突然ですがおはようございます。
俺は今霧に覆われた森の中に居ます。
「いやいやいやいや・・・なんで?」
一旦落ち着け、いや落ち着いているのか?ともかく一回深呼吸だ深呼吸。
確認しよう。俺の名前は「
好きなものはカレー。趣味は施設のちび達と遊ぶこと。よし、ある程度は思い出せるな。
しかし、肝心のここはどこかっていうのと目覚める前の記憶が曖昧だ。確か自分は施設の中にいた・・・はず・・・多分。
少なくともこんな霧に覆われた森は知らない。少なくとも施設があったのは都心のど真ん中。自然とは程遠い場所にあったはず。
であれば考えられる可能性としてはよからぬ集団に拉致されてこの辺境の森に置いてかれた。これが一番現実的だろうか。
少なくとも俺は「夢遊病」などの病気は持ち合わせてはいない。原因となるのは自分以外の何かだ。
もし、現実的ではない、突拍子のないことを連想するのであれば・・・。
「異世界転生?」
または異世界転移と呼ばれるもの。最近の本やアニメではそういうものが流行っているというのを聞いたことがあるが。
「いやいや、んなわけ」
ないだろう、とかぶりを振る。
色々考えたせいか落ち着いてきた。
「ともかく動くか」
やたらめったら動くのが得策とは言い難いが動かずに何かを得られるなんて楽観的に見るほど思考を放棄していない。
少し動いてみよう。と、俺は立ち上がり霧立ち込める森の中を歩きだした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
少し動いて、いくつか分かったことがある。
まずは、河で自分の顔を見ると幾分か幼くなっていた。大きく変わったわけではない。が、見慣れぬ土地で気づくのが遅れたが目線も少し低く感じる。
本来の自分の身長は175cmほどであったはずだがそれよりも少し縮んだように思える。ここで考えこむと泥沼にはまりそうな気がしたため一旦思考を切る。
そして次に、というかこれが一番の問題なのだが・・・。
森の中なのだから狸や狐のような動物や虫がいて当然。なんだが・・・。
木の陰に隠れて目の前の動物に意識を向ける。
「キューキュー!」
「カァーカァー!」
見た目と鳴き声はリスっぽい何かとカラスっぽい何か。しかし、自分の知っているそれに比べて明らかに丸っこい、そして少し大きい。
リスっぽい何かが手に木の実のようなものを持っており、それをカラスっぽい何かが奪おうとしているところだろうか?
喧嘩?をしている理由はともかくあの姿形、もしかして「
あの2匹は初めて見るが、どことなくシルエットが昔やっていたポケモンのキャラに似ているような気がする。
眩暈がしてきた。これは夢なのか?さっきの自分の姿といい、目の前にいるポケモンといい、自分の脳のキャパを超えかけていた。
これが99.9999%リアルに近い夢や最新のVRであればと何度も思い込もうとする。しかしそういった思考を、歩き続けて溜まった疲労感や肌で感じる湿気や空気、森林の匂いが邪魔をしてくる。「いい加減に理解しろ。これは現実だ」と。
だんだん呼吸が荒くなる。
なぜ・・・なぜ、こんなことに?何度かもう分からない、答えの返ってこない自問自答を繰り返すと。
「ウォー―――ン!」
狼の遠吠えのような声が森に響き渡った。
思考が途切れあたりを見回すとさっきまで喧嘩していたポケモン?がいなくなり森の空気が少し変わったような気がした。
「ウォー―――ン!」
再び声が森に響く。それが響くたびに不思議と自分の思考が落ち着いてくる。
「ウォー―――ン!」
顔を上げ、霧に覆われた森の奥、ある一点を自然と見やる。
「呼んでる・・・?」
根拠はない。しかし、自分の思考が身体が森の奥に引き寄せられるような感じがする。いや、そちらに行かなければならないという何か使命感じみたものだろうか。答えは分からない。でも、
「行こう」
深呼吸をひとつして覚悟を決めて森の奥へ進んでいった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
森を進む。まっすぐ進んでいる。木々が自分を避けるように両脇に並んでいる気がする。さっきまで聞こえていた動物の鳴き声が聞こえなくなり、木々がさざめくような音しか聞こえなくなった。霧のせいでどのくらいの距離を歩いているのか分からない。加えてどのくらいの時間歩いたのかも分からない。ただまっすぐに森を進んでいく。なにかに誘われるように進んでいく。進んで、
「っ!」
足音が聞こえて立ち止まる。何も見えない霧の奥から何かが来る。
輪郭が見えてくる。それは犬のような狼のような四本脚の獣。
色が見えてくる。その体毛は蒼色。首から伸びている濃い桃色の毛は編まれて後ろ脚まで流れている。また身体のあちこちには傷のようなものが見える。
顔が見えてくる。鋭い双眸がこちらをまっすぐ見ている。警戒しているのかはたまた好奇心なのかは分からない。
だが、目の前の
俺はこいつの名前を知っている。
それは施設にあった子供向けの雑誌に、テレビのCMに、施設にいたポケモン好きの子供が何度も話していた伝説のポケモン。
その名は、
「
目の前のポケモンの名前を呼ぶ。名前を呼ばれたザシアンはピクリと耳を反応させたが、黙ってこちらを見続けている。
「お前が、俺をここに呼んだのか?」
ザシアンは応えない。
「お前が俺をこの世界に連れてきたのか?」
自分でも怖いくらい落ち着ている。常人であればパニックを起こすだろう状況で自分は淡々とザシアンに話しかける。
いや、先ほどまで自分もパニックに陥っていたはずだった。しかし、あの鳴き声を聞いて、見知った
こちらが問いかけても反応がないままお互い見つめ合う。
このままじゃ埒が明かない。ここからどうするか。
そう考えていると、横の茂みがガサガサと揺れた。
俺とザシアンが揺れた茂みに目を向けると白い影がザシアンに向けて飛び出していった。
「バニィ!」
飛び出した影が一声上げてザシアンに突っ込む。しかし、それはザシアンにぶつからずにザシアンの身体をすり抜けていった。
「え?」
思わず声がこぼれる。目の前のザシアンが動いた様子はない。文字通り体をすり抜けていった。
飛んできた影はすぐさま体勢を立て直した後俺の目の前でザシアンに対峙するように立つ。
初めてちゃんと姿を視認したそれはまたしても自分の知っているシルエットだった。
白い体毛に赤い耳のポケモン。ザシアンと同じようにメディアで先行して発表されたそれは主人公が最初に選ぶポケモンの内の1体。ほのおタイプのヒバニーと呼ばれるポケモンだった。
ヒバニーは俺を背にザシアンを威嚇しているように見える。
「ちょ、ちょっと待っ」
「ウォオオオオオーーーーーーーン!!!」
思わずヒバニーを止めようとすると、ザシアンがひと際大きい雄叫びを上げた。あまりの衝撃と圧に思わず腕で顔を覆う。かろうじて開く目で前をみると同じくヒバニーも衝撃に必死に耐えており、ザシアンは続けざまに雄叫びを上げている。
「(ヒバニーが攻撃したせいで興奮している!?いや違う!だったら急にどうして!)」
耐えていると周囲の霧がだんだんと濃くなっていることに気づく。吠え続けるザシアンが霧で隠れいていく。
「ま、待ってザシアン!」
呼びかけるが霧は止まらずあたりを覆い隠していく。
「まっ・・・て・・・まだ・・・俺は・・・」
理由を聞いていない。その言葉は発せられることなく霧の中に飲み込まれていった。
真っ暗視界の中謎の浮遊感に襲われる。突然変化した状況にゆっくりと目を開き確認しようとする。
自分の眼前には破壊された街が見えた。
——— は?なんだよこれ?
——— 謎の森で起きて、伝説のポケモンに出会ったかと思ったら今度は街?一体何だってんだよ!
そう吐き捨てた後視界が暗転する。
暗転したあと建物の何倍もの大きさのポケモンが闊歩している様子が見えた。再び暗転。今度はそのポケモンたちが人々とポケモンを襲っている様子が見えた。暗転、人々を守り必死に戦っている人が見えた。暗転。壊れゆく大地を見て愕然と立っている人が見えた。
暗転して代わる代わる映像が流れる。それらの映像は共通してまるで世界の終わりのような光景を見せてくる。
いくつかの暗転と映像が流れた後、今度の映像は空を映し出した。黒雲に覆われた空は時折不気味な赤紫色の光を放っており渦を巻いていた。
そして渦の中心、巨大なシルエットが見えた瞬間、再び暗転する。
気づくと真っ暗な空間にザシアンが立っていた。
さっきの映像はザシアンが見せたのだろうか。いい加減何が起きているのか教えて欲しいと叫ぼうとするとザシアンがゆっくりと口を開く。
————— お前なら、必ず —————
祈るように、縋るように紡がれた声を聞く。
その声の理由を聞くことはできずマサルの意識は暗い闇の中に落ちていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
霧に覆われた森、まどろみの森の中を少女は進む。
普段はバリケードが張られていて入ることができない森だが、1匹のポケモンが森に逃げ込んでしまったため友人とその兄と捜索に入った。
しかし、この霧の中友人と兄とは即行ではぐれてしまい、自分もあっさり迷ってしまった。下手に動くのは良くないと思いつつも立ち止まっていては何も変わらないという気持ちが勝ち、自分の手持ちポケモン、ホーホーを肩に乗せ捜索を再開する。
「ホゥホゥ」
「何か見つけましたか?」
ホーホーの見つめる先を草木をかき分けて進む。するとそこには探していたポケモン、ヒバニーが倒れているのが見えた。
慌てて駆け寄り状態を見る。ところどころ汚れてはいるが特に傷ついた様子はない。今も気を失っているだけのようだった。
ひとまず無事だったことに安堵する。
そして、ヒバニーが倒れている横に目を向ける。そこには、
「男の子?」
これが彼女、ユウリの分岐点。これが彼と彼女の出会い。
この出会いが彼女の運命を変えるものだということは、本人はまだ知らないことだった。
——— その日、彼は/少女は運命に出会う。
拙い文章ですが読んでくださりありがとうございます。