遊戯王ZEXAL ―BRAVE HEROES―   作:神崎はやて

18 / 22
ナンバーズ 18 可能性の力

○遊輝

LP:2900

 

○謙羊

LP:2700

 

 

「うあああぁぁぁぁぁっ!」

 

 〝マタンゴ〟3体分の毒胞子は生理的な嫌悪感だけではなく、物理的なダメージをも少なからず遊輝へ与えていた。さすがに3倍の量ともなれば、その質量も密度も並の物ではない。身体についたARヴィジョンの胞子を払い落とし、遊輝は再度身構えた。

 

 

○遊輝

LP:2900→2000

 

 

 ライフがついに半分にまで減少した。ここが折り返し地点。後3回ダメージを受ければ、遊輝の敗北が決定する。果たして残された3ターンで、どこまでのことができるのか。一抹の不安を振り払うように頭を左右にぶんぶんと振ると、遊輝は状況を確認する。

 自分フィールド上には、〝マタンゴ〟が3体と、守備表示の〝アナザー・ネオス〟が1体。効果ダメージを止めるにはなんとかして〝マタンゴ〟を排除する必要があるが、謙羊の場に〝ナイトメア・アルミラリタ〟が存在する限り、遊輝はこれらをエクシーズ素材にすることも、アドバンス召喚のためにリリースすることもできない。更に〝ナイトメア・アルミラリタ〟はNo.であり、No.以外のモンスターとの戦闘では破壊されない――。

 

(なんとかしてNo.のエクシーズ召喚か、〝ナイトメア・アルミラリタ〟の効果破壊に繋げないと……)

 

 そう考え、続いて手札に視線を落とす。フィールドには既に、レベル4の〝アナザー・ネオス〟。あと1体、レベル4のモンスターを召喚できれば、エッジをはじめとしたEXNo.をエクシーズ召喚できる。だがそのためには、謙羊の場に残された伏せカードが邪魔だ。もしあれがエクシーズ召喚を妨害したり、モンスターを除去する罠であった場合、無駄にモンスターを失うばかり。

 そして、手札には〝マスク・チェンジ〟。フィールド上のHERO1体を墓地へ送り、エクストラデッキからM・HEROと名の付くモンスターを融合召喚扱いで特殊召喚する魔法カードだ。M・HEROには強力なモンスターも多い。が、カードを直接除去することができる効果を持っているカードもなく、またNo.でもないため〝ナイトメア・アルミラリタ〟を戦闘破壊することもできない。

 だが遊輝はそのカードから何かを見出したのか、僅かに目を見開くと、別のカードを手に取る。

 

「僕は〝E・HERO オーシャン〟を召喚!」

 

 これで遊輝の場には、レベル4のHEROが2体。エクシーズ召喚をしようと思えばできる。だが、おそらく謙羊のデッキが〝ナイトメア・アルミラリタ〟を守るための罠カードがたっぷりと入っているであろうことは遊輝にも解っている。このままむざむざとやられるためだけにNo.を出すわけにはいかない。

 

(仕掛けるなら、〝ナイトメア・アルミラリタ〟を突破する算段をつけてから。そのためには……あの伏せカードが邪魔だ!)

 

「手札から速攻魔法、〝マスク・チェンジ〟を発動! フィールド上のHERO1体を墓地へ送り、そのモンスターと同じ属性のM・HERO1体をエクストラデッキから特殊召喚する! 僕は〝オーシャン〟を選択し、変身召喚! 〝M・HERO アシッド〟ッ!」

 

 水の仮面を纏い、深い青の光に包まれた〝オーシャン〟が変身していき、酸の力を得た仮面の戦士へと姿を変えていく。

 

「効果発動! 〝アシッド〟は特殊召喚に成功した時、相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊し、相手フィールド上のモンスター全ての攻撃力を300下げる! 〝Acid rain〟!」

 

 天高く撃ち上げた〝アシッド〟の弾丸が空中で破裂し、酸性雨となって謙羊のフィールドに降り注ぐ。この効果が通れば、後は〝ナイトメア・アルミラリタ〟を残すのみとなり、まだ強力なNo.をエクストラデッキに有している遊輝が断然有利となってくるが――。

 

「……まだまだ甘い。カウンター罠、〝大革命返し〟」

 

「なっ!?」

 

 冷静に考えてみれば当然のことだった。カウンター罠を多用し相手の行動を妨害する、パーミッションと呼ばれるタイプのデッキを使う謙羊が、罠デッキの天敵とも言える魔法カード、〝大嵐〟に類する効果を持つカードへの対策を考えていないはずがなかったのだ。

 

「〝大革命返し〟は、相手がカードを2枚以上破壊する効果を発動した時、その発動と効果を無効にしゲームから除外する」

 

 苦しげな声を上げて、自らが放った酸の雨ごと次元の狭間に吸い込まれていく〝アシッド〟。結局は無駄に終わったことに遊輝は歯噛みする。

 

「……カードを1枚伏せてターンエンド」

 

 やはり伏せカードの壁は厚かった。続く謙羊のターンはカードを1枚伏せるだけで終了し、再び遊輝のターンが訪れる。

 

「ドロー……」

 

 

○遊輝

LP:2000→1100

 

 

 毒胞子のダメージが止まらない。もはや下級モンスターの直接攻撃でも勝負がついてしまう数値にまでなってしまった遊輝の表情に、焦りの色が濃くなっていく。刻一刻と削られていくライフが、まるで導火線のようにじわじわと遊輝の心を追い詰めていく。

 

(どうする……どうすればいい……!?)

 

 謙羊の伏せカードは2枚に戻っている。このままでは前のターンと全く同じ状況で、遊輝は選択を迫られていた。先のターンと違い、遊輝の手には謙羊の伏せカードを破る手段がない。このままエクシーズ召喚を狙ったとしても、伏せカードで迎撃される可能性が高い。

 

(それでもいくしかない……。どのみち手を拱いてたらダメージを受け続けて負けてしまう。少しでも伏せカードを削りながら、チャンスが訪れるのを待つ……!)

 

 きっ、と遊輝は虚ろな眼差しでじっと黙したまま遊輝が動くのを待っている謙羊を真正面から見据えた。ライフポイントも後僅か。たった数枚の伏せカードに、恐れている場合ではない。遊輝は覚悟を決めた。

 

「〝E・HERO ブレイズマン〟を攻撃表示で召喚。そして効果発動、〝融合〟を手札に加える」

 

 ショップ大会の後、鶴屋で買ったカードパックにたまたま入っていたカード、〝ブレイズマン〟。召喚に成功すると、デッキから〝融合〟を手札に加えることができるカードだ。謙羊のフィールドには伏せカードが2枚。素直にNo.による戦闘破壊を許してくれるとも思えないこの状況では、少しでも次につながる手を選ぶのが望ましい。

 

「更に、フィールドの〝ブレイズマン〟と、〝アナザー・ネオス〟でオーバーレイ。2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚っ! 現れよ、〝No.34 アビス・イレイザー〟!」

 

 邪悪な剣のモニュメントが現れ、凶戦士へと形を変えていく。

 

『む、我ではないのか』

 

 隣で経過を見守っていたエッジが心なしか若干不満げに呟くが、今は切り札であるエッジは少しでも温存しておきたいというのが遊輝の本音だった。故に、同じNo.であり、攻撃力も申し分ない〝アビス・イレイザー〟で牽制を図ることにする。

 可能性は低いが、仮にこの攻撃で〝ナイトメア・アルミラリタ〟を破壊できれば、残る〝マタンゴ〟達のダイレクトアタックで勝負は決する。

 

「〝マタンゴ〟を全て攻撃表示に変更して、バトル! 〝アビス・イレイザー〟で、〝ナイトメア・アルミラリタ〟を攻撃! 冥葬斬っ!」

 

 魔剣が巨大茸に迫る。が、大樹のように巨大なそれを切り裂くより早く、その挙動に敏感に反応した謙羊の手が、デュエルディスクのボタンに届いた。

 

「罠カード、〝強制脱出装置〟。〝アビス・イレイザー〟をエクストラデッキへ戻す」

 

「! やっぱり、罠……!」

 

 大きく跳躍し、今にも斬りかかろうとしていた〝アビス・イレイザー〟の足元から黄金色の光が噴き上げ、跡形もなく消し去ってしまう。〝強制脱出装置〟は、対象のモンスター1体を手札に戻す罠カード。普通のモンスターであれば手札に戻るだけなので再召喚すれば済む話だが、〝アビス・イレイザー〟はモンスターエクシーズ。戻るのは手札ではなくエクストラデッキであり、再召喚するためには再び条件に合ったモンスターを場に揃えなければならない。エクシーズ召喚するために必要なカード枚数を考えれば、決して小さな損害ではない。そして唯一遊輝の場で〝ナイトメア・アルミラリタ〟の守備力を上回る攻撃力を持っていた〝アビス・イレイザー〟が消滅したことで、布陣を突破する手段もなくなってしまった。次のターンがくれば再び900のダメージが遊輝を襲い、ライフポイントは僅か200しか残らない。

 

「……カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 猶予はたった1ターン。まさしく遊輝にとって絶体絶命の場面で、この状況を作り上げた謙羊は静かにカードをドローする。

 

「……遊輝君、もう諦めなって。これで俺がターンエンドを宣言すれば、君のライフは200。どう足掻いたって勝ち目は……」

 

「僕は絶対に諦めません……貴方を元に戻すまでは!」

 

 口にするのは、断固とした決意。ともすれば少しの切っ掛けで崩れてしまいそうな程追い詰められながら、それでも遊輝ははっきりとその言葉を口にする。そんな遊輝の迷いのない目に謙羊は顔を伏せると、何事かを呟いた。

 

「……でだよ」

 

「……え?」

 

「なんで……なんでそんなに必死になるんだよ! 何がお前をそこまで駆り立てるって言うんだっ!?」 

 

 ずっと、淡々とデュエルを進行し、一度として感情を昂ぶらせたことなどなかった謙羊が突如声を荒げたことに、遊輝は驚いて言葉を詰まらせた。けれどそれも一瞬のことで、柔らかい微笑みを浮かべてその問いに答える。

 

「簡単なことです。僕は、謙羊さんに昔の輝きを取り戻してもらいたい。……ただ、それだけです」

 

 昔を懐かしむように、遊輝は静かに目を閉じた。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

 遊輝の家は、幼い頃に父が他界してからというもの、職場の関係上家を空けることが多い母のおかげで、殆ど遊輝と百合の2人でやりくりしていかなければならなくなった。当初こそ祖父の玄六が2人の面倒をみていたが、遊輝と百合が2人で生活できるようになったと見るや、すぐにまた奔放なカード探しの旅へと戻っていってしまった。

 しっかり者であるとはいえ、2人はまだ子供の身。親もなく、2人で暮らしていくことに寂しさを感じることも多い。そんなある日、近所に越してきたのが謙羊だった。謙羊は2人に熱く語った。デュエルモンスターズの店を開くのが夢であるということ。両親に反対されてはいるものの、それでもどうしても実現したい目標であるということ。そして――いかにデュエルモンスターズが素晴らしいものであるのかということを。

 当時既にHERO使いになることを決意していた遊輝は、カードを集める傍ら、謙羊からデュエルのイロハを学んだ。基本ルール、カードプレイング、様々な組み合わせにより生まれる無数のコンボバリエーション。謙羊の持つその全てを、遊輝は余すことなく吸収した。

 

「ねえねえ。謙羊お兄ちゃんは、お父さんとお母さんと離れ離れで寂しくないの?」

 

 そんなある日、いつものようにデュエルを教えてもらった帰り道に、遊輝は謙羊にそう問いかけた。親が傍にいない寂しさを知っている、遊輝だからこその問いかけ。それに対し謙羊は、どこか罰が悪そうに頬を掻きつつも答えた。

 

「確かに、全く後悔してないって言ったら嘘さ。けど、僕は自分の力を試してみたいんだ。僕の未来は僕自身の手で切り開けるんだってことを、この手で証明したい。だから……ちょっと寂しいけど、夢が叶うその時まで、僕は家に帰るつもりはないよ」

 

「ふーん……」

 

 当時の遊輝は、その彼の言葉がどこか釈然としなかった。それは子供ながらの純粋な思考で、彼の口にした言葉の矛盾を理解していたからであろう。寂しいなら、一度くらい帰ればいいではないか。そうすれば両親も喜ぶのに、と。

 けれど、そんな矛盾した思いを背負った彼の背中が――幼い遊輝には、どこか格好良く見えたのだった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「僕は、あの時の謙羊さんがどうしてそんなにかっこよく見えたのか解らなかった。けど、今なら解る! あの時の謙羊さんは、自分の力を証明したいっていう野望に燃えていた。ただ純粋に、自分の夢を追い求めていたあの真っ直ぐな気持ちが、僕にはかっこよく見えたんだ」

 

「……所詮、何も知らなかっただけさ。世間はそう簡単に上手くいくほど甘くなんてない。解っていたつもりになって、僕は僕が抱いていた幻想を、お前たちに押し付けていただけだった……」

 

「そんなことない!」

 

 謙羊の言葉を、力強い遊輝の叫びが否定する。びくりと僅かに身を震わせた謙羊に、遊輝は声を大にする。

 

「謙羊さんは、ただ躓いてしまっただけだよ! だから立ち上がって、もう一度やり直すことだってできるんだ!」

 

「そんなこと、できるわけが……」

 

「できる! 謙羊さんいつも言ってたじゃないですか! 人生はきっと、デュエルみたいなものなんだって! 一度失敗して躓いたとしても、必ず逆転できる可能性が残されてるんだって、言ってたでしょう!?」

 

 懐かしい台詞だ、と謙羊は思った。失敗して気落ちした仲間を前に堂々とこの台詞を言って、笑われて恥ずかしい思いをしたこともあった。けれどその頃の謙羊は、自身のその言葉こそ真理だと信じていた。いつしかそれは励ましの言葉から、己を諭す言葉に変わり――やがて全てに絶望しきった頃には、忘却の彼方に追いやられてしまっていた。

 

「……けど、どれだけ抗ったって変わらないものだってある。見ろよ、このフィールド。次のターンで勝負を決めなければ遊輝君、お前に勝ち目はない。これでもお前は、まだ逆転できる可能性があるって言うのかい?」

 

「きっと、ある。僕は僕の作ったこのデッキを……自分を信じる。そうやって今まで戦ってきたんですから」

 

 だから、今回もそうするだけです。そう言って微笑む遊輝を見て、謙羊は目に見えて表情を歪めた。見たくないものを見るかのように。だがそれは、遊輝の姿が見るに堪えない矮小なものに見えたからではない。むしろ逆だ。あまりに眩し過ぎて、絶望していた自分がちっぽけに思えてしまう。だからこそ謙羊は、彼から目を逸らした。

 自分を信じる。それがもし、あの時の自分にできたなら。そう、思ってしまうことが怖いから。

 

「解った。そこまで言うなら、このデュエルに勝って見せろ! 僕はカードを2枚伏せ、更にモンスターを守備表示で召喚して、ターンエンド……!」

 

 だからこそ、叩き潰す決意を込めて謙羊はカードを伏せる。フィールドには3枚の伏せカードと、正体不明のモンスターが1体。手札を全て伏せた謙羊のフィールドからは、絶対に守りきってやるという意思が如実に伝わってきて、遊輝は思わず噴き出した。

 

「フフッ」

 

「……何がおかしいんだよ」

 

「ああ、ごめんなさい。だって謙羊さん、あれだけ気力がないくせして、勝つ気満々なんだもん」

 

「……あ」

 

 そう。そうだ。このデュエルは元々、自分にこれ以上関わってほしくないという思いで始めた決別のデュエルだったはずだ。それが今はどうか。今はただ、遊輝に勝つこと自体を目的にデュエルを進めている。いつの間にか自分の中で、目的がすり替わっていた。

 戦いたい。そして、どこまでも真っ直ぐなこの少年の可能性を見届けたい。そのようにすら思えていた。

 

(何だっていうんだ……くそっ)

 

 思いを振り払うように頭を振る謙羊の目の前で、遊輝のターンが始まる。可能性の、1ターンが。

 

「僕のラストターン……ドローッ!」

 

 これで遊輝の手札は6枚。ここまでさほど動くことができなかった分、手数は十分だ。そして、今ドローしたカードがあれば或いは――。

 

「……僕は手札から魔法カード、〝大嵐〟を発動! フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊するっ!」

 

「見切ってるぜ。カウンター罠、〝魔宮の賄賂〟。このカードは相手に1枚ドローを許す代わりに、魔法・罠カードの発動と効果を無効にして破壊する。〝大嵐〟は無効だ」

 

「なら、続いて魔法カード、〝ミラクル・フュージョン〟。フィールドと墓地から素材となるモンスターを除外し、E・HEROを融合召喚する!」

 

「まだまだっ! カウンター罠、〝魔宮の賄賂〟!」

 

 罠封じの切り札と言える〝大嵐〟と、HEROデッキの十八番とも言える融合カードがあっさりと無力化される。伏せカードを2枚削ったとはいえ、まだ1枚残っている上に、墓地には攻撃を1度だけ無効にする〝ネクロ・ガードナー〟。このままでは、このターンで突破するのは絶望的だろう。

 

「……ドローッ!」

 

 頼みの綱は、このドローカード。後2枚、否、せめて1枚だけでも、あの伏せカードを破る手段がどうしても必要だ。

 覚悟を込めて指をかけ、一気にドローしたそのカードは――。

 

「! 来たっ! 僕は魔法カード、〝マスク・チャージ〟を発動! 墓地のE・HERO1体と、チェンジと名の付く速攻魔法を1枚手札に加える。〝エアーマン〟と〝マスク・チャージ〟を手札に加え、〝エアーマン〟を攻撃表示で召喚! 召喚に成功した時、効果発動。デッキから、〝E・HERO ワイルドマン〟を手札に加えるっ」

 

「そんなものが一体何に……!」

 

「〝マスク・チェンジ〟発動! フィールドの〝エアーマン〟を墓地に送り、現れろ烈風の戦士! 〝M・HERO カミカゼ〟ッ!」

 

 

○M・HERO カミカゼ

ATK:2700

DEF:1900

 

 

「〝カミカゼ〟、風のM・HEROか。けど、そいつの能力じゃ〝ナイトメア・アルミラリタ〟は倒せない」

 

「これだけじゃないですよ。更に伏せカードオープン! 速攻魔法カード、〝異次元からの埋葬〟! ゲームから除外されたモンスターを3体まで選び、墓地へ戻す。僕は〝アシッド〟を墓地へ戻す」

 

「一体……何をする気だ……!?」

 

 わざわざ、墓地から特殊召喚できない〝アシッド〟を墓地へ戻した遊輝の意図が読めず、謙羊は怪訝そうな表情で見つめる。が、答えはすぐに示された。他ならぬ、遊輝自身の手によって。

 

「そして魔法発動! 〝ミラクル・フュージョン〟ッ!」

 

「ここで2枚目の〝ミラクル・フュージョン〟だとっ!?」

 

「フィールドの〝カミカゼ〟、墓地の〝アシッド〟をゲームから除外して、融合召喚! 来い、〝C(コントラスト)・HERO カオス〟!」

 

「これは……!」

 

 コントラスト、の名のとおり、白と黒、左右にアンシンメトリーの配色が成されたHERO。M・HERO2体という、やや重い素材を要求するこのHEROを召喚するために、遊輝はわざわざ〝カミカゼ〟と〝アシッド〟を用意したのだ。その素材とするために。

 

 

○C・HERO カオス

ATK:3000

DEF:2600

 

 

「〝C・HERO カオス〟……そんなカード、HEROには……!」

 

「デュエルは日々進化する! 謙羊さんが立ち止っている間にも、ずっと!」

 

「くそっ……。けど、いくら攻撃力3000でも、そのカードは所詮No.じゃない。〝ナイトメア・アルミラリタ〟は倒せないぜ!」

 

「確かに、このカードだけではその布陣は突破できない。だから……これを使う! 〝融合〟を発動! 手札の〝ワイルドマン〟と、〝ネクロダークマン〟を融合し……現れろ、〝E・HERO ネクロイド・シャーマン〟!」

 

 闇を司るE・HEROと、野性的な褐色の肌を惜しげもなく晒したHEROとが混ざり合い、辺境の民族の呪術師のような装束と仮面を身に纏った戦士を降臨させる。

 

 

○E・HERO ネクロイド・シャーマン

ATK:1900

DEF:1800

 

 

「そんなモンスターごときが……!」

 

「〝ネクロイド・シャーマン〟の効果発動! このカードが融合召喚に成功した時、相手フィールド上のモンスター1体を破壊する!」

 

「何だと!?」

 

 〝ネクロイド・シャーマン〟が振り翳した杖の先端から、〝ナイトメア・アルミラリタ〟に向けて光が迸る。それはやがて大樹のような身体の全てを覆いつくし、地の底へと引き摺り込んだ。

 

「更に、相手の墓地に存在するモンスター1体を、相手フィールド上に特殊召喚する! 僕は〝ネクロ・ガードナー〟を選択!」

 

 〝ネクロイド・シャーマン〟が放った光線に引かれ、〝ネクロ・ガードナー〟が墓地から姿を現し、攻撃の構えをとる。

 

「〝ネクロ・ガードナー〟が……まさか、No.のロックと〝ネクロ・ガードナー〟への対策を同時にしてくるだって……!?」

 

「これが可能性ですよ、謙羊さん!」

 

「くっ……けど、まだ僕の場には伏せカードが残されてるんだぞ! 今更何をやったって、このターンを凌ぎきれば……!」

 

『あと、1枚か……遊輝。おそらく、あれは』

 

「……うん、解ってる」

 

 確かに、謙羊の言うとおり。あの謙羊の伏せカード、それがモンスターを迎撃するための罠、或いは戦闘ダメージを回避するためのカードであるとすれば、このターンに決めきることができず遊輝の敗北が決定する。魔法や罠の発動をカウンターする罠を2枚も張り、遊輝の行動を妨害するべく周到に何重にも罠を張っていた謙羊の、最後の1枚。ここまできて今更あれがブラフということもないだろう。必ず、このターンを守り切れるだけの強力な罠を仕掛けているはずだ。

 

『……だが!』

 

「うん、恐れることはない! 魔法カード、〝受け継がれる力〟を発動! フィールド上のモンスター1体をリリースすることで、そのモンスターの攻撃力を別のモンスターに加える!……〝ナイトメア・アルミラリタ〟が消えたことで、僕の場の〝マタンゴ〟はリリースすることができる。僕は〝マタンゴ〟1体をリリースして、〝カオス〟にその攻撃力を加える!

 

 

○C・HERO カオス

ATK:3000→4250

 

 

「攻撃力4250!?」

 

「バトルだ、〝C・HERO カオス〟で〝ネクロ・ガードナー〟を攻撃!」

 

 大きく跳躍した〝カオス〟が、赤く滾る光を纏った拳を力強く構える。

 

「残念だけど、その攻撃も通さない! 伏せカードオープン、〝聖なるバリア-ミラー・フォース-〟! 相手モンスターの攻撃宣言時に発動し、相手の攻撃モンスターを全て破壊するっ!」

 

 表になった罠カードが発光し、攻撃対象である〝ネクロ・ガードナー〟をすっぽりと覆う虹色のバリアがドーム状に展開される。それに正面から飛び込んだ〝カオス〟は、拳をバリアへ思い切り叩きつけた。激しく衝突し、互いのエネルギーが辺りへ飛び散る。

 だが。ややあって、拮抗しているように見えたその力関係に突如として変化が現れた。

 

 

――ピシッ。

 

 

「な……〝ミラー・フォース〟に、(ひび)が……!?」

 

「勝つのは……僕だっ! 〝カオス〟の効果発動! 1ターンに1度、表側表示のカード1枚の効果をターン終了時まで無効にする!」

 

「表側表示のカード……まさか!?」

 

「そう、〝ミラー・フォース〟は今この瞬間、フィールド上で表側表示となって存在している。よって、〝カオス〟の効果で無効にすることが可能っ!」

 

 罅は瞬く間に広がっていき、間もなくバリア全体にまで達した。粉々に砕け散るバリアが辺りに雨のように降り注ぐ中、〝カオス〟の拳が〝ネクロ・ガードナー〟の腹を深々と捉えていた。

 

(これが、可能性……か)

 

 攻撃の余波で吹き飛ぶ瞬間、謙羊は無感情とは違う、どこか安らかな表情を浮かべて、微かに微笑んだ。

 

 

 

○謙羊

LP:2700→0

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「なんだかさ、凄く清々しい気分だよ」

 

 デュエルを終えた2人は、アパートの入り口の階段に腰かけてじっと前を見つめていた。謙羊はNo.の支配の影響からか、怠そうに欄干に身を預けている。

 

「謙羊さん。また昔みたいに、夢を目指しませんか?」

 

「……そうだな。昔と全く一緒ってわけにゃいかないけど、またやり直してみたくなった。全く、大したもんだよお前はっ」

 

 片手でくしゃくしゃと頭を撫でられる。思えばそんなじゃれ合いも何年ぶりだろうか。子供扱いは面白くはないが、今はそれすらもどこか心地よかった。

 

「……ああっ!?」

 

「わっ!?」

 

 すると、突然大声を上げる謙羊。あまりに唐突なことで、遊輝まで驚いて声を上げてしまう。何事だろうと思っていると、謙羊はすっくと立ち上がって腕時計を確認する。

 

「やっば、今日バイトあったんだった! 早く行かないと店長にどやされる……!」

 

「え、え……?」

 

「じゃあ、そういうわけだから遊輝君! また! また今度なっ!」

 

 慌てたように階段を駆け上がり、自室からバッグをとって戻ってくると、慌ただしく走って行ってしまった。

 

「……もう、忙しいなぁ」

 

 そう溜め息をつく遊輝の表情は明るい。僅かながら、彼の背中に光が戻っていることに気づいた遊輝は、表情を綻ばせる。

 一方で、その様子を傍らで見守っていたエッジは、遊輝とは対照的に何かを思案するような眼差しで、去っていく謙羊の後ろ姿をじっと見つめていた。

 

(確かに無事勝ちはしたが……あの男とこのNo.、あまりにも……)

 

 〝EXNo.14 ナイトメア・アルミラリタ〟。確かにこのカードからは、エッジの守護していた秘宝の気配が感じ取れる。間違いなく本物のNo.だろう。だが、どこか違和感のようなものを覚えていたエッジは、デュエルの舞台であった駐車場の方へ視線を移し怪訝そうに眉を寄せる。

 

「? どうしたの?」

 

『いや……何でもない』

 

 それに気づいた遊輝が問いかけるも、エッジは曖昧な態度をとるのみで答えようとしない。遊輝は首を傾げるが、すぐに興味を失ったのか、謙羊の駆けていった方角の方に視線を戻した。

 エッジが感じた、小さな違和感。これまでのNo.達との戦いとの、小さなズレ。杞憂であればよいのだが、という言葉を心の内に押しとどめ、エッジは目を伏せる。

 

 

 

 駐車場に停まっていたトラックの影で、黒い闇が音もなく弾け飛んだ。

 





どうも、初めましての方は初めまして。常連の方はお久しぶりです。神崎です。

いろいろな矛盾に悩まされながら漸く投稿することができました最新話、お楽しみいただけましたでしょうか。

書けば書くほど「これがKENYoUさん……だと……!?」という思いに苛まれていくほど、なんだかKENYoUさんらしからぬキャラになってしまった感じがします(汗) もうこいつ誰なんだっていうようなレベル(
台詞だけでもなんとか似せようと頑張りましたが……。いやはや、熱いデュエルとKENYoUさんの脱力加減との両立は想像以上に難しかったですw

No.に襲われつつも、段々と物語の大筋の方も進行していきます。これからが難しいところ。頑張って書いていきたいと思います。

以上、次回まで暫しの別れを。神崎でした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。