衛兵マルフーシャの国境門防衛100days   作:橋場はじめ

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1日目(2)

 マルフーシャはライカに連れられ国境門に到着する。

 

「大きい、ですね……」

 

 "国境門"という名前の通りマルフーシャたちが暮らすカゾルミアと、その外を隔てる巨大な門。その存在は知りつつも門が破られればすぐ戦場となる門周辺に暮らすのは低級国民と決められており、中級国民であるマルフーシャが直接目にしたのはこれが初めてのことだ。

 外観や使いやすさを度外視しただ敵の攻撃に耐えることだけを重視して建てられた門は、どんな攻撃がきてもものともしなさそうな威圧感を放っている。

 

「……? この赤いの何ですか」

 

 門の所々に赤黒い色が付着している。そういったデザイン、というわけではないだろう。

 

「血よ」

「ち……? 血!?」

「ええそうよ。戦争を始めて何年たってると思ってるの? いくら有能な我が国の兵士とはいえ、その長い間ただの一体も逃さずに機械兵を殲滅し続けられるわけがないわ。それは多分ここに到達した機械兵が門を攻撃して、落下してきた破片にでも門兵がぶつかって出来た跡、とかでしょうね」

 

 機械兵はほとんど前線の兵が片付けてくれる。機械兵は人よりも建造物を優先して狙う。――だとしても、この場は戦場だ。この巨大な国境門に守られたカゾルミアの領内ではなく、毎日多くの人が血を流し汗を流し必死に戦い続けている戦場。ただ前線ではないというだけ。

 

「…………。ライカ、私頑張りますから」

 

 義妹のため、友人のため、恩人のため、国民のため、そしてなにより自分のため。マルフーシャが決意を新たにするとライカは満足そうに頷いた。

 

「ところでですけど、ライカのそれなんですか?」

 

 ライカが両手で持っている大きな銃はマルフーシャが持つKa42の何倍もの大きさだ。

 

「これ? KaSG42よ。特殊部隊でも使用されてる軍用ショットガン」

「私のものはないんですか?」

「欲しければ自分で買うことね。これは我が国からの支給品ではなく、私が個人的に入手したものだから。だからあなたも自分で手に入れなさい」

 

 この門を一日しっかり守り抜けば給与が払われる。それをためて自分で買えとライカは言う。

 

(初心者の私こそ、そういう銃を使ったほうが良いと思うんだけど……)

 

 ショットガンとは一度発砲すると、何十という小さな弾を同時に吐き出して面で相手を静圧する銃だ。

 

「というより、あなたさっきから監査官たる私を呼び捨て?」

「すみません、ライカ様と呼んだ方が良かったでしょうか」

「…………はぁ。もういいわよ、ライカで」

 

 冗談めかして答えるマルフーシャの相手をするのが面倒くさくなったライカは、呼び捨てを許すことにした。

 

(それにしても……上着て来ればよかったちょっと寒い)

 

 国境門の外は遥か遠くに建造物の影がうっすらと見えるだけで、マルフーシャの視界は大半が野原で埋め尽くされている。そのため風を遮るものはなくまたカゾルミアは土地柄なのか空が曇っていることが多く、今日も日光が差し込まないため肌寒く感じる。

 

(明日は上着てこよう……)

 

「…………マルフーシャ、気を抜かない」

 

 余計なことを考えているのをライカに気が付かれ、たしなめられる。

 

「すみません」

 

 謝罪したマルフーシャは前方に意識を集中させた。

 数時間後――。

 マルフーシャの初仕事が終わる時間が近づいてきた頃、ソレはやってきた。

 最初は小さな点だった。鳥が飛んでいるのだと、マルフーシャもそしてライカでさえそう思った。

 しかしそれが鳥などではないことに気が付くのに時間はかからなかった。

 

「初日から機械兵がくるなんて、ついているって言うのかついてないって言うのか……まあ、いいわ。マルフーシャ、練習だと思って気楽にやってみなさい」

 

 まさか一日目から機械兵が抜けてくるとはライカも思っていなかったようだが、幸い目視できるのは一機だけだ。練習に最適だとマルフーシャをうながす。

 丸々とした目玉のような全体が紫色で中心部か赤く脈動するように光っている。

 

(なんだか……気持ち悪い)

 

 機械兵がどんなものなのかは初等教育の時に教わる。その外見も教科書に写真で乗せられており、実物を見るのは初めてであってもその姿自体はマルフーシャも以前から知っていた。

 しかしその時には抱くことのなかった気持ち悪さ、嫌悪感を不思議と今は感じていた。

 マルフーシャはそんな一つ目にハンドガンを向ける。

 このタイプは体当たりするように物にぶつかりそれをスイッチに自爆して対象を破壊する。ただ硬そうな見た目に反して、不発を防ぐためか感度が高くなっておりハンドガンの弾であっても命中すれば一発で倒すことができる。

 

(門を破壊されたら……みんなが……)

 

 スネジンカの、身近な人たちの顔が思い浮かんでは消えていく。

 

(私がここで倒さないと)

 

 自然とトリガーにかかる指に力が入る。しかしまだだ。まだ一つ目とは距離が開いている。もう少し、もう少し近寄ってくるのを待たなくては。

 

「………………」

 

 ライカは口を挟むでもなく様子をただ見守っている。

 

(…………今っ)

 

 マルフーシャは自分の感覚を頼りにここだと思ったタイミングでトリガーを引く。反動と、銃声。

 

 一発目、ミス。

 二発目、ミス。

 三発目、当たったかのように見えたが僅かにそれていた。

 四発目――命中。

 

 銃弾の当たった一つ目は内部に積載されていた火薬が起爆し、激しい音と共に爆発四散した。

 

(良かった、みんなを守れた。…………?)

 

「今何か言いましたか?」

「? 何も」

 

 何か聞こえたような気がしたマルフーシャはライカに問うがどうやら違ったようだ。

 

(気のせい……?)

 

 耳を澄ませてみるがもう聞こえたと思った声はもう一度聞こえることはなかった。

 だがマルフーシャの耳には確実に聞こえた気がしていた。

 

 

 ――コロシテクレテアリガトウ、と。

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