遊戯王ZEXAL ―BRAVE HEROES―   作:神崎はやて

13 / 22
ナンバーズ 13 心の揺らぎと動き出すもの

 ショップ大会の域を超え、大盛況の鶴屋ショップ大会。その決勝戦、田神 遊輝と宮田 ゆまの試合は、昼休憩を挟み午後に行われることとなった。手に汗握るデュエルを繰り広げた参加デュエリスト達、また彼らのデュエルに惜しみない歓声を上げていた観客達も、昼食をとるべく店を後にしていく。

 

「昼かぁ……。アニキ、どうするよ。俺たち何も持って来てねえぜ?」

 

 フリースペースの椅子に腰かけた手島が言う。遊輝達は元々、明日に控えたWDCに備えてデッキを強化する目的でここへ来た。昼頃にはどんな状況であれ一旦家に帰るつもりでいたため、昼食の備えなどは一切してきていない。手島の問いには遊輝も考え込まざるを得なかった。最悪の場合昼食抜きも覚悟しなければならないが、午後の決勝戦には万全の態勢で臨みたいし、何かしら腹に入れておきたい。

 かくなる上は、カード購入用に持ってきた小遣いを使うか――と、ここへ来た当初の目的を考えると最終手段と言う他ない手段に打って出る決意をしかけた、その時。

 

「あのぅ……」

 

「え?」

 

 透き通るような声が聞こえてきて、遊輝は振り返った。ハートランド学園高等部の制服を着て、栗色の髪の下に邪気のない微笑みを浮かべた少女。

 遊輝の決勝戦の相手、宮田 ゆまその人の姿がそこにあった。

 

「な、何だよっ。アニキの偵察に来たんなら無駄だぜ! どうしてもって言うなら、まずはこの俺様を……!」

 

「えと、そうじゃなくてですね……」

 

 警戒し、遊輝をかばうように立ちはだかる手島の言葉をやんわりと否定すると、ゆまは持っていた手提げの中を探り始める。ややあって彼女の右手と共に手提げの中から現れたのは――。

 

「お弁当、一緒に食べませんか?」

 

 とても大きな、弁当箱だった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「凄い……! これ全部、ゆまさんが作ったんですか?」

 

 店の近くにある公園のベンチに場所を移した遊輝達は、弁当箱を埋め尽くす色とりどりの料理の数々を前に思わず唾を飲み込んだ。

 

「はい。友達が一緒に出場するはずだったんですが、事情があって来られなくなってしまって……。私だけでは食べきれませんし、捨てるのももったいないですから。どうぞ食べてください♪」

 

「よっしゃ、そういうことなら遠慮なく! この唐揚げは俺様がもらったああぁぁぁぁっ!」

 

「あぁっ、ずるいっ……」

 

「へへーん、早い者勝ちだっての!」

 

 いつの間に用意したのか、持っていた箸を使い目にもとまらぬ早業で唐揚げを掠め取っていった手島に駿が悔しげな声を上げた。どうやら密かに狙っていたようだが、悲しいかな。唐揚げは既に、手島の胃の中だった。

 苦笑しながら、遊輝もまた箸を持ち手を合わせる。

 

「いただきます」

 

「はい、召し上がれ」

 

 まずは、手島が食べたのと同じ唐揚げを齧る。そんな遊輝をニコニコと満面の笑顔を浮かべるゆまがじっと見つめる。

 

「……美味しい」

 

「そうですか! 沢山ありますから、遠慮なく食べてくださいねっ」

 

 遊輝の言葉に満足したのか、自分の箸を用意することもなく弁当を勧めるゆま。子供とはいえ、男が3人いるのだ。あっという間に料理はなくなっていき、ついに全ての弁当箱の中身が3人の少年とゆまの腹の中に納まった。

 

「ふぃー、食った食った……」

 

「ご馳走様でした、ゆまさん」

 

「お粗末様でした。お口に合ってよかったですっ」

 

 腹を擦る手島や遊輝の姿を見て、ゆまも満足げに空になった箱をしまう。

 そこでふと気になった疑問を、遊輝は口にした。

 

「えっと、ゆまさんもWDCにエントリーしてるんですか?」

 

 強豪揃いの鶴屋ショップ大会。出場者の多くがWDC出場予定選手であると考えられる上、その大会で決勝にまで勝ち上がれる程の実力の持ち主なのだ。ならば、とあたりを付けた問いだったが、ゆまは首を横へ振った。

 

「私はただ……あのカードが、欲しかっただけなんです」

 

「あのカード、って……」

 

 ゆまは頷いた。

 今回のショップ大会の優勝賞品、〝E・HERO ジ・アース〟のレプリカ。HERO使いならば間違いなく、喉から手が出る程欲しい逸品である。けれどゆまがそれを欲する理由は、それだけではないようだった。

 

「私、昔からドジで弱くて……。だから、強いHEROに憧れてました。デュエルモンスターズを始めてからも、HEROカードの存在を知って、すぐに夢中になって集めたんです。……でも、2枚のカードだけはどうしても手に入らなかった……」

 

 ぽつりぽつりと、己のルーツを語り始めるゆまの思いが、遊輝にはよく解った。

 遊輝も同じだった。HERO達を華麗に操る、旧デュエルアカデミアの赤い制服に似た服を纏った男。彼に憧れたからこそ、遊輝もHERO使いになったのだから。遊輝の中では彼こそが至高の英雄であり、彼のように――彼の操るHERO達のように強くなりたかった。

 

「私、どうしてもこの大会は勝ちたんです。そして、あのカードが……欲しい」

 

「ゆまさん……」

 

 両手を握って、漲るモチベーションを露わにするゆまに遊輝もまた知らず知らずの内に、彼女のように手を強く握りしめていた。

 

「正々堂々戦いましょう、ゆまさん。どっちが勝っても恨みっこなしです」

 

「はい! こちらこそ、宜しくお願いします!」

 

 静かなる闘志を燃やしながら、2人は握手を交わした。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

『さあ、ギャラリーも戻ってきたことだし、そろそろ始めちゃうぞー!』

 

 相変わらず元気溌剌な伸子の言葉が、ギャラリーの騒めきにも負けない大きさで店内に響く。昼過ぎになり、昼前と同じ――否、むしろそれ以上の賑わいを見せるギャラリーが作る輪の中心に、デュエルディスクを構え対峙する遊輝とゆまの姿があった。

 

『赤コーナー、炎のHERO使い、田神遊輝ー! そして青コーナー、マイドリームマイヒーロー! 宮田ゆまー!』

 

「あはは、相変わらずだなぁ……」

 

「宜しくお願いしますっ!」

 

 奇抜な選手紹介に苦笑いせずにはいられない遊輝と、一応は乗ったのか、それとも素で理解していないだけなのか、はっきりとした挨拶をしながら頭を下げるゆま。反応はそれぞれ違えど、昼食の席で互いに高め合った闘志はどちらも負けてはいない。

 

『うんうん、2人とも気合十分だね! それじゃあ、いつまでも長々と前置きするのも面倒だ! そんなわけで……鶴屋第1回ショップ大会決勝デュエル、試合開始っ!』

 

「「デュエルッ!」」

 

○遊輝

LP:4000

 

○ゆま

LP:4000

 

「先攻は私ですね。ドロー」

 

 デュエルディスクが決定した先攻はゆま。カードをドローし、やや逡巡するそぶりを見せた後、手札を選び取りディスクへと運んでいく。

 

「私は、モンスターを守備表示でセットします。カードを1枚伏せて……これでターン終了ですっ」

 

「僕のターン、ドロー。〝E・HERO エアーマン〟を攻撃表示で召喚。効果でデッキからHERO1体を手札に加えます。〝E・HERO フェザーマン〟を手札に加え……融合! 手札の〝フェザーマン〟と、〝バーストレディ〟を融合! 現れろ、〝E・HERO フレイム・ウィングマン〟!」

 

 〝エアーマン〟のサーチから、流れるような融合。安心できる程ではないが、それでも序盤の展開としては申し分ない。

 

「バトル! 〝フレイム・ウィングマン〟で守備モンスターを攻撃!」

 

 フレイム・ウィングマンの右腕の龍の咢(あぎと)に炎が溜まっていくのに反応して、裏側表示のカードが表になった。〝E・HERO フォレストマン〟。HEROの中でも高い守備力を持つ優秀な壁モンスターであり、遊輝もデッキに採用しているモンスターだ。腕をクロスさせ防御の構えをとっていた〝フォレストマン〟に、〝フレイム・ウィングマン〟の炎が襲い掛かる。〝フォレストマン〟は攻撃に耐えきれず破壊され、火の粉が余波となってゆまにも襲い掛かった。

 

 

○ゆま

LP:4000→3000

 

 

「〝フレイム・ウィングマン〟の効果。破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与えます!」

 

「罠カードを発動します! 〝ヒーロー・シグナル〟で、デッキからE・HEROと名の付くモンスター1体を特殊召喚しますっ。来て、〝クレイマン〟!」

 

 〝フレイム・ウィングマン〟が破壊した〝フォレストマン〟のいたところから立ち上る煙の中から光が放射され、鶴屋の天井にARヴィジョンのHのマークが浮かび上がる。サインに応え現れたのは、〝E・HERO クレイマン〟。〝フォレストマン〟同様、両腕を交差させ守備の構えをとる〝クレイマン〟の守備力は2000。攻撃力1800の〝エアーマン〟では勝てない。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドです」

 

「私のターン。……ふぅ。まずはこつこつと、ですね。こっちも負けていられませんっ。私も手札の魔法カード、〝融合〟を発動します! 手札の〝オーシャン〟と場の〝クレイマン〟を融合して……来て、〝アブソルート Zero〟!」

 

「早速来たか……!」

 

 最強のHEROとも称される、絶対零度のE・HERO。〝アブソルート Zero〟が極寒の冷気を纏って静かに場に降り立った。その威圧感たるや、遊輝の持つ〝ネオス〟にも迫るものを遊輝は感じていた。

 

「いきます! 〝アブソルートZero〟で、〝フレイム・ウィングマン〟を攻撃します!」

 

「くっ……!」

 

 冷気と炎、2つの相反する力が激突する。常識的に考えるならば炎が勝つと考えるところだが、生憎とこれはデュエルだ。〝フレイム・ウィングマン〟の放つ強大な炎もそれをも上回る絶対零度の前に敗れ去り、〝フレイム・ウィングマン〟を粉々に吹き飛ばす。

 

○遊輝

LP:4000→3600

 

「やりましたっ! カードを1枚伏せて……これでターンエンドですっ」

 

 握り拳で喜びを露わにするゆまに遊輝は頬を流れる冷や汗を拭い、デッキトップに指をかける。

 

(ゆまさん、凄い気迫だ……!)

 

 それだけあのカードが欲しいのだろう。彼女の思いは、本物だということだ。

 だが、〝ジ・アース〟が欲しいのは彼女だけではない。遊輝とて、あのカードを見たその瞬間から並々ならぬものを感じていたのだから。負けるわけにはいかないのは遊輝も同じ。

 

「ドローッ!」

 

 気合を込めてカードを引き、次の手を再考する。ゆまの場にいる〝アブソルートZero〟は、最強のHEROの呼び名に相応しい強力な効果を備えている。1つは、場の水属性モンスター1体につき攻撃力を500ポイント上昇させる効果。そしてもう1つ、場を離れた時に相手フィールド上のモンスターを全て破壊する効果だ。特に2つ目の能力は強力で、迂闊に手を出すと危険であることは明白。ならば――。

 

「僕は手札から、〝E・HERO オーシャン〟を召喚! そして手札から魔法カード、〝ミラクル・フュージョン〟を発動。場か墓地から決められた融合素材モンスターを除外し、エクストラデッキからE・HEROと名の付く融合モンスター1体を特殊召喚する! 場の〝オーシャン〟と墓地の〝バーストレディ〟をゲームから除外し……融合! 現れろ、絶対零度のE・HERO! 〝アブソルートZero〟ッ!」

 

 対峙するのは、純白の衣を纏いし戦士。遊輝の場に降り立った〝アブソルートZero〟が、辺りに漂っていた白い冷気を更に色濃くする。

 

「凄いです、〝アブソルートZero〟同士の対決なんて!……あ、でも、攻撃力は互角。〝アブソルートZero〟同士で相打ちしても、〝アブソルートZero〟の効果が発動して、〝エアーマン〟も破壊されてしまいますよ……?」

 

「百も承知ですよ、ゆまさん。僕は更に手札から速攻魔法、〝マスクチェンジ〟を発動。場の〝E・HERO〟1体をリリースして、同じ属性の〝M・HERO〟をエクストラデッキから特殊召喚します!」

 

「〝アブソルートZero〟を、リリース……!?」

 

「猛き激流の仮面を纏い……変身せよ! 〝M・HERO ヴェイパー〟を特殊召喚!」

 

 魔法カード、〝マスクチェンジ〟の効果で現れた仮面が〝アブソルートZero〟に装着され、光と共にその姿を変えていく。その光を破り現れたのは、真っ青な鎧をまとい三又の槍を携えた戦士。

 〝M・HERO〟。〝E・HERO〟とも違う、新たなHEROの誕生であった。

 

 

○M・HERO ヴェイパー

ATK:2400

 

 

「リリースされた〝アブソルートZero〟の効果発動。このカードが場を離れた時、相手フィールド上のモンスターを全て破壊する!」

 

「ま、待って! こっちも〝アブソルートZero〟の効果を発動します! これで遊輝君の場のモンスターも全滅ですっ!」

 

 遊輝の〝アブソルートZero〟の放った冷気がゆまの〝アブソルートZero〟を飲み込み、更に激しさを増し吹雪のようになった烈風が遊輝の場をも覆い尽くす。激しい風がAR空間を遅い、一時の間視界を奪った。

 やがて、吹雪が収まっていく。元の静けさを取り戻した場に、モンスターの姿はなかった。〝アブソルートZero〟も、〝エアーマン〟も、あの激しい吹雪の中に消えていったのだ。

 ただ1つ――長槍を携えた、仮面の戦士を除いては。

 

「え……ど、どうして……!?」

 

「〝M・HERO ヴェイパー〟は、相手の魔法・罠・モンスターの効果では破壊されないモンスター。〝アブソルートZero〟の効果は確かに強力だけど、このモンスターはそれをも跳ね返す力を持っているんです」

 

 あの凄まじい冷気の嵐をその身に浴びても傷1つない〝ヴェイパー〟を前に、ゆまは目を輝かせてその勇姿を見つめていた――が、まだデュエルは続いている。申し訳なく思いながらも、遊輝は攻撃宣言をした。

 

「バトル。〝M・HERO ヴェイパー〟でダイレクトアタック! 〝フリアティクエクスプロージョン〟!」

 

「あうぅっ!?」

 

 

○ゆま

LP:3000→600

 

 

 突然の攻撃にゆまは目を回して倒れ込みかけ――寸前で踏みとどまった。ふらふらとたたらを踏み、はっと思い出したように慌ててデュエルディスクのボタンを押す。

 

「と……罠カード発動ですっ! 〝ダメージ・コンデンサー〟! 手札を1枚捨て、受けたダメージ以下の攻撃力を持つモンスター1体を特殊召喚します。〝エアーマン〟を特殊召喚して、効果で〝ザ・ヒート〟を手札に加えますっ」

 

「僕はこれで、ターンエンドです」

 

 遊輝の2ターン目を終え、互いにモンスターは1体ずつ。今の攻防でライフポイントでは大きく優位に立つことができた遊輝だが、彼の手札が0枚であるのに対し、ゆまには未だ2枚の手札と〝エアーマン〟が残っている。まだまだ気は抜けない。

 カードをドローしたゆまは、その表情を変えた。

 

「遊輝君、貴方は強いです。でもこのデュエル、私も負けたくないんです。だから……本気でいきますっ!」

 

 ゆまの決意に、遊輝は身構えた。

 

「〝ザ・ヒート〟を召喚します。これで私の場には、レベル4のモンスターが2体。この2体で、オーバーレイ!」

 

 〝ザ・ヒート〟と〝エアーマン〟が、それぞれ真紅と藍色の光と化して天へ昇っていく。そういえば、HEROのエクシーズ召喚を敵の立場から眺めるのはこれが初めてか。ゆまのエクシーズ召喚を見つめながら、遊輝は漠然とそんなことを考えていた。

 

「2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 来て、〝ズババジェネラル〟!」

 

 

○ズババジェネラル

ATK:2000

 

 

 現れたのは全身を鎧で覆った、ズババの名を冠された騎士。攻撃力は2000と若干心許ないが――。

 

「〝ズババジェネラル〟の効果を発動します。1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使って、手札の戦士族モンスターを装備し、その攻撃力分このモンスターの攻撃力をアップします! 手札の〝プリズマー〟を装備し、攻撃力1700ポイントアップです!」

 

「攻撃力、3700……!」

 

 装備された〝プリズマー〟の力を得て、〝ズババジェネラル〟の剣に宿るオーラが膨れ上がっていく。攻撃力だけなら下手な上級モンスターすらも寄せ付けない豪傑へと姿を変えた、〝ズババジェネラル〟。しかし、ゆまの攻勢はこれだけでは終わらなかった。

 

「更に私は魔法カード、〝ミラクル・フュージョン〟を発動します。墓地の〝クレイマン〟と〝エアーマン〟を除外して……融合召喚! 〝E・HERO Great TORNADO〟! 効果発動。遊輝君のフィールド上のモンスターの攻撃力は半分になります!」

 

 

○M・HERO ヴェイパー

ATK:2400→1200

 

 

「まずい、この攻撃を食らったらアニキは……!」

 

「遊輝君……!」

 

 外野で対戦を見守っていた手島と駿が悲鳴を上げる。このままでは遊輝のライフはオーバーキルで消滅してしまう。烈風に煽られ力を奪われた〝ヴェイパー〟の後ろで、遊輝も苦渋の表情を浮かべた。

 

「そしてバトルです。〝Great TORNADO〟で〝ヴェイパー〟を攻撃です!」

 

「くっ……させない! 罠カード、〝攻撃の無敵化〟。2つの効果から1つを選んで発動する。僕のこのバトルフェイズで受ける戦闘ダメージを0にする」

 

 〝Great TORNADO〟が放った烈風が〝ヴェイパー〟を貫く。これで遊輝の場にはモンスターがいなくなった。が、このターン遊輝が受けるダメージは、〝攻撃の無敵化〟の効果により無効となる。

 

「うう、防がれちゃいました。でも次で倒します! ターンエンドですっ!」

 

「僕のターン……」

 

 デッキにかけた遊輝の指が止まる。気づけば、指は震えていた。ただのショップ大会、No.を巡るデュエルとは違い、負けても何も失うもののないこの戦いで、それでも遊輝は震えていたのだ。

 その震えの正体が恐怖でないことはすぐに解った。熱い戦いを繰り広げるHERO達を間近で見た興奮が、全身に伝わっているのだ。

 手札は0。場にはモンスターも伏せカードもない。この圧倒的不利な状況で。それでも遊輝は笑っていた。

 

「……ドローッ!」

 

 一息にカードを引いた。そのカードを確認し、遊輝はわずかに口元に笑みを浮かべると、それをデュエルディスクへ装填する。

 

「〝レスキューラビット〟を召喚」

 

「わぁ、兎さんですっ」

 

 ポン、とコミカルな効果音と共に現れた、ヘルメットをかぶった兎。ゆまが女の子らしい反応をする一方で、遊輝はここへきての己の引きの強さに感謝していた。

 

「ゆまさん、僕はこのターンで貴方に勝ちます! 〝レスキューラビット〟の効果発動。フィールド上のこのカードをゲームから除外し、デッキの同名通常モンスター2体を特殊召喚する! 来い、2体の〝スパークマン〟!」

 

 跳び跳ねた〝レスキューラビット〟がくるりと空中で一回転すると光と共に姿を消し、その呼びかけに応えた雷のHEROがフィールドに舞い降りる。

 

「モンスターが2体……まさか!?」

 

「僕は、レベル4の〝スパークマン〟2体でオーバーレイ! 2体の戦士族モンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚っ!」

 

 2体の〝スパークマン〟が、黄金色の光の残滓をまき散らして天空へ舞い上がる。

 

「天衣無縫の剣を携えし英雄よ、降臨せよ! 〝H・C エクスカリバー〟ッ!」

 

 雷をバックに降臨した戦士は、全身を褐色の鎧で覆っていた。大剣を携え、鋭い眼光がゆまへと向けられる。それに怯みそうになるゆまだが、エクスカリバーの攻撃力表示を前に安堵の溜め息をついた。

 

「攻撃力2000……。これなら大丈夫です」

 

「安心するのは早いですよ! 〝エクスカリバー〟の効果発動。オーバーレイユニットを全て使い、次の相手ターン終了時まで攻撃力を元々の攻撃力の2倍にする!」

 

 

○H・C エクスカリバー

ATK:2000→4000

 

 

「攻撃力、4000……」

 

「行きます! 〝エクスカリバー〟で、〝Great TORNADO〟を攻撃! 一刀両断……必殺真剣っ!!」

 

「あ……あああぁぁぁぁっ!」

 

 〝エクスカリバー〟が大きく振りかぶった大剣が、〝Great TORNADO〟を脳天から両断する。その爆発の余波がダメージとなって、ゆまのライフポイントを削りきった。

 

 

○ゆま

LP:600→0

 

 

『き……決まったー! 白熱のデュエルを制したのは遊輝選手! というわけで……第一回鶴屋ショップ大会! 優勝は、田神遊輝選手に決定したぜええぇぇぇぇっ!』

 

 ゆまのライフが0になった瞬間、静まり返った鶴屋の店内。ARヴィジョンが解除されても尚、誰も動くことができず静寂が支配していたその場を、いち早く我に返った伸子の声が響いた。

 次の瞬間、同様に我に返ったギャラリーたちの歓声が大瀑布のように溢れ出た。各々が各々の言葉で、勝者の遊輝を――そして、健闘したゆまに声援を送る。

 

「いいデュエルでした」

 

 ARの衝撃で尻餅をついたゆまに、D-ゲイザーを取った遊輝が手を差し伸べる。呆然としていたゆまも、ややあって我に返るとその手を取り、立ち上がった。

 

「あ、ありがとうございました。遊輝君、強いんですねっ」

 

「いや、僕もぎりぎりでした。あそこで〝レスキューラビット〟が引けなかったら、〝ズババジェネラル〟の攻撃力に圧殺されてましたよ」

 

 ゆまの素直な賞賛に遊輝は肩を竦める。確かに勝ったのは遊輝だが、最後のドローで〝レスキューラビット〟を、或いはそれに代わる逆転のカードをドローできていなければ負けていたのは確実に遊輝の方だ。そう考えれば、この勝利は偏に運が遊輝に味方した結果と言える。

 けれどゆまは、違いますよ、と首を横へ振った。

 

「運も実力の内って言います。きっと遊輝君の実力にHEROが応えてくれたんですよ。……でも」

 

「……でも?」

 

 負けたのにニコニコと非常に晴れやかな表情で賞賛の言葉を口にするゆまが、最後で若干表情を暗くする。思わず聞き返した遊輝にゆまが言った言葉は、遊輝に少なくない衝撃を与えた。

 

「貴方のデッキ……なんだか、寂しそう」

 

「……え」

 

 どきりとした。唐突な彼女の言葉は、それだけでは意味も解らぬもの。けれど、遊輝には彼女の言葉に心当たりがあった。

 遊輝は普段、HEROデッキを表舞台に立たせようとはしなかった。表舞台で戦うデッキは、いつも遊輝が道端などに無造作に落ちていたカードたちをかき集めたもの。よほど大事なデュエルでなければ、HEROを――〝ネオス〟を戦わせようとはしなかった。

 けれどWDCに出場するにあたり、遊輝はどうしてもHEROで大会に出たくなった。今の自分の力で、プロデュエリスト達も参加するこのデュエルの祭典でどこまで戦えるのか。それを試してみたくなったのだ。けれどやはり、〝ネオス〟を戦わせて見世物にするのも嫌だった。その結果、生まれたのがこのデッキ。〝ネオス〟もNo.も抜いて、それらの切り札がなくても戦えるように改良したデッキだ。そう、この大会で使ったデッキには、彼の相棒であるはずの〝ネオス〟は最初から入っていなかったのである。

 今日初めて会ったゆまがそのことを知っているはずがないのだが、きっと彼女は、遊輝のデュエルから何かを感じ取ったのだろう。冷や汗を流す遊輝の目の前で、ゆまははっとして両手を振った。

 

「あ……ご、ごめんなさい変なこと言って! 意味解らないですよね。忘れてくださいっ」

 

「え、あ……えっと」

 

「そんなことより……ほら。シャチョー待ってますよ」

 

 ゆまの指し示す方を、遊輝は振り向いた。そこでは彼女の言うとおり、満面の笑顔を浮かべ、後ろ手に何かを持った伸子が遊輝を待っていた。

 

『では、早速優勝賞品授与へ移るっさー! 優勝者の田神 遊輝君、前へどぞどぞ♪』

 

「あ……は、はいっ」

 

 慌てて前へ出る遊輝へ、差し出される1枚のカード。ガラスケースの中に厳重に保管されたそれは、紫色の縁の中に、地球を背にした純白の戦士の姿が映し出されている。

 

「これが……〝ジ・アース〟。プラネットシリーズの1つ……!」

 

 感嘆の声を上げる遊輝だが、ふとあれほどこのカードを欲しがっていたゆまの様子が気になって彼女の方を見た。しかし彼女は、まるで自分がそのカードを手にしたかのように嬉しそうな笑顔を浮かべて、他のギャラリーと同様、祝福の拍手をこちらへ送っているだけ。その表情に陰りは一切見受けられなかった。

 

「いやっほぉ! さっすがアニキだぜええぇっ!」

 

「おめでとう、遊輝君!」

 

「手島君、駿君……ありがとう」

 

 まるでショップ大会ではない、もっと大きな大会に優勝したかのような大きな歓声と拍手に包まれ、遊輝は喜びに表情を綻ばせる。

 そうだ、これは勝ち取った勝利。己の実力で勝ち上がり、掴み取ったものだ。ならば、何も罪悪感など感じる必要はない。ただ今は喜びを噛み締め、明日からのWDCへの足掛かりにするべきだ。

 そう考えた遊輝は、満面の笑みでギャラリーへ向けて手を振り返した。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「ふぅ……凄かったな、今日のショップ大会」

 

 その夜。遊輝と手島の2人と別れた駿は、1人遊歩道を歩いていた。

 自分は予選で負けてしまったが、遊輝と手島――とりわけ、決勝戦の遊輝のデュエルは見事なものだったと駿は思った。自分にもあんなデュエルができたら、きっと最高だろう。そう考えるも、駿はすぐその考えを捨てた。

 

(僕に、あんなデュエルできっこないよ……)

 

 相手の強いエースを見るだけですくみ上ってしまうような臆病な自分が、熱いデュエルを繰り広げるなんて夢のまた夢だ。そう考え諦めてしまう弱い自分に気づき、また気分が沈む。これではいけないと思っていても、どうしても勇気が出なかった。

 ふと、懐からハートピースを取り出す。ハートマークの形をした金色の縁の内に光る、赤いハートの欠片が月明かりを反射して輝いている。

 

(せめて、明日のWDCはちゃんとしなきゃ……。戦いたい、手島君と……遊輝君と)

 

 あの2人の実力なら、決勝トーナメントにも出場できるかもしれない。ならば、相応の度胸を身に着けなければ、今の自分では彼らと戦うことすら叶わないかもしれない。ともすればすぐにでも挫けそうになる決意を固めて、強くハートピースを握りしめた――その時。

 

 

 

「貴様……WDC出場者か?」

 

 

 

「え?」

 

 突然、人影のなかった夜の遊歩道に響き渡る声。駿が背後を振り返ると、そこには全身を黒いローブのようなもので覆った人影が立っていた。

 明らかに怪しいその容貌に内心で驚きや恐怖を感じながら、なけなしの勇気を振り絞って駿は問いかけた。

 

「あの……あ、貴方は?」

 

「我のことはどうでもよい。それより我が問いに答えよ。貴様は、WDC出場者か?」

 

「そ、そうですけど……」

 

 くぐもったような、どこか気味の悪い声に恐る恐る答えた駿。その返答を聞いた影のローブに隠れた口元が邪悪に歪んだように見えて、駿は思わず後ずさる。

 〝これ〟は危険だ。そう身体は警告を発しているが、足が動かない。

 

「ならば、貴様の力……我が糧としてくれよう」

 

 影の腕に闇が収束し、禍々しい形状のデュエルディスクの形を成す。

 

 

 

 

 その後間もなく上がった悲鳴を聞いた者は、誰もいなかった。

 




どうもお久しぶりですー、神崎です。

長らくお待たせしてしまって申し訳ないです(汗 非常に忙しかったのと、風邪をこじらせてしまい書いている余裕が全くなかったものですから……。
急ピッチで仕上げたのでデュエルの内容に不備があるかもしれませんが、ご指摘はどうかお手柔らかに(汗

さて、内容ですがVS宮田ゆま、いかがでしたでしょうか。
HEROミラーは何度もやったことはあるものの書くのは初めてなので、難しかったですが面白かったです。最初は融合ばっかりの融合合戦だったのですが、さすがにそれだとワンパターンすぎて面白くないだろ、ということでいろいろ入れました。やっぱりゼアルなんだからエクシーズしないとw

最後のところで若干物語加速させました。そろそろ何か動きがないとただカードゲームやって終わるだけの作品になってしまいそうなので(汗

次回以降の展開にご期待ください。

あ、それと活動報告の方にも書きましたが、当作品執筆当初より公募していましたオリカの公募を全面的に中止致します。
応募していただいたアイディアは、今後の執筆に大いに役立てさせていただきます。皆様、たくさんのご応募本当にありがとうございました。


そして主人公の新しい名前に関してですが、いろいろ考えた末、「遊輝」に決定致しました。アイディアを下さいましたヒサヤ様、ありがとうございました。
今回は変更なしとしましたが、次回の更新までに少しずつ修正し、次回からは新しい名前で書いていこうと考えています。どうか宜しくお願い致します。


では、次回まで暫しの別れを。そして皆様、よいお年をお過ごし下さい。

以上、神崎でした。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。