黄金郷への橋   作:そういう日もある

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ツインターボがカノープスに入るのは皐月賞後、ダービー前です(アニメ二期一話)


運がない

ペンを手慰みにくるくると回しながら、窓の外を眺める。今日は快晴、眼下のレース場ではウマ娘達がトレーニングによってできた窪みの補修作業や薬剤の散布をしていた。レース場の補修はブリッジコンプも昨年までしていた作業だ。

 

「……ですから連立方程式というものは、2x+yというように二つの一次方程式を……」

 

生徒会とトレセン学園の専属馬場造園課を主動に、残りはボランティアで構成されている。補修作業のボランティアはその日の授業を免除される。とはいえ、だからボランティアにウマ娘が集まるのではなくレース場に触れたいがために参加している面も大きい。基本的にはレース場は立ち入り自体が制限されている。好きに出入りして走ることが出来るとなれば、走ることが好きなウマ娘達によってその日の内に芝は完全にダメになってしまうためだ。

 

また、誰だって憧れの生徒会の役に立ちたい傍に行きたいというもの、らしい。

 

ブリッジコンプは補修作業なんて面倒くさいと思っていたけれど、ワイスマネージャーに誘われて参加した。丁度半年くらい前の懐かしい記憶だ。思えばその頃からブリッジコンプは嫌な奴だったなと思う、むしろよくワイスマネージャーが仲良くなってくれたものだ。

 

「ツインターボさん。これを答えて……ツインターボさん?ほら起きて」

 

ふと窓ガラスに、半透明に映った自分の顔をまじまじと見た。うん、造形は悪くないと思うのだけれど。元から化粧水くらいは気を使っていたけれど、最近ワイスマネージャーに言われて更に色々気にしだした。ファンデーションなんかに拘って、トリートメントも一つ上のお値段のものにしたし。耳をぴくぴくと動かしてみる。

 

「ふんがっ!」

 

やっぱりこの目付きがなぁ。勝気にも、あるいは挑発しているようにも見えるらしい。もう少し眉がへなりとしてくれたなら、温和で話しかけやすい雰囲気になったと思う。中等部一年で強がりで孤独じゃなく孤高なんだなんてバカみたいなこと考えていたこともあったけれど。流石に学年もあがれば考えも変わるというもの。

 

既に仲良しグループも出来ているし、今さら私の印象なんてワイスマネージャーに着いてる金魚の糞くらいなものだろう。

 

でもGⅠを勝ったらやっぱり憧れの目で見てもらえるのかな。同級生には既にバンバンGⅠを勝っている子もいて、よく他のウマ娘が集まっている。ただ、ブリッジコンプからしてみればそうやってキラキラした才能のある子の近くにいて惨めにならないのかなんて、ちょっと意地悪なことを思ってしまう。

 

キーンコーンカーンコーン

 

「今日の授業はこれで終わりです。この時期になるとデビューを控えた子もいるでしょうが、走れるウマ娘は文武両道であると言われています。しっかりと復習するように。以上」

 

先生の声に慌てて、他の子達にあわせて立ち上がり礼をする。

 

「ブリッジぃ?また授業聞いてなかったでしょう」

 

何も書かれていないノートを閉じて、鞄に閉まっていると案の定真っ先にワイスマネージャーが来た。その目は完全に怒っている。目を泳がせて必死に言い訳を絞り出す。走ることと関係のない授業なんて、退屈でいつも直ぐに時間が過ぎ去ればいいと願っているのだ。

 

「と、トレーナーに教えてもらうから」

 

「そういうこと言ってると愛想つかされちゃうよ?」

 

どうだろう?あのトレーナーが一度担当したウマ娘に愛想をつかすだなんて考えられないけれど。だからこそセイウンスカイ先輩に関しては警戒しているのだ。トレーナーが入れ込んでしまう可能性が高かった。小首をかしげると、ワイスマネージャーが業とらしくやれやれと首を振った。

 

「今の時期は担当トレーナー変えのラッシュだよ。一か月一緒にやってみて、ダメそうってなる子は結構いるからね。まだメイクデビューも始まってないし殆ど最後の機会だから」

 

「そうなんだ」

 

あまりブリッジとは関係のない話だ。口ぶりからしてもワイスマネージャーからも、関係のなさそうな話である。夜になるとうちのトレーナーがねと話しかけてくるので事情は十分に解っている。私とトレーナーよりよっぽど仲良しかもしれない。

 

まあ、ブリッジコンプとワイスマネージャーには関りがないのだとしても。ツインターボには関係がありそうなのが何とも言い難い。最近雰囲気があまりよろしくないのだ。授業中に寝るのは何時ものこととはいえ、鐘が鳴ればダッシュで教室から出て行った筈なのに最近は普通に出ていこうとしている。今日も耳がぺたりとして、心なしか覇気がない。

 

「ツインターボさんのこと気になるの?」

 

視線を向けていたことがワイスマネージャーに気づかれてしまったらしい。そもそも選抜レース前の模擬レースでは競ったものの、ツインターボも才能持ちということだけあって、ブリッジコンプとしては避けているタイプだ。それにツインターボ自身教室で、親しい友人を作るタイプでもない。ブリッジコンプ自身あれから話してない。

 

「気にならないと言えば嘘になるけど、でも」

 

別にいいかな、と言おうとした間にも既にワイスマネージャーはツインターボに近寄っていた。こういうところの行動力が凄まじい。

 

「ねえねえ、ツインターボさん」

 

「む?百科事典!」

 

ツインターボの耳がぴこりと立ち上がり何時もの様子を見せる。ただやっぱりどこか空元気のようだった。

 

「あはは、その呼び方は辞めてほしいかな。ブリッジが用があるみたいなんだけど」

 

えーーー!そのままワイスマネージャーが良い感じに話を繋げてくれると期待していたのに。急に話題を投げられたことで、しどろもどろになる。ワイスマネージャーの眼を見れば、百科事典と呼ばれたことにやっぱりちょっと怒ってるみたいだ。

 

「ブリッジ!どうしたー?ターボになんか用か?」

 

「えーっと、その、うーん。一緒にご飯食べない?」

 

そういうことになった。

 

「ターボわかった!じゃあ食堂まで競争ね!ターボ、ブリッジに負けないから!」

 

本当にこれ空元気なのか解らなくなってきた。制止も聞かずにツインターボは教室からダッシュしていく。同じく教室を出ようとした子とぶつかってツインターボは顔面から転倒したので、勝負はなしということで良いだろうか。ぺたりと床に座って、頭の上にぴよぴよとヒヨコを回していた。それどうやって出してるの?

 

「ううぅ……ターボ、頭がくらくらする……」

 

このままでは埒があかない。回復次第ツインターボはまたダッシュを決めて今度こそ生徒会の厄介になるだろう、ワイスマネージャーと頷き合う。捕獲された宇宙人のように、ワイスマネージャーと二人で足元をふらつかせたツインターボを食堂まで運んだのであった。

 

私が親子丼定食で、ワイスマネージャーが天丼定食。ツインターボはミートソーススパゲッティである。なおツインターボが麺類を選んだ理由は速く食べ終われるから。思考が全くあのサクラバクシンオーと一緒だ。いやここは高等部なのに中等部のツインターボと思考が同じ、サクラバクシンオーに問題があるだろう。

 

食べながら、取り合えず探りを入れてみることにした。流石に一緒にご飯を食べただけで解散となればワイスマネージャーに睨まれる。

 

「ツインターボ。最近調子悪そうだよね、どうかした?」

 

「むぅぅぅぅぅ、どうしてわかったのー!ブリッジ」

 

見れば分かるよ、とは口にしない。サクラバクシンオーと同じ対応を心掛ける。口元をミートソースでべたべたにしてびっと、ツインターボはフォークを此方に向けた。

 

「ターボね、この前バクシンオーにもブリッジにも負けた!くやしい!くやしい!」

 

そういえばそうだ。マイルでは一応ブリッジコンプが一位だったし、短距離ではサクラバクシンオーが一位だった。とはいえ、内容的にはどちらもブリッジコンプは勝ったと言い難く微妙な気持ちである。ツインターボも鍛えただろうし、また同じ距離で今ブリッジコンプとツインターボが走ればなんだか負けそうな気がした。

 

「だから今度は負けない様にってもっとターボ全開で走りたい!でもトレーナーがダメだって言うの!」

 

ツインターボのトレーナーのことをブリッジコンプは知らない。ワイスマネージャーに視線を向けると阿吽の呼吸で解説が始まった。トレーナー歴は六年、五人のウマ娘を無事に卒業させたトレーナー。担当もGⅡを幾度か勝利した実績があり、特に逃げウマ娘の育成手腕においては一定の評価を得ているとのこと。選抜レース直後にツインターボをスカウトし、その場でツインターボも即決し担当になった。

 

「悪くないトレーナー、ってことだよね?ワイス」

 

「そうだね、勿論うちのトレーナー程じゃないけど。堅実だと思う」

 

さりげなくツインターボの前でも惚気をいれてくるあたり、ワイスマネージャーは本気でトレーナーに入れ込んでいる。さてツインターボのトレーナーだが、中央のトレーナーは大体が優秀ではあるが当然差がうまれる。GⅡを勝つウマ娘を育てられるなら真ん中よりは上の方だ。

 

「うーん、つまり大逃げがダメって言われたってこと?」

 

「そう!ターボずっと一番前を走りたいのに!」

 

ツインターボの大逃げからの逆噴射はある種の伝統芸能だ。しかし、それでは逆噴射しない短距離でしかレースに出ることが出来ないし短距離にはあのサクラバクシンオーがいる。ブリッジコンプも相変わらず勝てないが、ツインターボもおそらく勝てないくらいトレーナーに鍛えられて仕上がっているのだ。逃げウマ娘が二人いて実力差があればワンチャンスもないのが逃げという戦法である。

 

ツインターボの担当トレーナーが短距離を避けてマイルできれば中距離以上を走らせたい、その為には逆噴射を抑えるというのは理解できる。

 

例え逆噴射しないようにスタミナをつけたとしても、ツインターボの場合、その分序盤に加速の為スタミナを使うという思考に陥りかねない。根本的な大逃げをさせない、普通の逃げをさせるという手段でしか解決しないだろう。また、大逃げ自体脚に強く負荷がかかるという心配もある。

 

かなり真っ当じゃない?

 

「う、うーん。それは確かに困ったね」

 

ワイスマネージャーも流石に困惑している。堅実な勝つための走り方を、ツインターボのトレーナーは教えようとしているのだ。ただ、ブリッジコンプとしてはツインターボには大逃げがあっているとは思う。知識や理性としてではなく、瞳がそう見透かすのだ。

 

「でもまあ、好きに走りたいって気持ちもわかるよ」

 

好きに走って負けない。それが一番嬉しいだろう。前にトレーナーが言ったように大逃げもまた立派な戦法の一つだ。逆噴射するか、逆噴射しないかの二択を後列に押し付けることが出来る。ただ今のところ毎回ツインターボが逆噴射しているだけだ。

 

「うおぉー!だよね!ブリッジ!」

 

「うん、トレーナーとちゃんと話し合ってみたら?」

 

ブリッジコンプがそういうと勢いよくツインターボが立ち上がった。話しているうちにすっかり元気は戻ったようだ。ただ相談する相手が欲しかっただけなのかも、と思う。ブリッジコンプにはワイスマネージャーがいたけれど、ツインターボにいるかどうか。

 

「よーし、ぜんそくぜんしん!早速トレーナーのとこ行ってくるね!」

 

「次の授業は?」

 

勢いよく食堂を駆け抜けた先で、エアグルーヴ先輩に見つかって捕獲。そのまま引きずられていくツインターボを見送った。同じく捕獲されているサクラバクシンオーがいた気がするが気のせいだと思いたい。

 

ふと視線をワイスマネージャーに向けると、嫌な感じにニタニタした笑みを浮かべていた。

 

「ブリッジがツインターボさんみたいなの気にするの珍しいじゃん?」

 

みたいなの、つまり才能があるウマ娘ということだろう。

 

「なーにその笑い?変かな」

 

「ううん。漸くブリッジにも私以外の友達が出来そうだなーって思って」

 

ちょっとムカついて反撃することにした。

 

「もうバクシンオーとは友達、のつもりだよ。それより、選抜レースでぼろ負けしたのにワイスこそ普通にしてたよね?」

 

「まーね。でも良いんだよ。結局スカウトして貰ったし、選抜レースは予行演習。ちょっと悔しいけどでも本番のレースで勝てばいいんだから」

 

うじうじと何時までも悩む癖に、一度切り替えるとすっぱり忘れる。ワイスマネージャーのこういう所がブリッジコンプは気に入ったのだなと思い返す。ただ勿論本人には言わない。そんなことより、そういえば聞き忘れていたなと思って口にした。

 

「私はメイクデビュー、短距離にしたけどワイスは?」

 

「中距離。テイオーさんと当たらないガチャの始まりだよぉ。フクキタルさんに占ってもらうべきかな?」

 

マチカネフクキタル。知る人ぞ知る学園の学生兼占い師である。彼女の占いは高確率で当たると有名で、一か月は予約でいっぱいだった記憶があるけれど。そう疑問を口にすると、なんでもないかのようにワイスマネージャーは言った。

 

「丁度貸しがある子がいるんだ。その子が予約入れていてあと四日後だったと思う、代わってもらおうかなーなんて。ブリッジも一緒にどう?」

 

「流石に遠慮しておくよ」

 

 

この時、ワイスマネージャーに誘われるまま占いを受ければよかったと思う。五月末、サクラバクシンオーとブリッジコンプのメイクデビュー登録が完了した旨の通知がきた。サクラバクシンオーは中山の芝1200m、ブリッジコンプは札幌の芝1200m。

 

そしてブリッジコンプと同じレースに挑むウマ娘の中に、その名前はあった。ニシノフラワー、ブリッジコンプの瞳から見れば超一流の魂を持つウマ娘だった。本当に運がない。

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