彼の周りは少し愛が重い   作:澱粉麺

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ガールズアンド・グッドリップ(九条史桐)

 

 

 

 

 

「おや、奇遇だね」

 

 

「うわっ」

 

 

「うわってなんだいキミ。

コトと次第によっては目を突くよ」

 

 

「冗談一つで後遺症まで残るような事しようとするのはやめてくれ!」

 

 

休日の昼の事だった。

後ろにまとめられた髪、すらりとした長身に、ズボンルックが多い彼女には珍しいロングスカート姿。特徴的なのはやはり、眼の赤い色。

そんな、我が校の生徒会長に。

シドに出逢った。

 

当然約束したわけでなく、ばったり偶然に。

 

 

「いつものことながら忙しそうだなあ。

今日のキミの用事は?」

 

 

「ああ、今から孤児院に行くんだ。

親がガキの頃から忙しくてさ。そん時からちょくちょくお世話になってたとこ」

 

 

「へえ、キミらしい。律儀だねぇ」

 

 

「律儀っていうか…ただの恩返しだよ。

で、お前はどうしたんだよ。

…俺についてきちまっていいのか?」

 

 

そうそう、彼女は別の道から俺にバッタリと出逢ったはずなのに、今は肩を並べて歩き、話してしまってる。さっき来た方向と同じ所に行ってるぞ。いいんだろうか。

 

 

「ん、平気平気。」

 

 

そう言うと彼女は懐からケータイを取り出し、そのまま歩きながら弄り出す。

しばらくタイピングをしていたかと思うと、すぐに仕舞いそしてまたニッコリ笑った。

 

 

 

「…よし。これで用事は無くなった。正確には無くしたんだけどね。ヒマになったし、キミに着いてっても問題はないわけだ」

 

 

 

…その、あまりにも力押しな解決方法に呆れて物も言えない気持ちになったが、まあ、きっとそれについて何か言おうという気にもならなかった。どうせ、言い負かされてしまうだろう。

 

 

「…そうだ。その孤児院ってさ。

ボクも行っていいかい?」

 

 

ふと、面白いことを思い付いたとばかりに目を見開いて、大仰に手を広げてそう提案するシド。急なそれに、面食らう。

 

 

「え。…人手は幾らあってもいいけど…

多分ボランティアになるぜ?いいのか?」

 

 

「ク、アハハ。

ボクが金銭関係でなにか言うと思うかい?」

 

 

 

うーん、相変わらず鼻持ちのならない発言だ。だが、言っていることは確かだ。シドが金銭を要求する時は即ち何かが滅びる時なんじゃないかとすら思う。

 

なら。

 

 

 

「…ま、そうだな。

じゃあこっちからも頼む、来て欲しい」

 

 

素直に、そう思った。

シドはタッパもあるし力も結構ある。何より顔も外面も良いから、子供たちもとっつきやすいだろう。俺に未だに苦手意識を持っている子とかもいるんだ。

 

 

「アイ、アイサー。

キミの言う通りに」

 

 

頭を下げた俺の顔を覗き込むように、下からこちらを眺めてくる。そして恭しくそう言い、スカートを摘み、まるでメイドのように礼儀正しく、慇懃無礼な程のお辞儀をした。

 

 

 

「…ところで今日お前スカートなんだな。動きにくいからあんま着ないって言ってなかったか?」

 

 

「ん?ああ、これね。

オシャレをしたい気分の時もあるのさ。たまには、お淑やかな女の子らしくね」

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

「…だから今度学校に来る時は運動靴でも履いてくればいいじゃないか。いちいち咎めるような人ももう居ないだろ」

 

 

「確かに靴が壊れて直すのにも限界があるけど…でも学則を破るのもなあ…」

 

 

「なぁんで妙なとこだけ真面目なんだいこの頭カチカチ朴念仁星人」

 

 

「妙なあだ名を妙に語感良く言うんじゃねえ」

 

 

 

どうでもいい話をしながら。

気付けば、孤児院に付いていた。

いつも通りに、少し古びた門はきりきりと嫌な音をたてながら開いていく。

 

 

「いつも古賀クン一人で来るのかい?」

 

 

「いや、いつもは鈴と来てるんだけどな。

今日は外せない用事があるって悔しそうに」

 

 

「おや、そうかい。

ならその分得しちゃったかな?」

 

 

「……そんなに子ども好きだったのか?お前」

 

 

「ハハ」

 

 

意外に思い、そう発言すると何とも言わないような笑いに誤魔化されて会話を打ち切られてしまう。何が言いたかったのか、はてと頭を悩ませていると。

 

 

 

「あっ、にーちゃ…!」

 

 

聞き覚えのある快活な声が飛んできたと思えば、そのまま途中で止まった。

ぴたりと、呼吸を止められたようなそれを怪訝に思って声の発信源を見る。

 

するとそこにはユキが、こっちに飛び込んでこようとするその状態のままで固まっていた。

 

大丈夫か?と声をかけようとした途端、ユキはぴくりと動き、そして腰に手を当てて堂々とこっちを睨んでくる。そして、言う。

 

 

 

「ねえ、あんた、誰」

 

 

明らかにシドに向けて言っていた。

それを受けて、シドは一瞬驚いたような顔を見せてから、すぐににっこりと笑う。

人当たりの良い、外向けの笑顔。

 

 

「ボクは九条史桐。シドって呼んでくれ。古賀くんの学友だよ。今日、鈴ちゃんに代わりを頼まれてここに来たんだ」

 

 

「へえ。今日、鈴居ないんだ」

 

 

「ああ、寂しいかもしれないけ…」

 

 

「やったっ!ざまあない!」

 

 

「……」

 

 

ひとしきり喜ぶユキを横目に、少しだけ困ったようにシドがこっちにひそひそ声を寄越す。

 

 

 

「…この子は?」

 

 

「あー、俺に懐いてくれてる子。折枝ユキって言うんだけど…鈴とちょっと仲が悪くって。あと、酷い人見知りなんだ」

 

 

「なるほど」

 

 

そうして内緒話をしている俺たちがつまらなかったのか、むー、と唸り声を上げてからユキは俺の腕を身体でがしりと掴み、そのまま引っ張っていく。

おとと、とそのまま引っ張られる。変に力むとユキが怪我するかもしれないから。

 

 

 

「で?シドは集にーちゃんとどういう関係?」

 

 

「うん?」

 

 

「彼女?そんな訳ないよね。

にーちゃんは私と結婚するんだもんねー」

 

 

「はは、おいおい」

 

 

シドを睨んだと思えば、急にこちらに猫撫で声を出してくるその豹変ぷりとその発言内容に苦笑いだけを返す。

 

なんと言えばいいのか。

そう、思っていると。

 

 

 

 

「ふぅ、うううぅ……」

 

 

ため息のような声を、継続的に出しながら。

シドはじっとユキの眼を眺めた。

睨むだとかそういうのでは無く、ただ、顕微鏡のスライドガラスの中を観察するように。

じっくりと眺めていた。

 

 

「……ううぅん」

 

 

 

長い、深呼吸のような音が終わる。そして見定めが終わったように、ニコリと笑った。それにたじろいだのはユキだけでなく、俺もだった。

その笑顔には、さっきの外向けの笑顔とはどこか違う、いやーな不気味さがあった。

 

 

 

「っと、やべ。そろそろ手伝いに行かないと。

悪いユキ、またちょっと後で」

 

 

「おや。

ならボクがこの子の面倒を見ようか?

折角だ、この子とちょっぴり話したい」

 

 

「はぁ!?ちょっと、にーちゃん!」

 

 

「あ、悪い。ならそうしてもらっていいか?

ごめんなユキ、ちょっとだけ待っててくれ!」

 

 

 

その時はちょっとの…

…いや、正直かなりの不安が、あったが。

時間に追われ、そうするしか無い状態でもあった為、シドの言葉に甘えさせてもらった。

 

まあ、彼女なら、生徒会長ならあのトゲトゲしたユキ相手でもある程度は宥めすかせられるのではないかと。

 

 

 

「…ふふ。

さあ、『お話し』ようか?ユキちゃん」

 

 

「……っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

「…でねー!その後がまたひどくてね?」

 

 

「へえ!そりゃまた…

ん?おお、古賀くん。用事は済んだかい?」

 

 

「あ、にーちゃん!済んだかい?」

 

 

 

…様子はどうだろうと見にきた俺に飛び込んできたのは。横にぴったりと座り仲良さげに二人で談笑し、ユキはシドの口調を真似する。そんな、衝撃の光景だった。

 

 

 

「え…あ、ああ。なんとか。

ただごめん、今日はこれだけで時間が終わっちまった。遊ぶのは今度でいいか?」

 

 

「えー!…もう、仕方ないなあ。

ぜーったい、今度遊んでよね!」

 

 

 

その返事にも俺は、更に衝撃を受ける。

過去そうなってしまった時は彼女は激しく拒否をして、ヤダヤダと言っていたのに(後で遊ぼうなんて言って約束を破ったのだから当然だ)、今日はすこぶる機嫌が良い!

 

 

 

「おや、もうそろそろ帰りの時間かい。

ならボクも戻るかな。

ごめんね、全然手伝いしてなくって」

 

 

「え?ああいや、それはいいんだ。

ユキと遊んでくれてただけでも助かったよ」

 

 

「そう?そう言ってもらえると助かるな。

それじゃあね、ユキちゃん。

また会ったら一緒に遊ぼうか」

 

 

「うん、またねシドさん!」

 

 

再三、ショックを受けた。

まさか。ユキが、歳上をさん付けで呼んでいるところなんて初めて見た。シドに手を振る時の彼女は、にっこりと笑顔だった。

 

 

 

 

 

……

 

 

 

帰り道。

半ば呆然としながらシドに尋ねる。

 

 

 

「……随分、仲良くなったんだな?

あの子すげえ人見知りなのに…」

 

 

「いいや、もうちょっと仲良くなれるつもりだったんだけどね。そうだな。ねーちゃん、と呼ばせられるくらい」

 

 

…俺にとってはあの短時間で楽しく話すまで親交を深めるだけでもびっくりするのに。それは彼女にとっては失敗の、途上の結果らしい。相変わらずの完璧主義というか、理想の高さだ。

 

 

「いや、ほんと。俺も仲良くなるのかなり時間かかったから…シンプルに、どうやったのか気になるよ。どういう事を話したんだ?」

 

 

…これは半分本当で半分嘘。嘘の部分は、ユキとすぐに仲良くなられてしまったことがちょっとだけ…いや、だいぶ悔しかったのだ。

我ながら幼稚だと思う。

 

そんなことを顔から読み取ったのか。

意地悪そうな笑みを浮かべてこっちをにやにやと暫く眺めてくる。やはり言い合いとかじゃ勝てそうに無いな、と、何十回目か再認識する。

 

ちょっとの間そうしてから満足したのか、閑話休題というように、シドは話す。

 

 

 

「ふふ、仲良くなる方法。簡単だよ。あれくらいの年頃の子の好意や感情なんて、容易にコントロールできるものだからね」

 

 

「………」

 

 

 

沈黙。

 

 

 

「あ、ちなみに今のは嘘だよ。冗談冗談」

 

 

「だよなビビった!

お前の冗談わかりにくいんだよ…!」

 

 

「あはは、ごめんごめん。

ボクならやれちゃいそうだもんね」

 

 

彼女はそんな揺るぎない自信が滲み出るような事をぼやきながら笑い、そして顎に手を当てて少しだけ説明をしてくれた。

 

 

「心理学的な話…といえばまあそうかもしれないけど。もっと単純な人間関係の話だよ。共通の好きなモノがあると人間ってのは仲良くなりやすいんだ。当然のことだけど、趣味が合う人間の方が話が弾むだろう?」

 

 

「ああ、成程。そういう話を…

ん?でもよくすぐにユキの好きなもの?が分かったな。全然知らない子だろ?」

 

 

 

そう言うと、シドはぴたりと足を止める。

そして俺の前に躍り出て、こっちを見た。

 

 

 

「そりゃあ、すぐわかるさ。

好きなモノが一緒だからね」

 

 

 

じっと、目を見詰められる。

その視線に息苦しいような、恥ずかしいような。少し鼓動が早まるような感じがして、顔が熱くなったのを感じた。

それを誤魔化すように言う。

 

 

「……オモチャとして好んでもらえて光栄です、会長サマ…」

 

 

「おやおや、随分歪んだ取り方をするねえ。

それともそういうのがシュミかな?」

 

 

「ち、違う!断じて違うからな!」

 

 

笑い声が響く帰り道。心にほんの少し悶々としたものを残しながら、先に進んでいく。

そんな状態だったからか、シドの耳が少し赤くなっていたのには気付けなかった。

 

 

 

 

 

……

 

 

 

「あ、あと安心しなよ。彼女にとっての一番は不動のキミだから。ついでに想いの対象を逸らそうかなーなんて思ってたけど…思いの外感情が重くってびっくりだよ」

 

 

「……?なんの話だ?」

 

 

「んー。なんでもないよカチカチ朴念仁」

 

 

「変な呼び方をコンパクトにするな!」

 

 

 

 

 

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