遊戯王ZEXAL ―BRAVE HEROES―   作:神崎はやて

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ナンバーズ 11 桜色の剣士/後編

「「デュエル!」」

 

○男性教師

LP:4000

 

○遊輝

LP:4000

 

 デュエルのスタートを受け、遊輝はいつもどおり自分の手札を確認した。悪くない手ではある。だが、相手は仮にも教師。これまでどおりの戦術が通じるかは未知数だ。手札に集ったカードの中から繰り出しうる最善策を練り始める遊輝の目の前で、点滅していたデュエルディスクのランプが止まる。

 止まったのは男のディスク。よって男の先攻だ。

 

「私のターン、ドロー! 私は、モンスターを裏側守備表示でセット! カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

 2枚のカードが、ビリビリと唸りを上げながら裏側表示で実体化する。No.の影響で暴走しているという割には、意外にも堅実な手だ。

 

「僕のターン、ドロー。僕は〝E・HERO アナザー・ネオス〟を攻撃表示で召喚!」

 

○E・HERO アナザー・ネオス

ATK:1900

 

 真のネオスならざる、もう1つのネオス。〝アナザー・ネオス〟が雄叫びと共に現れ構えを取る。

 相手の場に存在するカードは、全て裏側表示。モンスターだけでも表側で召喚されていれば、相手のデッキタイプも特定できたのだが、そう簡単に隙を見せてはくれるはずもない。だが、相手のカードにも臨機応変に対応出来る柔軟さこそがHEROの強み。まずは様子見。急いては事を仕損じる。 

 

「〝アナザー・ネオス〟で裏側守備表示のモンスターを攻撃! 〝ラス・オブ・アナザーネオス〟!」

 

 ネオスとは違う、黄金色のオーラを宿した手刀を、〝アナザー・ネオス〟は裏側守備表示のモンスターへ向けて振り上げた。と同時に、裏側表示になっていたモンスターが表になり、姿を表す。古代中国の武士のような鎧を纏った戦士が、険しい表情で両腕を交差させ防御の構えをとった。

 

○殺炎星―ブルキ

DEF:1000

 

 振り下ろされた〝アナザー・ネオス〟の手刀の前に、ブルキは成す術もなく敗れ爆散する。伏せカードは発動される素振りもなく、男は爆風から己の身を庇っている。だが今はその伏せカードの正体よりも、相手のデッキタイプの方が問題だった。

 

(炎星……!)

 

 炎星とは、最近発売された新しいパックで登場した新たなカテゴリー。遊輝自身はまだ戦ったことはないが、聞くところによれば登場して間もないにも関わらず多くのデュエリストがそのカードをデッキに採用し、目覚しい戦果を上げているという。油断は禁物だ。

 

「……僕はカードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

「私のターン、ドロー。私は手札より永続魔法、〝炎舞―「天キ」〟を発動。デッキから獣戦士族モンスター1体を選択して手札に加え、獣戦士族全ての攻撃力を100ポイントアップする」

 

「獣戦士族専用のサーチカード!? しかも、永続魔法……!」

 

 これまでデュエルモンスターズには、有名なサーチカードとして、レベル4以下の戦士族モンスターをデッキから手札に加えることが出来る〝増援〟があった。しかし〝増援〟は使い捨てであるし、場のモンスターの攻撃力も上昇しない。しかしこちらは、何らかの手段で場から回収することができれば、再度使用することも不可能ではない。〝サイクロン〟などで破壊されてしまえばそれまでだが、明らかにこちらの方が強力だ。

 

「私は、〝暗炎星―ユウシ〟を手札に加える。更に手札から永続魔法、〝炎舞―「天枢」〟を発動! このカードが場に存在する限り、自分フィールド上の獣戦士族モンスターの攻撃力は100ポイントアップ。更に、通常召喚に加えて1度だけ、手札から獣戦士族モンスターを召喚することが出来る! 私は手札から、〝暗炎星―ユウシ〟、〝勇炎星―エンショウ〟を召喚!」

 

○暗炎星―ユウシ

ATK:1600→1800

 

○勇炎星―エンショウ

ATK:1600→1800

 

  〝暗〟の字と〝勇〟の字を冠された戦士が姿を現す。これで男の場には、レベル4のモンスターが2体。

 

「〝暗炎星―ユウシ〟の効果発動。場の〝炎舞〟1枚を墓地に送ることで、相手フィールド上のモンスター1体を選択して破壊する。〝天キ〟を墓地に送り、〝アナザー・ネオス〟を破壊する!」

 

 〝天キ〟のエネルギーが、〝ユウシ〟の逞しい肉体へと吸い込まれていき、火球となって放出され〝アナザー・ネオス〟を襲った。これで〝アナザー・ネオス〟が破壊されれば、〝ユウシ〟と〝エンショウ〟の直接攻撃によって遊輝は壊滅的なダメージを受けてしまうが――。

 

「〝ユウシ〟の効果にチェーンして速攻魔法、〝デュアルスパーク〟を発動! 場のレベル4のデュアルモンスター1体をリリースすることで、場のカード1枚を破壊する! 〝ユウシ〟を破壊!」

 

「何っ……!?」

 

 身の丈ほどもある大きな火球に押しつぶされる寸前、〝アナザー・ネオス〟は黄金色の電気エネルギーにその身を変換し、逆襲とばかりに〝ユウシ〟を襲う。〝ユウシ〟はその捨て身の攻撃を躱すことが出来ず、破壊された。

 

「そしてその後、デッキからカードを1枚ドローする」

 

「くっ……だが、私は手札より2枚目の〝炎舞―「天枢」〟を発動し、墓地の〝殺炎星―ブルキ〟の効果を発動! 場の炎舞2枚を墓地へ送ることで、このモンスターは墓地から特殊召喚出来る!」

 

 2枚の炎舞が炎に包まれ崩壊しながら地面へと吸い込まれていき、代わりに男のモンスターカードゾーンに炎が吹き上がって、ブルキが雄叫びと共に姿を現す。

 

「バトル。〝殺炎星―ブルキ〟でダイレクトアタック!」

 

「罠カード発動! 〝ガード・ブロック〟! 戦闘ダメージを0にし、その後カードを1枚ドローする!」

 

 炎滾る〝ブルキ〟の一撃を、半透明のバリアーが受け止める。〝ブルキ〟の攻撃は防いだ。が、まだ男の場には攻撃していない〝勇炎星―エンショウ〟がいる。

 

「くっ、ならば〝エンショウ〟でダイレクトアタックだ!」

 

「うあっ!?」

 

○遊輝

LP:4000→2400

 

「遊輝っ!」

 

「大丈夫……下がってて、ツァンさん」

 

 〝エンショウ〟の攻撃をまともに受けた遊輝は、悲鳴を上げて仰け反りつつもなんとか踏みとどまった。普段しているデュエルの時とは比べ物にならない痛み。以前No.と戦った際にも感じていたこの痛み――まるで本当に斬られたかのような衝撃は、No.の力を持つ者とのデュエルの最中であるが故か。そう結論づけて、遊輝は毅然と男を睨みつけた。この程度で弱音を吐いていては、己の背後で悲鳴を上げる彼女を不安にさせるだけであるし、何よりそんなことでは彼女を救えない。

 立ち向かう遊輝の眼前で、男が次の行動に移った。攻撃を終え、男の場には〝ブルキ〟と〝エンショウ〟の2人の炎星。レベルはいずれも4だ。

 

「メインフェイズ2。私は、レベル4の〝ブルキ〟と〝エンショウ〟でオーバーレイ! 2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 〝魁炎星王―ソウコ〟!」

 

○魁炎星王―ソウコ

ATK:2200

 

 もう壮年になろうかという、貫禄ある〝炎星〟が2つの紅い衛星を従えて、男のフィールドに降臨する。

 

「No.じゃ、ない……?」

 

「油断しないで! そのモンスターは……!」

 

「フフ。さすがは優等生のディレ、よく解っている。〝魁炎星王―ソウコ〟の効果発動! このカードがエクシーズ召喚に成功した時、デッキから炎舞と名のつく魔法、または罠カード1枚を場にセット出来る。私はデッキから、〝炎舞-「天セン」〟をセット。ターンエンドだ」

 

 No.が出てくるのものとばかり考えていた遊輝は訝しげに眉を顰めるが、ツァンはその理由を知っているのか焦りを露わにして叫んだ。デッキから直接デュエルディスクへセットされたカードが表で現れ、すぐに裏側表示になって消えた。

 1瞬見えた限りでは、セットされたのは罠カード。一見、モンスターエクシーズとしてはそれほど高くはない〝ソウコ〟の攻撃力を補うカードなのだろう。そう遊輝は考えた。であれば、あの罠カードは攻撃反応型か、或いは――。

 

「……僕のターン、ドロー」

 

 思考を一旦隅へと追いやり、遊輝はカードを引いた。先程の男のターン、発動した2枚のカード、〝デュアルスパーク〟と〝ガード・ブロック〟。それらによって今、遊輝の手札は枚数だけで見るなら、初期状態の5枚にまで回復している。更に今ドローしたカードを合わせ、6枚。反撃するには十分な枚数だ。

 

「魔法カード、〝融合〟を発動。手札の〝フェザーマン〟と〝バーストレディ〟を融合し、〝E・HERO フレイム・ウィングマン〟を融合召喚!」

 

 純白の翼と深緑の体毛を持つ〝フェザーマン〟と、真紅の炎を操る女HERO、〝バーストレディ〟が渦の中で溶け合い、1つになる。そうして現れたのは、〝フェザーマン〟のような純白の片翼を持ち、龍を模した大きな右腕で灼熱を操るHERO。

 〝E・HERO フレイム・ウィングマン〟の姿だった。

 

○E・HERO フレイム・ウィングマン

ATK:2100

 

「融合か……! だが、攻撃力では〝ソウコ〟の方が僅かに上!」

 

「今は、です! 僕は更に手札から、装備魔法〝アサルト・アーマー〟を装備! このカードは場に戦士族モンスター1体しか存在しない時、そのモンスターに装備し、攻撃力を300ポイントアップさせる!」

 

 〝フレイム・ウィングマン〟の身体をオーラが覆い、攻撃力を上昇させる。本来の〝アサルト・アーマー〟の真価は、装備されたこのカードを墓地へ送ることで、装備していたモンスターはそのターン、2回の攻撃ができるようになることにある。しかし、〝ソウコ〟の攻撃力を〝フレイム・ウィングマン〟が上回るために、300ポイントの攻撃力上昇こそが今は必要だった。

 

○E・HERO フレイム・ウィングマン

ATK:2100→2400

 

「バトル。〝フレイム・ウィングマン〟で〝ソウコ〟を攻撃! 〝フレイム・シュート〟!」

 

「無駄だ。罠発動! 永続罠、〝炎舞-「天セン」〟!」

 

「さっき伏せたカード!?」

 

 右腕の龍の顎(あぎと)へ炎を溜め始める〝フレイム・ウィングマン〟に舌打ちして、男は〝ソウコ〟の効果でセットしていた罠カードを発動する。

 

「このカードの発動時、自分の場の獣戦士族モンスター1体の攻撃力を、エンドフェイズ時まで700ポイントアップする。そしてこのカードが場にある限り、自分の場の獣戦士族モンスター全ての攻撃力は300ポイントアップする! よって、〝魁炎星王―ソウコ〟の攻撃力は……」

 

「攻撃力、3200……!?」

 

 遊輝の驚愕の言葉が、男の説明を締めくくる言葉を代弁した。3200。デュエルモンスターズの中でも高い攻撃力とされる、3000のラインをも上回る数値だ。それをこのターンの間のみとはいえ引き出した〝ソウコ〟が、〝フレイム・ウィングマン〟の放った炎を迎撃する。押し返された炎は、元の主であったはずの〝フレイム・ウィングマン〟を飲み込み、破壊した。

 

○遊輝

LP:2400→1600

 

「くそっ……ターンエンドです」

 

 手札を4枚消費したおかげで、残る手札は2枚。場にモンスターはなく、相手の場には攻撃力3200のモンスター。ターンエンド時に〝炎舞-「天セン」〟の発動時効果が切れ、〝ソウコ〟の攻撃力は2500まで戻るとはいえ、この状況はまずい。あと一撃、男のターンで攻撃力1600以上のモンスターのダイレクトアタックを受ければ、それで終わりだ。

 

「もう、やめてよ……」

 

 と、不意に聞こえてきた弱々しい声に遊輝は振り向いた。未だ床に力なく座り込んだままのツァンが、俯いて泣いていた。

 

「なんでよ……なんでアンタはそこまで……。アンタには、何の関係もないことなのに、どうして……!?」

 

 彼女の泣き顔に、ずきり、と遊輝の胸が痛んだ。彼女はずっと耐えてきた。部長という責任ある立場にいて、男の指導が理不尽な暴力を伴うようになってからも、ただひたすら耐えてきたのだ。それは或いは、彼女自身の強さだったのかもしれない。ただ、だからこそ、他の誰かが傷つくのをただ見ていることしかできない現状に彼女はこれ以上耐えられなかった。――それ故の涙。

 彼女の言葉に、気づけばボロボロになっていた自分の姿を見て、遊輝はそれを悟った。普通のデュエルですらも、ある程度の衝撃があるのがARヴィジョン。それがNo.の力の影響を受けたことで、男のモンスターの攻撃が現実のダメージとして襲いかかっているのだろう。

 けれど。だからといって、退くことなど遊輝には出来なかった。

 

「……関係なくなんかないよ」

 

「……え?」

 

「ツァンさんはもう、僕の中では友達だから。友達が傷ついているのを見て黙っていられないのは、ツァンさんだけじゃない。僕だって……友達が苦しんでいるのに、手を差し伸べられないなんで絶対ごめんだから!」

 

 はっきりとそう言い放つ遊輝に、ツァンの嗚咽が止んだ。傷つきながらも自分の前に雄々しく立つ年下の男の子の姿に、ただただ魅入る。

 

「……茶番は終わったかね?」

 

 と、そんな2人の会話に男が割り込み、デッキトップに手をかけた。

 

「私のターン。私は、手札から魔法カード〝おろかな埋葬〟を発動。デッキからモンスターを1体墓地へ送る。〝立炎星―トウケイ〟を墓地へ」

 

 〝ソウコ〟の攻撃力は2500。遊輝の残りライフを上回る数値である。このまま攻撃すればそれだけで勝負はつくというのに、男はどうやら慎重な性格らしい。

 

「更に手札から、〝炎星師―チョウテン〟を召喚。そして効果発動! このモンスターの召喚に成功した時、墓地の守備力200以下の炎属性モンスター1体を表側守備表示で特殊召喚することができる! 甦れ、〝立炎星―トウケイ〟! 〝トウケイ〟の効果発動。2枚目の〝チョウテン〟を手札に加える」

 

○炎星師―チョウテン

ATK:500

DEF:200

 

○立炎星―トウケイ

ATK:1500

DEF:100

 

「レベル3……まさか!?」

 

「最後にいいものを見せてやろう! 私は、レベル3の〝チョウテン〟と〝トウケイ〟でオーバーレイ! 2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 2体の炎星が、紅の光となって天空へ駆け上がる。

 

「現れろ、〝EXNo.31〟! あらゆるものを破壊する狂気の剣、〝殺戮の剣 Death Calibur〟!」

 

 EX31の文字が浮かび上がり、刺々しいフォルムの円形のオブジェが姿を現し形を変えていく。最終的に現れたのは、魔人。〝アビス・イレイザー〟よりも更に禍々しい闘気を放つ魔人が、魔剣を携えて降臨する。

 

○EXNo.31 殺戮の剣 Death Calibur

ATK:1200

DEF:800

 

「No.……!」

 

「何、あれ……!?」

 

 魔人の登場に遊輝は身構え、ツァンが呆然とその邪悪な姿を見つめる。 ランク3のNo.。攻撃力は高くはないが、相手はNo.だ。必ず何かある。

 

「これで終わりにしてやる。〝魁炎星王―ソウコ〟で、ダイレクトアタックッ!」

 

 攻撃力2500の数値を孕んだ炎が、〝ソウコ〟の拳から発せられ、拳圧と共に撃ち出される。

 灼熱の赤に輝く火球が、真っ直ぐに遊輝へと迫り――。

 

(勝った!)

 

 勝利を確信した男の口元に笑みが浮かんだ。やがて火球は遊輝の鼻先にまで迫り、爆発して煙が辺りに充満する。

 

「フ、ハハハハッ……見ろ、これで終わりだ!」

 

「そん、な……!」

 

 また、自分は守れなかったのか。そんな絶望感に苛まれるツァンの耳に、男の高笑いが不快に反響する。これで彼も――遊輝もまた、この男の被害者となってしまうのか。

 そう思っていた、その時だった。不意に、男の高笑いが止んだ。どうしたことかと顔を上げると、信じられないものを見るかのような眼差しで、未だ煙の覆う場所を見つめている。

 

「まさか……!」

 

 煙が段々と晴れていく。そこには、確かに遊輝の姿があった。ただし、それだけではない。目の前に口元まで紅いマフラーで覆い、大きな盾を掲げる戦士を従えて、遊輝は未だ闘志を失わぬ目で男を真っ直ぐに見据えていた。

 

○遊輝

LP:1600

 

○ガガガガードナー

ATK:1500

DEF:2000

 

「な、なんだとっ!?」

 

「遊輝!」

 

 遊輝は、まだ負けていなかった。

 

「何故だ!? そのモンスターは一体……!」

 

「僕は貴方の直接攻撃宣言時、この〝ガガガガードナー〟の効果を発動していたんです。〝ガガガガードナー〟のモンスター効果。相手の直接攻撃宣言時に、このカードを特殊召喚出来る。そして、手札を1枚墓地へ捨てることでこのモンスターはそのバトル中、戦闘では破壊されない!」

 

「くっ……!」

 

 どこかポップな印象を受ける大盾を見て、男は忌々しげに表情を歪めた。〝ガガガガードナー〟さえいなければ、このターンで決着がついていたのだ。男が苛つくのも無理もない。

 

「バトルは中止だ。メインフェイズ2、私は〝Death Calibur〟の効果を発動! 1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使い、相手の場のモンスター1体を破壊する! 〝アサシンブレード〟!」

 

 オーバーレイユニットを吸収した〝Death Calibur〟の魔剣が煌き、振り下ろされたそれが描いた弧が光の刃と化して〝ガガガガードナー〟を襲う。

 元より手札がない遊輝にはどうしようもないが、〝Death Calibur〟の破壊は効果破壊であって、戦闘破壊を無効にする〝ガガガガードナー〟の効果では防ぐことはできない。成す術もなく自慢の大盾ごと切り裂かれ、〝ガガガガードナー〟は爆散した。

 

「手札もモンスターも0、か。今度こそ終わりだな。次のターンで終わらぬよう、精々無駄な抵抗をすることだ。ターンエンド」

 

「僕のターン……」

 

 このドローで何も引くことができなければ、相手モンスターの直接攻撃を喰らい今度こそ遊輝は負ける。明らかなピンチ。けれど遊輝の胸は、ドローカードへのプレッシャーと期待に高鳴っていた。

 

「……ドローッ! 僕は手札から魔法カード、〝ヒーローアライブ〟を発動! このカードはライフを半分払い、デッキからレベル4のE・HERO1体を特殊召喚出来る! 現れろ、〝エアーマン〟!」

 

○遊輝

LP:1600→800

 

○E・HERO エアーマン

ATK:1800

 

 土壇場で引いたカードは、今最も来て欲しいカードだった。遊輝のライフ半分を糧に、背部のファンを噴かして風のHEROが舞い降りる。

 

「〝エアーマン〟の効果発動! このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、2つの効果から1つを選択し発動する! 僕はデッキから〝E・HERO プリズマー〟を手札に加える!」

 

「ふん、たかが攻撃力1800で何が出来る?」

 

「HEROは仲間の力を借りて強くなる! 通常召喚、〝E・HERO プリズマー〟! 更に効果発動、エクストラデッキの〝E・HERO ネオス・ナイト〟を公開し、デッキから〝E・HERO ネオス〟を墓地へ送ることで、このターンの間〝プリズマー〟を〝ネオス〟として扱う!」

 

 〝エアーマン〟の隣に〝プリズマー〟が現れ、その姿が光と共に変化し〝ネオス〟の姿を形作る。その勇姿を前に、背後のツァンが息を呑むのが微かに聞こえた。

 

「レベル4の〝E・HERO エアーマン〟と〝E・HERO プリズマー〟でオーバーレイ! 2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れろ、〝EXNo.30 E・HERO エクストリーム・エッジ〟ッ!」

 

『漸く我の出番か』

 

 〝エクストリーム・エッジ〟を召喚した直後、エッジの声が耳に響いた。先程まで傍らにあったはずのエッジの姿は、気づけばどこにもなかった。おそらく、目の前にいる騎士の中に既に宿っているのだろう。

 

「〝エクストリーム・エッジ〟の効果発動! 1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使い、自分の墓地のHERO1体を特殊召喚し、その攻撃力分相手モンスターの攻撃力をダウンする。〝ネオス〟を特殊召喚し、〝ソウコ〟の攻撃力を2500ポイントダウンさせる! 〝エナジー・ドレイン〟ッ!」

 

 地に突き立てた大剣が開けた大穴から〝ネオス〟が飛び出し、射出したオーラが〝ソウコ〟を包み込み力を奪い取る。

 

○魁炎星王―ソウコ

ATK:2500→0

 

「馬鹿な、攻撃力0だと!?」

 

 一瞬にして無力化されたエースモンスターを前に、驚愕の声を上げる男。これで攻撃が通れば、相手の場を一掃し、かつライフポイントをも大幅に削り取ることが出来る。

 

「バトル。〝エクストリーム・エッジ〟で〝Death Calibur〟を攻撃! 〝ディメンジョン・ディバイド〟ッ!」

 

『このNo.、回収する!』

 

 次元をも切り裂くエッジの大剣が、〝Death Calibur〟を脳天から真っ二つに両断する。

 

○男性教師

LP:4000→2700

 

 このデュエルで初めて与えたダメージは大きく、またNo.を破壊できたことに遊輝は内心で拳を強く握った。が、まだデュエルは終わっていない。片方のライフが0になるまで、何が起こるか解らないのがデュエルの面白いところでもあり、怖いところでもある。

 逸る鼓動を抑え、遊輝が〝ネオス〟にラストアタックを命じようとした――その時。

 

「……え?」

 

 攻撃先に指定する〝ソウコ〟の能力値表示を見て、遊輝は固まった。

 【攻撃力1200】。それが現在の〝ソウコ〟の能力値だというのだ。だが、おかしい。〝ソウコ〟の攻撃力は確かにあの時、〝エクストリーム・エッジ〟の効果で0にしたはずなのだ。後はソウコに攻撃すれば、相手のライフは僅か200。正しく、風前の灯となるはずだった。

 

「一体、何が……!?」

 

『遊輝、あれを見ろ!』

 

 何が起こったのか、全く理解できず呆然とする遊輝の耳にエッジの声が届き、遊輝は再び視線をフィールド上へ戻した。相手フィールド上に存在していたのは、変わらず〝ソウコ〟だけであった。そして、〝ソウコ〟の攻撃力はやはり1200と表示されている。

 変わっていたのは、それだけではなかった。〝ソウコ〟の手には、先程まではなかったはずの邪悪な魔剣。つい先程まで〝Death Calibur〟が持っていたそれに酷似した大剣は、ソウコの手にしっかりと握られ、宿る闇の瘴気が〝ソウコ〟の身体にまで深く浸透していく。

 モンスターの名は、〝EXNo.31 殺戮の剣 Death Calibur〟。〝ソウコ〟は、その存在すらも完全に食われていた。

 

「これは……!?」

 

「まだまだ終わらん、そういうことだ。〝Death Calibur〟が破壊された時、場のモンスター1体にこのモンスターを装備し、このカードの名称、攻撃力、効果を与える!」

 

「効果も……ということは!」

 

「そう! 今この時より、〝ソウコ〟はNo.と化した!」

 

 〝Death Calibur〟の――否、No.全てに共通する効果として、【No.以外のモンスターとの戦闘では破壊されない】というものがある。〝Death Calibur〟のこの効果を得たことにより、〝ソウコ〟はNo.以外のモンスターへの無敵の戦闘耐性を獲得したことになる。

 そして、遊輝の場に残っている攻撃可能なモンスターは〝ネオス〟のみ。No.の名を持たない〝ネオス〟では、今の〝ソウコ〟を破壊することはできない。No.の存在を警戒し、先に攻撃したのだが、完全に裏目に出た格好だった。

 

「……くそっ、なら〝ネオス〟で〝ソウコ〟を攻撃! 〝ラス・オブ・ネオス〟!」

 

「無駄だ! 破壊はされないぞ!」

 

「けど、戦闘ダメージは受けてもらいます!」

 

 〝ネオス〟の手刀が〝ソウコ〟を襲う。〝ソウコ〟は破壊されなかったが、その余波が男を襲いライフを削り取る。

 

○男性教師

LP:2700→1400

 

 ライフポイントの差は殆どなくなってきた。が、場を依然として男が支配していることに変わりはない。必殺のコンボで決めきれなかったことに歯噛みし、遊輝はターンエンドを宣言した。〝エクストリーム・エッジ〟の効果が切れ、〝ソウコ〟の攻撃力は元に戻るばかりか、〝Death Calibur〟の力を得て更に強化された。

 

○魁炎星王―ソウコ

ATK:2500→3700

 

 もう既に勝利を確信しているのか、男が悠々とカードをドローする。

 

「手こずらせてくれたが……これでジ・エンドだ。私は〝Death Calibur〟と化した〝ソウコ〟の効果を発動! オーバーレイユニットを1つ使い、相手モンスター1体を破壊する! 〝アサシン・ブレード〟!」

 

『くっ……!』

 

 〝ソウコ〟が振り下ろした魔剣から放たれる一撃が、〝エクストリーム・エッジ〟を深々と切り裂く。爆散し、破壊されるエッジ。これで遊輝の場には、攻撃力2500の〝ネオス〟を残すのみ。

 

「いくぞ、〝ソウコ〟で〝ネオス〟を攻撃! 今度こそこれで終わりだっ!」

 

 〝ネオス〟へ向け、魔剣を手に〝ソウコ〟が〝ネオス〟へと襲いかかる。攻撃力の差は歴然。これが決まれば、今度こそ戦いはここで終わる。――終わってしまう。

 

「させないっ! 僕は、絶対に……ここで終わったりなんかしない! 墓地から、〝ネクロガードナー〟のモンスター効果を発動!」

 

 遊輝の墓地から影が飛び出し、〝ネオス〟と〝ソウコ〟との間に割り込んだ。〝ネオス〟の代わりに、〝ソウコ〟の強大な一撃を受け止める。

 

「……このカードを墓地から除外することで、相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする」

 

「馬鹿な!? そんなカード、いつの間に……!」

 

 役目を終え、あとは頼んだ、と〝ネオス〟へ目配せして消えていく〝ネクロガードナー〟を前にして、男の記憶が蘇る。

 

 

 

『僕は貴方の直接攻撃宣言時、この〝ガガガガードナー〟の効果を発動していたんです。〝ガガガガードナー〟のモンスター効果。相手の直接攻撃宣言時に、このカードを特殊召喚出来る。そして、手札を1枚墓地へ捨てることでこのモンスターはそのバトル中、戦闘では破壊されない!』

 

 

 

「あの時かっ……! 〝ガガガガードナー〟の効果を発動した時……!」

 

「そのとおりです!」

 

「くっ、ならば私は、手札から〝炎星師―チョウテン〟を通常召喚。効果で墓地の〝トウケイ〟を特殊召喚し……オーバーレイ! 2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れろ、〝発条機雷ゼンマイン〟!」

 

○発条機雷ゼンマイン

DEF:2100

 

「私はこれでターンエンドだ」

 

 男のフィールド上へ新たに発条仕掛けの機雷型モンスターが守備表示で出現し、運命のドローの瞬間が、再び訪れる。だが、もう恐れることもない。カードを信じ、ただ引くだけだ。

 

「僕のターン……ドロー!」

 

 ドローカードを見た遊輝は、それまでの勢いを殺し、しっかりとした眼差しで男を真っ直ぐに見つめて、言った。

 

「……先生。貴方のような指導の下、勝利を勝ち取ったとして、生徒がその喜びを素直に受け取ることなんて出来るんでしょうか?」

 

「言ったはずだ。この世は勝つことこそが全てだと。私はこれまでの教育人生で、負けて惨めな思いを味わった生徒達を嫌という程見てきた。だからこそ私は、もう生徒に負ける悔しさを味あわせないと誓った」

 

「そうですか。でも僕は、人には勝つことだけじゃなくて、友達と喜びを分かち合い、勝負を楽しむことも必要だって……そう思います。だから僕は……僕は今、このターンで貴方に勝ちます!」

 

 決意とともにドローカードを高く掲げ、遊輝はそれを高らかにディスクへセットする。

 

「僕は魔法カード、〝七星の宝刀〟を発動! 手札かフィールド上から、レベル7のモンスター1体をゲームから除外することで、デッキからカードを2枚ドローする。僕はフィールドの〝ネオス〟を除外し、カードを2枚ドロー!」

 

 〝ネオス〟がその身を光り輝く刃へと変え、遊輝のデッキから2枚のカードを導く。

 

「魔法カード〝大嵐〟を発動! フィールド上に存在する魔法・罠カードを全て破壊する!」

 

「なっ!? それでは……!」

 

「そう、〝Death Calibur〟は装備魔法カード扱いで場に存在するカード。よって、この効果で破壊が可能だ!」

 

「くっ……!?」

 

 突発的に巻き起こった嵐。猛烈な風が、互いのフィールド上にある全ての魔法・罠カードを飲み込んでいく。男のフィールドにあった炎舞だけではない。No.も例外なく、その中に巻き込まれていった。

 そして、〝ソウコ〟の手に握られていた魔剣が消えさると同時に彼を包んでいた闇が晴れ、代わりに元の雄々しき炎が力強さを以て包み込んだ。

 

「更に僕は魔法カード、〝ホープ・オブ・フィフス〟を発動! 自分の墓地のE・HERO5枚をデッキに戻し、カードを2枚ドローする! そして自分の場に他のカードがない時、それは3枚のドローとなる! 〝プリズマー〟、〝エアーマン〟、〝アナザー・ネオス〟、〝エクストリーム・エッジ〟、〝フレイム・ウィングマン〟の5枚をデッキに戻し、カードを3枚……ドローッ!」

 

 気合とともにドローした3枚のカードを見て、遊輝の口元に笑みが浮かぶ。この手札なら勝てる、そんな確信を込めた笑みだった。

 

「魔法カード、〝ミラクル・フュージョン〟発動! フィールド上か墓地の融合素材をゲームから除外することで、E・HEROと名のつく融合モンスター1体を特殊召喚出来る! 〝フェザーマン〟と〝バーストレディ〟をゲームから除外して……再び現れろ、〝E・HERO フレイム・ウィングマン〟!」

 

「だからどうだと言う!? そんな攻撃力では、〝ソウコ〟には及ばん!」

 

 〝E・HERO フレイム・ウィングマン〟の攻撃力は2100。対して〝ソウコ〟は様々なカードのサポートが離れたとはいえ、未だ2200という攻撃力を持っている。その差100ポイントは、どうあっても超えることなどできない。このままでは、このターンで勝負を決めることなど夢のまた夢だ。

 そう、【このまま】なら。

 

「魔法カード、〝融合〟! フィールド上の〝フレイム・ウィングマン〟と手札の〝スパークマン〟を融合! 現れろ、〝E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン〟ッ!」

 

○E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン

ATK:2500

 

 光り輝く神秘的なHEROの登場に、その場の誰もが言葉を失った。〝スパークマン〟とも1つとなり、HEROの中でも最高クラスの力を得た〝フレイム・ウィングマン〟は、空中からゆっくりと遊輝の場に降り立った。

 

「攻撃力2500……! だ、だが! たとえ〝ソウコ〟に攻撃されても、その差は300。私のライフは0にはならない!」

 

「……〝シャイニング・フレア・ウィングマン〟は、墓地のE・HEROと名のつくモンスター1体につき、攻撃力が300ポイントアップする」

 

「何っ!?」

 

 〝ホープ・オブ・フィフス〟と〝ミラクル・フュージョン〟の効果で、遊輝の墓地にいたHERO達は皆デッキに戻るか、或いは除外されている。だが、いる。たった今、融合素材として墓地へ送られた2体のモンスター、〝スパークマン〟と〝フレイム・ウィングマン〟が。

 それならば、〝シャイニング・フレア・ウィングマン〟の攻撃力は……!

 

○E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン

ATK:2500→3100

 

「攻撃力、3100……!」

 

「これで決める! 〝シャイニング・フレア・ウィングマン〟で、〝魁炎星王―ソウコ〟を攻撃! 〝シャイニング・シュート〟ッ!」

 

 天空へ舞い上がった〝シャイニング・フレア・ウィングマン〟が、急降下しながら〝ソウコ〟に光り輝くエネルギーを纏った拳を叩きつける。〝ソウコ〟もまた、残る力の全てを炎に変換しそれを迎撃した。ぶつかり合う力と力が激しく火花を散らすが、やがて光が炎を押し切り、〝ソウコ〟は光に飲まれて爆散した。

 

○男性教師

LP:1400→500

 

「〝シャイニング・フレア・ウィングマン〟の効果発動。このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 

「何だと!?……くっ、ぐああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

 

 男の傍らに降り立った〝シャイニング・フレア・ウィングマン〟が翳した手のひらから光が放射され男のライフを0にする。

 その様はまるで、男の心に巣食った悪を浄化する光のようで、ライフカウンターが0を刻むとともに、男はまるで糸が切れた人形のようにその場に倒れ伏した。

 

○男性教師

LP:500→0

 

「やっ、た……」

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

 緊張の糸が切れ、その場に崩折れた遊輝の身体を、その後ろにいたツァンが慌てて抱きとめる。

 それを横目に、再び人型の霊体に戻ったエッジは、仰向けに倒れ込む男へ向けて手を伸ばす。決して届かない距離にある男の身体から眩く発光するカードが抜け出て、そのままエッジの手に収まった。

 

『〝EXNo.31 殺戮の剣 Death Calibur〟……。回収完了だ』

 

 それだけを言い残し、エッジの霊体はカードの中へと消えていった。残されたのは、遊輝とツァン。抱きとめた腕の中にいる傷だらけの、自分より少し小さな少年は、安らかな微笑みを浮かべて言った。

 

「ツァンさん……勝ったよ……!」

 

「……馬鹿っ」

 

 解放されたことと、少年が無事だったことへの歓喜で、ツァンは涙を流して少年を固く抱きしめる。その2人の姿に、デュエルを見守っていた剣道部員たちの歓声が上がる。

 あれほど降っていた雨は、いつの間にか止んでしまっていた。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「じゃあその高等部の先輩、まだ剣道を続けられるんだ?」

 

「うん。そうみたい」

 

 翌日の朝。たまたま通学路の途中で一緒になった小夜子へ、遊輝は昨日の話をしていた。

 あの後、それまでの剣道部の指導の実態が明らかとなり、男性教諭は懲戒免職となる可能性が濃厚となっていた。ハートランド学園からも、去ることが決定したらしい。

 その後剣道部は暫くの間顧問が不在という状態になってしまうものの、後任が決まり次第再び活動を再開するということだった。

 

(ありがとう、爺ちゃん。おかげで勝てたよ)

 

 声に出さず、既に遠い海の向こう側にいるであろう祖父に感謝の気持ちを述べながらデッキケースから取り出したカードは、〝七星の宝刀〟。遊輝の祖父がくれたレアカード、その中の1枚だった。とても激しい戦いとなったあのデュエルは、このカードがなければ乗り越えることは不可能だっただろう。気のせいか、普段より一層の輝きを発しているように見えるカードにもう一度心の内で例を述べ、遊輝はカードを再びケースの中へしまう。

 

「……よかったね」

 

「そうだね。きっとこれで、やっとツァンさんも楽しく仲間と部活が出来るんだから」

 

 きっとこれからは、伸び伸びと剣道に打ち込んでくれるに違いない。一心不乱に竹刀を振り、汗を流すツァンの姿を想像して、遊輝は笑った。

 と、その時。

 

「……あれ?」

 

 漸く見えてきた校門のところに見慣れたピンク髪が見えて、遊輝は小夜子に「ちょっとごめん」と言い残し、駆けていく。

 

「ツァンさん!」

 

「あ……お、おはよう」

 

 声をかけると、頬を朱に染めてツァンは素っ気なく挨拶を返した。

 

「おはようございます。今日から稽古ですか?」

 

「……うん。正式な部活動再開はまだだけど、腕は鈍らせたくないから……」

 

 彼女の背からにょきっと飛び出ている竹刀のカバーを指差して言うと、ツァンは嬉しそうに表情を綻ばせながらそう頷いた。練習熱心なんですね、と言うと、照れたようにそっぽを向く。

 

「これも皆アンタのおかげよ。それで……えっと、大したものじゃないんだけど……」

 

「……え?」

 

 赤かった頬を更に紅潮させて、ツァンは何やら口篭ると、無言で手提げを突き出した。彼女の髪の色と同じ桜色の手提げを、遊輝はその勢いに圧されたのもあってそのまま受け取ってしまう。

 

「あの、これって……」

 

「ち、違うわよ!? ただ、昨日の礼がしたかったっていうだけで……守ってくれて嬉しかったとか、ちょっとカッコイイって思ったとか……そ、そんなことなんて全然ないんだから!」

 

 もう傍から見れば本音が駄々漏れである言い訳を喚き散らすツァンと、手提げとを呆然と見比べる。するとその視線すらもう居た堪れなくなってきたのか、ツァンは「じゃあそういうことだからっ!」と言い残して高等部の方へ猛然と走っていってしまった。

 1人残された遊輝は彼女が去った後、手提げの中身を確認する。中に入っていたのは、可愛らしい弁当箱だった。

 

「……ふーん?」

 

「うわっ!?」

 

 呆然と立ち尽くしていた遊輝の隣にいつの間にか立っていた小夜子の声に驚いた遊輝は、驚いて危うく手提げを取り落としそうになりながら、傍らに立つ彼女のじっとりとした視線を感じて後ずさる。

 

「昨日の今日でもうお弁当なんだ……むぅ、私だってまだ食べてもらったことないのに……」

 

「あの……さ、小夜子さん……?」

 

「……もう知らないっ」

 

「ちょ、小夜子さん!? 待って、待ってってばー!」

 

 何やらぶつぶつと独り言を言いながら頬を膨らませる小夜子がまるで理解できず、遊輝はおそるおそる話しかけるが、彼女がその問いに応えることはなく、さっさと歩いて行ってしまう彼女の後を、遊輝は慌てて追いかける。

 

『……やれやれ』

 

 悩み多き少女達と、鈍感な少年の微笑ましい一幕。その一部始終を見ていたエッジは、人知れず静かに溜め息をついた。

 

 




―BRAVE HEROES No.図鑑―

○EXNo.31 殺戮の剣 Death Calibur

・属性:闇
・種族:悪魔
・種:モンスター(エクシーズ・効果)
・召喚条件:レベル3のモンスター×2
・ATK:1200
・DEF:800
・効果:このカードは、「No.」と名のつくモンスター以外のモンスターとの戦闘では破壊されない。1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き発動する。相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して破壊する。このカードが破壊された時、自分フィールド上のモンスターに装備する。装備モンスターの攻撃力は1200ポイントアップし、このカードの効果を得る。このカードが装備されている限り、装備モンスターは「EXNo.31 殺戮の剣 Death Calibur」としても扱う。



以上、今回のNo.でした。

名も無きモブがNo.を使ったのはこれが初めてか……などと思っていたら、最初の話で〝バンディッド・デーモン〟使ってた不良の存在をすっかり忘れてました(ぇ)

というわけで皆大好き(?)ツァン・ディレメイン回。いかがでしたでしょうか。

「フラグは建てないと言ったな。……あれは嘘だ」とでも言いたげな回になってしまいましたが(汗)
それがですね、それぞれのキャラを書くに当たってこれでもそれなりに個性というものに気を遣っておりまして、ツァンの特徴を最大限活かすにはどうすればいいかと考えた時、一番解りやすいのはやっぱりツンデレなんですよね。
ではそのツンデレを書く時どうすればいいかっていうのを考えた時に、これもやはりラブコメが一番じゃないかと、そう考えたわけです。……ええ、安直ですが、このストーリー展開から見てもこれが一番自然だと思いましたもので。
まあフラグらしきものは建った気がしないでもないですが、それが成就するか否かは別問題ということでご理解願います。

そんなわけでいろいろと葛藤しつつも書いた最新話、いかがでしたでしょうか。楽しんでいただけたのなら幸いです。

では、次回まで暫しの別れを。神崎でした。

※今回教師が使用した炎星はあくまでも小説のエンターテイメント性と、遊戯王世界のカードレアリティ等を考慮して構成されたものですので、実際のガチ構築とは大きく異なります。ご了承ください。
また、炎舞の機種依存文字は機種によっては表示できず「?」で表示される場合がありますので、全てカタカナで記載させていただきました。ご了承くださいませ。
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