遊戯王ZEXAL ―BRAVE HEROES― 作:神崎はやて
「いよいよWDCかぁ……」
いつも以上に活気づく街並みを眺めながら、遊輝はそう呟いた。
ワールド・デュエル・カーニバル、通称WDC。それは、ハートランドが企画したデュエルの世界大会ともいうべきデュエルの祭典である。世界各国から腕自慢のデュエリスト達が集結し、己の腕を競う、まさしくデュエリストのビッグイベントだ。この日ばかりは、プロもアマも関係ない。平等に、一デュエリストとして闘いを繰り広げるのだ。
デュエル好きの遊輝もこの大会に参加申し込みすることになるのは、もはや必然と言えた。彼の手には送られてきたばかりの、ハート形の金色の枠の中に赤い欠片が1つ収まったモノが握られている。ハートピースといって、WDCへの参加証のようなものだそうだが、どう使うものなのかは未だに解っていない。
「うううぅ、緊張する……」
「今から緊張してどうすんだよお前……。大会は明日なんだぜ?」
遊輝の隣を歩く駿が震えた声を上げると、その反対側を歩く手島が呆れたように溜め息をつく。2人の手にも遊輝同様、金色の縁取りがなされたハートピースが握られている。違うのはそれぞれのピースの形と、はまっている場所だけだ。
「で、でも今度の大会って、世界中から強いデュエリストが集まってくるんでしょ? 僕なんか絶対勝ち残れないよぉ……」
「バーカ、だからこそ面白ぇんじゃねえか。なあ、兄貴?」
「そうだね。今からとっても楽しみだよ」
泣き言を言う駿の背中をドカドカと叩きながら同意を求めてくる手島に、遊輝は頷く。そう、確かに楽しみなのだ。駿の言った世界中から集まってくるデュエリスト、という中には、前述のとおりプロデュエリストも混ざっている。正真正銘、デュエルを生業とし、デュエルで飯を食っている者達だ。世間一般のデュエリスト達にとってはまたとない機会であり、遊輝もこれには胸を躍らせずにはいられなかった。
「というわけで、今日は明日に備えて皆で思う存分デッキ強化しよう」
「おう!」
「う、うん……」
到着した鶴屋の自動ドアをくぐりながら言う遊輝の言葉へ手島と駿は各々のテンションで返事をするが、その言葉をも次の瞬間、店内から聞こえてくる喧噪に飲み込まれてしまった。何事かと店内を見渡すと、小学生から大人まで、ありとあらゆる年齢層の男女が店内を埋め尽くし、各々談笑に耽っている。
「一体、これは……?」
普段の鶴屋らしからぬ光景を前にして言葉を失う3人。そこへ、カウンターに座っていた鶴屋の主、成田 伸子がにこやかに手を振ってくる。
「はろはろー♪ やっぱり来たね、少年諸君!」
「あ、シャチョー」
「おい、これいったいどうなってんだよ?」
「なんだ、知らなかったの? 今日は鶴屋主催! WDC開催記念のデュエル大会っさ!!」
「そっか、それでこんなに人が……」
問いに対する伸子の答えに、3人は納得した。それと同時に、ラッキーだったとも思う。WDCを前に腕慣らしをするには、まさしく絶好の舞台だ。
「アニキ、俺たちも出ようぜ!」
「うん、面白そう! 駿君も出るよね?」
「遊輝君が出るなら、僕も……いいよ」
「決まりっさ。じゃ、この用紙にサインしてっ」
伸子から手渡された用紙へそれぞれの名前を記入し、参加料を支払うと、遊輝は参加者を見渡した。彼らは皆WDC出場者なのか、最初に見た通り実に様々な人間がいた。子供から大人まで、実に幅広いデュエリスト達。ここにいる人間すべてが大会の出場者なのだとすれば、WDC程ではないにしろ、かなり大きな大会となるであろうことは間違いない。少なくとも、ショップ大会の域ではないだろうことは間違いなかった。
「さーて、そろそろ参加申し込みは終了っさ。もう誰もいないよねー?」
「ちょ、ちょっと待って……待ってくださーい!」
時計を見て締切時間が迫っていることを確認した伸子がマイクで店内へ向けて呼びかけると、その後ろ、店の入り口から息も絶え絶えに叫ぶ声が聞こえてきて、伸子と、彼女に注目していた参加者達は一斉にその声の主に注目した。
あの剣道少女も所属している、ハートランド学園高等部の制服を来た少女。肩まである栗色の髪は汗に濡れていて、ここまでずっと走ってきたのか、すっかり荒くなった息を必死に整えようとしている。
「わ、私も……さ、参加しますうぅ……」
「う、うん、解ったよ。あの……お水、飲む?」
「あ、ありがとう、ございます……」
今にもその場にへたり込みそうな少女の姿に見かねた伸子が、コップに水を汲んできて少女へ手渡し、落ち着いたところで用紙とペンを手渡す。さらさらと少女が自分の名前を記入し、参加料を手渡したところで、気を取り直して伸子は再びマイクを手に取った。
「はーい! それじゃ改めまして……鶴屋主催、第1回カードバトル大会、開始しまーす!」
瞬間、マイクで喋っている伸子の声量に負けない程の怒涛の声が参加者から上がった。それだけ皆気合が入っているのだろう。駿などは周囲から上がる大きな声に驚いて悲鳴を上げていたが、手島は望むところだとばかりに不敵に笑う。当の遊輝も、楽しいデュエル大会の始まりに心躍らせ、微笑を浮かべていた。
「じゃあ、ルールを説明するね。ルールはマスタールール2。本当はトーナメント方式にしたかったんだけど、思ったより集まってくれた人数が多いので、参加者を各ブロックに分けたポイント制の予選大会を行いたいと思います! くじを用意したから、順番に引いてって欲しいっさ!」
どうやら、各ブロックの予選を勝ち抜かない限り、決勝へ進むことはできないらしい。準備のいい伸子の対応に舌を巻きつつ、遊輝達もくじを引いた。
結果は、手島がBブロック、駿がDブロック。遊輝はAブロックだった。
「よし、これで皆引いたね。じゃあこれから、ブロック予選を始めます。各ブロックの参加者と総当たり戦で、勝てば3ポイント、負ければ1ポイントを配布した用紙に記入してね。全部終わった時点で、最もポイントが高かった人がそのブロックの優勝者になるっさ! 皆、頑張ってねっ♪」
伸子のウインク交じりの言葉に、再び店内が活気づく。
「……あ、それと、今回の大会では優勝した人に商品としてこちらをプレゼントしちゃいまーす!」
「……えっ!?」
まるで今思い出したかのような物言いと共に伸子が掲げた1枚のカード。それを見た瞬間、それまで苦笑交じりに伸子の方を見ていた遊輝の表情が一変した。他の参加者達も心なしかざわついている。
そのカードとは――。
「〝E・HERO ジ・アース〟……!?」
思わずその名を口に出す遊輝の目の前で、〝ジ・アース〟のカードが照明を反射して煌めく。参加者の間からも、「すげぇ、初めて見た」「本物?」などといった言葉が口々に発せられているのが聞こえる。
「残念ながらレプリカだけど、それでも市場ではプレミアもつく激レアものだよー。店の開店祝いにとある人がくれたものなんだけど……みんなが大事に使ってくれると信じて、特別大出血サービスしちゃいまーす♪ ふふふふ、崇め奉れー!」
最初は戸惑っていた参加者達も、やがてその意味を理解したのか、困惑の声が次第に歓声へと置き換わっていく。遊輝もまた、彼らと同じくらいに――否、彼ら以上に興奮を隠せないでいた。
〝E・HERO ジ・アース〟。伝説のプラネットシリーズの1体にして、世界に1枚しか存在しないカードである。遊輝の持つ〝ネオス〟にも匹敵するレアカードだ。確かにあれが市場に流通すれば、間違いなくとんでもない値がつくに違いない。それだけでも沸き立つには十分過ぎるというのに、あのカードは〝E・HERO〟なのだ。つまり、遊輝のHEROデッキにはぜひとも加えたい至高の1枚なのである。
「こんなところで、あんなカードに出会えるなんて……!」
「絶対に負けられません……!」
「え?」
呆然としたまま呟く遊輝の横から並々ならぬ意気込みを滲ませた声が聞こえてきて、遊輝は思わずそちらを見やった。見れば声の主は、先ほど締切ぎりぎりで滑り込んできた少女だった。それほどあのカードに思い入れがあるのか、或いは――。
「じゃあ、そろそろ予選始めまーす!」
と、考え事をしている間にどうやら予選開始の準備が整ったようだった。一旦考えるのをやめて、遊輝は手島達と別れて自分のブロックへと向かっていった。
☆★☆★☆★☆
「〝エアーマン〟でダイレクトアタックッ!」
「のわーっ!?」
〝エアーマン〟の一撃が、遊輝の対戦相手の青年のライフを削り取る。ライフカウンターが0を刻み、ARヴィジョンが解除されると、バイトの女性が遊輝のカードに勝利のスタンプを押した。
総当たりの結果、Aブロックで遊輝は全勝。カードの書かれたマスの全てに押された赤いスタンプを見て満足げに微笑むと遊輝は、壁に貼られている、各ブロックの状況が書かれた表へと視線を移した。Bブロックの優勝者の欄には既に手島の名があったが、駿のいるDブロックには、残念ながら見たこともない名前が記されていた。
決勝トーナメントで駿と戦えないことを寂しく思っていると、再びマイクを持った伸子が、どこからか持ってきたらしい踏み台の上に乗る。
「はーい、皆ちゅうもーく! たった今、全部のブロックの優勝者が決定しちゃったよー! Aブロック、田神 遊輝君。Bブロック、戦士 手島君。Cブロック……」
全てのブロックの優勝者の名が読み上げられていき、呼ばれた遊輝と手島は伸子の前、他の参加者達の前に出る。Cブロックの優勝者は、名も顔も知らぬ、遊輝達より若干年上に見える少年だったが――。
「Dブロック、宮田ゆまさん」
「はいっ」
「……あ」
Dブロックの優勝者として名を読み上げられたのは、例の大会に遅れてきた少女だった。おっとりとしているようでいて、はっきりとした返事をし彼女、宮田ゆまは遊輝とは反対側の場所に立った。
Dブロック、ということは、おそらく駿はこの少女に負けたのだろう。駿の実力を知っている遊輝は、少女に対する認識を改めざるを得なかった。
「……じゃあそんなわけで、各ブロックの優勝者が出そろったさー! 続いてくじでトーナメントの対戦カードを決めるから、4人ともこっちに来て来てっ!」
言われるまま遊輝達は、伸子が指差した机の周りに並んだ。机の上には上部に丸い穴があけられただけのシンプルな箱が1つ置かれていた。
「その中にくじが入ってるから、順番に引いてほしいっさ」
誰に言われるでもなく、A、B、C、Dの順に遊輝達はくじを引いていった。遊輝の引いたくじに書かれていたのは数字の2。伸子がブロック予選の結果を取り払い、新たにせっせと貼っているトーナメント表を見れば、くじの数字がトーナメント表の下部に書かれた数字に対応しているのであろうことは想像できる。つまり、遊輝の引いた数字である2と繋がっている番号、1番を引いたデュエリストこそが、決勝トーナメント1回戦で遊輝が戦う相手ということになる。
果たして、その対戦相手とは――。
「へへ、俺はアニキとか」
「手島君……」
1の欄には、戦士 手島の名があった。
「覚悟しろよアニキ、手加減しねぇからな!」
「望むところだよ」
不敵に笑い合いながら火花を飛ばし合う遊輝と手島は、伸子に指定されたデュエルスペースまで移動すると、デュエルディスクとD-ゲイザーを起動させる。
『ARヴィジョン、リンク完了』
「「デュエル!」」
○遊輝
LP:4000
○手島
LP:4000
「俺様のターン、ドロー!」
デュエルディスクのランプが点灯したのは手島。気合一発、カードをドローした手島は、にやりと笑った。
「アニキに俺の新しいデッキの力を見せてやる! 俺は、〝武神-ヤマト〟を攻撃表示で召喚するぜ!」
「武神!?」
鎧の中に光を宿したモンスターが、手島の場に姿を現した。炎星同様、最近のパックで新たに追加された武神というカテゴリーのモンスター、その一柱である。
風体は戦士族だが、これでも獣戦士族のモンスターだ。
○武神―ヤマト
ATK:1800
「……そっか。それが君の新しいデッキなんだね、手島君」
「おうよ! これが、この武神デッキの初陣だ! 俺はカードを1枚伏せ、エンドフェイズ時に〝ヤマト〟の効果発動! デッキから武神と名の付くモンスター1体を手札に加え、その後手札を1枚墓地へ送る。デッキから〝武神器―ハバキリ〟を手札に加え、〝武神器―ヘツカ〟を墓地へ送るぜ。ターンエンドだ!」
「僕のターン、ドロー! 僕は、〝E・HERO アナザー・ネオス〟を召喚!」
攻撃力1900、〝アナザー・ネオス〟。攻撃力では〝ヤマト〟を上回る、遊輝のデッキの主力カード。けれど、遊輝は不用意に攻撃を仕掛けることはしない。〝武神―ヤマト〟の効果で手島が手札に加えた〝武神器―ハバキリ〟。あれは、武神と名の付く獣戦士族が戦闘を行うダメージステップ時、攻撃力を元々の数値の倍に変化させる。このまま攻撃しても3600もの攻撃力をもって迎撃されるだけだ。
加えて墓地へ送ったヘツカは、場の武神と名の付く獣戦士族が効果の対象になった時、ゲームから除外することでその効果を無効にする。攻防共に優れた、非常に優秀なカテゴリー。それが武神なのだ。
「僕はカードを2枚伏せ、ターンエンド」
「へへっ、さすがにこの状況じゃ攻めてこれねえか。じゃあこっちから行くぜ、アニキ! 俺様のターン、俺様は〝武神器―ムラクモ〟を召喚!」
頭部が剣のように鋭い刃になった四足歩行の獣が〝ヤマト〟の隣に立ち、嘶(いなな)く。
「行くぜ! 俺様は、〝武神―ヤマト〟と〝武神器―ムラクモ〟でオーバーレイ! 2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚っ! 真の力を取り戻し、武士(もののふ)の神よ、顕現しろ! 〝武神帝―スサノヲ〟ッ!」
その姿は、身体中を武神器で武装した〝ヤマト〟。〝武神帝―スサノヲ〟がその神々しき姿を露わにした。
○武神帝―スサノヲ
ATK:2400
「〝武神帝スサノヲ〟……」
「これが俺様の新たなエースだ! さらに俺様は、〝スサノヲ〟の効果発動! オーバーレイユニットを1つ使い、デッキから武神と名の付くモンスター1体を手札に加えるか、墓地へ送ることができる! 俺様は〝武神器―ハチ〟を墓地へ送り、更に墓地の〝武神器―ムラクモ〟の効果発動!」
「墓地に……そうか、オーバーレイユニット!」
「そのとおりっ! 〝ムラクモ〟の効果。自分の場に武神と名の付く獣戦士族がいる時、相手フィールド上の表側表示のカードを1枚破壊する!」
「させない! 速攻魔法、〝デュアルスパーク〟! 場の〝アナザー・ネオス〟をリリースして、伏せカードを破壊する!」
〝スサノヲ〟の持つ剣が煌めき、振り下ろされると同時に、描いた弧がそのまま光の刃を象って〝アナザー・ネオス〟に迫るが、それにチェーンして発動された〝デュアルスパーク〟が光を放ち、〝アナザー・ネオス〟を黄金色に輝くエネルギーに変換した。それは手島の場へと一直線に向かっていく。狙いは――ヤマトの背後にある、伏せカード。
けれどそれが命中する前に、手島はそのカードを表にした。
「罠カード発動、〝剣現する武神〟! 2つの効果から1つを選択して発動するぜ! 俺様は、除外ゾーンの〝ムラクモ〟を墓地へ戻す」
表になった〝剣現する武神〟のカードを〝デュアルスパーク〟が貫いたが、その時には既に〝剣現する武神〟の放った光が手島のデュエルディスクを包み込み、除外ゾーンに置かれていた〝ムラクモ〟が墓地スロットへと吸い込まれていった。
「〝デュアルスパーク〟の効果で、カードを1枚ドロー」
「くそっ、けどまだ俺様には〝ハチ〟があるぜ! このカードをゲームから除外することで、相手フィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊する。俺様は残った伏せカードを破壊する。……俺様の手札には既に〝ハバキリ〟がいる。この攻撃が通れば終わりだぜ! 行け、〝武神帝―スサノヲ〟!」
手島の命に答えた〝スサノヲ〟が、声もなく構えて跳び上がった。黄金色に煌めく刃が遊輝に迫ろうとしたその時、その間に大盾を持った戦士が割り込み、遊輝の代わりに刃を受けた。
「〝ガガガガードナー〟を特殊召喚。さらに手札を1枚捨て、この攻撃では破壊されなくなる」
「ちぇっ、やっぱそう簡単にはいかねぇか……。でもそうこなくっちゃな! 俺はこれでターンエンドだ」
〝ガガガガードナー〟に攻撃を阻まれた〝スサノヲ〟が、表情の読み取れぬ顔にどことなく口惜しさを滲ませて手島の場へ帰っていく。それを見送って、遊輝はカードをドローした。
このターンはどうにか凌いだが、今の手島の場は盤石だ。場には攻撃力2400の〝スサノヲ〟を従え、墓地には〝スサノヲ〟を相手のカード効果から守る〝ヘツカ〟がある。仮に遊輝が〝スサノヲ〟を上回る攻撃力を持つモンスターの召喚に成功しても、手札には〝スサノヲ〟の攻撃力を倍にできる〝武神器―ハバキリ〟が控えている。まさに、攻守ともに完璧な布陣である。武神を中心に、様々な武神器達の効果を駆使して戦う。それが武神の戦い方であり、恐ろしいところでもあるのだ。
だが。そんな武神にも、無論弱点というものは存在する。
「僕はカードを1枚伏せる」
「……メインフェイズ1で、伏せカード?」
遊輝の行動に、手島は引っかかるものを感じて思わず呟いた。
魔法・罠カードというものは一部の例外を除き、バトルフェイズを終えた後のメインフェイズ2で伏せてターンエンドというのがセオリーである。カード効果などで破壊されるリスクを極力減らすためだ。それを知らぬ遊輝ではあるまい。現にこれまでのデュエルでは皆、彼はメインフェイズ2でカードを伏せていたのだから。
ならば、考えられることは1つ。まさに今、その〝例外〟が起ころうとしているのだということだ。
「僕は手札から、魔法カード〝手札抹殺〟を発動する!」
「なぁっ!?」
よもや遊輝が使用するとは思ってもみなかったカードの登場に、手島は度肝を抜かれ素っ頓狂な声を上げる。
「互いのプレイヤーは手札を全て捨て、その枚数分ドローする。さあ、手札を捨ててもらうよ?」
「うぐ……」
遊輝が捨てる手札は1枚。対する手島は実に4枚もの手札を捨てねばならない。それもただの4枚ではない。相手モンスターを迎撃する〝ハバキリ〟を含んだ4枚だ。手札に持っていたことから、おそらく魔法カードや、まだ召喚できていなかったモンスターなども含まれていることだろう。
その中には、或いは〝ヘツカ〟や〝ムラクモ〟、〝ハチ〟のような、墓地へ送ることで真価を発揮するカードもあったかもしれない。更に言えば、新たにドローした中に2枚目の〝ハバキリ〟があるのかもわからない。しかし、たった1枚だけでも明確な脅威を取り除いたことで、遊輝は更に勢いに乗る。
「今場に伏せた〝七星の宝刀〟を発動! 手札の〝エッジマン〟を除外して、2枚ドロー。魔法カード、〝ミラクル・フュージョン〟! 墓地の〝アナザー・ネオス〟と、〝バブルマン〟を融合!」
「〝バブルマン〟……? そうか、さっきの手札抹殺の時に……!」
「そうさ。……現れろ、〝E・HERO アブソルートZero〟ッ!」
遊輝の呼びかけに答え、融合の渦の中から現れたのは、全身を白装束で覆った絶対零度のE・HERO。地に降り立つと共に、霜が降りたように真っ白な冷気が噴き上がった。
○E・HERO アブソルートZero
ATK:2500
「更に僕は手札のもう1枚のカード、〝受け継がれる力〟を発動! 自分の場のモンスター1体をリリースして、もう1体のモンスターにその攻撃力を加える。僕は〝アブソルートZero〟をリリースして、〝ガガガガードナー〟へその攻撃力を加える!」
○ガガガガードナー
ATK:1500→4000
「攻撃力4000……いや、それより!」
一撃で初期ライフをも消し飛ばせる攻撃力を得た〝ガガガガードナー〟に一瞬目を奪われる手島であったが、さすがは彼だというべきか、すぐに遊輝の真意に気がついた。
「〝アブソルートZero〟は場から離れた時、相手フィールド上のモンスターを全て破壊する!」
「畜生っ……〝ヘツカ〟は、対象をとる効果しか防げねぇっ……!」
そう、〝武神器―ヘツカ〟が無効にできるのは、あくまでも武神を対象とした効果だけ。対して〝アブソルートZero〟の効果は、相手フィールド全てに効力を及ぼす全体除去。いかに武神の盾といえど、防ぐことなどできはしない。
「凍てつけっ!」
空色の光と化して〝ガガガガードナー〟へと溶けていった光とは別にその場に凝縮していた冷気が、遊輝の掛け声と共に一気に解放された。それは一直線に手島の場へと向かっていき、〝スサノヲ〟を一瞬にして氷漬けにした。
やがてその一部に亀裂が生じ、〝スサノヲ〟は自身を覆う氷ごと粉々に砕け散った。
「ちぇっ、ここまでか……」
「行くよ! 〝ガガガガードナー〟で、ダイレクトアタックッ!」
〝ガガガガードナー〟が大きく跳躍し、大盾を手島へ向け叩きつける。
4000もの攻撃をまともに受けた手島のライフは、一撃で0を刻んだ。
○手島
LP:4000→0
「くっそぅ、やっぱアニキはすげぇな!」
「ううん、手島君だって凄いよ。出たばっかりのカテゴリーを、もうここまで使いこなしてるんだから」
「ああ。この大会で、デッキの改良点も見えてきた。負けはしたが、俺様は大満足だったぜ! 決勝頑張れよ、アニキ!」
「うん!」
ARの衝撃で吹っ飛んだ手島を助け起こして、互いの健闘を讃え合う2人へ、観戦していた人々が拍手喝采を贈った。攻防としてはたった数ターンの味気ないものだったが、それでも彼らは満足しているように見えた。
「さて、じゃあ俺様は駿と一緒に応援に回らせてもらうとするか」
そんなことを言って手島が立ち上がった、その時。別の場所で行われていた準決勝第二試合の方からも歓声が上がった。青年が、手島がそうであったようにARの衝撃で吹っ飛び、呻く彼の頭上に現れたライフカウンターが彼の敗北を告げる。その対戦相手たる少女は、安堵の溜め息をつくと礼儀正しく一礼。
しかし、遊輝の視線は彼女の姿も、対戦相手だった青年の姿も捉えていない。
彼の目に映っていたのは――。
「……HERO」
おそらく最後の一撃を決めたのであろう、〝E・HERO アブソルートZero〟の凛々しき姿だった。
どうも、長らくお待ちいただきました読者の皆様はお久しぶりです。初めての方は初めまして。神崎はやてと申します。
リアルが忙しかったのと、VS手島のデュエル描写に迷った結果、ただでさえ遅い更新が更に遅くなってしまいました……; 申し訳ない。
さて、今回のお話はショップ大会のお話です。
前々から書きたかった話だったのですが、ここがちょうどいいタイミングだったのと、早くしないと本作品の時系列的にそろそろWDCが始まらないとおかしいので、ここで挿入することにしました。
手島(武神)との戦いがあっさり終わってしまったことに違和感を覚える読者様は数多くいらっしゃることでしょうが、大人の事情ということでご理解願えればと思います。ガチ構築だったらひとたまりもないですが、純武神デッキですからね……。
WDCでは手島君ももっとパワーアップしますので、武神ファンの皆様はご期待ください。
次回はVS宮田ゆま。ストーリーもちょこっと動くことになるかと思いますので、宜しくお願い致します。
ではでは、次回も宜しくお願い致します。神崎でした。