4日目の朝、御国を守る兵士に休みはない。
警報音が鳴り響くとハンドガンを片手に詰所から飛び出して、国境門の前まで辿り着いた。
国境門に迫る機械兵を確認し、的確に照準を定めて引き金を絞る。幸いにも機械兵の装甲は、見た目ほど硬くはない。とにかく多くの弾丸を撃ち込んで、その装甲の内側に銃弾を届かせれば、動かなくなるし、場合によっては爆発する。空に飛んでいる機械兵も同じようなものであり、地上にいる機械兵よりも装甲が薄いので倒すのは楽だ。
空戦用の小型機械兵が二体と陸戦用の小型機械兵が一体、合計で三体の機械兵を破壊した事になる。
静かになった門前、そのまま暫く外で待機するも敵襲はなかったので内側、詰所に帰還する。
徐々に増え続ける機械兵。説明では数日に一度、前線を抜けてきた機械兵を倒すだけの簡単な仕事ではなかったのか。
だからこそ、私のような新人が一人で国境門を守る事が許されている。
まあ、世の中には説明と実情がまるで違っているなんてことは往々にしてあることだけど、
――それにしても嫌な予感がする。
そもそも国境門なんていう大事な要所を私のような新兵一人に任せるものだろうか。
前任者は何処へ行ったのか。死んだ? まさか、そんなことはありえない。仮に戦死者が居たとして、それが前任の門兵が全員居ない理由にはならない。布告なしの緊急徴兵、これもなんだかキナ臭い。中流階級の出身となる私は、それまでは徴兵の対象外となっていたのに、それが今回の徴兵では制限が取り外されている。
……緊急で徴兵をしなくてはならない理由、そんなものは決まっている。
コンコン、と不意に扉を叩く音がした。
時計の針を見ると私の業務時間が終わるまで、あと数分となっていた。
とりあえず難しい事を考えるのは後だ、考えたところで今の状況が好転する訳でもない。そんなことよりも必要なのは、まともな銃器を仕入れる事であり、整備兵に融通して貰う為の資金もまとまって来た。
今日の手当てを受け取り、紙幣を握り締めて、整備兵のところまで足を運んだ。
「今時、そんな紙っ切れぽっちがなんの役に立つっていうんだよ」
急遽、徴兵された私には軍内で通用するパイプがない。
敵兵の勢いは増すばかり、今暫く、ハンドガンで戦わなくてはいけないようだ。
お先が真っ暗で、頭が痛くなってくる。
◆
今日も今日とて、上司の机磨きに精を出す私はライカ憲兵曹長です。
近頃、国境門が被害を受けることが多くなった。
それも前線から抜けてくる機械兵が日に日に増えていることにあり、新兵ばかりの門兵部隊では対処できないのだ。
そもそも国境門を一人で守る時間も出来てしまっている。
上官の机が指紋ひとつ残らぬほど、綺麗に磨き上げたことに満足しながら思案する。
このままでは国境門を守ることができなくなるかも知れない。
杞憂に終われば、それで良い。しかし杞憂に祈って、なにもしないのは出来る人間がする事ではなかった。
手を打たなくてはならない。早急に人員を集めなくてはならない。とはいえ何処も彼処も人員不足に喘いでおり、猫の手も借りたい。と声を揃えるのが今のカゾルミア陸軍の現状である。
だが、何処の部隊にも厄介者というのは存在するものだ。
憲兵として多くの舞台を監査し、時に監督してきた私には、その事をよく知っていた。
そういった厄介者達は、押し付け合うように部隊を転々とさせられている事も分かっている。確か、えっと、ベルカ、アリビナ、ストレルカ、フェリセット……頭の中で思い付く厄介者扱いを受ける者達の名前を片っ端からリストアップする。
先ずはベルカあたりから声を掛けてみよう。
彼女は部隊からの嫌われ者なので、ちょっとした見返りで快く引き渡してくれそうだ。
丁度、冷蔵庫には、時折、3等級国民以上に支給される酒類が残っている。
◆
今日もまた、マルフーシャという衛兵はハンドガンだけで国境門を無傷で防衛してみせた。
活躍を続ける彼女の武器がハンドガンという事に疑問視する軍人も増えており、今度、彼女に物資を支給した衛生兵に設問しに行く声も上がっていた。そして民間用とはいえ、軽機関銃を持っているのに国境門への被害を出す私への当たりが強くなり始めた。
これでも、頑張っている、つもりだ。
頑張っているんだけど、私よりも弱い装備で完璧な成果を出し続ける彼女のような存在もいる。
成果を出さない人間には、価値なんてないのかも知れない。
それでも、一生懸命頑張れば、いつか報われる時は来る。
そのはずだ。そうじゃないと、救いがない。
たくさん稼いで、家族を楽にさせて、そして、ほんの少しで良いから褒められたい。
私はきっと、報われたかった。
あのテレビの向こう側にある物語のように、報われたかった。
その為に今日も軽機関銃で銃弾をバラ撒いた。
今日は、地上と空の波状攻撃。
地上から迫る機械兵を相手にしている内に、びゅーん、と頭の上を空戦用の小型機械兵が通り抜けて行った。
今日もまた国境門に被害を出してしまった。
……こんな私でも、いつか、いつの日か、報われる時が来るのですか?
それでも、この世界にも、きっと、救いはあると信じて、明日もまた頑張ります。