彼の周りは少し愛が重い   作:澱粉麺

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獣々承知(浮葉三夏)

 

 

 

マンネリ、という言葉がある。

それは定期的、常行的、平凡に行われる全てに付き纏う言葉であって、それは例え、幸せな生活においてもつくものでもあるのだ。むしろ平凡で幸せな生活であるほど纏わりつく言葉であるのかもしれない。

 

それはまた、個人から興味関心を失わせる恐ろしいものであり、故にそれをなんとか回避するという事は何に置いても、特に夫婦生活においては大切なことである。実際、そう聞いた。姉に。明らかに冗談を言ってる顔つきだったけど、そこはまあ置いておいて。

 

 

 

…だから手にしたそれから目を逸らせない事は、仕方のない事だったの。多分。本当に。

 

 

(………えー……と……)

 

 

 

私、三夏の夫になった集さんの部屋を掃除してる時のそんなある日の事だった。クローゼットの奥から小降りな女生徒制服が出てきたのは。

最初は何が何だかわからなくて、そしてその後にかっと頭に血が昇って、顔中が真っ赤になってしまった。

 

後に聞いた話だと別に、そういう事ではなく、ただ同僚から娘にプレゼントしようとしているものを預かっていてほしいと言われただけらしいけどその時の私にはなんにも思いつかなくて。

 

あと、変な風に思い詰めるような方向性の勘違いはしなくてよかったとは思うけど。

 

 

 

(……そ、そういうシュミがあってもまあ…仕方ないわよね。それはまあ…ひ、人それぞれだから…うん…えっと…)

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

「……なんで!?なんで買ってきちゃったの!?バカなの私!」

 

 

…気付けば多目的ディスカウントセンターに置いてあった服を買い取って、家に戻ってから一人自分自身を罵倒していた。

 

安っぽい布にチープなリボン。制服のようなそれは、ただぱっと見だけがそれなだけであって、少しでも注視すれば明らかにコスプレのそれだ。まあ実際にそうなのだけど。

 

 

「……」

 

 

無言でパッケージを剥いて、そっと姿見の前に持っていく。自分の身体に重ねて…

…顔を熱くしてから、床に叩きつけた。

 

 

 

「む…無理無理!絶対無理!

こんなの着れるわけないっ!」

 

 

 

 

ぜえぜえと一通り暴れてから、少し休む。脳裏に、あの部屋にあった服が思い浮かぶ。

それと、愛しいあの人の顔が。

 

 

 

 

「…でもこれを着たら…」

 

「…あの人、喜んでくれる、かしら…」

 

 

 

そうして、床に乱雑に置かれた件の服を眺めて手に取る。そしてまた身体に重ねてみて…

 

 

「…いやいや、やっぱり絶対有り得ない!

こんなの着るなんてそんなこと…」

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

(着…着れちゃった〜〜〜…実際着るのもどうかと思うけど着れちゃうんだ…)

 

 

 

サイズをロクに確認しないで買ってきたものだし、合わなかったら仕方がないと思って諦めるつもりなのに、なんとかギリギリそれは入ってしまった。だいぶ詰めるところを詰めて、無理やりという感じだけど。

 

ギリギリ、無理やり、ということはつまり。

 

 

 

(短い…!丈が短すぎるよう…!それに…)

 

 

今こんな格好をして。初めて、この生活になってから少し、体型維持を油断していた事に気がつく。

 

…そう、主に足の辺りが…

 

 

 

(は、恥ずかしい、恥ずかしい!

やっぱり駄目駄目こんなの!

大人としての威厳も何もないじゃない!)

 

 

もうこんな格好をしてる時点でとっくにそんなもの無いような気がしてならないけど、それには目を瞑るというか見なかった事にして、全力で目を逸らして。

 

 

 

「や、やっぱりやめましょ!

こんな、こ…こんな姿でもし見られたら…」

 

 

 

がちゃ、り。

 

ドアが開く音が聞こえた。

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

……

 

 

 

今日は早めに上がる事が出来た。

それをケータイで伝えようかと思ったけど、やめる。たまにはサプライズで戻って、料理も作ってやるのも良いなと。

そう思って寄り道も無し、誘いも断り、今日は真っ先に家に帰っていった。

 

ちょっと足音を潜めて。

会えてただいまも言わないで。

 

がちゃり。

リビングに繋がる扉を開いた!

 

 

さあ、ただい…………

 

 

 

…………ま?

 

 

 

 

「あ…あの…えっと…」

 

 

 

帰ってきた目の前にあった光景。それは愛する妻が、ぴちぴちの安っぽい制服姿に身を包み、こっちを真っ赤な顔で見ながら、短すぎるそのスカートを必死に抑えている姿だった。

 

なんだか恥ずかしさでいっそ泣き出しそうになっているその慌てふためいた姿は、どうにも嗜虐心を唆られる。

 

 

 

「み、見ないで…

これは違くて、その…私…ああ…!」

 

 

 

いっそ泣き出しそうどころか、おろおろ、目に涙まで滲むほど恥じている制服姿はお世辞にも学生には到底見えないような姿で。いろいろなところがはみ出そうなそれは正直に、かなり無理をしたコスプレにしか見えない姿であって。

 

…だからこそ、それは凄くて。

 

 

 

「…きゃっ!?あっ、何を…」

 

 

「ん、ンーっ!?ム、ンーッ!

ちょっ、あッ、待っ…んんーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

なんとかかんとか、ある程度互いに落ち着いて。机に座ってちゃんとお話をする。

当然、服はもう着替えました。

もう着ません。本当です。

 

 

「……その、ほんの出来心で。出来れば、今日帰ってきてから見たもの全て忘れてください」

 

 

「ごめん、絶対無理」

 

 

「い、い、意地悪……っ!」

 

 

 

 

 

 

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