衛兵マルフーシャの国境門防衛100days   作:橋場はじめ

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始まりの日(2)

 男たちに連れられ軍の基地にやってきたマルフーシャは宿舎で金髪の少女と対面していた。見た感じ金髪の髪をおさげにして肩の前にたらしているこの少女は、マルフーシャとさほど変わらない年頃だろう。

 この国において黒髪や茶髪以外の髪色、特に明るい髪色をしているのは階級が高い者の可能性が高い。

 

「あなたが今日から配属されたマルフーシャね」

「そうですけど……あなたは?」

「私は監査官。無能な低級国民たちを国へ貢献させるのが仕事よ」

 

 監査官と名乗った金髪の少女は淡々と話しを進める。

 

「我が国での門兵の仕事はとても簡単。門へ近づくあらゆるものを武力で排除すること、見つけ次第全て攻撃しなさい。知っての通り、我が国はすべての隣国と戦争状態にあるわ。その前線からこそこそと抜けてきた少数の機械兵を叩くだけ。ね、簡単な仕事でしょう、最善を尽くしなさい」

 

 簡単、とは言うものの今まで戦場に立った経験のないマルフーシャにとっては右も左も分からない未知の仕事だ。

 それにこの仕事はどう言葉を変えても"戦争の一部"なのだ。下手をすれば……。

 

「安心しなさい。敵の機械兵は人より建築物の破壊などを優先する傾向にあるわ。あなたは門を守っていればいいの。……それに、最初は私が手を貸すわ」

 

 マルフーシャが不安な表情をしていたことに気が付いたのか監査官は補足説明をする。

 

「さすがに簡単とは言っても、徴兵したばかりのあなたをただ門兵にしたところで役に立つとは思えない。だからあなたがある程度様になるまで手を貸してやれ、それが私に下された命令よ」

 

 若干不服そうではあるものの命令はしっかり遂行する気ではあるらしい。

 

「一先ず、これを渡しておくわ」

 

 監査官はハンドガンを取り出しマルフーシャに手渡す。

 

「Ka42、あなたも知ってるでしょ?」

 

 この国では初等教育の頃から銃を扱う訓練を受ける。その中で国民拳銃とも呼ばれることのあるこのKa42は一番最初に扱い方を教わる銃だ。

 久しぶりに持つ命を奪う武器の重み。マルフーシャには比較的軽量であるはずのこの銃がずしりと重く感じる。

 

「ゆっくりでいいわ。無茶して怪我なんてされても面倒だから。でもその代わり私がいる間にしっかりと戦闘経験を積みなさい。これからあなたには我が国の大切な国境門を守ってもらう必要があるのだから」

 

 てっきりスパルタ教育で戦場とはどういうものかを教え込まれると思っていたマルフーシャにとって、監査官の言葉は少し意外でつい礼を言ってしまう。

 

「ありがとうございます」

「れ、礼なんて良いわ。命令されて仕方なくこうしてるだけだし、もしあなたに死なれでもしたら寝覚めが悪……いえ、私の評価が下がってしまうからお互いに最善の方法をとりましょう、って言っただけ」

 

 本人は淡々と言っているつもりなのだろうが、僅かに頬が赤くなっていることにマルフーシャは気が付いていた。

 

「ただあなたが手を抜けば容赦はしないし、門兵を任せるのだから完璧にやり遂げるように。我が国が必要としているのは有能な人材よ、あなたがもし門兵としての仕事を遂行できない無能であれば私は本部にそう報告するし、最悪国営の更生施設に入所してもらうことになるから」

 

 更生施設とはその通り、人を更生させるために存在する施設だ。しかし黒い噂は絶えず、拷問まがいなことが行われていると言われているし事実死人が出ることも珍しくない。更生施設から出所できる人は数%しかいないと言うし、出てきた人はもれなく性格が変わっているらしい。

 そんなとこに入れられてはスネジンカとの再会は出来たとしても、当分未来のことになってしまうだろう。それは避けたい話だ。

 

「頑張ります」

「口だけではないことを祈るわ。……さてもう遅い時間だし、門兵の仕事は明日からよ。今日はそうね……一先ずあなたの射撃の腕だけ見せてもらうわ」

 

 マルフーシャが学生時代の軍事教練の情報は監査官も知っている。しかしマルフーシャはロスヌイ農業高等学校を卒業してから月日がたち、ブランクがある。実践に共に出る身として、今のマルフーシャの実力を知っておきたいのだろう。

 監査官に連れられマルフーシャは射撃場へ。

 射撃場には他の軍人たちが競い合うようにして、撃ち合っていた。

 

「……射撃場の弾だって国の大事な所有物なのにあいつらは」

 

 その様子が監査官である彼女には気に食わない様子だ。その軍人たちを

睨みながら監査官はマルフーシャを空いているレーンに連れて行き、イヤーマフと数種類の銃を渡す。

 

「あなたは先にここで肩慣らしでもしてなさい。私はちょっと用ができたから」

 

 監査官は先ほど睨みつけた軍人の方へと向かっていった。

 それを見送った後マルフーシャは言われた通りにしようと、イヤーマフを装着しKa42を握り込む。

 

「えっと、確か……」

 

 高等学校時代に教わった銃の構え方を思い出す。

 

「マガジンに弾が入ってるか確認して……スライドを引いて、トリガーに指をかけないようにしながら安全装置を外して……構える」

 

 ゆっくりターゲットに向けて照準を合わせ、トリガーにかけた人差し指に力を込める。

 マルフーシャが火薬が発火する音、衝撃、そして銃口が光った、と感じたその瞬間には飛び出した銃弾がターゲットに命中しカァンという金属音を奏でた。

 

「…………」

 

 手に残る反動と思ったよりも鈍い銃声、そして確かな手ごたえ。

 高等学校での軍事科目でも射撃だけは優秀だったマルフーシャ。当時はこんな技術あっても嬉しくないと思っていたが、こうして門兵として働くことになった今は少しばかり頼もしくもあった。

 それから数度引き金を引き、空になりかけた弾倉を取り替え、またターゲットに銃口を向けて発砲。

 

「……へぇ」

 

 やがていつの間にか隣に来ていた監査官が、感心した様子で声を漏らしたことに気が付きイヤーマフを外し残弾処理を終え安全装置をかけたKa42をテーブルの上に置く。

 先ほどの軍人はどこかへと去ったようで、射撃場内には見当たらなかった。

 

「資料で見て知っていたけれど、見事なものね。他の銃も撃ってみて」

 

 監査官は傍にあったサブマシンガンを手渡す。

 マルフーシャはそれを受け取り、また発砲。それを終えたら監査官が次の銃を渡してきて……ということを繰り返した。

 

「…………高等学校時代の教官が甘い人なのかと思ったけれど、そうでもないみたいね。ライカよ」

「え?」

「私の名前。教えてなかったから」

(認めてくれた、ってことなのかな)

「お疲れ様。宿舎に戻るわよ、あなたの面倒を見る間は私もそこで寝泊まりするから」

 

 そう言った監査官、もといライカと共にマルフーシャは来た道を戻りこれから門兵を終えるまでの我が家へと帰った。

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