仕入れたばかりのショットガン。寮の床の上に置いて、にんまりとした笑みを浮かべる。
詳しいことは知らないけど、横領していたらしい整備兵の部屋にあったものを譲り受けた。少し使い込んであるけども機能に問題はない。軍用銃器の弾は、倉庫に残っていなかったけど、民間用の弾は、あり余るほどに蓄えられていた。前線の兵士が使う銃器は軍用のものである為、誰も手を付けたりしなかったようだ。
おかげで弾数の心配をする必要はなさそうだ。
手で弾を詰め込むタイプなので、リロードには手間取りそうだけど、そこは要練習。できるだけ多くの弾を銃器や腕に巻き付けた。
……初日は1体、二日目と三日目は2体。そして四日目は3体だった。
ゆっくりとだけど確実に前線を突破する機械兵の数は増えつつある。
なにかが破綻する足音が、ひたり、ひたり、と迫りつつあるような感覚。案外、もう首筋に冷たいものを突きつけられており、全てが手遅れだったりするのかも知れない。
とはいえだ。門を守り切れば、少しずつでも昇給するし、手当てにも余裕が出て来た。
この分ならば、妹に仕送りする額も増やせるかも知れない。
ルンタッタ、と妹の喜ぶ姿を夢想して、扉に足を運べば、投函口に何か紙切れが挟まっていた。
んー、なになに……
大事なお知らせ、住民税のお知らせ。
おめでとうございます。本日より給与から住民税を控除させていただきます。
国民の納税は憲法で義務づけられています。
よく働きよく税を納めましょう。
……クソが。
今日も機械兵を7体も撃破しました。
1個小隊分くらい国境門まで流れ込んできているのですが、前線は本当に大丈夫なのでしょうか?
まあ心配した所で、私のやることは変わりませんが。
ラジオやテレビでやっている連日連勝の報道は、一体、何処の戦場の話なのでしょうか?
少なくとも、この地平線の先にいる部隊の話ではなさそうですね。
◆
未だに国境門に傷ひとつ付けずに壊滅させ続ける衛兵が居るらしい。
まあ言わずもがな、マルフーシャという衛兵なんだけど。他の衛兵達がコンビを組むことで、なんとか国境門を守り続ける中、マルフーシャは一人で機械兵を蹂躙しているとの話だ。今日も倍以上の機械兵が来たようだけど、ショットガンという新しい武器を手に入れた彼女は正に鬼に金棒、鬼神の如き活躍ぶりで昨日以上に安定した戦いぶりを見せたようだ。
正直、信じられない。同じ人間とは思えない。
そういえば、昔、まだ規制も少なかった頃、海外の映画でターミネーターと云うものがあった。未来から来た人と同じ姿をした機械人形と戦う話であり、つまり、何が言いたいのかと云うと、マルフーシャという衛兵は、機械人形だったとしても驚かない。ハンドガンの時から無駄弾を撃たない性格無比の射撃を誇るらしいのだ。とても同じ人間とは思えない。
でも、もし、同じ人間だったとすれば?
同じ人間なら頑張れば、私にも出来るかもしれない。努力は必ず実を結ぶ、だから、私もマルフーシャのように……
でも現実はうまくいかないようでして、今日も国境門に被害を出してしまった。
……さておき、国境門を守る仕事は、少しずつだけど、毎日のように手当が増える。
最初は苦しかった金額でも、今は、少ないながらも、家族に仕送りができる程度の余裕が生まれて来た。
だから、今日からは、家族への仕送りを始めて、少しでも家族に楽をさせてあげるのだ。
そう思って、意気揚々と手当てを受け取りに行った時、封筒の中に入っていた金額は、初めて国境門の守りを任された時と同じ金額に戻っていた。
おかしいな。そう思って、事務の人に問い掛けると「知らないの?」と眉間に皺を寄せられた。
なんでも、今日から、住民税と呼ばれるものが出来て、お給金が少なくなるらしい。
……どうしよう?
手元に残された、これっぽっちの金額では、家族に仕送りすることもできない。
◆
私、ライカが門兵部隊の監査官に任じられた時、国境門まで辿り着ける機械兵はほとんど居なかった。
だから国境門を守る衛兵は、前線に回されることになり、埋め合わせるように新兵が配置される手筈となっていたのだ。
それが、連日連夜で襲い掛かってくる。
なにかがおかしい、なにかが起きている。
国境門のひとつが半壊した。という報告を聞いたのも、この直ぐ後の事であり、慌てて国境門の修理を要請した。
前線は今、どうなっているのか。ここに居ると外からの情報が入って来ない。かといって探りに行くだけの時間もない。何時、門を破られるかも分からないのに此処を離れるわけにもいかなかった。
早く、援軍を寄越してほしいと打診を続けている。
他に私の出来ることは、上司の机を綺麗に磨き上げることくらいなものであった。