晴れ──のち、曇り
目の前の小型バムスターを見据える。
なんてことない、ただのバムスターが訓練生用になってあるが、それでも、ただの訓練生から見ればこのバムスターは大きい。
⋯⋯無論、青子と遊真にとっては殺しやすくなってくれてありがとう、と言いたいぐらいではある。
「
遊真の訓練生用のバムスター討伐時間は0.4秒。
青子はそれを超えるためにアステロイドを設定する。
『3号室用意──』
構える。
シューターの基本動作は四つ。
弾を出す、分割、狙いをつける、発射。
初めてボーダーのトリガーを使ったとき、分割は苦手だったが、もう克服した。
『──始め!!』
青子が狙うのはただ一つ、口にある弱点だけ。
閃光のように光るアステロイドが、蒼崎青子の技術と経験によって最速で撃ち放たれる。
「これはいい線いったでしょ」
記録⋯⋯
『0.4秒⋯⋯!?』
遊真の時と同様に、周りの人間が驚きだす。
特に、58秒という結果を残した、ある一人は同じシューターとしての格の違いを思い知った。
もちろん、悔しくないわけが無い。なんなら噛みつきたいぐらいだ。
しかし⋯⋯そんな彼の思いは、自分のことをある程度理解しているが故に消え失せた。
「もっかいしたいんだけど」
そんな思いをよそに、青子は二回目を要求していた。負けず嫌いとは、突き詰めるとこうなるのか──と、周りの訓練生は思ったらしい。
◇
その後、修が風間と戦うことになったが、青子はその場から立ち去った。
冷たい、と言われるかもしれないが彼女はどうでもいい、と足蹴にするだろう。
「自分で決めたことは自分でしなさい」
蒼崎青子は良くも悪くも、そういう性格なのだ。
「君、ちょっといいかな?」
と、スーツ姿の男が呼びかけてきた。
「貴方、あの時会議室にいた──」
「唐沢克己、よろしく」
「なにか用ですか?」
「用があったから来たんだよ⋯⋯まあ、オレの私情を挟むことだけだから、そんなに警戒しなくていい」
唐沢は青子にそう言った。
ようするに、今は城戸派の唐沢ではなく、ただの1ボーダー職員の唐沢として来た訳だ。
唐沢は近くの自販機で缶コーヒーを二つ買って、一つを青子に渡す。
「それで、聞きたいことはなんですか?」
「そんなにかしこまらなくていいよ。
⋯⋯オレは君のお姉さんと話をしてた時に、その単語は出たんだ」
「姉貴⋯⋯?」
「そう⋯⋯オレは橙子さんと仕事の都合で話したことがあったんだが、そのときから気になってたことがあるんだ」
青子は缶を開けてコーヒー口に運ぶ。
「姉貴と会ったことがあるって⋯⋯」
「そのとき、オレはボーダーの職員じゃなかったから、それなりに色んなタイプの人間と知り合ってるのさ。
⋯⋯話を戻そう。オレが気になったことって言うのは『魔法』だよ」
その単語に少しだけ反応する青子。
「オレと話してたとき、彼女はもう一人の世界のことを匂わせることを言ってたんだ⋯⋯オレは少し黒い所で働いていたから、その世界が裏社会かなにかと認識してたけど、今はその世界が近界ってわかったけどね」
唐沢は話を続ける。
「だから、その世界のことを話していたに出てきた『魔法』がずっと気になってたんだ。
知りたいんだよ──『魔法』がそっちの世界でなにを表しているのかを」
青子はコーヒーを一気に飲み干す。
「⋯⋯魔法って言われているのは全部で五つ、その時代で実現不可能な出来事を可能にするもの。
⋯⋯って言っても、そんなに大層なものじゃない」
それに唐沢はその発言に驚きつつも、再び質問する。
「魔法はトリガーとは違うモノなのかい?」
「トリガーだけど、形はないのがほとんど。
というかトリガーというより、『神秘』って表す方が適してる」
「神秘?」
「そ、神秘。
普通のトリガーみたいなのじゃなくて形がないのに、効果は発揮できるからそっちの方がわかりやすい。
すごい分かりやすく言うと、形のない黒トリガー」
飲み終わった缶をゴミ箱に投げ捨てる。
心地よいカコンッ、という音がなった。
唐沢は教えてくれてありがとう、と言って、来た道を戻っていった。
○
「満点の訓練一つで20点⋯⋯しょっぱいな」
休憩と修たちの模擬戦が終わった後、遊真と青子は訓練を受けた⋯⋯一位と二位は二人が総ナメしていたのはご想像通りだ。
「だからランク戦で稼げるようになってるってことね」
C級ランク戦のロビーでは訓練生たちが和気あいあいとしていた。
「ランク戦のやり方を教えるよ、空いてるブースに入ろう」
嵐山隊の時枝に教えてもらい、彼らはランク戦を始めた。
「こいつなんかどう? ちょうどいいポイント持ってるし」
◇
「真の強者は危ない橋を渡らない」
さて、そんなことを誰もまだ気づいていない時、真の強者らしい彼は自論を仲間にいきいきと語っていた。
「おっ、見ろよ、贄が自分から来やがったぜ」
ポイント1050が二人連続で彼らを指名していた。
「あんまりやり過ぎるなよ」
「先のない人間に引導を渡してやるのは強者の務め──だろう?」
彼は自信に満ちた顔でそう言う。
対戦ステージに転送される。
そこで彼が戦う相手とは──
「おっ、新3バカ1号」
黒い隊服をまとった、白い悪魔だった。
「対戦よろしくおねがいします」
一方、時を同じくして新3バカのうちの一人も対戦ステージに転送される。
彼がそこで見たのは──
「あんた、こんなにポイント持ってたんだ」
黒い隊服をまとった、負けず嫌いの化身だった。
「対戦、よろしく」
『C級ランク戦、開始』
瞬間、彼らは反応することすら許されない速度で攻撃を受けた。
⋯⋯余談ではあるが、彼らは三回ほど周回され、心が割とまずいラインまでいったらしい。
◇
「あれが空閑の息子か」
場所は移り、ある会議をするための会議室にて、城戸は空閑遊真のランク戦の様子を見ていた。
「⋯⋯風間、おまえの目から見て、やつはどうだ?」
「戦闘用トリガーを使えばおそらくマスターレベル⋯⋯8000点以上の実力はあるでしょう」
その言葉に驚く忍田。
「風間、もう一つ聞きたいことがある。
蒼崎青子の動きについて何か気になったことはあったか?」
質問の趣旨がわからない顔をする忍田たちだったが、すぐにその質問の意味を理解した。
「戦闘慣れしている点はともかく、トリオンについて少し疑問に思ったことが⋯⋯」
「なんだ?」
矢継ぎ早に聞き返す城戸。
「オレが見てきた訓練生の中で、アステロイドの威力が一番高いように見えたのです」
城戸は林藤の方を向き、「やつのトリオン能力の数値はいくつだ?」
「平均通りの7だね。
たぶんアイツの弾が高いのは、トリオンの質がいいからだよ」
「質、だと?」
どういうことだ、というような表情をして復唱する。
「そう、質だよ。
ボーダーのトリガーは個人のトリオン能力に依存する部分が多いじゃん? だから出水とか二宮はデカくて威力が高い弾をバンバン撃てる。
でも、アイツは違うんだよ。量は数値通りの7程度、でも質は異常なほど高いから、弾は普通ぐらいの大きさだけど、威力は数値以上だってこと」
それを聞いて会議室の面々は納得した。
▲
「どもども遅くなりました、実力派エリートです」
しばらくして、迅が会議室に入ってきた。
それを見て、忍田は本題に入る。
「今回の議題は──近く起こると予測される⋯⋯近界民の大規模侵攻についてだ」
会議室の空気が引き締まる。
「迅の報告によると、街の住人が死んだり、連れ去られたりするなどの未来が見えたらしい⋯⋯迅、詳しく説明してくれ」
忍田は迅に詳細を求める。
「了解、忍田さん。
オレがいつも通り、散歩しながら街の人の未来を見ていたら、酷い未来が見えた。
避難する未来は全員に見えて、中には忍田さんが言ってたような未来も見えた。⋯⋯単刀直入に言うと、今回の防衛作戦はボーダーの全戦力を回した方がいい」
「その理由は?」
城戸が間髪入れずに質問をする。
「未来を見て気づいたんだけど、街の被害は大きくわけて二つ。
一つ目はトリオン兵に連れ去られたり、トリオン器官を奪われて死ぬパターン。
それで、ここからが一番のポイントなんだけど──ただ殺されるパターンがあった」
迅は珍しく、笑顔を消した表情で言う。
「ただ殺されるだけなのか? トリオン器官も奪われずに?」
「風間さんの質問は最もだよ。でも、その通りなんだ。ただ殺されてる。
一つ目の方はボーダー隊員も捉えられたりしてる⋯⋯諏訪さんが立方体になったりしてる未来が見えたし。
ただ、二つ目の方は隊員よりも住人に被害が出てる。多分、街を優先的に狙うタイプのトリオン兵か、近界民だと思う」
それを聞いて城戸は考えて、答えを出した。
「⋯⋯迅の報告と提案を踏まえて、全戦力を三門市に集中させろ。
忍田君、草壁隊と片桐隊にスカウトを中止させて、本部に戻るよう連絡をしろ。
迅、ボーダーの全戦力が防衛作戦に参加した場合、作戦の成功率はどれほどになる?」
「⋯⋯絶望的な成功率から上がるけど──それでも、いいとこ五分五分かな」
そうか、と城戸は静かに反応して、目を閉じた。
○
三輪は悩んでいた。
理由は近界民についてのことだった。
先日の襲撃は本部に乗り込んだ近界民によって潰され、余計なことに迅の過去を知ることになった。
迅は自分が憎み、憎悪している相手に家族を殺された。だが、それでも迅は玉狛の考えに賛同している。
⋯⋯今、彼は玉狛と近界民、それと自分の考えを一晩中考えに考えたが、結論は出なく未だ悩んでいる最中なのだ。
そんな彼が廊下を歩いていると、ある二人組が見えた。
「なんで鉄の方より紙の方が価値が高いんだ⋯⋯」
「財布の中身が鉄まみれだったら持ち運ぶのに不便だからじゃない?」
「ふむ、それなら一応納得できる⋯⋯」
件の近界民二人組が自販機で買い物をしていた。
「買い物したらおカネが増える⋯⋯これも謎だ」
「1000円で200円のモノを買ったら、いくら余ることになるか分かる?」
買い物というより、教育をしている様に見える。
「800円残るな」
「だから、その800円をこの機械は返してきたのよ。
でその余った分が細かくなって帰ってきたわけ。で、これがこの世界の『おつり』だから、覚えておきなさい」
「ふむ、理解した」
「お⋯⋯?」
ふと、三輪と遊真の目が合った。
それにつられて、青子も三輪を見た。
「久しぶり、三輪君。去年ぶりね」
「気安く名前を呼ぶな──近界民⋯⋯!」
三輪は青子にそう言って、自販機で飲み物を買う。
「どうした? 元気ないね。前はいきなりドカドカ撃ってきたのに」
三輪の顔色の悪さと元気のなさを、遊真は気になって聞いた。
「本部がおまえらの入隊を認めた以上⋯⋯おまえらを殺すのは規則違反だ」
それを聞いて、青子は三輪のことを少し理解して、同時に、少し気になったことができた。
「あんた、トリオン兵に家族、殺されたんでしょ?」
「⋯⋯!! なぜそれを⋯⋯!?」
「アンタが私たちに憎しみを抱いていたのは、前にわかったし、それ以上に、あっちの世界の人間全員にも同じような気持ちがあるのは今日、わかった」
ズケズケと、容赦なく青子は三輪の心の奥に踏み込んでくる。
過去のことも、彼の気持ちも、全て理解した上で、土足で踏み込んでくる。
「アンタが望むなら、仇討ち、手伝ってあげようか?」
「⋯⋯!?」
三輪の理解が追いつかない。
自分のことを憎んでいる相手にそんなことを持ちかける、目の前の
「レプリカが詳しく調べたら、アンタの家族を殺した国のトリオン兵か結構絞れるかもしれないけど──」
「──ふざけるな⋯⋯! おまえらの力は借りない⋯⋯!」
三輪は声を震わせて、拒絶した。
「近界民は──全て敵だ⋯⋯!!」
やはり、三輪の答えは変わらなかった。
その姿勢は頑固なようにも見えるが、決して変えてはならない、ルールのようなモノだと、青子は解釈した。
▲
その男は計画を練り直していた。
理由は簡単、これから侵攻する国に「ブルー」がいたからである。
直前まで敵の戦力を調べていると、一人抜きんでた実力の持ち主を発見することは珍しくない。
だが、それでもあの国に彼女がいたのは計算外であった。
「隊長、そろそろおやすみになった方がよろしいかと⋯⋯」
声をかけられて後ろを振り向いた。
⋯⋯自分でも驚くほど没頭していたらしい、と彼は一人思った。
「ああ、わかっている」
「⋯⋯ブルーですか?」
彼女にはお見通しだったらしい⋯⋯彼は素直に肯定した。
「ブルーがいる以上、計画を練り直さなければならない⋯⋯ブルーが我々と対立するならば、相手をできるのはヴィザ翁か、俺ぐらいだからな」
彼は少し自信なさげにそう言った。
それに彼女は少し表情を変えたが、すぐに元に戻した。
「ラービットだけでなく、
「っ! ⋯⋯それは本当ですか?」
彼はその質問に「ああ」と答えた。
「もともとアレは失敗作だ。ならば、ここで使い潰しても損にはなるまい」
男の表情は変わることなく、冷淡なことでそう言った。
誤字脱字等の報告いつもありがたいです。
できれば発見した場合、容赦なく報告してくださると嬉しいです。
あと2,3話ぐらいで、多分大規模侵攻に行けるんじゃないかなぁ。