彼の周りは少し愛が重い   作:澱粉麺

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エイプリルフール、28日目──



マッカナウソ(菜種アオ)

 

 

 

エイプリル・フール。

変わった風習で、実は嫌いでは無い。

エイプリル・フール。

面白い慣習と思い、少し、結構好きだ。

 

そして折角ならこれを、大切な人と一緒に過ごしたいと。初めて実行可能になることに鼻歌混じりに楽しみにしていた。

 

 

 

 

……

 

 

 

「シュウ、シュウー」

 

 

「…なんだアオ。

朝っぱらから随分と距離の近い」

 

 

それはいつものことだけど、と諦めたように呟きながら彼がこっちに振り向いた。その彼の目は相変わらず真っ直ぐで、私をじっと見据えているような、そんな気がしてくる。

その目を向けられるたびに私は、降参するようなどうしようもない気持ちになるのだ。

 

閑話休題。それは、いつものこととして。

エイプリルフールは午前中にしかウソをつけない。故にこうして登校してきた彼にこのまま張り付いたのだ。

 

 

「ア…そういえば今日の学食のメニューはステーキらしいですよ」

 

「?…ああ!エイプリルフールの嘘か。

はは、アオは可愛いなあ」

 

 

…むう、何やら子ども扱いされるような、そんな生暖かい視線。かわいいと言われて、頭を撫でられるのはやぶさかではないけれど。それはそれとして、微笑ましいものを見るようなそれにむっとする。

 

 

「…っと、ごめんごめん。そんなにむくれないでくれ。馬鹿にしたりするつもりじゃないんだ」

 

 

そう、慌てて取り繕って、謝る。

私の表情を、こうもすぐに読み取ってくれるのは相変わらず彼だけだ。我ながら、なんと都合のいい女だろう。ただその事実を改めて示されるそれだけで、気分が治ってしまう。どうでもいいくらい、嬉しくなってしまう。

 

 

「…はあ、やはりというべきか無理でした。嘘を吐くならもっと他に考えてこなければいけませんでしたね…」

 

 

「アオはウソをつくのが下手くそなんだなあ。

真面目なことは美徳だしいいことだと思うぞ?」

 

 

と、言われても。

折角なら愛する人とエイプリルフールを楽しみたかったという目的だけは残っている。それを踏まえた上で少し考えて。

はあ、と一度息をついてから私は言った。

 

 

 

「じゃあ。…大好きですよ、シュウ」

 

 

「えっ?」

 

「アイ、ラ、ビューです。そういう貴方の態度の一々が、私の琴線に触りまくり、です」

 

 

理解が出来ない、というように首を傾げるシュウ。そうして戸惑う姿を見たかったから、この作戦は成功だ。私は心の中でふふんと誇らしげに笑うフリをしてみせた。

 

だけれど、もし。

エイプリルフールという日故の勘違いをされたら嫌だから、と、彼のカワイイ顔をある態度堪能してから、言い加える。

 

 

「今のはウソじゃないですよ?

私がずっと思ってる事です」

 

 

「え、ああ…え、ええ?」

 

 

エイプリルフールに好き、と言われる事の意味について考え始めていただろうシュウが、またそれをひっくり返すワタシの発言にくらりと頭を悩ませる。その、普段見せない悩ましげな態度をどうにも愛でたくなり、ぎゅっと彼に抱きついた。

 

 

「あ、アオ…近い。その距離はまずいって、何回も言ってるはずだぞ…!」

 

「それなら、それを何回言っても私は聞かないということを学習してください、シュウ先生?」

 

 

困らせる、だけなら彼の迷惑になってしまうからそんなことはしたくない。でもきっと、これで彼は少し喜んでくれてるから。だから私は、彼にそう言われてもやめない。

 

 

「…確かにな。じゃあ、まあ、いいか。

その、さっきの発言はつまりどういう?」

 

 

「?どういう、もなにも…ウソをついていい日ではあるけど、ほんとを言ってはいけない日ではない、ですよね?」

 

 

そうとも。この気持ちが嘘であってたまるか。

 

そう言うと、彼はそのまま突っ伏せてしまった。私が重かっただろうか?そういえば、悲しいかな体重がまた増えてしまっていたことを思い出す。体型にあまり変化は無いはずなのだけど。

そう思って彼から急いで離れる。

だが、そう言うわけではなさそうだ。

 

 

「……はぁ…やめてくれよな、アオ。君みたいな可愛くていい子にそうやって好意を向けられたら、男の子はコロッと好きになっちまうんだぞ」

 

 

顔を真っ赤にそう、かすかすの声で言ってくるシュウ。ただ、その発言内容を、なんとなく疑問に思って。

 

 

「む。それは、エイプリル・フールの嘘ですね」

 

 

ああ、そうだ。

きっと、シュウなりの嘘にちがいない。

男の子が、そうしたらコロっと好きになってくれるならば、私はここまでやきもきしていないというのに。

だって、それなら、私は一番振り向いて欲しい人に、とっくのとうに振り向いてもらえるはずなのに。

 

「……」

 

 

彼は、私の顔をじっくりゆっくりと見て。

そうしてから、赤い顔のまま笑って言った。

何かを包み隠すような笑いだった。

 

 

「嘘じゃないよ」

 

 

ただ、そう言っていた。

その彼の顔を見て、浮かんだ感情はなんだろう。

悪感情ではない。

だけど、なんというか。胸がむずむずする感情。

それに名前をつけることは、私にはまだ出来ない。

 

 

「…嘘つき」

 

「いいだろ。

どうせ、エイプリル・フールなんだ」

 

 

私は時計を見る。

まだ、朝。午前中の最中だから、嘘を付いていい時間はまだずっと続いている。じゃあ、彼の嘘はどこからどこまでなのかを突き止めることは出来ない。

私の愛しい、大好きな嘘つきさん。

 

 

「じゃあ、明日以降にちゃんと聞けば。

シュウはちゃんと答えてくれますか?」

 

「う。……ぅーん」

 

 

その懊悩は、きっと、この今にイエスで答えてもノーと答えても、不誠実となるから。この、嘘が許されたこの今の時間には、どの答えをしてもその質問者への冒涜となるを

そうして言葉に詰まり、窮することを求めて、むしろワタシはそう聞いたのかもしれない。

 

 

『…私は嘘をつくのが下手くそかもしれないけど。貴方だって、そうして嘘を吐くのが得意ってわけではないと思いますよ?』

 

『ふふ。そんなところも。

私は好きで堪らないのだけど』

 

 

敢えて、曖昧に小さな声で彼に呟く。

そうしてから背中を向けて、ホームルームの時間だと囁いた。そっちだけは、ちゃんと聞こえるように。

呟きが聞こえていたら、それでいい。聞こえてなくても構わない。彼はホームルームの中で、どんな顔をするだろうか。

 

 

人形のような、私に全てをくれた人。

愛を、嫉妬を、好きと嫌いをくれた人。

とてもいい人で、嘘つきの、変な人。

 

ならば私もお揃いにしてくりゃれ。

私も貴方のように嘘つきにさせてくりゃれ。

嘘をついた可愛らしい人形に。

貴方だけの愛するピノーキオにして頂戴。

 

るんるんと、そう思う。

やっぱり私は、エイプリル・フールが好きだ。

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

「あ、そういえば話はぜんぜん変わるのですが。以前、私たちの関係について両親に話したんです。そしたら母と父がシュウに是非会いたいと言っていましたよ。3人で、じっくりと話したいと」

 

「へ」

 

「ついでの話はそれだけです。

それでは、また後で話しましょう?

大丈夫、日程はこちらが合わせます!」

 

 

「あ、あーっ。アオ、それエイプリルフールの嘘だよな?…そうなんだよな?そうだと言ってくれ!」

 

 

「……ふふ」

 

 

「おい、おーい!ちょっと!待ってくれ!

せめて答えてくれアオーッ!!

 

 

 

…これが嘘かどうかは。

まあ、きっとわかるでしょう?

 

 

 

 






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