前線よりカゾルミア国内への移動中、特攻兵器の爆発に巻き込まれた。
暫く、気を失ってしまった後で、私は予定よりも大幅に遅れてしまっている事に気付いた。
私、ビオンは国境門の門兵部隊に配置転換中だった。
カゾルミア陸軍の規則は絶対だ。特に私のような9等級国民に対する理不尽なまでの規則厳守は、如何なる理由があろうとも破る事は許されない。
……予定から大幅に遅れた私は、逃亡兵と認定されていてもおかしくない。カゾルミア陸軍の規則において、逃亡兵の処遇は捕縛後死刑。もしくは見つけ次第、銃殺刑と決まっている。仮に命が助かったとしても10等級国民に格下げした後、更生施設送りになるのは目に見えてる。
嫌だ、嫌だ。と首を横に振るが、何処かに逃げる事もできない。
私には居場所がない。
かといってカゾルミア国の外は、無機物の兵器で埋め尽くされていた。
私には逃げる場所すらもなかった。
死にたくない、死にたくない。死にたくない以上に、人として認められなくなる事が怖い。恐ろしい。
いち早く、軍に戻るべきだという事は分かってる。
でも戻った先から捕縛されて、その瞬間に全てが終わってしまうのが怖くて仕方なかった。
二の脚を踏んで、一日が過ぎる。
今日も今日とて、国境門では警報音。後、戦闘音が鳴り響いていた。
私は、相棒のライフル銃を握り締める。
「だ、大丈夫……戦えば、戦って功績を立てれば、きっと、認めてもらえるはず……」
もう、私の精神は、限界だった。
◆
陸戦用小型機械兵に空戦用小型機械兵の混合部隊。
その見慣れた面子に加えて、今日は、二体の陸戦用の大型機械兵が紛れ込んでいた。
成人女性の倍程度にもなるサイズ、小型のものと比べて、装甲も桁違いに厚い。
私、ベルカが持つサブマシンガンでは火力が足りない。その全ての火力を大型機械兵に向ければ、倒せないこともないかも知れないが、他の小型機械兵を無視する事もできない。私が守る国境門はまだ、完全に修理できていなかった。
どちらを取っても致命的、でも手を拱いていても状況は悪化するだけだ。
「……やってやる、やってやるわ!」
私では、止められないことなんてわかっている。
機械兵を壊すことだけならできる。でも、私を無視して、国境門を狙う機械兵を止める事は極めて困難だ。
エノスが居てくれたら、小型機械兵を任せる事だってできるのに――――!
「援軍です!」
突如、背後から幼い声が聞こえて来た。
まだ高校生にも届かない体躯、爆発にでも巻き込まれたのかボロボロになった衣服。少女はアサルトライフルを構えると、機械兵を相手に臆せず、その引き金の引き絞った。カゾルミア陸軍には時折、子供が紛れている。その多くが9等級国民であり、その大半が両親を失った為の従軍であった。
歯を、喰い縛った。援軍は、ありがたい。
突撃してこようとする少女を手で静止して、彼女に後方を任せる。
大型機械兵の相手は私がする。
間近まで接近して、サブマシンガンの引き金を引いた。撃ち尽くせば、弾倉を取り替えて、そしてまた撃ち尽くす。
背後から幾度と爆発音が聞こえてくる。腕は悪くないようだ。
何体か、国境門への接近を許してしまったが、無事に国境門を守り切る事はできた。
援軍と名乗った少女は、酷く怯えた様子だった。
◆
国境門の防衛に入る前、部屋の投函口にチラシが挟まれていた。
内容は以下の通りになっている。
おめでとうございます。
本日より給与から消費税を事前に定額控除させていただきます。
国家サービスの為の大切な税です。
よく働きよく税を納めましょう。
ふふふ、国家の為に役に立てるなんて嬉しいな。
この鬱憤は今日、攻め込んできた機械兵で発散した。
◆
……私、ライカは頭を抱えている。
目の前には、軍服を着た中学生程度の少女が蒼褪めた顔で身を震わせている。
彼女の着任予定は二日前だった。
カゾルミア陸軍の前例に従えば、敵前逃亡と見做されて死刑に処されてもおかしくない。
しかし二日前は、あの自爆特攻型の襲撃によるゴタゴタがあって、着任予定の子の事なんて頭から抜けていた。
その翌日も国境門の前で自前のショットガンをぶっ放していた。
余裕を持てるようになったのも今日であり、丁度、そういえば、と思い出した日に、ひょっこりと彼女が顔を出してきた。
彼女を受け入れない、という判断はできない。
今は猫の手も借りたい状況。子供の兵士を矢面に立たせる事に何かを思わない訳でもないが、それ以上に私達の置かれた状況は限界に近い。問題は、彼女を誰に任せるのか。という事だが……じっと、ビオンと名乗る彼女を見つめる。
ヒッ! と悲鳴を上げる彼女は、どうにも頼りない。
(でも、ベルカの報告によると彼女の援軍がなければ危うかったのよね?)
明日には、国境門の修理も一段落付けられる。
そうすれば、再びベルカとエノスを組ませるも可能だ。
まだ門兵部隊でコンビを組んでいないのは……
「……マルフーシャにも、あまり過信はいけないわよね」
そう呟き、彼女にはマルフーシャの下で働いてもらうことを決断した。
◆
お咎めは、ありませんでした。
マルフーシャ、なる人の元に訪れるように言われた。
部屋も一緒、なんだとか。
……同室。いや、私なんかに個室が与えられるとか、そんな畏れ多い事は思っていない。
むしろ私なんかが一緒に居て、気分を害さないかが心配だった。
話を聞けば、同室相手は5等級国民。
私のような9等級国民なんて、吹けば消し飛ぶ天上人のような存在である。
ちょっと顰蹙を買っただけで、簡単に10等級国民に格下げされる相手だ。
どうして、こんなに階級が違う相手を一緒にしちゃうのかな。
私のようなゴミみたいな奴は、もっとこう置くべき場所とかあるんじゃないかな。
かといって命令にも逆らえない。
あのライカとかいう監察官は、国民としての階級も、軍人としての階級も、私の遥か上にある御方なのだ。
これはもう完全に詰んでいる。どうしよう、どうすれば良いのか。
もっとこうゴミにはゴミに相応しい居場所があるはずだ。
例えば、そう、このゴミ捨て場とか!
部屋にいると顰蹙を買うなら、部屋に居なければ良いのだ!
なんて賢い、なんという名案!
今日から此処が私のキャンプ地だ!
翌朝、段ボールに包まっていると、ばったりとライカ監査官に出くわした。
そして彼女に首根っこを掴まれた私は、ずるずると宿舎内へと引きずり込まれる事になる。