なお、今回は掲示板形式ではありませんのでご注意ください。これからも気が向いたら地の文があるものを載せたりするかもしれませんが、何卒ご容赦したり、あるいはご容赦しなかったり、各々好きなようにしていただけると幸いです。
むかしむかしある所に、とんちで有名な一休さんというお坊さんがおりました。
(中略)
お殿様は、それはそれは困り果てた顔で「頼む、一休よ。この屏風から夜な夜な這い出てきては儂を犯してくる虎の格好をした美しい女を、どうにか得意のとんちで追い払ってはくれぬか。何を言っているか分からぬか、あるいは信じられぬかもしれぬが、聡明なお前ならきっと分かってくれると信じておる。頼む、後生だ、解決した暁にはどんな褒美だって取らせよう。儂が枯れ果ててしまわぬうちに、どうか頼む……」
と、ただの坊主である一休に土下座してまで頼み込みました。
一休は困り果てました。一休が持ち合わせているものは、責任を逃れるための詭弁や屁理屈であり、人のためになる知恵ではありません。
しかし、ここまで熱心に頼まれながら、すごすごと逃げ帰るのもいかがなものか。そう考え、一休は一応、お殿様の語る詳しい話を聞き流しました。
お殿様が言うには、目の前の大きな大きな屏風から、おおよそ7時から8時頃にかけて(たまに昼間に縁側で昼寝しに来る時もある。その時は勝手に帰るので放っておいていいらしい)お殿様の倍ほどの体躯を持つ、屈強でむちむちな爆乳虎女がやって来ると言うのです。その女は、毎夜毎夜にゃあにゃあと甘えながら、天女にも見まごう美貌とスタイルで、夜が白むまで胸焼けするほど甘々に性欲をぶつけてくると言うのです。
一休は、殿様に向かい「はぁ」と生返事をしました。なるほど、モテない童貞の妄想と現実がごっちゃになった、後世風に言えばパラノイアだなと、心の中で失礼極まりない見当を付けました。そんな話はpixivで小説にでもして、続編をFANBOX限定公開にして小銭でも稼げばよろしいと、喉のところまで出かかったりもしました。
しかし、一つ困ったことがあります。それは、殿様の態度です。ふつう殿様というものは、最大の権力者にして一国の主。この前までの殿様もその例に漏れず、ひどく尊大な態度を取っていたはずです。
ですが、今の殿様と言えば、今にも泣き出してしまいそう。頭を低く低くして、寺住まいのただのクソガキに土下座までしています。
これはきっと、とんでもない事が起きている。そう察した一休でしたが、事態のあまりのめんどくささに、思考を完全に放棄して、殿様が大パチをこいているというジャックポットに全BET。とりあえずその居るかどうかも分からぬ虎女を出して貰わねば困ります、出してさえ頂ければ、あとはこの麻縄で完全に解決してみせましょう、さあさあお早くどうぞどうぞ、と勝算もないのに強気も強気。一休はハッタリの男でした。
「本当だな、一休。頼んだぞ、これで失敗したら本当の本当に末代まで恨み続けるからな」と弱腰の殿様にも生返事。大丈夫大丈夫、とへらへら言いながら、今日の昼飯のことを考えつつ殿様の合図を待ちました。
するとそこに、煙と共に現れたのは、確かに殿様の言う通りの虎女。見るも美しいかんばせに、むっちり豊満な女体を虎柄の服に窮屈げに押し込んで、耳とシッポをぴこぴこ跳ねさせる妙齢の美女が、そこには確かに立っておりました。
それを見た一休と言えば、諦めの一言。なにせ一休はただの若い坊主であり、なんなら力では殿様にすら勝てません。それがどうして、殿様が到底敵わないクソデカ魔獣を、こんなチャチな縄一つで太刀打ちできましょうか。
と言うよりも、なんならこの虎女、おそらく人間にはどうしようもない存在ではないでしょうか。露出の多い野性的な服から覗く、バッキバキにキレた腹筋や太腿、一休の倍ほどもある身長。それから、いかにも妖らしい、威圧感のあるオーラをひしひしと感じれば、産まれたての赤ん坊だってすぐ、目の前のそれが物の怪の類だと理解するでしょう。
虎女は、出てきた途端、一休には目もくれずに殿様の下へと一直線。「そ、宗純!!!!!」殿様も思わず一休さんの本名を叫ぶ狼狽っぷりです。
「……ようやく、我を呼んだか。とうとう、我と番になる決意が固まったのだな。長かった……まるで一日が、千の秋にも感じられるほど、長かった。待ち侘びたぞ……。毎晩あれほど、我の雌としての良さを教えこんだ甲斐があったな。さあ、早速行こうか、あの屏風の向こう側……我の住む、マヨイガへと」
虎女は、恍惚に狂ったような目で、そう一息に、抑えきれない激情と共に、叫びました。
"やった"。一休さんは、心の中で小さく、そう呟きました。
これは完全にやらかした。流石に詰んだかな。
青ざめる殿様を見る一休の目は、やけに冷ややかでした。
「おい!!!!!どうしたのだ、一休、早く!!!!!」
しかし、黙っている訳にもいきません。なにせ一国の主である殿様が、目の前で訳の分からない異世界に連れ去られ、夫にされようとしているのです。
一休さんは、考えました。得意のとんちです。
それは、刹那の判断でした。その一瞬で一休さんは、ただ一つの"正解"を導き出したのです。
「もし、お嬢さん」
一休さんは、その虎女にも臆することなく話しかけます。
不機嫌そうに、人を射殺すような目線を投げかける虎女。
一休さんは、その目をはっきりと見返しながら、堂々と言いました。
「時にその初夜を盛り上がらせる、亀甲縛りというものをご存知ですか」
虎女に頭を下げ、縄を差し出します。
喜ぶ虎女、青ざめる殿様。
──強い者に、媚びる。
一休さんの聡明な知能は、残酷なほどに正しい判断を行いました。権力を持っただけのただの人間より、目の前の虎女の方がよほど強く、どうしようもないことは明白です。
一休さんは、なるべく殿様の末路を目にしないよう、響く嬌声を背に、すたこらと部屋を去りました。
──アーメン。
一休さんは、坊主のくせに生意気にも、手で十字をさっと切りました。
部屋を出てすぐの場所に居た憲兵が、困惑しつつも一休さんに問いかけます。
何か叫び声が聞こえたが、どうしたのだ。
至極真っ当な問いかけでしたが、一休さんはそこを強行突破。「大丈夫だ」「全て上手くいった」「何も問題はない」「小麦粉か何かだ」と言葉巧みに誤魔化して、城をまんまと抜け出します。
すると、お城から出るための、お堀に掛かった橋の前に、看板が立ててあるのを見つけました。
「この橋を渡ろうとする坊主を絶対に通すべからず」
一休さんは堂々と橋の真ん中を通り、兵士に「いや、端は通ってないっすよ」と言って、そのまま帰りました。
おしまい