その手に取るものは   作:神無月雫

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かつて夢見たもの

ピンポンという音と共に家の中でベルの音が響く。俺がユウリに連れてこられたのはユウリの家の近くの少し大きな家だった。

俺の見慣れた都会と違って田舎でそこまで家が隣接しているわけでもないため一軒一軒の家というか土地がすごく広い。特にこの家は他よりも少し大きく庭にはバスケットのコートのようなものもあった。

中で「はーい」という返事と共にバタバタと誰かが走ってくる音が聞こえてくる。そして勢いよく扉が開けられると中から自分やユウリと同じぐらいの背丈の少年が出てきた。

 

「お、来たかユウリ!」

 

「こんにちはホップ。今日はいつも以上に元気がいいですね」

 

「おう!なんたって久しぶりにアニキが家にいるからな!昨日もらったポケモンと一緒にいろんな話をしたんだぞ!」

 

やたらと元気のある、ホップと呼ばれた少年とユウリが親しげに話をしている。

ここに来る道中でユウリから軽く話は聞いていた。彼、ホップとはユウリがガラルに引っ越してきた1年前から家族ぐるみで付き合いのある友人だそうで、元気で朗らかでとても良い奴なんだそうだ。

昨日ユウリがまどろみの森へ来たのは俺を助けたヒバニー(今はモンスターボールの中にいる)がまどろみの森の中に入っていったためホップと彼のお兄さんの3人で探しにきたためらしい。その後ユウリが俺を見つけてホップのお兄さんがユウリの家まで運んでくれたんだそうな。

 

「あ!」

 

ユウリと歓談中に俺に気づいたらしい。驚きの声を上げて俺に詰め寄ってきた。

 

「お前気が付いたんだな!怪我とかはなかったみたいだけど、大丈夫だったか!?」

 

急に詰め寄られて思わず身を引いてしまう。心配はしてくれているし良い奴なのかもしれないがちょっと勢いがすごいな。

 

「ホップちょっとストップ。マサルが引いています。ちょっと離れましょう」

 

そうユウリが静止をかけ、ホップも謝って少し離れた。

 

「ごめんなさい。彼もマサルが心配だっただけなので許してあげてください」

 

「あ、ああ別に気にしてはいないよ」

 

「よかったです。こちらが先ほど話したホップです」

 

「よろしくだぞ!」

 

「そしてホップ。こちらが・・・」

 

「あ!ちょっと待って!アニキも心配してたから呼んでくる!」

 

と、自分の紹介の前に家の中に戻っていった。

その様子を見て固まる俺とユウリ。彼は確かに元気で良い奴なのかもしれないが・・・、

 

「ちょっとそそっかしいな・・・」

 

「ホントにごめんなさい・・・」

 

ユウリが呆れてため息をつく。どうやらこれが彼の平常運転らしい。うん、施設のちび達を思い出すなぁ・・・。

 

 

ほどなくしてホップが戻ってくる。彼についてくるように現れた男性がホップのお兄さんだろうか。ユウリから事前情報で聞いていた通り、ホップをそのまま大きくして髪を長くして髭を生やした感じだ。

 

「やぁ!昨日倒れているところ見たときには驚いたが元気そうで何よりだ!」

 

ホップよりは落ち着いているが十分に大きい声だ。兄弟で性格も似ているのか?

 

「では改めて、この人は・・・、」

 

「・・・マサルです。昨日は助けていただきありがとうございます」

 

ユウリの紹介からのパスを受け取って自己紹介とお礼をする。2人は笑って「どういたしまして!」と応えた。

 

「俺はダンデ。ホップの兄貴でガラルリーグのチャンピオンだ」

 

そう、彼はこのガラル地方で最強のポケモントレーナーであるチャンピオンなのだそうだ。

俺がゲームでプレイしたことがある『ルビー』や『パール』では中盤ほどで謎の男性と女性という形で主人公と出会う感じだったはずだが、この世界、というより『ソード・シールド』の世界ではこんな序盤に出てくるのか。俺が驚くそぶりを見ると何故かホップが自慢げにうんうんと頷く。ホップにとっては自慢の兄ということなのだろうか。

・・・けどゴメン、驚いたのは驚いたのだが君が思っていたのとは違う驚きだと思う・・・。

 

「すみません、誤解されても困るので先に事情だけ話してもいいでしょうか?」

 

紹介が終わるとユウリが俺にそう問いかける。俺はそれに頷き、ユウリは?マークを浮かべているホップ・ダンデ兄弟に簡単にだが事情を説明した。

 

 

 

———————————————————————————————————————————————————————————―

 

 

 

「記憶喪失か・・・。分かるのは自分の名前と日々の基本的な動作や知識だけ。まどろみの森の中にいた理由はもちろん、地名やポケモンのことまで分からないか・・・」

 

ユウリからの説明を聞きダンデが手を顎に当てて唸る。

 

「記憶喪失にしては少々極端なような気がしなくもないが俺も初めて見るから何とも言えないな。良ければ俺のツテを使って専門の病院を紹介しよう」

 

まぁ記憶喪失と聞けばそうなるよな。しかし、初めて見るというダンデさんから見ても不自然に見えてしまうようなら病院で診てもらうとばれてしまうのでは・・・?と少し戦々恐々としたが、ダンデさんは考えるそぶりを止めて笑顔に戻る。

 

「心配ではあるが、意識ははっきりしているし特に急ぐ必要もないだろう。病院に関してはもう少し様子を見てからにしようか」

 

そう言って、今度はユウリを見る。

 

「そういえばユウリ、ヒバニーはどうしたんだ?」

 

「それがマサルに懐いたようで今彼が持っているボールに居ます。マサル、ボールからヒバニーを出してもらってもいいですか」

 

と、言われてポケットに入っているモンスターボールを取り出すが・・・

 

「どうやって使うの・・・これ」

 

アニメやゲームでよく目にするボールだが実際に扱うとなるとてんで使い方が分からない・・・。さっきはユウリがヒバニーをボールに入れていたが、やり方はボールの先?をヒバニーに向け赤い光を出してそれが当たると光に吸い込まれるようにボール入る、というアニメでよく見た方法だが何も操作せずに何気なくやっていたため何が何だか全然分からない状態だった。

 

「そうでした、モンスターボールの使い方も分からないんでしたね」

 

・・・ホントすみません。なんかだんだん恥ずかしくなってきた・・・。

 

「まず真ん中のボタンを押すとボールが大きくなります。そしてボールからポケモンを出すには中にいるポケモンに声をかけて出てきてもらう、もしくはもう一度真ん中のボタンを押すとボールが開いて中にいるポケモンを出します。今回はヒバニーに呼びかけて出てきてもらいましょう」

 

ユウリに言われた通りにボタンを押すと卓球ボールぐらいのサイズだったモンスターボールがソフトボールぐらいのサイズになった。そして今度はヒバニーに呼びかけようとする。ホントにこれで出てくるのだろうか、思わず緊張したが覚悟を決めてヒバニーに呼びかける。

 

「出てこい、ヒバニー!」

 

呼びかけたのと同時にボールが開きそこから光が俺の目の前に飛び出していった。そして光が拡散すると同時にヒバニーが姿を現す。これもアニメでボールからポケモンを出す描写そのものだった。

まさか本当にポケモンを自分の手で出すことができるなんて・・・。おそらくポケモンが好きな人なら一度は夢見た出来事に小さくない感動を覚えた。

 

「ヒバ、「ひばぁー!」ぶっ!」

 

ヒバニーに呼びかけようとするとまたしてもこいつは俺の顔面にダイブしてきた。なぜお前はいつも顔面に飛びついてくる!?

勢いに負け尻もちをつきながらヒバニーを引きはがそうとする。ダイブしてくるのはいいのだがせめて胸とかにしてくれ・・・。息苦しいんじゃが・・・。しかもこのちっこいの意外と力強ッ!?

俺が苦しんでるのを見て、ユウリも引きはがすのを手伝う。その様子を見てホップもダンテさんも一瞬呆気にとられたが、前者は笑い、後者は苦笑いを浮かべた。

 

「すごいぞマサル!昨日会ったばかりのヒバニーにもうそんなに懐かれたんだな!」

 

「ははっ、本当にすごい懐きようだな。昨日不貞腐れていたのが嘘みたいだ」

 

「むごごっ、ぷはっ!・・・はぁ、不貞腐れていた?ですか?」

 

ようやっと引きはがしたヒバニーを見やる。昨日勢いよく飛び込んできたり、俺が起きてからこの調子だったのに不貞腐れていた?どういうことかダンテさんに尋ねる。

 

「実はその子はユウリとホップに譲る候補のポケモンの内の一匹だったんだ。ただ、ユウリとホップが他のポケモン、メッソンとサルノリを選んで自分が選ばれなかったのが気に入らなかったのかそのまま飛び出してしまってね。本来だったらそのまま俺の手持ちになっていたところなんだが・・・。何があったか知らないが、ずいぶんと君を気に入ったらしい。ならば俺はその子の意思を尊重したい。良ければ君がそのヒバニーを貰ってくれないか?」

 

ダンテさんにそう提案されもう一度ヒバニーを見やる。ヒバニーはじっとこちらを見てきている。これが仲間に入りたそうな目をしている、というやつなのだろうか・・・。

 

「・・・正直、うまく育てられる自信はありませんが。お前は俺と一緒がいいのかヒバニー?」

 

生まれてこの方猫や犬などのペットすら飼ったことがない俺がいきなりポケモンという未知の存在と一緒にいることができるのか、不安そうにヒバニーを見るが、ヒバニーは嬉しそうな顔をして一声鳴く。「もちろんだとも」って言っているのかな・・・?

俺は横にいるユウリを見る。

 

「初めてポケモンを持つときは誰だって不安に思います。わたしもホーホーを最初に手持ちにした時や昨日メッソンを貰った時だって不安を覚えました。だけど、それと同時に嬉しさも覚えました。マサルはどうですか?」

 

「それは・・・もちろん嬉しいさ。見ず知らずの俺にこんなに懐いてくれたんだし」

 

「ならば大丈夫です。ポケモンと一緒にいるコツは何よりも信頼関係です。マサルとヒバニーがお互いを信じていればだいたい大丈夫です。あとはこれからゆっくりお互いを知っていけばいいんです」

 

「そんなもんなのか」

 

「はい、そんなものです。どうか最初に感じたその不安と嬉しさを忘れないでください。それを覚えていればきっとマサルはヒバニーといいパートナーになれます。それにわたし達もお手伝いしますので」

 

「ユウリに言われてしまったが、ポケモンとトレーナーはパートナーの存在。互いが互いを信じていれば大丈夫。たまに喧嘩することもあるかもしれないがそれも一興。俺も自分のポケモンたちには苦労させられたことがあるが今では最高のパートナーたちだ」

 

ユウリに続きダンテさんもそのように語る。この世界でポケモンを持つ人たちは皆そんな感じなのか。

 

俺はヒバニーに向き直り、意を決して手を差し伸べる。

 

「これからよろしくな・・・ヒバニー」

 

「ひば・・・ばにぃー!」

 

すると、通じたのかさらに目を輝かせ俺の顔面に飛びついてきた。それを読んだ俺は咄嗟にヒバニーを掴む!もうこいつのパターンは分かったぞ。まずは顔面に飛び込むのをやめさせるところから覚えさせなければ。

 

「さて、無事ヒバニーのパートナーも決まった。ホップ、ユウリ」

 

ダンテさんはホップとユウリを交互ににやる。

 

「色々あったがお前たちもお互いのパートナーと一晩交流して互いに信頼関係を築けたとこだろう」

 

「おう、俺もサルノリも大の仲良しだぞ」

 

「わたしもメッソンと十分話ができました」

 

「うむ。さっきマサルに話したことはお前たちにも言えることだ。いいかポケモントレーナー!自分とポケモンを信じろ!お互いを信じ合い戦い続けて・・・。無敵のチャンピオンである俺のライバルとなれ!」

 

チャンピオンのその言葉にユウリとホップを頷く。

今になって思うが、これってもしかして『ソード・シールド』の冒頭、いつも最初のポケモンを貰う瞬間に俺は立ち会っているのか?まだ発売していないゲームではあるがそのゲームでもこんな感じなのか?

俺がそう考えている中、俺以外の3人での話は続く。すると話がまとまったのかダンテさんがこちらに向き直る。

 

「さて、マサル。君には記憶がないないのかもしれないが、俺の思いは、ホップとユウリに言ったことは君にも当てはまる。記憶が戻ってからでもいい。もう少し落ち着いてからでもいい。いつか君がポケモントレーナーになって成長したヒバニーと共に俺に挑戦してくる日を楽しみにしている」

 

「え・・・俺が?」

 

ダンテさんがまっすぐ俺の目を見る。俺がヒバニーをパートナーにして、ゲームのようにジムに挑み、四天王を超えてチャンピオンに挑むのか・・・。

色々あって想像しきれなかったが、それを思うたびに気持ちが高揚する。

初めてこのガラルの景色を見たときもそうだった。俺がなぜこの世界に来たのかは分からない。けど、自分がかつて夢見てそれでも絶対に叶わないと思っていたことができると理解すると、胸が熱くなる。

 

そうか、俺は今楽しみで仕方ないのか。

 

「ポケモントレーナーとはポケモンを連れ、戦い、育てる者!そしてポケモンと共に成長していく者でもある!君たちがポケモントレーナーにふさわしいかどうか俺が見届けてやる。まずはホップ、ユウリ。まずは君たち2人が勝負するんだ」

 

ダンテさんがそう宣言する。ポケモンバトル。これからユウリとホップがするのか。

 

「マサル。君も彼らのバトルを見て感じるんだ。これがポケモントレーナーであるんだ、と」

 

そして、俺とダンテさんはフィールドの場外へ、ユウリとマサルは意を決してボールを構えた。

 

 

 

 

 




初めてだらけの大興奮。
今日の出来事を彼は絶対忘れない。

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