国境門付近にある事務室にて、
私、ライカは部下からの報告書を片手に溜息を零す。
日に日に国境門の損傷率が上がっており、その修繕の為に費やされる物資も目減りしていっている。
今は、まだ大丈夫だ。しかし、このままではジリ貧だ。いずれは国境門を守りきれなくなる。猶予のある今の内に、何か手を打たなければならないが、そう簡単に現状を打破する手を取る事は出来なかった。
やはり新兵では、国境門の守護は荷が重かったのか。
その中で、私が配属してから七日間、一度も国境門の被害を出さなかったマルフーシャの煌びやかな戦績には救いがあった。整備兵や補給兵、挙句には憲兵の間でも、マルフーシャが守っている時間帯は大丈夫だと考えており、他の門兵達も彼女を英雄視している節がある。それだけ彼女の活躍は凄まじかった。エノスを始めとした他の衛兵も着実に力を付けているが、それ以上に激しくなる敵の猛攻に押し込まれつつあるのが現状である。
……出来るだけ、早くマルフーシャに会う必要がある。
今、彼女に何かがあると国境門の守護に、致命的な穴が空きかねない。
他の門兵の監督に忙しくて、後回しになっていたけど、無理にでも時間を作って、彼女の体調管理とかを徹底しなくては――――
――ビーッ! と今日も今日とて警報が鳴り響いた。
今日は、どれだけの規模が攻め込んで来るのやら。今から被害を考えると頭が痛く――――
――ドンッ! と大きな爆発音が響き渡る。ドン! ドン! と立て続けに地面を揺るがした。
何が、何が起きたというの!?
愛用の軍用ショットガンを片手に窓から外を見た。国境門の方角、その各地から黒い煙がもくもくと上がっている。
被害が出ていないのは一ヶ所だけ、時間帯的にもマルフーシャが居る国境門に違いないッ!
こうしている間にも、次から次に爆発音が響き渡っている。
とにかく!
私は事務室を飛び出して、駐車場に置いてあった軍用車輌を拝借する。
鍵を差し込んで、エンジンを蒸し、アクセルを踏み込んだ。
「ああもう、今日は厄日ね! 此処に配属されてから福があった日なんてないけど!」
道端を歩く軍人にクラッションを鳴らす。
横暴だと分かっているけど、今は非常事態だ。理解して貰います!
とにかく、現場を目指して駆け抜けた。
◆
びっくりした。急速接近してくる機械兵が居たので、ショットガンで撃ち抜いたら爆発した。
ただ意外にも脆かったようでショットガンの弾、一発が当たるだけで爆発四散したので、途中からはハンドガンで丁寧に一発ずつ撃ち仕留めた。数は多かったけども、真っ直ぐに突っ込んでくる機械兵なんて、ただの動く的だ。
終わってみれば、何時もよりも楽に仕事を終えることができた。
◆
それは、唐突に飛来して来た。
サブマシンガンで撃ち抜くと爆発し、その衝撃に身が竦んだ。でも、それは1秒にも満たない時間、兎に角、私は国境門を守る為にサブマシンガンの弾を闇雲にばら撒いた。爆風と共に破片が四散する。その一つが私の太腿を削ったが、今、攻撃の手を緩める事はできなかった。
半数近くの敵を撃滅する事はできた。しかし残る半数の敵が、味方の爆煙を掻き分けて、私の背後にある国境門に殺到する。
そこを守るのはエノスだ。
彼女は軽機関銃を構えると、一歩も動かず、怯えて竦むこともせずに銃口から火を吹かせた。
大量にばら撒かれた銃弾が残った敵機械兵を撃ち抜いていった。
しかし高速で飛来する機械兵を狙って撃ち抜くことなんて不可能だ。
運良く、私達にとっては運悪く、弾幕を抜けた特攻兵器が国境門に着弾する。
爆発した。エノスの頭上で、立て続けに爆発音が響き渡った。
「エノス!? エノスッ!!」
爆煙が風に吹かれて、収まる頃、私は追加の機械兵が来ないことを確認してから国境門を振り返った。
「怪我をしてないでしょうね……怒るわよ、アンタなんか手当するの嫌なんだから!」
呟いた言葉は、誰に向けられたものだったのか。
兎に角、元衛生兵の習慣として持参してきた医療キットがある。
俯せに倒れるエノスの側まで駆け寄った。
「起きなさい! 返事なさい! まだ任務中よ、寝るなんて許さないから!」
先ずは肩を叩いて意識の有無を確認、んんっ、と呻くような声が聞こえたから仰向けに転がした。
頭部に出血あり、でも軽傷だ。手足に傷が付いてるけど、千切れたり、破片が刺さったりといった大きな怪我はない。
なによりも動体部分に見てわかる怪我がなかったことに胸を撫で下ろした。
「……あれ、私は?」
惚けた声に、つい反射的に憎まれ口のひとつも叩きたくなったが、ぐっと堪えて医療キットを開いた。
「とりあえず傷口を消毒するわよ」
「……痛いの、嫌」
「もっと痛い目を見ることになるわよ。破傷風になったら最悪、切断するしかなくなるんだから」
「……それは、もっと、嫌」
「なら、我慢なさい」
ギュッと下唇を噛み締めるエノスに苦笑し、ふと国境門を見上げた。被害が大きい。所々が破損しており、その爆発の威力を物語っている。
こんな攻撃、そう何度も耐え切れるものじゃない。
他の国境門はどうなって……いや、それは私の考えるべきことではない。
とりあえず今は相方の応急処置が先決だ。
◆
私が監督する国境門の内、2つを除いて、全てが半壊以上の被害を受けた。
なんでも新型の機器兵であり、攻撃目標に自爆特攻するだけの単純な代物だ。
しかし、それも数が多ければ驚異になる。
現に国境門の多くは半壊し、門兵にも被害が出てしまった。
幸いにも死者は居ない。
しかし今日の事は確実に、脳裏に刻み込まれたはずだ。
「今、やれる事を……とにかく、国境門の修繕させて、ああでも、すぐに敵が攻めて来るかも知れないし……兵員が足りないところは私達が……」
ぶつくさと呟きながらも配下の者達に指示を出す。
こんな時でも、マルフーシャが守る国境門は無傷を保っていた。