに宣伝していたが、実態はただの研究、実験にすぎなかったというのが藤花の感想だった。しかし若手(?)の白狼天狗たちの一部はこれにより自分達の価値を高め、山の、ひいては幻想郷における天狗の主導権的地位を確固たるものにすると意気込んでいるという。

「……青年将校、ここにもそういうのがあるンやなあ」

 手にしかけたカップを戻し、藤花は懐の煙草を探った。まだ数はある。一本を口にすると煙草入れを卓上に滑らせ、空いた手で乾いた音のする燐寸を箱から抜き出し点火、すぅ、と紫煙を天井へ向け細く吹いた。

「そういう手もあるのか」

「何が手、って?」

「ぎゃあ」

 勝手に幻想郷の行く末すべてを背負っているかのような感傷的微笑みで天井を見つめていた藤花の両肩が、何者かにがっしりと掴まれた。がくりとそのまま机の下に滑り落ちそうになる上体を踏ん張って何とか支え、上を見やると藤花にとってはここ最近ようやく名前も覚えた女性が見下ろしていた。

「……小兎姫はん、なんでここが」

「あんた本部に異動になる前からしょっちゅうここでサボってたでしょ。有名よ」

「でもここ、コーヒーもサンドもおいしいで」

 サボタージュを非難されたら居る場所の価値を力説しだした藤花に、小兎姫はあきれ顔で表を指差す。それに従って視点を窓外へと移せば、彼女らに与えられた車が待機していた。

「呼び出しよ、里の南で蔵の押し込み強盗ですって」

 相棒の言葉に、藤花は思わず息を吸い、しっかりと、ゆっくりと吐き出した。すなわち、ため息である。

「週末の夜の刑事の恐ろしさ思い知らせたろ……」

 西洋の暦で言うなれば、今夜は金曜の夜。楽しみを邪魔された藤花はやや冷めたコーヒーを飲み干し、煙草を灰皿に押し付けると店主の女の子に今夜の分はツケといてと叫んで小兎姫と共に店を飛び出していった。




藤花ちゃんが本来の職業に戻る回です。過去のパートを振り返りつつ、彼女もそれなりにスパイしようとしてたんだよと解説する感じになりました。
また、この章では自警団本部に異動となっており、パートナーは東方旧作から小兎姫さんにご入場願いました。原作で博麗の巫女すら禁錮に処してた地味に強い刑事ですね。


前章から時間経過が早いと思われたかもしれませんが(春→冬)、本来は夏を舞台とした一章を挟む予定だったんです。パートナーはいろいろあってパルスィさんで。とはいえ、流石に本来の目的を思い出すのにこれだけ大事件を挟み続けるのも長すぎるかもと思い割愛しました。どこかで機会があれば公開したいですね。
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