彼の周りは少し愛が重い   作:澱粉麺

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スランプ気味でしたがリハビリがてらまたちょくちょくやりたいです。


アオイワタシは、どう?(菜種アオ、折枝ユキ)

 

 

 

 

「ん。おお、ユキだ。

帰り道か?学校お疲れ!」

 

 

「あっ、にいちゃ!………」

 

 

 

ある日の事。明らかに小学校から帰ってる最中の、ユキに出会った。赤いランドセルを背負い、笑顔のまま爛漫に走り寄ってく……る最中に、びたり、と足を止めてしまった。何か忘れ物にでも気付いたのだろうか。

 

 

「シュウ?この子は…?」

 

「ん、えっと、前に話した孤児院の…」

 

「ああ、ユキさんですか。

スズからも聞いています、とても可愛らしい子だと」

 

 

鈴の『可愛らしい』は、多分、言葉そのままの意味ではないんだろうなと思い、苦笑いをする。横にいる少女…アオが、それに全く気付いてない事も含めて。

 

と、ユキが固まっていた状態からようやく動く。警戒するようにすすすと横向きに歩き、黄色い帽子を脱いだ。

さっきまでの笑顔はどこへやら。今やその顔は絵に描いたような渋面。そしてそれは、他でも無い俺に向けられてた。

 

 

 

「……にいちゃん見るたびに別の女の人といる!」

 

 

「なっ…誤解だ、誤解!」

 

 

「…いつも他の娘と居る事は事実であって、誤解の生じる余地はないのではないですかシュウ」

 

 

横から思わぬフレンドリーファイアが来て、更にユキの誤解は深まっていく。アオ?妙に口調がトゲついてないか?

 

 

「気のせいですよ」

 

 

なんだ気のせいか。

 

 

「で、その人は誰なの。またこーこーの友達?随分女の子ばっかりと仲良いんだねにーちゃん。男の友達とか居ないの?」

 

 

そうしていると、なんだか尋問のようにユキがそんなことを聞いてくる。目つきが、初めて会った時くらい冷ややかで汚いものをみるようなものだった。さっきまでの笑顔はどこに行ったんだ。

 

 

「…………俺にだって男友達くらい!

………いるさ!多分!」

 

 

クラスメイトを友達と言っていいのだろうか。そういえばよく話しかけるし話しかけられるけれど、放課後に遊んだりしたことはないな。とか、そういう事をもんにょりと考えながら言ったからか、その答えは恐ろしく歯切れが悪くなった。

 

それを聞いたユキは、ハッとしたような顔をしてから、また表情一転、心配するような、優しげな顔になる。

 

 

「…大丈夫だよ!私にいちゃんの事大好きだから。顔が怖くっても友達が少なくても身長が大きすぎるせいで他の子にすっごい怖がられてても私だけはにいちゃんの事大好きだからね!」

 

 

「………ッ!!」

 

 

その一言は、俺の心をずぐりと深く抉った。

ありがとうな、と笑顔で言ったつもりだったがとんでもなくどんよりとした顔をしていた気がする。

というかやっぱり、孤児院だとユキ以外にはだいぶ怖がられてたのか。正直そんな気はしてた。していたけど実際にそう言われると相当凹む。

 

 

「エト…ユキ、さん?

初めまして。私アオと言います。

シュウにはとてもお世話になっています」

 

 

傷心のショックにみじろぎ出来ずに耐えている所、アオがそっと前に出て、膝を曲げて屈んでそっと手を伸ばす。

握手をしようと差し出された手を、しかしユキは一瞥してからふんっ、とそっぽを向いてしまった。

 

 

「ああ、握手、です…よ?」

 

 

それを無視されたのではなく、意図に気づいてもらえなかったのだと勘違いしたらしいアオは、そう言いながらもう一度手を伸ばす。

 

 

「…ウザい!!」

 

「きゃっ」

 

 

ユキはそのアオをグイ、と押し飛ばす。

屈んでいたこともあってかアオはバランスを崩して転びそうになり、なんとか俺が受け止めて事なきを得る。さすがにこれは、危ないとユキを怒らないといけないだろう。

 

 

「おい、ユキ!さすがに今のは…!」

 

 

そう言おうとして彼女を見ると。

ユキは、呆然とただ立っていた。両手を、押し出したその形のままで、何が起きたのかわからない、というような顔をしていた。

 

それは、何を押し出したのか。

何を押したのか。自分が何に触ったのか?

それが理解できないようなもので。

 

 

「……まさか、今、私触ったのって…」

 

 

そうだ。前屈みになっていたこともあり。ユキの突き出す手は、丁度その目の前にあったアオの胸に当たっていたのだ。

 

 

急に、ユキはじわりと泣き出しそうな顔になった。ぐぬぬ、と言いたげな顔はそのまま地団駄に繋がって…

…そうしてからヒステリックに怒り始める!

 

 

「何よ何よ何よこんな無駄なもの!私だってこんなの大人になったらすぐに育つしそれにこんなの無くたってにいちゃんはそんなの好きじゃないし私のだんなさまになってくれるしにいちゃんは私のものなんだからーッ!!!」

 

 

鼓膜が破れそうなくらいの大きな、そして道行く人に聞かれれば逮捕されそうな内容の言葉が放たれる。

突き飛ばしたり暴力をするのはダメだ、と叱ろうとしていたままの俺は、そのまま、驚いてぴったり動きを止めてしまう。

 

中途半端に手を前に出したような姿勢だった俺を、横から手を伸ばして腕を絡ませる腕。腕と腕が絡み、そして寄り添うように身体を押しつけて抱き着く形になる。

誰のか、なぞ言うまでもなく。アオのものだった。

 

 

 

「…ムウ。他はともかく、最後だけ訂正します」

 

「シュウは私のものです」

 

 

そうして、またぎゅっと強く抱きつく。

瞬間に柔らかい温度と、とくとくと遠く高鳴る心音が腕に伝わってきた。その感触と少し高い体温に、更に身体が固まる。

ただ、顔にカッと血流が上がるのを感じた。

 

 

「あ…アオ!そういう、そういうのは…ッ!」

 

「すいません、『人前ではナシ』ですよね?」

 

 

そう、これ見よがしに言ってから。

アオはユキに対して微笑んだ。

 

 

「〜〜〜〜〜ッ!!!」

 

 

ばちん、とユキの綺麗なローキック。

小さい身体から発せられたとはとても思えないような威力の一撃は俺の脛に当たり、かなりの痛みを発する。

 

 

「痛っ!」

 

 

「ばか!にいちゃんのすけべ星人!そんな女なんかにでれでれして!ばか!ばーか!ほんとばか!でも好き!」

 

 

 

そう言ってから、またアオに向き直る。

すると指をビシリと指して、目元をぐしぐしと拭ってから問いた。それもまた、尋問でもするように。

 

 

「…アンタさっきアオとか言ってたよね」

 

「ア…ハイ、ユキさん。仲良くして頂ければ幸いです」

 

 

「しないっ!

負けないんだから!!バーーーカ!!」

 

 

 

そう言うと、降ろしていた手荷物を拾い上げてユキはそのまま恐ろしい勢いで走り去っていった。そういえば、以前リレーの選手に選ばれたんだと誇らしげに自慢していたっけ。納得の速さだ。

 

 

 

「…ちょっと意地悪しすぎましたか」

 

 

「ちょっと、じゃない。

悪ノリしすぎだ、アオ」

 

 

「ムウ…反省します。

でも、さっき言ったコト、本気ですよ?」

 

 

「そういうこと気安く言わない!

…そしてそろそろ離れてくれ…色々保たない…」

 

 

 

この後、家に戻った後大急ぎで孤児院に行き、ユキの機嫌を取る羽目になったことは言うまでも無い。

そしてその顛末を言うと、鈴は頭が痛いと言わんばかりに頭を抱えていた。曰く、これはユキに同情します、と…

 

 

 

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