三日目の朝。
朝食を食べ終えたマルフーシャはKa42を取り出し、ライカから整備の仕方を教わっていた。マルフーシャも学生時代に教わったことはあるものの、それは何年も昔のことで既にうろ覚えになっていたためだ。
「本当は昨日寝る前にしておくことよ。でも門兵が慣れるまでは身体も疲れてるだろうし、まずは疲れを取ることを優先しなさい。で、次は……」
マガジンを外し、銃本体に弾が装填されていないことを確かめ、スライドを外したマルフーシャにライカは指示を続ける。
Ka42は国民拳銃という通称が付けられていることからも分かる通り、長い間カゾルミア国民に使われている。それは、威力や精度に優れているからというだけではない。
銃本体を構成するパーツが少なく動作不良が起こりにくい事、そしてパーツ数が少ないという事は整備もしやすいことでもある。
そしてライカの教え方もよく記憶は薄れても身体は経験を覚えていたこともあり、二人が思っていたよりも整備は順調に進みあっという間に終わってしまった。
「あなた、のみ込み早いわね」
「昔教わったことを身体が覚えていただけですよ」
こんな銃の使い方など忘れてしまいたいというのがマルフーシャの本音だが、学生時代に教官によって叩き込まれた技術は身体には染みついてしまっている。
「さっきはあんなに自信なさそうにしてたのに。……ま、私にとってはその方がありがたいけど」
教えがいがないとは思うものの、銃の腕も含めて新兵にしては優秀で自分がいなくなった後も安心して任せられるというものだ。
ライカが見守る中、マルフーシャはほとんど一人の力でKa42を分解・整備・組み立てをやってのけた。
「ま、及第点ね」
「よかった……」
「及第点って言ってるでしょ、安堵しない」
「厳しいライカの言う及第点は、他の人の合格点ぐらいだから」
「…………ふんっ」
照れくさそうにライカは顔をそらす。
監査官になってから、いや監査官になる前から今までずっと優秀な憲兵になるために日々努力を惜しまずにしてきた。そのストイックさは実を結び、今こうして監査官という地位につけている。
ただそのかわり、そのストイックさは同期や仲間を遠ざけてしまった。友達と呼べる相手はただの一人もいないライカにとって、馴れ馴れしいなどの欠点はあれど新兵として優秀で普通に接してくれるマルフーシャは得難き存在といえた。
「準備が終わったなら、早く行くわよ」
まだ少し仕事の時間には早いが、マルフーシャは逃げるようにして歩き出したライカのあとを黙って追った。
――国境門――
いつもの変わらない、薄暗い空。しかしライカから貰ったマフラーを中に着込んでいるおかげで、昨日よりもずいぶん暖かく感じる。
ライカから貰ったこのマフラーを受け取ってそうそうに汚したくない。今日は機械兵がこなければいい。マルフーシャがそう思った瞬間だった。
「嘘、なんで……」
すぐ横からライカの信じられないとばかりの声が聞こえてくる。
ライカの視線の先には先日まで襲ってきた機械兵の一つ目だけでなく、ウォーカーと呼ばれる別種の機械兵もいた。この機械兵は二足歩行で目標に近づき装備されたマシンガンで攻撃してくる。
特別珍しい機械兵というわけではなく、比較的よく見かけるタイプ。
「減るどころか……増えてるなんて……」
単純な数だけでなく、種類まで。
自爆機構のないウォーカーはしっかりと防弾仕様になっていて、拳銃弾一発程度では倒せない。ただかといって質より量という考えなのか、防弾性能は最低レベルだ。
「一つ目の方頼むわ」
Ka42ではウォーカーを破壊するのは不可能ではないが時間がかかってしまう。手間取っている間に一つ目に自爆特攻されたらかなわない。
出来るだけライカは手を出さない方が今後のマルフーシャのためだが、流石に国境門を守る方が優先だ。
ライカは愛銃のKaSG42を構え、ウォーカーへと銃口を向けた。