黄金郷への橋   作:そういう日もある

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買い物

七月半ば、うだるような暑さが本格化してきた今日。本来なら寮か冷房の効いた屋内で引きこもっていただろうけれど、態々私服で正門前にてナイスネイチャと共にサクラバクシンオーを待っていた。時間丁度に来たサクラバクシンオーが両手を腰に当てて胸を張った。

 

「おはようございますッッ!ブリッジ!初めまして、ネイチャさん!」

 

「おはよう」「はじめまして。うひゃーっ直で見るとキラキラが目に痛い」

 

今日はブリッジコンプ達の休息日である。炎天下のトレーニングはきつくて吐きそうになるので漸く解放された気分だ。ついでにナイスネイチャの休息日だったので一緒に買い物に誘った。以前ボランティア活動を共にして以来、ナイスネイチャと細々と連絡は続けていたのだがこうして一緒に出掛けるのは初めてのことだった。サクラバクシンオーは同じ高等部でもクラスが違ったため面識がなかったらしい。

 

「むむむむッ!それにしてもなぜ水着を態々買うのでしょうかッ!」

 

今日は遊ぶ用の水着を買いに行く予定だ。別荘にいてずっとトレーニングということもないみたいだし必要だろう。サクラバクシンオーは理解できないと首を傾げている。流石に学校指定の水着を遊ぶ時にまで着るのは間違っていると、ブリッジコンプでさえ解っている。色気とか欲しいとは思わないけれど、それはそれこれはこれ。

 

「勝負服みたいなものだよ。カラフルだとやる気が上がる」

 

「なるほどッッ!」

 

勝負服と聞くとサクラバクシンオーは目をきらきらさせて頷いた。GⅠなどの大舞台でしか着れない勝負服はウマ娘誰にとっても憧れである。尚水着型勝負服も実在するらしいけれどここは割愛する。サクラバクシンオーを説得するのも三か月も経てば慣れた。ただサクラバクシンオー自身に水着を選ばせるのは怖いので助っ人ナイスネイチャを呼んだというわけだ。序にずぼらな自分の分も選んでもらおうという魂胆である。

 

「うん、そういえばブリッジ。なんでアタシ?いや誘ってくれたのは嬉しいけどさ」

 

ナイスネイチャの疑問、答えは残念ながらブリッジコンプに友達が少ないからである。デビューできていないウマ娘を誘うのはサクラバクシンオーもブリッジコンプもデビューした手前に憚られるし、ワイスマネージャーはトレーナーと出掛ける予定があったため選択肢は更に縮まった。ツインターボはサクラバクシンオーと一緒にいると制御不能に陥るので無し。つまり消去法、とは言いずらいので。

 

「だってネイチャって可愛いもの詳しいでしょ?」

 

「アタシどう思われてるのさ。まあ、水着は丁度欲しかったから構わない、けど」

 

改めてナイスネイチャを見てみる。ふわふわな赤をベースにした癖毛、黒のメッシュ。私の視線に恥ずかしそうに体をよじらせる仕草、あざとい。あざとすぎる。結構な女子から無自覚にひがまれてそうというのが嘘偽りなき印象だ。

 

今日もサクラバクシンオーは元気一杯。Tシャツにショートパンツという出で立ちでばっと片手を挙げた。

 

「さて、目標ファッションビルでしたねッ!!バクシン的勝負ですよッ!!」

 

しないなんて言葉は当然耳に入らない。声をかけたところでサクラバクシンオーは止まらないのである。ツインターボと同種だ。

 

「ではいざバクシーーーンッッ!!」

 

ダッシュしていくサクラバクシンオーを見送って、ブリッジコンプは走ることも歩くこともせず道路に向かって手を挙げた。直ぐに正門前にタクシーが止まり、扉が自動で開かれる。中から冷気が零れて外を走って向かうより断然心地よさそうだ。ブリッジコンプに炎天下の中、直線距離でも1kmは離れたショッピングモールまでダッシュする気は更々ない。

 

ナイスネイチャが呆れた表情を浮かべる。

 

「やー……ブリッジ、良い性格してるよね」

 

「乗らないの?ファッションビルまでお願いします」

 

ナイスネイチャもサクラバクシンオーに走って着いていく気はないらしく、大人しく隣に座った。確かにサクラバクシンオーを良く知らないウマ娘から見れば酷い様に見えるかもしれないけれど。サクラバクシンオー以外にはこんなことしないし、本人は全然気にしない。三か月の付き合いでブリッジコンプは身に染みて知っている。

 

「改めてブリッジ、デビューおめでとう」

 

「ネイチャもまさかメイクデビューから十三日後に未勝利戦に挑んで勝つなんて思わなかった」

 

ナイスネイチャは六月後期に京都の芝のレースでメイクデビューを二着という結果で終えた。その直ぐ後、殆ど調整期間もないのにいきなりダートの未勝利戦で一着をとる破天荒なデビューを成し遂げている。サクラバクシンオー等には一歩劣るとはいっても流石の才能だ。

 

「あはは~、このネイチャさんも流石にびっくりしたよ。アタシが直ぐにレースに出たいって言ったらトレーナーさんがダートレースに申し込むし」

 

あの爽やかそうなイケメントレーナー、そんなことするタイプだったんだ。でもダートだろうと勝算はあったんだろう。

 

「問題はこれからなんだけどね。なにせ適性が中長距離なもんでテイオーが相手だし」

 

トウカイテイオー。ブリッジコンプはあまり好きになれないウマ娘。既にスカウトされているにも関わらず選抜レース前模擬レースに出場することもそうだし、一目でわかるほど才能も天高くサクラバクシンオー級である。同期のウマ娘では彼女に思うところがある子が多いとか。あと何より親友のワイスマネージャーの勝利を毎回阻みそうなところ。

 

ただナイスネイチャの口調からは親しみを感じた。

 

「親しいの?」

 

「どうだろう、話しかけられることは多いかな。模擬レースじゃいっつもボコボコにしてくるし、アタシもあんな近くでキラキラを見せられたら参っちゃうんだけどね」

 

「どんな話とかするのか想像もつかない。やっぱりレースについてかな」

 

「ルドルフ会長のことが多いかな。あとはチームスピカについてと、そうだね。大体レースの話」

 

「会長の話?」

 

「うん、テイオーの憧れなんだ。キラキラ主人公は憧れてるウマ娘も凄いんだなーって」

 

ああ、なんだ。やっぱりナイスネイチャもブリッジコンプとは違うんだなと思った。文句を言いつつも、トウカイテイオーを明確に拒絶することはない。だってそれは、勝ちたいから。トウカイテイオーを超えてナイスネイチャはキラキラに成りたいから。ブリッジコンプはそんなこと思えない。トウカイテイオーやサクラバクシンオーに勝つだなんて思いもしなかった。

 

望まずとも黄金の瞳がその意志と魂の差を見抜いて、やるせなくなる。ナイスネイチャはブリッジコンプより十分キラキラしている。けれど、近くにトウカイテイオーという巨大な太陽がいるせいでそのことに気づけないだけだ。

 

「気になるなら今度ブリッジのことテイオーに紹介しようか?」

 

出来るだけ精神が声に乗らないようにして返事をする。別にナイスネイチャのことが嫌いになったわけでも、嫌われたいと思っても居ない。ただブリッジコンプが勝手に自分とは違うことに改めて気付かされてナイーブになっているだけ。

 

「ううん、良いよ。学年も離れているし一緒のレースも出ることはないから」

 

「そっかー。やっぱりブリッジは短距離マイル路線?」

 

「短距離はバクシンオーが居るし、マイル優先かな」

 

それからはトウカイテイオーについて触れないようにナイスネイチャとファッションビルにつくまで取り留めのない会話を交わした。

 

タクシーの運転手にお金を払い、私たちは降り立った。よくテレビでも紹介される円形のビル。道歩く周りの女子は人間が多くて、皆イケてる格好をしていて場違いじゃないかと気後れしてしまう。とはいえブリッジコンプも花の女子中等部臆することはない、はず。いやどうだろう。

 

「ネイチャさんはやっぱり商店街の方が合ってるかな、なんて」

 

「頼みます」

 

「はひゃーっ!アタシの後ろに隠れるのはやめてー」

 

ナイスネイチャを後ろから押して、隠れるようにして前進した。中では既にサクラバクシンオーが汗をハンカチで拭いながらチョコドリンクを手に待っていた。やっぱり先に着いていた。此方に気づくと満面の笑みを浮かべる。

 

「おやッ!今回は私の勝ちのようですね!ネイチャさん!ブリッジ!!」

 

「そうだね。まずは三階から行こうか」

 

事前にスマートフォンで調べてきたところ、水着一つとっても東京のファッションビルだけあって何店舗もブランドがある。人間用でも追加注文で尻尾用の穴を作れば良いだけなので、普段着と違って選べる選択肢が多い。悠長にしていると何時間もかかってしまいそうだ。

 

「ビキニはやっぱりちょっと恥ずかしいし。アタシみたいなのはタンキニかな」

 

「タンキニとはなんでしょうかッッ!!」

 

「そこからかぁ」

 

ブリッジコンプもタンキニがどういうものかは解らないけれど、サクラバクシンオーに続くのは恥ずかしくて何も言わなかった。尚、ナイスネイチャ曰くタンキニとはタンクトップ&ビキニのことで体のラインが隠しやすいとか。へーである。この知識だけでもナイスネイチャを連れてきて良かったと思う。

 

「色々種類があるけれど、名前覚えなくて良いよ。似合うのが一番」

 

ブリッジコンプはウィンドーショッピングは好きだけど、詳しい名称なんて知らない。ああこれ良いなと思って話すことが楽しかった。今思えば隣にワイスマネージャーが居たからかもしれない。改めて親友の偉大さに感銘を受けていると、早速水着ブランドに着いた。

 

「や、流石に品ぞろえが凄いね。取り敢えず各々三つ良さそうなのを見てこっか」

 

ナイスネイチャの号令に従って、私たちは別れた。ブリッジコンプは自分の体形についてよく理解しているつもりだ。つまり低身長、出るところも出ていない、最近筋肉がつきすぎて女性らしいふっくらすらを失った体である。マイナスばかりが積み重なる。

 

体形が隠せるフリルタイプかなぁ。色は髪色と合わせるなら赤系が良いってワイスが言っていたけれど。

 

「ブリッジ!!凄いですよッ!これはどう着るのでしょうか!」

 

店の中でも相変わらず響き渡る大声に、周りの客の注目が集まって恥ずかしくなる。とはいえ行かなければ向こうからバクシンしてくるに違いない。仕方なくサクラバクシンオーの元へ行くとその手には黒い紐が握られていた。

 

動揺して口調が乱れる。小さな三角の布が着いた紐、ブリッジコンプも名前くらいは知っていた。マイクロビキニだ。

 

「さ、さぁ?でもそんなの着たらはしたないよ」

 

「ぬぬッ!心外ですね、ブリッジ。私だってこんなのは着ませんよ」

 

じゃあなんで態々呼んだの。

 

「バクシンオーはやっぱりビキニにするの?」

 

サクラバクシンオーはビキニだって似合うだろう。すらりとした理想的な身長に加えて、程よく出ているところは出ていて完璧な体形を持っている。ブリッジコンプと似たようなメニューをこなしているのに、筋肉の上に柔らかさがしっかりついている。やはり血だろうか、サクラ家恐るべし。

 

「ビキニが良いのでしょうかッ!?」

 

「水着といったらビキニじゃないかなぁ」

 

多分。

 

「そうですかッッ!優等生の私なら勿論ビキニくらい着こなして見せますともッ!」

 

今度こそ自身用の水着を探し始めたサクラバクシンオーから離れてブリッジコンプはワンピースタイプが置いてある場所に向かうと、途中でナイスネイチャが居た。真剣な表情で黒のビキニを見てはうがーっと唸って頭を抱えている。近寄らない方が良さそう。

 

少し離れた場所で赤色の水着を中心に集める。本格的に泳ぐ用ではないからキャミソールやアウターを着てしまうというのも手だ。別に誰に見せるわけでもないから派手である必要はない。無難なものを三点揃えて、私たちは再び集まった。

 

其々手にしたのはサクラバクシンオーはビキニの形と色違い、ナイスネイチャはワンピースとタンキニである。

 

「あれネイチャはビキニじゃなくていいの?」

 

「ええっ!ブ、ブリッジ。見てたの」

 

「うん持ってこようか?」

 

いいよいいよと顔を真っ赤にして首を振るナイスネイチャ。これは押すな押すなという振りだと思う。先ほどまでナイスネイチャが居た場所まで戻って、悩んで見ていた赤いラインの入った黒のビキニをとってきた。フリルもない結構大胆な形である。

 

渡すとナイスネイチャは恥ずかしがりながらも受け取ったので振りだったのは間違いない。

 

「それじゃあ試着しようか」

 

「うぅーっ、こんな主人公みたいな水着アタシに似合わないよ」

 

「なるほどッ!ネイチャさんもビキニですか!」

 

結局、色々なブランドを回った結果、ナイスネイチャに勧められてサクラバクシンオーは桃色のビキニを買い、私は無難に赤のワンピースを買った。ナイスネイチャ自身は緑と黒のタンキニとは別に、最初に見ていた店で文句を垂れつつも黒のビキニも買っていた。

 

やっぱり二人とも体形が大人っぽくて羨ましい。凄く似合っていた。ナイスネイチャも満足していたし連れてきた甲斐があるというものだ。その後は水着用のアウターを買って私たちはファッションビルを出た。楽しかったけれどなんだかどっと疲れてしまった。

 

近くの喫茶店に入って一息つく。私とナイスネイチャはアイスティーを、サクラバクシンオーはレモネードとチーズケーキを頼んだ。ごくごくと一気に飲み干すと体に水分が染みわたってとても気持ち良い。もう少し前の涼しい時期に出掛ければよかったかなとも思う。でもその頃はメイクデビューに負けて落ち込んでいたから水着なんて思いもつかなかった。

 

「今日はありがとう」

 

「いやいやー、アタシこそ足踏みしちゃってたからね。可愛い水着って普段のプールには向かないし、とはいえ折角着て地味過ぎてもダサいし」

 

「それでその水着は誰に見せるの?」

 

びくりとナイスネイチャの耳が立って露骨に動揺した。追及されないと思っていたのだろうか、こんな美味しいネタ誰も逃さないと思う。サクラバクシンオーは……話は聞いていても気にした様子もなく美味しそうにケーキを頬張っている。例外中の例外は置いておいて私は追及を緩めなかった。

 

「い、いやぁ、誰かに見せたいとかじゃこのネイチャさんはないよ?」

 

「ところで私達夏合宿をするけど、ネイチャも行く?」

 

「行くよ。トレーナーさんとは暫く鍛えようって話になっているから」

 

話を変えたことで、ナイスネイチャも慌てて乗ってきた。でもこれはナイスネイチャを引っ掛ける狡猾な罠だ。

 

「やっぱりトレーニングだけじゃなくて可愛い水着で遊びたいよね」

 

「そだねー。折角の海だし」

 

「今そっちのトレーナーの担当、ネイチャだけだよね。二人きりで他の誰に水着を見せるの?」

 

「あ、いや、ちが、アタシそうじゃなくて!もう、ブリッジ!」

 

誘導されたことに漸く気づいて、かーっとナイスネイチャの顔が赤く染まって俯いてしまった。ナイスネイチャのトレーナーはイケメンと学園でも話題になっていた人だ。ナイスネイチャは嘘は言ってなさそうなので、ただ指摘されて恥ずかしがっているだけかな。可愛い姿を見せたいとは思っても、まだ恋愛感情では無さそう。

 

でも、暫くはこのネタでいじれそうだった。




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