衛兵マルフーシャの国境門防衛100days   作:橋場はじめ

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1日目

 翌日。

 Automatと書かれた自動販売機から出てきた料理をライカと共にテーブルで食べる。

 

「これ、味は悪くないですけど寂しくありませんか?」

 

 栄養を接種することだけを目的とした料理、といった見た目はお世辞にも食欲をそそられるとは言い難い。ただそれでも味を期待せずに食べたマルフーシャの感想としては、意外と悪くないというものだった。

 

「我が国が必死に働く兵士のために、栄養バランスに配慮しつつ手早く食べられるようにと考えそして配給されているこの食事が気に入らないと言うの?」

「あ、いえ……そういうつもりじゃ……なんでもないです」

「そう」

 

 それなら何の問題もないわよね、とばかりにライカは食事を再開した。

 

(悪い人じゃないとは思うんだけど……)

 

 本人に言えば怒られるため口にはしないが、可愛らしい一面もあることを一夜を共にしたマルフーシャは知っていた。

 何を作っていたのかまでは知らないが昨夜ライカは毛糸を使って一生懸命に編んでいた。そんな様子を見てしまっては、悪い人だとは思えるはずもない。

 ライカが黙々と食事を始めてしまったためマルフーシャも黙々と口を動かすことにした。

 そして。

 

「行くわよ」

 

 食事を終え、これからいよいよ門兵マルフーシャの初仕事。

 部屋を出るときにライカからは機械兵が抜けてくることなどまず無いと言われたが、それでも緊張しない訳がない。なぜなら、下手をすれば命を落とすこともありえるからだ。

 いや、それならまだ最悪ではない。本当に最悪なのは抜けてきた機械兵が門を超えてしまう事。

 ライカはそんなこと絶対にありえないと前線の兵士を信用している様子だが、昨日連れてこられるまで一般市民だったマルフーシャはそこまで信用できる訳がない。

 もし前線を抜けてきた機械兵をマルフーシャが止められなければ、国境を越えて国の中へと侵入してしまう。そうなれば国民に被害が出てしまうだろう。人を襲うよりも建築物を破壊することを優先するようだが、倒壊した建物の下敷きになったりなどの可能性はいくらでもある。

 そしてその被害を受けるのが義妹のスネジンカや仕事先の店長や仲間たち、学生時代の友人たちなどであるかもしれない……。そんなとき自分は初めてだったから仕方ない、などという言い訳は通用しないししたいとも思わない。

 

(頑張ろう)

 

 もとより手を抜くつもりはない。といはいえ、いきなりお国のために働けと言われてもその自覚はなかな湧いてこないのが現実だった。ただ身近な人の平和を守るため、というのであれば頑張ろうと思える。

 

「そういえばマルフーシャ。あなたがこれから宿舎で生活していく上で気を付けることを教えておいてあげるわ」

「気を付けること、ですか?」

「我が国の兵士たちは昨日のような例外を除いてみな優秀な者たちばかりよ。……ただ、なるべくであればかかわらない方が良い連中がいるのは確かよ」

「かかわらないほうが良い連中……?」

「えぇ。……っ、噂をすればってやつね」

 

 話をしている最中ライカはあることに気が付いたかのように、表情を引き締めた。

 

「……マルフーシャ、あなた無事に門兵生活を終えて義妹のもとに帰りたいのなら今から私が良いって言うまで黙ってなさい」

 

 視線は何かを警戒するように前方へ向けつつ、隣にいるマルフーシャに言った。

 どういうことですか、マルフーシャがそう声をかけようとしてライカの視線の先に目を向けそこにいる人物に気が付く。

 マルフーシャやライカとは若干意匠の違う制服を着た男女数人。

 周囲にいる人たちはその集団を避けるように視線を逸らしたり、そそくさとその場を去っていく。

 明らかに避けられている。ライカがではない。初めて見る制服を着た男女のグループがだ。監査官たるライカもどちらかといえば避けられがちだがここまで露骨には避けられない。

 例えるのであればライカは厄介な人物が近づいてきたと避けられるのに対し、この集団はまるで話しかけられた瞬間に死ぬことが確定すると言わんばかりにかかわるのを避けられている。

 何だか分からないがマルフーシャも逃げたい気持ちになるが、ライカがそうする気配がないため一先ずこの場に居続けることにする。

 やがて、男女の集団がマルフーシャたちの目の前で立ち止まった。

 

「あらライカ。奇遇ね」

 

 その中の一人、腰ほどまでに伸ばした綺麗な金髪をした美人な女性が話しかけてくる。彼女は軍服を着てさえいなければ深窓の令嬢に見えるほど整った顔立ちだ。

 

「クドリャフカ……あなたがこんなとこにいるなんてね」

 

 彼女の名前がクドリャフカだということを、マルフーシャはライカの呼びかけで知る。

 

「仕事よ仕事。それより、あなたの後ろにいるのが例の新人さんかしら?」

「そうよ。……仕事ってもしかして…………」

「違うわよ、疑り深いわねライカ。それとも疑われるようなことでもしてるのかしら? (わたくし)はただ噂の新人さんが気になっただけ」

 

 一見ライカは対等に話しているように見える。が、どこか緊張しているように見えた。

 そしてクドリャフカと呼ばれた彼女はマルフーシャを値踏みするようにじっと見つめる。

 

「言っておくけど、この子が門兵になったのはあのお方直々のご命令。なにも疑うようなことはないと思うのだけど」

「そう? あのお方だって全国民のすべてのことを知っている訳ではないわ。だからこそ、(わたくし)たちがいるのだしね。……まあけれど、本当に今日(わたくし)たちがここにるのは他の仕事が理由よ。ここで会ったのはただの偶然、だからそんな怖い目で見ないで」

 

 クドリャフカはくすくすと楽しそうに笑うと「それじゃあ(わたくし)たちは忙しいので、またそのうちに」と言い残して集団と共に去っていった。

 

「…………良いわよ、マルフーシャ」

 

 彼女たちの姿が見えなくなり数秒後、ライカはマルフーシャに声をかけた。

 

「誰なんですか、あの人たち」

「彼女は……秘密警察の人間よ」

 

 ――秘密警察。

 スパイを探し出したり、反乱分子を見つけ摘発する組織とされていて存在自体は広く知れ渡っているが詳しい活動内容は秘匿されていることも多い。ただ彼らは一方的にスパイ認定ができると言われている。

 つまり秘密警察に目を付けられれば最後、スパイ扱いされ拷問されるか施設に収監されてしまう。それがしっかりと証拠を集めて行われることならともかく、実際は秘密警察の自由に行われ憂さ晴らしにスパイ扱いされたなどという話も存在する。

 それが秘密警察が恐れられている大きな理由だ。

 

「まあとにかくおとなしくしていれば問題ないわ。それよりも無駄に時間を使ってしまったわ、国境門へ急ぎましょう」

 

 クドリャフカと話していたことによって、予定外の時間を使ってしまった。その無駄にしてしまった時間を埋めるようにライカはマルフーシャをつれ、急いで国境門へ向かった。

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