彼の周りは少し愛が重い   作:澱粉麺

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「終点の先があるとするなら」
の時のお話です


しらゆきはくろく(折枝ユキ)

 

 

 

 

わたしは、にーちゃんが大好き。

それは、一生変わることは無いよ。

 

 

 

 

 

……

 

 

 

…それは、初詣の時のことだった。

 

わたしはにーちゃんと一緒に、初詣デートをしてたんだ。

必死にねだって、鈴にもじゃんけんで勝って、なんとか勝ち取った権利。

 

ジモトの地味〜な神社だけど、それでも横ににーちゃんが居るだけで、どんな場所よりも楽しくって、いろんなかみさまに感謝したいような気持ちになってった。

 

あっちの屋台を見てくるねって、ほんの少しだけ先に行って。そうして追いついてこないにーちゃんを遅いなーって思って、戻っていってあげて。その時に、ムカつくのがあった。

 

 

 

「あ!いたいた、にーちゃ…」

 

 

声が小さくなるのが、自分でもわかった。

おっきなおっきな、目立つにーちゃんのその正面横に。わたしの知らない誰かが居た。

にーちゃんが嬉しそうな顔をして。

 

 

美人な女の子が、にーちゃんと話してた。顔をまっかにして、一緒に初詣しようなんて、そんな、図々しいムカつくことを。

 

何を言ってるの、こいつ。

それは、わたしの。

その権利も、にーちゃんの横も、全部全部、わたし以外が持っちゃいけないんだ。

急に出てきて、出しゃばるな。

 

 

「誰?この人」

 

 

出ていけ、消えて、今すぐにここからいなくなれ。そういう気持ちを全く隠さないでそうやって聞いた。でもそれは、にーちゃんにもその女にも全く伝わらなかったみたい。

わたしが子どもだから。

わたしがまだ小さいから。

どうしても、本気で取られない。

それも、ムカつく。

 

 

「俺の、学校の後輩だよ。

今偶然出会ってさ」

 

 

ノーてんきに、わたしにその後輩さんを紹介するにーちゃん。ひさめ、だなんて言うらしいけどそんなこと知ったことではない。

どうでもいいし、覚える気もない。

 

だから、そう。

 

 

「…この子人見知りでさ。

一緒に回るのは少し、難しい」

 

 

にーちゃんがそいつにそう言った時は、ほらみろ、ざまあみろ、どうだって、そういうのがいっぱい湧いてきた。

あんたなんかが出てくる幕じゃないんだって。にーちゃんは、わたしを選んでくれてるんだぞって。

それが、わたしが子どもだからっていうのはわかっていたけど、それでも嬉しくて。

 

 

 

「ね。私、デート中なの。

あっち行っててくれる?」

 

 

そう言って、その女がすごすごと帰っていったところまで見て、いーザマだと思ってしまった。その時までは、やってやったって気持ちで、すごくよかったのに。

 

なのに、にーちゃんのせいで、わたしは結局ひどくイラつくことになってしまった。

 

 

その後もデートするつもりだったし、したんだ。なのに、ぼーっとした時とか、ちょっと足を止めた時に、わたし以外の何処かを見てるような。他のことを考えてる時間が多くなった。最初は疲れてるのかなって、疲れさせちゃったかななんて思ったんだけど。

 

すぐに、気づいたんだ。

にーちゃんの心に、さっきの女の人のことについてが残っている。

後で、何かをしようとか、意識してないのか分からないけど、絶対に思っている。

それを思うせいで、わたしだけを見てくれていないように、なってしまった。

 

 

……にーちゃんには、そういうつもりは無いんだと思う。ただ、わたしに付き合う一方で、さっきの子にも断ってしまったことを謝るって。ただ、それだけのことの、つもり。

悪気とか、わたしを二番目にとか、そういうつもりなんて全くなかったんだと思う。

 

 

だけど、だけど。

そうしているにーちゃんを見ているとむかむかして、なんでもいいから壊したいような、嫌な気持ちがどんどん湧いてきた。

 

さっきまで、わたしだけだったのに。

さっきまでは、わたしだけがにーちゃんの横にも、心にも居たのに。

だのに、一瞬あの女が、ひさめが居たせいで。一瞬だけ出てきたせいで。

わたしが、『ついで』みたいになっちゃったじゃない。気に食わない。

 

さっきまでは、私が主役だったのに。

さっきまで、私だけを見てくれたのに。

なのに、なんで、なんで、なんで!

 

 

 

「ばか、ばか、ばか!ばかっ!」

 

 

 

何か考えていた足を、強く蹴った。

いたた、と少し痛そうにするにーちゃんは、だけどきっと、また私が癇癪を起こしてるだけだと思っているだろう。

 

そんなのじゃない。

わたしは、ずっとずっと、怒っている。

いつもの癇癪じゃない。

いつものそういうのじゃない。

わたしは、あなたに。

にーちゃんに。わたし自身に。

わたしのこの小さい身体に!

これのせいで、わたしの言ってることは全部全部全部、軽いものに見られる!

 

 

全部ムカつく。

大嫌い。

わたし自身も、はやく大人になりたいのになれない現実も、こういうことを思わせるあの女たちも。

全部、全部ムカついてたまらない。

にーちゃん以外の全部が嫌い。

 

なにより、なんでもいい。

ああ、もう、どうしてこうも。にーちゃんと一緒に居たくってたまらない。

 

 

 

 

「じゃあな。また今度。

風邪ひかないようにな?」

 

 

 

孤児院まで送られて、にーちゃんから離れなきゃいけない時が来てしまう。

いかないで、いかないでなんて駄々をこねたってどうにもならないし迷惑をかけるだけだからしない。だけどやっぱり離れたくない。

 

それに、離れたくない気持ちにいつもとは違うプラスがあった。

私から離れたら、あのさっきの女のとこにいくのかな。あの女に、何かしてあげるのかな。絶対に、にーちゃんのことが好きなあの女。

色目を使ってたぶらかす、あの女!

 

わたしとにーちゃんが離れるのはまだいい。

だけど、そうしてから他の人と会いにいく。それが、嫌で嫌でどうしようもない。

 

 

なら、どうすればいいんだろう。

わたしがそれが嫌でも、どうにかなるわけじゃない。でも、行動をしなければわたしはきっとどうしようもなく見捨てられてしまう。

 

 

わたしの母親がわたしを捨てたように。

 

 

 

どうすれば、どうすれば。

ずっと悩んで、眠れないくらいに悩んだ。

先生たちも心配させて、そうしてからようやく答えが出て、こうすればいいんだとわかった。

 

 

 

そうだ。

わたしはなんて頭がいいんだろう。

 

 

 

 

にーちゃんの周りに居る人が

わたしだけになればいいと思ったの。

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

「…実はね。にーちゃんね、他の子には怖がられちゃってるよ」

 

 

 

そんなこと、ない。

みんなから優しいおにいさんだって思われてる。だけど、それを素直には教えない。

にーちゃんが知ってる、にーちゃんを好きな人はわたしだけでいいんだ。

 

 

 

「えーっ、かわいそう!

にーちゃんは凄い優しいし良い人なのにね」

 

 

 

助けた色んな人にも怖がられていると、にーちゃんが言った。

なんて見る目のないバカ達なんだろう。でも、それでいい。にーちゃんの良さをわからない人間が周りにいる権利なんて無いもの。

 

わたしはそれを一番ちゃんと知ってる。わたしだけが一番知ってるべきなんだから。

だからそれ以外の人に知られないようにしたい。これ以上、にーちゃんをわたしから奪われないように。わたしだけのにーちゃんであるために。

 

 

 

 

にーちゃん。大大、大好きだよ。

 

 

 

 

 

「……大丈夫だよ。

わたしはずーっと好きだからね。

わたしだけはにーちゃんの事が好きだよ。

わたし『だけは』にーちゃんの味方だよ?」

 

 

 

 

「だから、安心して?

わたしは、わたしだけは、ずーっと一緒、」

 

 

「…えへへ、ほんと?

ユキも、嬉しいな!」

 

 

 

 

 

本当に、本当にだいすき。

 

 

 

 

 

だから

わたし以外を見ないでね

 

 

 

 

 

 








ユキちゃんの存在を忘れてたわけではないのです
ただどうしても絡めにくいだけなのです…
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