自分の脚以外で走るウマ娘がいてもいい。自由とはそういうことだ。

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例えばウマ娘の競輪選手とか居てもいいよね。一期で自転車こいでたし、と言うところから出た妄想。
これ書いてるときの思いついたけど、競走能力を喪失したウマ娘が車いすで走るのとかもあったら凄そう。


人生は晴れ時々大荒れ

 ウマ娘の花形と言ったら、だれもが競走ウマ娘と答えるだろう。その身一つで電光石火の如く疾走し、レース後には華やかなウイニングライブすらこなすトゥインクルシリーズは、国民的、いや世界的な娯楽であり、多くのウマ娘の憧れでもある。

 

 自分もウマ娘の端くれに生まれたからには、中央トレセン学園に入学し、勝ち鞍にGIレースを加えることを夢見て他の学生としのぎを削るべきなのだろう。

 

「ソウルちゃんの徒競走すごかったよ!やっぱり将来はトレセン学園に行くの?」

「私じゃ無理だよ。あそこに行くような子は、私の比じゃないんだから」

 

 しかし、自分にはどうにも興味が湧かなかった。なぜなら自分にはこことは違う世界で競走馬として生きた記憶が、そしてそのさらに前はヒトとして生きていた記憶があるからだ。

 

 自分で言うのもなんだが、サラブレッドだったときの私は名馬と言っても過言ではなかっただろう。芝、ダート問わず複数のGI級競走に勝利し、あの大王に土をつけた経験もある。でもそれは、ほとんど反則みたいな行為で得た勝ち鞍だ。何せまわりは畜生なのに、自分一人だけヒトの頭が載っているのである。

 

 鞍上の言うことは素直に聞くし、レースの日付を教えてくれれば調子もそれにあわせて自分で整える。ゲートへの反応も素晴らしく、テン良くとびだしてハナを主張すれば、あとはハイペースで逃げて他馬の脚を道中で使わせるだけ。父エルコンドルパサー、母父オウインスパイアリングという血統と、ツインターボ師匠やアストンマーチャンで名を馳せた鞍上という要素を、人間の知性でしゃぶりつくして勝利をもぎ取っていたのである。そんな自分であったから、ジョッキーもおらず、ほとんどがヒト並みの知性を持っているウマ娘のレースでは、どうせGIIIを勝てるかどうかといったところだろう。

 

「私の身体能力はウマ娘としては平均レベルのはず……それでも勝つなら、他のウマ娘が注目していない場所で戦うしかない。そう、例えば空を飛んでみるとかね」

 

鳥人間コンテスト

 

 日本でほぼ唯一の、人力飛行機の大会である。この世界にはウマ娘が居るため、前々世とは比較にならないほどハイレベルな大会だ。しかし自分はまだ中学生、大学生が主体となって行うこの大会に参加するのは元来不可能であるが……

 

「うーん、前々世でもそうだったけど、やっぱり大岡山はヲタクの巣窟みたいだなあ」

 

 今日はそれを解決しにここ、東京工業大学へやって来たのだ。

 

 前々世では日本大学、東北大学とならんで三強を形成していた名門だが、この世界では中堅どころである。なにが差を分けたのだろうか。日大と東北大にあって東工大にないもの、それはウマ娘の伝手である。

 

 日大も東北大も総合大学であるから、学内を探し回れば文系学部にウマ娘の学生を見つけることができる。しかし、東工大は工学部系の単科大学であるから全く女性人気がなく、したがってウマ娘の生徒もいないため、パイロットに据えることができないのだ。そこで、部外者の自分がパイロットに立候補したのである。自分は曲がりなりにもレースに出場でき、東工大もタイムアタック部門で総合優勝を狙う資格を得られるため、Win-Winの関係である。

 

 ちなみに、ディスタンス部門ではパイロットにウマ娘を使うことができない。これは、だいぶ昔に芝浦工業大学がGIIステイヤーズステークスの勝ちウマ娘であるトーヨーアサヒさんをパイロットにして出場した時、琵琶湖大橋との間を1往復半もフライトした挙句、大会主催者側に強制的に着水させられるという出来事があったためである。ウマ娘の身体能力で人力飛行機を飛ばすと、琵琶湖上空だけでは会場が狭すぎるのだ。

 

(おっ!図書館(チーズケーキ)じゃん!この世界でもあるんだ!)

 

 大岡山キャンパスの名物(に大学がしたがっている)図書館は、(あまり浸透していない)愛称の通り切り分けられたホールケーキのような見た目をしている。どうやらウマ娘世界でもそれは同じらしい……が、今回用事があるのはここではない。

 

(えーっと、南2号館ってもうちょっと奥だったよな)

 

 体感40年以上前の記憶だから、正直内部の様子はうろ覚えもいいところだ。こういうときは通行人を捕まえるに限る。

 

「すみません、学内のセブンイレブンってどこにありますか?」

「あー、それならここの道を……」

 

 なるほど確かにそのあたりだった気がする。どう見ても学生というよりは地元民な人にお礼を言って、教えてもらった通りに進んでみた。

 

(ここかな……?)

「あ、あの、もしかして、パイロットをしていただけるという、ウマ娘の、方ですか?」

 

 それっぽい入口の近くできょろきょろしていると、絵にかいたような東工大生に声をかけられた。

 

「あ、そうです。はじめまして、エンシェントソウルと申します」

「あ、あってた……よかった……はじめまして、Meisterの佐々木です。今日はよろしくお願いします」

 

 どうやら関係者だったらしい。中に案内してもらい、代表や設計の人と軽く面接をした後、身体能力を見るためにシミュレーターで飛んでみることになった。

 

「うわ……大学サークルってすごいんですね。会社みたいです」

「ここは腐っても東工大ですからね。陰キャの巣窟だろうと、設備だけは一流なところを見せておかないと」

「それ東北大学さんのネタじゃないですか。私の左足はそう簡単には攣りませんよ」

 

 などと言っているが、実際、前々世で所属していた地方国公立の鳥人間サークルには、当然こんなものはなかった。さすが御三家の一角である。

 

「……準備できましたので、こちらのエアロバイクに乗ってください。後は画面の指示に従ってペダルをこいでいただければ大体OKですので」

「わかりました。それでは失礼して……」

 

 というわけで、サドルに跨ってペダルをこぎ始めたが、まるで手応えがない。画面を見る限りちゃんと飛んでいるみたいなので、エアロバイクから信号は出ているみたいなのだが……

 

「すげー足の回転だ」

「これがウマ娘かぁ~」

「実際にみると感動するなあ」

「あの、すみません……あまりにも抵抗が無さ過ぎるんですけど、壊れてませんよね?」

 

 ギャグマンガみたいにシャカシャカと足を回しながらマイスターの人たちに尋ねると、数秒の沈黙の後に数人が「あっ」と声を上げる。

 

「すみません、ギア比がヒト用になってまして」

 

 なるほど、そりゃ漕いでも漕いでも思ったよりペラが回らないし、全く抵抗がないわけだ。

 

「やり直してもらう?」

「いや、これはこれでいいデータになるんじゃない?」

「申し訳ないけど両方やってもらおうぜ」

 

 結局、その日はギア比を調整しながら何回も"飛ぶ"ことになってしまい、私もへとへとになってしまったが、無事にパイロットとして採用してもらえることになった。

 

 

 

 

 時は流れて本番。天候に恵まれて風も弱く、馬場に例えるなら間違いなく"良"であろうコンディションになった。

 機体はオーソドックスなダイダロス系。片持ち高翼単葉機で、搭乗スタイルはリカンベントと、王道を行く設計である。これも御三家の強みだろうか。弱小鳥人間サークルだとテレビ受けのために多少奇をてらった設計(低翼機にしてみたり、引き込み足にしてみたり、はてはコ・パイロットを乗せるなんてこともある)でないと"抽選落ち"ならぬ"書類選考落ち"してしまうことが多いのだ。

 

《ただいまプラットフォーム上におりますのは、東京工業大学Meister。パイロットは、エンシェントソウルさんです》

 

 機体に腰かけて腰下に来ているハンドルを握ると、否が応にも笑みがこぼれてしまう。これがウマ娘の闘争本能という奴だろうか。自分が一番最初に戻って来て着水する、その未来を信じて疑わない自分がいる。

 

《さあタイムトライアル部門、今回最初に飛ぶのはディスタンス御三家の一角と言ってもいい名門東京工業大学Meisterですが、解説の桂さん、このチームどうごらんになりますか》

《そうですね、オーソドックスな機体ですが東工大らしい高い完成度に見えますし、何より注目なのがパイロットのエンシェントソウルさんですね。まだ中学生の彼女がどれだけの能力を持っているかがカギになると思います》

 

「……よし。パイロットとペラOKです!」

「舵チェックします!上昇……!下降……!ラダー右……!ラダー左……!エルロン右……!エルロン左……!OKです!」

 

 

《そのエンシェントソウルさんですが、現在普通中学の1年生でして、トレセン学園には『自分の脚より自転車で走る方が速度が出て楽しい』という理由で進学しなかったということです》

《なるほど、それはまさにこの大会にうってつけのウマ娘ですね。どんなフライトを見せるか楽しみです》

 

「ゲートオープン!」

「ペラ回しまぁす!」

 

《さあ旗が切り替わりまして……わずか90秒の夢絵巻、ごまかしの利かない琵琶湖上空鳥人間コンテストタイムトライアルスタートいたしました!》

 

 合図と同時にぐっと力を入れて漕ぐと、機体がぐんぐん前に引っ張られてプラットフォームから飛び立つ。前世での適正距離は1200~2300m。人力飛行機タイムトライアル部門ウマ娘クラスの場合、往復2km(ちなみにヒトクラスの場合は1km)のフライトだから、大体東京芝2000mのつもりで飛べばいいだろうか。参ったな、自分は前世でも天皇賞秋に出たことがない。

 

『機体安定してるよー!その調子ー!』

 

 無線からボートスタッフの声が聞こえる。言われなくてもすごく気持ちよく飛べているから、良い感じなのはよくわかった。自転車の比じゃないくらい凄いかも……

 

《さあ順調にフライトを続けて早くも1000mを通過しようというところでしょうか》

 

『そろそろUターンだよ!準備して!』

 

 無我夢中で漕いでいたため、無線からの声ではっとして下を見たときにはもう1000mのポールが間近に迫っていた。折り返し地点に到達したことを知らせるホーンが下から聞こえてくる。急いで機体をロールさせ、ラダーを右一杯に切った。

 

《ああっと、ポールに気づくのが遅れたか、少し慌てて操縦したような旋回をしております!》

《それでもちゃんと回って……折り返すことができそうですね。機体の設計と、本人の地力の両方に助けられた感じがあります》

《さあ今折り返し完了を知らせるホーンが鳴って……1000m折り返しは53秒9!中学生ながら1分を切りました!》

 

 最高の天候に最高の機体。後は直線、思い描く絵はただ一つ。勿論全力でぶっ飛ばして優勝するに決まってるだろ!

 

『あと1km!がんばれー!』

 

《さあ少々強引な旋回となってしまいましたが脚色は衰えません東京工業大学Meister!ゴールに向けて徐々に徐々に高度を下げながら、プラットフォームに向けてまっしぐらに突き進みます!》

 

 タイムトライアルでは最終的に有効水域内に着水した瞬間がゴールタイムになる。当然早まって着水したら失格だし、反応が遅れればロスになる。正直ポールの奥で狙って着水するのはこの機体だと難しそうだから、ホーンが聞こえた瞬間に水面に落ちる方向で行こう。

 

『残りあと300!着水準備!』

 

 この速度で水面に突っ込んで大丈夫なのかと疑問をお持ちの方。東工大生がそんなことに気づかないわけないでしょう。だからこの通りスポイラーがこの機体にはついていまして……

 

 \ファーン!/

 

 今だっ!……うわっぷ!

 

《2000m通過のホーンとほぼ同時に着水!東京工業大学Meister、そしてパイロットのエンシェントソウル!見事なフライトでした!》

 

 ……このように減速すると同時に失速して腹から落ちるようになってるんだけど、それでも結構衝撃あってびっくりしたわ……

 

「まずはおかえりソウルさん!いいフライトだったよ!」

「ありがとうございます……夢のような時間でした……」

 

 湖面からボートに引き上げられると、ボートスタッフが興奮気味で話しかけてきた。飛ぶ前は優勝する気でいたけど、ぶっちゃけもうどうでもいいかな……たのしかったから、明日またもう一回飛びたい……

 

《ただいまの、東京工業大学Meisterの記録は》

《1分、33秒、1です》

 

 ボートスタッフがガッツポーズを決め、応援席の方からは歓声が上がる。

 

「すごいですよ!これはもしかするともしかするかもしれません!」

「そうですか……」

 

 ボケーっとしながらボートスタッフに返答する。正直、今は勝ち負けよりも、フライトの余韻に浸らせてほしかった。やっぱり、知能があるなら道具はつかってなんぼだよな……

 

 結局のところ、優勝候補筆頭だった名大チームもこの年は自分の記録にわずかに及ばず、タイムトライアル部門総合優勝は東工大の物になった。翌日のディスタンスが三位だったのは残念だったが、代表にはまた来年も飛んでほしいと言われたし、今回ディスタンス部門の機体を運んでくれた今生での父ちゃん(免許を取ったのがだいぶ昔なので、機体の運搬に必要な4tトラックを運転できるのだ。ちなみに、自分の機体はディスタンス用よりも翼幅がだいぶ短いので、サークルの学生が運転できる2tロングでも運搬できる)も、来年はもう少し応援してくれるということなので、連覇に向けてがぜん気合が入るというものである。

 

 なお、この時のフライトがきっかけで、結局自分も競バ場の中を自分の脚で走ることになるのだが、それはまた別の話。




エンシェントソウル
2001年生まれ(アプリ版ウマ娘リリース時存命)
父:エルコンドルパサー
母:アズキ(半架空馬)
 母父:オウインスパイアリング
 母母:オグラトウショウ

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