遊戯王ZEXAL ―BRAVE HEROES― 作:神崎はやて
ではまあ、そんなこんなで第1話、始まります!
※先日発表されました遊戯王作品最新作、『遊戯王アークファイブ』の主人公と本作主人公の名前が被ったため、現在修正作業を行っております。
途中から名前が変わっておりややこしいと思いますが、どうかご理解願います。
「決まったー!」
MCの景気のいい声が場に響き、試合の終了を告げた。
かなりの大きさを有するスタジアムで1つの試合が行われ、そして今、幕を閉じた。
「凄まじい攻防! 白熱のバトル! その戦いを制し、見事ペガサスカップを制覇したのは! 田神 遊輝選手だーーーーーーっ!」
「か、勝った………?」
腕に取り付けられたエッジ状の機械を構えた姿勢のまま、遊輝という少年は勝利という結果をすぐには飲み込めず呆然としていた。
「おめでとう、なんだな」
と、そこへ現れたのは1人の大柄な男性。
コアラみたいな顔だな、と思わず考えてしまった失礼な思考を慌てて掻き消して、我に返った少年は男へ向き直った。
「さあ、それでは早速優勝商品の授与に移るぞ! 今回の商品は………なんとなんと! I2社カード開発部取締役、隼人氏より、好きなカード1枚のレプリカを受け取ることが出来る! 果たして遊輝君は、何を選ぶのかーーーーー!」
「………そんなの、決まってるさ」
そう、決まっている。
勝つための作戦と同じくらい、幾度も繰り返し考えた夢のカード。
それが今―――手の届くところまで来ているのだ。
「僕の、夢のカードは………―――」
長らく夢見た1枚の名を、遊輝はついに口にする。
それを聞いた隼人は、一瞬驚いた顔をするも―――やがて、懐かしげに微笑むのだった。
○ナンバーズ1 少年の日常
デュエルモンスターズ。I2社という巨大企業が開発した、大人気のカードゲームである。エジプトの古代壁画を起源に開発されたそれは、瞬く間に世界中のゲーマーを虜にした。やがて海馬コーポレーションという日本の企業が、カードの絵柄を実体化させるデュエルディスクなるものを開発するまでに至り、デュエルモンスターズの歴史は更に大きく動くこととなる。カードに描かれたモンスター達が、立体映像(ソリッドヴィジョン)にて目に見える形となって実体化する。臨場感を持ったゲーム――決闘(デュエル)は、やがて世界大会、プロリーグと、スポーツなどと同列の一種目として認知され、デュエルアカデミアのような専門校を生み出すまでに至った。
そんな世界、近未来的技術による街作りを実現した街、ハートランド。その中に建つある1つの中学校にこそ、この物語の主人公はいた。
「おはよー!」
「あ、遊輝君おはよー」
綺麗に磨かれた戸を開けて、茶のショートヘアの少年が入口付近に座っている友人と朝の挨拶を交わす。彼の名は、田神 遊輝、13歳。成績は可も無く不可も無く、何の変哲もない中学2年生――というのは、あくまでも彼という人間のただ1つの側面でしかない。彼にはたった1つだけ特技があった。
そう、それがデュエル――デュエルモンスターズの勝負だ。
彼のデュエルモンスターズの腕前はクラスメイトの誰もが認める程で、隣のクラスからも挑戦者が現れる程だった。
「おーい、遊輝! デュエルやろうぜーーーーー!」
――そう、ちょうど今、景気のいい声と共に現れた彼のように。
「あ、遊馬君。おはよう」
「おう!……というわけで、デュエルだ!」
「どんなわけよ、もう」
元気のいい少年の傍ら、少女が彼の何の脈絡もない言動に溜め息をつく。少年の名は九十九 遊馬、少女の名は観月 小鳥。遊輝とはクラスメイトでこそないが隣のクラスで、よくこうして教室を行き来しては他愛もない話をしたり、デュエルをしたりしていた。何故隣のクラスにも関わらずここまで深い親交があるかは後に語ることにして、今は彼らの様子を見てみよう。
「遊馬君、もうちょっとで授業始まるよ? デュエルしてる時間なんかないって」
「ちぇっ、仕方ねえな……んじゃ、今日の放課後にでも勝負しようぜ!」
「解った。場所はいつものところ?」
「おう。待ってるからな!」
「はいはい」
言い残し、来て早々に自分の教室に駆けていく遊馬。
「あ、ちょっと遊馬!? ごめんね、遊輝君。遊馬ったら……」
「ふふっ……ううん、大丈夫。僕もいつも楽しいから」
「それならいいんだけど……。じゃ、私もそろそろ行くね」
「うん、またね」
手をひらひらと振って、小鳥も遊馬を追って教室を出ていく。
それを見送っていると、入れ替わるようにして遊輝の傍に別の少女が駆け寄ってきた。
「おはよ、遊輝君」
「あ。おはよ、小夜子さん」
遊輝の隣の席に鞄を置き、微笑みながらそう挨拶をするのは、北見 小夜子。遊輝とは中学入学以来腐れ縁のような仲。いつの間にか友達になって、いつの間にか一緒にいた。そんな彼女に挨拶を返し、遊輝もまた席につく。
「今日も来てたんだね、遊馬君。隣のクラスなのによく来るなぁ」
「あはは。まあ、気持ちはわかるよ。遊馬君、本当にデュエルが好きなんだ」
遊輝程のデュエル好きともなれば、見れば解る。
彼もまた、間違いなくデュエルを愛していると。まだまだ決闘者(デュエリスト)としては伸び盛りだが、故に鍛え方次第では類い稀なる実力者になるだろう。
そんなことを考えていると、視界の隅に無気力に教室に入る生徒の姿が映った。
「あ、駿君」
「あ……遊輝君」
遊輝の声にびくりと身を震わせ、小さな声で応えるおかっぱ頭の少年。遊輝のクラスメイトで、名を小野 駿といった。見てのとおり気弱な生徒で、デュエルでもそれが災いして負けてしまうことが多い。担任の先生曰く、相手の伏せカードなどに怯え、チャンスにも関わらず攻撃せずに逆転されてしまったりだとか。チャンスを活かしきれず、その間に手を揃えられて逆転されてしまうことが多いらしい。
「おはよ、駿君!」
「あ……えと……ご、ごめんっ」
「あっ……!」
笑顔で手を振る遊輝だったが、気弱な駿はまともな挨拶を交わすこともせず、いそいそと自分の席へ駆けていってしまう。それに残念そうな声を上げると、遊輝はぶつかったクラスメイトにぺこぺこと頭を下げて謝っている駿を遠目に呟く。
「駿君……もうちょっと勇気が出せれば、絶対強くなれると思うのに……もったいないなぁ」
「あはは、仕方ないよ……デュエルは、人それぞれだと思うし」
遊輝の言葉に苦笑する小夜子。確かに、この世に数多あるカード達を組み合わせた山札(デッキ)は、それこそそれを生み出したデュエリストの数だけ可能性を持っている。人が変わればカードも変わるし、同じような戦術を取るデッキであったとしても、細部を見比べてみればそこにはそのデュエリスト特有の特徴があったりする。
そして、それはプレイングにおいても同様だ。無鉄砲にも攻撃を繰り返す者がいれば、慎重に伏せカードを警戒する者もいる。デッキもプレイングも、最終的にはそのデュエリストの個性を反映してくれるものだ。だから、駿が〝そういう〟デュエルをするデュエリストであったとしても、遊輝や小夜子にそれをとやかく言う権利はない。本人が変わりたいと願っているのであれば別だが、それでも今は黙って見守るしかないのだ。最後に遊輝が「やっぱり勿体無いなぁ」とため息と共に呟くと、やがてチャイムが鳴って教室の前方のドアが開いて教材を手にした教師が姿を現す。遊輝と小夜子も話を止め、授業に使う教科書などをテーブルに広げ始めた。
☆★☆★☆★☆
「そういえば、遊輝君知ってる? No.(ナンバーズ)とかいう変なカードのこと」
「No.?」
その日の最後の授業が終わり、教科書やノートを片付けていた遊輝に、既に帰り支度を済ませた小夜子がふとそんなことを訊ねてきた。
「そう。なんかそれを手にした人は性格が変わっちゃうとか、それを狙っているナンバーズハンターっていう人達がいるとか」
「あー、なんか聞いたことある。でもそれってただの都市伝説じゃないの? カードで人が変わるなんて……」
遊輝もデュエリストの端くれ。そういった話は、たとえ眉唾物に見えたとしても幾らかは追いかけたことはある。
けれど真相にはたどり着けず、結局そのNo.とかいうカードを持つデュエリストと戦ったこともない。その結果ただの都市伝説だと遊輝は切って捨てていたのだが、小夜子は首を縦には振らなかった。
「そんなことないよ。最近、そのNo.っていうカードを持ってたっていう人達が次々に廃人になってるんだって。しかも、まるで生気を吸い取られたみたいに……。一説には、ナンバーズハンターっていう人と戦って、No.を奪われたからとかも言われてるんだよ!」
「そ、そうなんだ……」
熱の込もった小夜子の弁に、遊輝は若干引きながらも、No.というカードは本当に実在するのだろうか、と想いを馳せる。もしそんなものが存在するのなら、デュエリストとして是非とも手にしてみたいが、小夜子の話を聞く限りではどうやら曰くつきの代物らしい。噂に尾ひれがついている可能性もあるが、それでも火のないところに煙は立たない。きっと何かしらの危険がそのNo.というカードにはあるのだろう。それがオカルトチックなものなのか、それともナンバーズハンターとやらの仕業なのかは別にしても。
触らぬ方が賢明か。そう考えながら帰り支度を済ませた遊輝が、教室のドアを開けると――。
「約束だぜ、遊輝! デュエルやろう!」
「……あ、そうだった」
鞄を手に、どこかそわそわした様子で足踏みする遊馬の姿があった。その傍には小鳥と、朝はいなかった遊馬の友人達の姿もあって、忙しない様子の遊馬に呆れたように小鳥と一緒に溜め息をついている。
「ほらほら、早く行こうぜっ! 時間もあまりないんだしよ!」
「あわわっ……遊馬君、解ったから引っ張らないでっ」
遊馬に腕を引っ張られ、遊輝は半ば強引に広場へと連行されていく。
「あ、駿。駿も来るか?」
と、遊輝の後ろからおどおどとした様子で出てきた駿を、遊馬達を追いかけようとしていた鉄男が誘う。遊馬と仲良くしている遊輝を経由して、鉄男や小鳥らも彼のことは少なからず知っていた。しかし、鉄男の誘いに一瞬行きたそうな顔をするも、駿は頭を下げる。
「ご、ごめん。僕、ちょっと用事あるから……」
「そうか……」
「うん。ごめん、ほんとにごめんねっ」
申し訳なさげに頭を何度も下げて、逃げるようにその場を去っていく駿の背中を訝しげに見つめながら、鉄男は遊馬達の後を追って反対方向に走っていった。
その後広場に移動した遊輝は、成り行きのままDパッドとDゲイザー、デュエルに必要な機材を手に取る。
連行された際に小夜子は部活に行ってしまったのか、観客は遊馬の友人達だけだった。
「遊馬ー、頑張れよー!」
「とどのつまり、遊輝君も頑張ってくださーい!」
「おう、任せとけ!」
「あはは、お手柔らかにね」
中学生にしては随分と体格のいい身体をした武田(たけだ) 鉄男(てつお)、「とどのつまり」という特徴的な口癖で喋る、委員長こと等々力(とどろき) 孝(たかし)が遊馬と遊輝、双方への応援の言葉を述べたところで、2人はDパッドをカードを読み込ませるデュエルディスク形態に変形させ、Dゲイザーと呼ばれるデバイスを左目に装着し起動させた。
『ARヴィジョン リンク カンリョウ』
「「デュエル!」」
電子的に塗り替えられたAR空間。その中で、遊輝と遊馬のデュエルが始まった。
○遊輝
LP:4000
○遊馬
LP:4000
初期のライフポイントは両者4000点。それを先に0にした方が勝者となる。
「行くぜっ! 俺のターン、ドローッ!」
先攻は遊馬。大振りなモーションでカードをデッキから引く。
「俺は、モンスターを裏側守備表示でセット!」
横向きになって現れる裏側のカード。裏側守備表示のモンスターだ。召喚されるモンスターには攻撃表示と守備表示があり、それぞれ戦闘時には攻撃力、守備力を適用する。
またセットといって、守備表示でモンスターを召喚する場合のみ、裏側表示で召喚することが出来る。遊馬が選んだのがこの手であり、これで遊輝は遊馬が出したモンスターを特定できない。
「カードを1枚セットして、ターンエンド!」
「僕のターン、ドロー!」
伏せカードを警戒しながら、遊輝は新たにドローしたカードを手札に加え、別のカードをディスクにセットする。
「僕は、【切り込み隊長】を召喚!」
現れたのは、鋼の剣と甲冑を着込んだ精悍な戦士。切り込み隊長の名に恥じぬ鋭い目付きで遊馬のフィールドを睨み、剣を構えた。
「更に僕は、手札の【影無茶ナイト】を特殊召喚!」切り込み隊長の隣に並び立ったのは、鎧を着込んだ影のような姿のモンスター。幽霊のように見えるがアンデットではなく、戦士族のモンスターである。
「このカードはレベル3モンスターの召喚に成功した時、特殊召喚出来る! 更に【切り込み隊長】の効果発動! このカードが召喚に成功した時、手札のレベル4以下のモンスターを特殊召喚出来る! 僕は【異次元の女戦士】を召喚!」
【異次元の女戦士】。漆黒のボディスーツを身に纏い、剣を振るう美しき戦士。攻撃力は1500。今遊輝の場にいる中でも、最も高い数値である。
「遊輝の場に、レベル3のモンスターが2体……! 来るのか?」
期待の篭った眼差しで、遊輝の場の【切り込み隊長】と【影無茶ナイト】を見る遊馬。
この世界において、レベルが同じモンスターが2体以上場に揃うことは、ある重要な意味を持つ。
何故なら――。
「僕は、レベル3の【切り込み隊長】と、【影無茶ナイト】をオーバーレイ!」
遊輝の掛け声と共に、光に変換された【切り込み隊長】と【影無茶ナイト】が天高く登っていく。そしてAR空間の地面には――それを待ち受ける、巨大な穴。
「2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚ッ!」
2つの光は穴の中に吸い込まれていき、爆発すると同時に新たなモンスターがその姿を現す。
「現れろ、【虚空海竜 リヴァイエール】!」
現れたのは、深緑の鱗を持つ大きな海竜。身体の周囲に2つの光の衛星を従え、遊馬へ向けて雄々しく咆哮する。
「来たな、モンスターエクシーズ!」
楽しくなってきた、と好戦的な笑みを浮かべる遊馬に、遊輝もまたニヤリと笑う。
これが、エクシーズ召喚。レベルの揃った数体のモンスターを重ね合わせ、その上に更に重ねることでエクストラデッキと呼ばれる、通常の山札以外のカードスペースからモンスターを特殊召喚する召喚方法。
モンスターエクシーズの特徴は大きく分けて3つ。
1つは、黒いカードフレーム。漆黒のカードは、モンスターエクシーズたる証である。
2つ目は、カードの強さを現すレベルという尺度が、ランクへと置き換わること。故に、レベルを指定するカードの効果も、モンスターエクシーズならば受け付けることはない。
そして3つ目は、大多数がオーバーレイユニット――即ち、エクシーズ召喚の際に下に重ね合わせたカードを墓地へ送ることで、強力な効果を使うことが出来るということだ。
【リヴァイエール】は、レベル3の【切り込み隊長】と【影無茶ナイト】を素材にエクシーズ召喚された。ランクは3である。
「行くよ、【リヴァイエール】で裏守備モンスターを攻撃!」
「甘いぜ遊輝! 俺がセットしていたのは【ゴゴゴゴーレム】だ!」
【リヴァイエール】がブレスを放つと、迎え撃つように裏側になっていた遊馬の守備表示モンスターが表になり、巨大な石造りのゴーレムが姿を現す。
守備力は1500。1800の攻撃力を持つリヴァイエールの勝利だが、ゴゴゴゴーレムはリヴァイエールのブレスを受けても消え去ることはなかった。
「【ゴゴゴゴーレム】は表側守備表示で場に存在する時、1ターンに1度戦闘では破壊されない!」
「やるね。でもまだだよ! さらに僕は、【異次元の女戦士】で【ゴゴゴゴーレム】を攻撃!」
「えっ!? 攻撃力と守備力が互角なのに、攻撃?」
遊馬が訝しむのも、ある意味では仕方のないことだ。【異次元の女戦士】の攻撃力と【ゴゴゴゴーレム】の守備力は、どちらも同じ1500。このままではどちらも破壊されない、意味のない戦闘である。
しかし、遊輝は攻撃を止めない。【ゴゴゴゴーレム】に効果があるように、【異次元の女戦士】にも特殊効果があるのだ。
【異次元の女戦士】が【ゴゴゴゴーレム】に剣を突き立て、ゴーレムの巨躯と激しくせめぎ合う。
「【異次元の女戦士】の効果発動! このカードが戦闘したモンスターと、相手モンスターをゲームから除外出来る!」
「除外!? 除外じゃ、【ゴゴゴゴーレム】の効果が使えねえじゃん!」
【異次元の女戦士】が空いた片手を振りかざすと異空間への穴が開き、自分諸共【ゴゴゴゴーレム】をそこへ引きずり込んだ。場に残されたのは、遊輝の召喚した【リヴァイエール】と、遊馬の場に伏せられたカードのみ。
「僕は、カードを1枚伏せてターンエンド」
「くそっ、俺のターン! ドロー!」
舌打ちしつつ引いたカードを見、まだやれる、と小さくつぶやいた遊馬は、別のカードを手に取る。
「俺は、【ズババナイト】を召喚!」
1対の双刃を手にした戦士が遊馬の場に降り立つ。攻撃力は1600。更に遊馬は【ズババナイト】の召喚に合わせ、伏せていたカードを発動した。
「そして、罠(トラップ)発動! 【コピー・ナイト】!」
表になったのは罠カード。それも永続的に効果が続く、永続罠と呼ばれる種類のカードである。
剣を立てた光と影、2人の鎧の騎士が背中合せに並び立つ絵柄のカードが、眩く発光した。
「このカードは、戦士族モンスターの召喚に成功した時、そのモンスターと同じレベル、名前のモンスターとして場に特殊召喚される!」
【コピーナイト】が【ズババナイト】の姿を象る。レベルも全く同じ、まさしくコピーされた戦士の姿だ。
ともかくこれで遊馬の場には、レベル3のモンスターが2体。
「来るか……?」
「俺はレベル3の【ズババナイト】と、【コピー・ナイト】でオーバーレイ!」
2体のモンスターが光となって螺旋を描きながら天高く昇り、地に開いた穴へと吸い込まれていく。
「2体のモンスターで、オーバレイネットワークを構築! エクシーズ召喚ッ! 現れろ、【弦魔人 ムズムズリズム】!」
軽快なリズムでギターを慣らす、毛むくじゃらな黒い魔人のモンスターエクシーズ。少し前の彼のデッキには入っていなかったはずのモンスターだが、どこからか手に入れてきたらしいそれは遊馬の新しい仲間として活躍している。
攻撃力は1500。しかし、所詮は1500などと侮ってはいけない。このモンスターは化けるのだ。
「いくぜ! 俺は、【ムズムズリズム】で【リヴァイエール】を攻撃っ!」
【ムズムズリズム】がギターを掻き鳴らし、それにより発生した音波が【リヴァイエール】を襲う。
元々の攻撃力では【リヴァイエール】の方が上。しかし、【ムズムズリズム】にはその逆境を跳ね返すことのできる能力がある。
「【ムズムズリズム】の効果発動! 魔人と名のつくモンスターが自分より攻撃力の高い相手に攻撃する時、オーバーレイユニットを1つ使うことで、攻撃力を倍にする!」
「攻撃力、3000っ!?」
たった1500の攻撃力しか持たない魔人モンスターが、攻撃時には攻撃力2500超の重量級モンスターへと姿を変える。それが、【ムズムズリズム】の恐ろしいところだ。魔人モンスターの中でも最高攻撃力を持つ【交響魔人 マエストローク】にこの能力を使えば、攻撃力3500の超重量級のモンスターですらも倒すことが可能となるというだけあって、無視できる効果とは言えなかった。
だが、無論遊輝もその攻撃をただ黙って見ていることなどしない。
「トラップ発動! 【攻撃の無敵化】! このターン、選択した自分のモンスター1体は戦闘、及びカード効果で破壊されない!」
「けど、ダメージは通るぜ!」
「ぐっ……!」
【攻撃の無敵化】の効果が発動した後、ダメージステップ時にムズムズリズムの効果が発動。遥かに大きくなった音波攻撃がオーラに守られた【リヴァイエール】を襲い、その余波が遊輝に降りかかる。
○遊輝
LP:4000→2800
罠カード、【攻撃の無敵化】には効果が2つある。1つは、相手からの戦闘ダメージを0にする効果。そしてもう1つが、このターンのみ選択したモンスターをあらゆる破壊から守る効果である。その内の1つ、破壊無効効果を使うことで遊輝は【リヴァイエール】を守ったが、攻撃力の差、1200ポイントが遊輝のライフポイントから引かれた。
「バトルが終了したことで、【ムズムズリズム】の攻撃力は元に戻る。俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド!」
「僕のターン、ドロー! 【召喚僧サモンプリースト】を召喚!」
青い肌色をした厳しい表情の老僧が現れる。宙に浮遊していられるのは、念動力の成せる業だろうか。
「【サモンプリースト】は召喚時、効果により守備表示になる。更に、【サモンプリースト】の効果発動! 手札の魔法カード1枚を墓地に送ることで、デッキのレベル4モンスターを特殊召喚できる。【聖鳥クレイン】を特殊召喚!」
「何っ!?」
【サモンプリースト】が、墓地へ送られた魔法カードを吸収して何やら呪文を唱え始める。
それに呼応したかのように、遊輝のデッキに眠っていた【聖鳥クレイン】が場に現れ静かに舞い降りた。
「【聖鳥クレイン】の特殊召喚に成功した時、カードを1枚ドロー出来る。そして僕は、レベル4の【サモンプリースト】と、【聖鳥クレイン】をオーバーレイ!」
このデュエル、3度目のエクシーズ召喚。【サモンプリースト】と【クレイン】が衛星(オーバーレイユニット)となって、モンスターエクシーズを形作る。
「2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れろ、【ジェムナイト・パール】ッ!」
現れたのは、全身がパールで出来た戦士。特殊な効果こそ持っていないが、2体のモンスターで召喚できるランク4のモンスターエクシーズの中でも、2600という高い攻撃力を誇る。
(攻撃力2600……! けど、俺の伏せカードなら!)
遊馬が伏せているのは、先程遊輝が使っていたのと同じ、【攻撃の無敵化】。このカードで【ムズムズリズム】を破壊から守れば、ダメージは受けても【ムズムズリズム】は場に残すことが出来る。そうすれば、次のターンで【ジェムナイト・パール】を破壊することが出来る。
勝負はまだまだ解らない。そう遊馬は考えていたのだ。
けれど、遊輝はそんな逃げ道をも許さない。
「更に僕は、【リヴァイエール】のモンスター効果発動! 1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使うことで、ゲームから除外されているモンスター1体を自分の場に特殊召喚出来る!」
「ゲームから除外されているモンスター……って、まさか!?」
「そう……再び現れよ、【異次元の女戦士】!」
再び空間に次元の穴が開き、中から【異次元の女戦士】が現れて遊馬へ向けて剣を構える。
「バトル。【異次元の女戦士】で、【ムズムズリズム】を攻撃!」
「畜生、除外じゃ伏せカードがっ!」
無論、遊輝は遊馬の伏せカードが何かまでは読んでいない。けれど、幾度か彼とデュエルをしたことのある遊輝は万が一あれがモンスターを守るカードであることを警戒して、敢えて攻撃力の高い【ジェムナイト・パール】ではなく、攻撃力は互角ながら戦闘した相手を問答無用で除外できる、【異次元の女戦士】を選んだ。
そして攻撃の通ったこの瞬間、【異次元の女戦士】の効果が発動する。
「【異次元の女戦士】の効果により、互いのモンスターをゲームから除外!」
「くっ、【ムズムズリズム】ッ!」
【異次元の女戦士】が、【ムズムズリズム】を異次元に引きずり込む。これで、遊輝のモンスターの攻撃を阻むものは完全になくなった。
「行け、【リヴァイエール】! 遊馬君にダイレクトアタック!」
「くそっ……罠発動、〝攻撃の無敵化〟! 俺は2つ目の効果を使い、このターンのダメージを0にする!」
【リヴァイエール】が放ったブレスを、半透明のバリアーが受け止め、掻き消した。 遊馬は右腕で冷や汗を拭い、遊馬の場を見据えた。危なかった。もしこのターンの攻撃がすべて通っていれば、あっという間にライフを0にされていたところだった。放課後まで待って、漸くこぎつけた遊輝とのデュエル。こんなにあっさりと決まってしまったのではつまらない。
このターン、遊輝はカードを1枚伏せてターンを終了した。
「いくぜ、かっとビングだ俺! ドローッ!」
ドローしたカードを確認し、遊馬は悪戯好きな子供のような笑みを浮かべた。
「俺は【ゴブリンドバーグ】を召喚! このカードは、召喚に成功した時手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚できる! 俺は【ガガガマジシャン】を召喚!」
セスナに乗ったゴブリンが、機体下部につるされたコンテナを投下する。中から現れたのは、チェーンをゆらゆらと漂わせ、口元を紺色のマスクで覆った銀髪のクールな魔術師だった。
「俺は、【ゴブリンドバーグ】と【ガガガマジシャン】でオーバーレイ! 2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚っ! 現れろ、【ガガガガンマン】ッ!」
カウボーイハットを被り、【ガガガマジシャン】と同じく口元をマスクで覆ったガンマン。【ガガガガンマン】は二丁拳銃を器用に操り、遊輝の場に残ったモンスターを牽制する。
「【ガガガガンマン】の効果発動! このカードは1ターンに1度オーバーレイユニットを1つ使うことで、このカードが攻撃するダメージステップ時、このカードの攻撃力を1000ポイントアップし、相手モンスターの攻撃力を500下げる。行け、【ジェムナイト・パール】に攻撃だ!」
光の衛星を吸った双銃が火を噴き、【ジェムナイト・パール】に銃撃を浴びせる。銃弾はジェムナイト・パールから500ポイントの攻撃力を奪い去り、続いてガガガガンマンが自ら跳び上がり、ジェムナイト・パールに体当たりを繰り出した。 2500 VS 2100。ジェムナイト・パールはたまらず爆散する。
○遊輝
LP:2800→2400
「うっ……」
「俺はこれでターンエンドだ!」
遊輝の場にはまだ、攻撃力1800の【リヴァイエール】がいる。如何にガガガガンマンといえど、次の遊輝のターンの攻撃で撃破されるのは確実。しかし、少なくとも攻撃力2600の強力なモンスターを打倒したというのは、この状況において大きな意味がある。確かな手ごたえを感じて、遊馬が思わず手を強く握りしめてしまうのも無理もないことだろう。
けれど、エースモンスターとも呼ぶべきモンスターを倒されても尚、遊輝の表情から余裕は消えなかった。むしろ思わぬ反撃を受けたことで、楽しそうな笑みをその口元へ浮かべている。
「……僕のターン。ドローッ!」
そうして、遊輝のターンが始まる。そしてそのドローこそが、この一戦の命運を分かつ1枚となった。
「僕は罠カード、【エクシーズ・リボーン】を発動! このカードは、墓地のモンスターエクシーズ1体を特殊召喚することができる!」
「な、何だって!?」
この状況で、遊輝が蘇らせるモンスターなどただ1つ。それが解っているからこそ、遊馬は焦りを露わにする。
「僕は【ジェムナイト・パール】を特殊召喚! 【エクシーズ・リボーン】は、特殊召喚したモンスターのオーバーレイユニットとなる」
墓地から颯爽と復活した【ジェムナイト・パール】の周囲を、【エクシーズ・リボーン】が姿を変えた光の衛星が回り始める。
「くそっ……けど、2体に攻撃されても俺のライフは残るぜ、遊輝!」
「いや、これで決めるさ! 僕はさらに魔法カード、【鬼神の連撃】を発動! 場のモンスターエクシーズのオーバーレイユニットを全て取り除くことで、そのモンスターエクシーズはこのターン、2回の攻撃ができる!」
「なぁっ!?」
【ジェムナイト・パール】の周囲を回っていたオーバーレイユニットが【ジェムナイト・パール】の拳に吸い込まれていく。オーラを纏った拳を掲げ、【ジェムナイト・パール】は大きく跳躍した。
「【ガガガガンマン】を攻撃!」
【ジェムナイト・パール】は、思い切り【ガガガガンマン】へ向けて拳を叩きつけた。突き飛ばされた【ガガガガンマン】は反撃の間もなく消滅した。 遊馬のライフは残り2900。本来ならば、あと1撃、リヴァイエールの攻撃が残っているのみ。ライフポイントは残るはずだった。けれど今、ジェムナイト・パールは鬼神の連撃の効果により、ジェムナイト・パールももう1度攻撃を行うことができる。
「【リヴァイエール】と【ジェムナイト・パール】でダイレクトアタック!……いっけえぇぇぇっ!」
「う…うおわああぁぁぁぁぁっ!?」
○遊馬
LP:2900→0
「くっそー、今日こそ勝って、お前の本気のデッキと戦えると思ったんだけどなぁ……。やっぱり強いぜ、遊輝は!」
「いやいや、たまたまカードが揃ってただけさ」
今遊輝が使っていたのは、たまたま誰かが落としていったらしいカードを遊輝がこつこつ集めて作ったデッキ。彼の本来のデッキは別にあるのだが、彼曰く「このカード達も使ってあげないと可哀想だ」ということらしい。
一応はリヴァイエールを主軸にコンセプトを練って、遊輝自身のカードも組み合わせて作り上げられたデッキではあるが、そんなデッキを使いこなしている遊輝は十分に実力者と言えた。
「そんなことねえって! なあなあ、もう1回やろうぜ!」
「おいおい、今度は俺も混ぜろよな!」
「とどのつまり、僕にもやらせてください!」
互いに健闘を称え合う2人の下に、観戦していた鉄男や孝が駆け寄ってくる。どうやら2人のデュエルを見ている内に、どうにも辛抱堪らなくなったようだ。
その後、観戦していた遊馬の友人達も加わって、ささやかなデュエル大会は夕方頃まで続いたのであった。
☆★☆★☆★☆
「ああ、すっかり遅くなっちゃったなぁ……」
既に空も橙色に染まりきった頃、遊輝はハートランドの街道を全力で疾走していた。
時刻は既に夕方。あの後もついつい遊馬達とのデュエルに熱が入ってしまい、結局予定していた帰宅時間を大幅にオーバーしてしまった。
同居している妹はしっかりしているし、それなりに寛大だが――これはさすがに怒られるか、と思いつつ、身震いしながら足を動かす速度を早める。
――と。
「あれ? あれって……」
視界の隅に見知った姿を見た気がした遊輝は、息を切らしながらふと走るのを止め、川で区切られた反対側の道路を見た。
そこにいたのは――。
「駿君? でも、周りにいるのって……」
そこにいたのは遠目に見ても駿に間違いないが、どうにも様子がおかしかった。
いかにも不良と呼べそうなちゃらちゃらとした連中が彼の周囲を取り囲んでいて、何やらニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら、びくびくと震える駿と共にどこかへ歩いていく。
「……なんか心配だなぁ」
こういう時放っておけない自分の性格に一度苦笑すると、念の為デッキをデュエルディスクにセットして、遊輝は彼らの後を追った。
「おかしいなぁ、確かこっちに来たと思ったんだけど……」
辺りが暗くなり始めたその頃、駿を追ってきたはずの遊輝は彼の姿を完全に見失っていた。
場所は、普段は周囲の住人も寄り付かない廃工場。昔は街のお掃除ロボット、オボットを生産していた工場だったと記憶している。幾つもの建物が連なる内の1つの中を見渡して、遊輝は頬を掻いた。
「道間違ったかな……いや、そんなはずはないんだけど」
そう言って、そろそろ戻ろうかなどと考えていた遊輝。
そんな時だった。
――我の声を、聞け……!
「!? な、何だ今の!?」
突然頭に直接響いてくるような声が聞こえてきて、遊輝はびくりと身を震わせて辺りを見た。
しかし辺りに人影はなく閑散としていて、打ち捨てられた機材が暗闇の中で不気味に浮かび上がっているだけ。
「げ、幻聴……? もう、吃驚させないでよ……」
さすがに場所が場所だけあって、特にホラーが苦手なわけでもない遊輝も気味が悪くなり始める。
しかし、幻聴だと思われていた声が再び聞こえてきた時、遊輝は思わず声を上げてしまった。
――ここだ……我はここだ……。
「ひっ!? だ、誰かいるの? いたら返事してっ!」
――こっちだ、我はここにいる……。
「えっと、こっち……?」
声に従って、遊輝は恐る恐る歩を進める。怖い気持ちは無論あったが、怖いもの見たさというのもあるのだろう。
ビクビクしながら、床に転がる機材やドラム缶に躓(つまず)かないように注意して不気味な廃工場の中を進んでいくと、角まで来たところで声が止んだ。
「ここ?……っていっても誰もいないけど……」
辺りを見回しても、人らしい影はどこにも見当たらない。
やはり幻聴だったかと思うと同時に、そこまで怖がっていた自分が恥ずかしくなって頬を染めて頭を掻く遊輝は、ふと地面に出来た窪みと、クモの巣状に罅割れたその中心に突き刺さった〝モノ〟に気がついた。
「何だ、これ……カード?」
引き抜いてみると、それは1枚のカードだった。黒いフレームから察するにどうやらモンスターエクシーズのようだが、絵柄の部分には何も書かれておらず、テキストも幾何学文字のような見たこともない形をした文字で描かれていて全く読むことができない。
「何だろう、このカード……? 白紙のカードだなんて……」
もしかしたら、さっきの声はこのカードのものだったのだろうか。そんなことを考えるも、そんなオカルトじみたことがあるわけがないと思い直す。
それにしても、駿も見当たらないしそろそろ帰ろうか。そんなことを考えていた、その矢先の出来事だった。
「う、うわああぁぁぁぁぁっ!?」
「今の声、駿君っ!?」
隣の建物から聞こえてきた悲鳴。1つの建物しか探さなかった愚を悔やむ遊輝は、咄嗟に白紙のカードをデッキケースへしまうと、悲鳴の聞こえてきた方向へと駆け出していった。
はい、というわけで第1話は導入と、遊馬とのデュエルでした。組み合わせたのでちょっと長くなってしまいましたが、これ以降はもっと1話1話は短くなると思います。
原作の都合上No.が使えないって、書く時には案外不便ですね(汗)
今回遊輝が使ったのは、リヴァイエール軸の除外デッキです。結局女戦士でしか除外してませんがw
1回作ってみたいけれど、リヴァイエールが高いせいで手が出せず。くそぅ、カード1枚にどんだけ値段釣り上げてるんだ、市場は……!
現実は厳しいですな。
では、次回もどうか宜しくお願い致します。