遊戯王ZEXAL ―BRAVE HEROES―   作:神崎はやて

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ナンバーズ 19 帝王

 ハートランドシティは、ハートランドを中心とした近未来都市である。

 中央には遊園地〝ハートランド〟があり、その主たるMr.ハートランドなる男が表向きにはこの街の最高権力者とされている。だが実際にこの町を作り上げたのはDr.フェイカーと呼ばれる科学者であり、彼の手によってこの町は科学文明の象徴として発展を遂げた。そのハートランドの市政を担う施設内の一室。限られた者しか入ることの許されないそこで、逆立った燃えるような赤い髪の少年が1人、ぼうっとモニターを眺めていた。組んだ腕に頭を預け、足を机の上に投げ出している彼の姿は、役所の奥、関係者以外入室禁止のこの場所に出入りできる人間とは思えないほど不真面目なものだ。やんちゃそうな見た目もあいまって、不良と言った方が遥かに似合っているように見える。

 

「やれやれ、どいつもこいつもまともに大会を楽しむって気はないのかねぇ……」

 

 しかしその実、少年が見た目や言動に反し町の秩序を重んじているであろうことは、無意識の内に漏れたこの言葉からも推察できる。彼の目の前にあるモニターに次々と表示されていく、文字の羅列。そのどれもが、今まさに開催中のWDC中に起きたトラブルや苦情に関する報告である。その中には彼の〝仲間〟の大会運営委員によって既に解決された事案がいくつもあったが、未解決の中でも特に件数の多い1つの事案に少年はいっそう眉間の皺を濃くした。

 

「カード強奪事件……。一体どういうやつらの仕業なんだこいつは」

 

 それは、大会中にハートランドシティ市内でカードを強奪されたという被害報告に関するものだった。今確認されているだけで、約20件。大会参加者だけではなく、一般市民からも通報が寄せられている。曰く、人気のない場所や夜間に出歩くデュエリストに対してデュエルを申込み、負ければレアカードを巻き上げられる、という手口で、犯人はいずれもフードの部分に金色のウジャト眼のマークのある真っ黒なローブで全身を覆っており、顔は誰も見ていないのだそうだ。

 身体の輪郭から推測される性別も、男性であったり女性であったり、証言はバラバラ。そこから、おそらく犯人は複数犯で犯行に及んでいると推測されたが、それ以上の手がかりはなく、警察や運営委員による捜査も難航しているという。

 

「ゴーシュの旦那やドロワの姐御も自分の管轄で忙しいっつってたしなぁ。ここは俺が行くしかねえか」

 

 大きく伸びをして、少年がモニターの傍らにあったデッキケースとD-パッドを腰のベルトへ差すと、ちょうどそこへ新たに通報が舞い込んだらしく、モニターが更新される。それに気づいた少年は新たに追加された一文へ目を通した。

 

「お、ちょうど新しい情報じゃねえか。んーと、何々……? お、この辺りなら近ぇじゃねえか。まずはここで決まりだな」

 

 たった今舞い込んできたばかりの新たな被害報告に目を通すと、詳細確認もしないまま少年は上着をひっかけて部屋を後にする。

 後に残されたモニターが僅かに下に流れ、文脈の中に確かに「No.」の字が映し出されていたが、幸か不幸か、それを見ていた者は誰もいなかった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

 デュエルカーニバル2日目。ここまでで多くのデュエリストと戦い、順調に勝利を重ねていった遊輝のハートピースは、あと1つで完成するところまできていた。本来はここで次のデュエリストを――といきたいところではあるのだが、謙羊と話をするつもりで予定を空けていたためすっかりあてがなくなってしまった遊輝は、大通りのカフェで休息をとっていた。

 

「ふぅ……やっぱりここのカフェオレ美味しい」

 

『……おい。今は大会中なのだろう? 何道草をくっている』

 

「そう堅いこと言わない。No.との戦いって結構体力使うんだから、休息とらないと。大会はまだまだ長いんだしさ」

 

 そう言いつつまた1口、グラスに入ったカフェオレをストローから吸い上げる。よく冷えたアイスカフェオレが、火照った身体を適度に冷ましてくれる。それに応じてカラン、と音を立てる氷も実に涼し気である。

 

「大丈夫、ハートピースは逃げないよ」

 

『……ならばいいのだがな』

 

 この大会は、いち早く多くのハートピースを集めた者程有利となる。大会参加者に配られたハートピースは皆形がバラバラであり、自分の持っているものに合う形のピースを組み合わせねばハートは完成しない。つまり、より多くの勝利をおさめ、より多くのハートピースを獲得できた者ほど、ハートが完成する確率は高くなるということなのだ。遊輝も獲得したピースの個数だけなら既に決勝進出できる数に達してはいるものの、運悪く形が合わないものが数個あったために、未だ対戦相手を探し回る必要があった。

 このままでは、ハートの形が合わない、という情けない理由で敗退が決まってしまうこともあり得ない話ではない。エッジの言葉はそれを思ってのものであったが、当の遊輝に焦った様子は見られなかった。

 

――表面上は。

 

 

 

(謙羊さんまでNo.に……)

 

 

 

 これまで、様々なNo.に憑りつかれた人間と戦ってきた。名も知らぬ不良、戦士手島、寺師庸輔、女子剣道部顧問――そして、謙羊。最初はさほど接点のなかった相手ばかりだった。だが今回、ついに身近な人間がNo.に憑りつかれてしまったことで、遊輝の闘志に微かな揺らぎが生じ始めていた。

 安請け合いしたつもりはない。少なくとも、危険であることは承知の上で遊輝はエッジを手伝うと決めた。だが、こうして周囲の人間が実際に巻き込まれるのを目の当たりにすると、抱いた決意が崩れていくような気がする。そんな不安が、表情にこそ現れないものの、モチベーションの低下につながったため遊輝は一度このカフェへ立ち寄ることにしたのだった。己の気持ちを整理するために。

 

「さて、充分に休んだしそろそろ行こうかな」

 

 ややあって、遊輝は立ち上がると軽く伸びをした。甘いカフェオレのおかげで、精神力はともかく、朝からNo.戦をした疲れはとれた。そろそろ気分も新たに相手を探しに行こうか、と遊輝がDパッドを着けて辺りを見回すと――。

 

「……あれ? あれって……」

 

 車道を挟み反対側の歩道を、D-パッドを待機状態で腕に装着して歩いていく1人の少年の姿が見えた。D-パッドを着けている人間なら、WDCの真っ最中であるハートランドではもはや珍しい光景ではない。遊輝の目を引いたのは、彼の容姿の方だった。

 ハートランド学園高等部の制服を身に纏う男子で、すらりとした長身の男。筋骨隆々というほどでもないが、ひょろりという程細いわけでもない、理想的な体型。深い緑髪の下からは、鋭い眼が真っ直ぐ前へ向けられている。

 

「あれって確か……」

 

 気づけば、遊輝は走り出していた。車のいない隙を見計らい駆け出して道路を横切ると、後ろから声をかける。

 

「あのっ! 〝カイザー〟ですよねっ!?」

 

「ん……? 君は?」

 

 興奮気味に話しかける遊輝を、すぐ傍に幽体化したエッジが怪訝そうに見つめる。これほどに彼が我を忘れて舞い上がったのは今までになかったはず――と考えてすぐ、そういえばこの前レアカードを当てた時も似たようなものだったか、と思い直して溜め息を吐き、エッジは暫し傍観することにした。

 

「確かに、皆にはそう呼ばれているようだが。君は……そうか、君が田神遊輝君か」

 

「え? どうして僕の名前を……?」

 

「知り合いに腕のいい情報屋がいてね。見どころのあるデュエリストの情報を持ってきてもらっているんだ。……おっと、自己紹介がまだだったな。俺は加賀美 亮太、高等部3年だ。よろしく」

 

「ぼ、僕は田神遊輝。中等部2年です。よろしくお願いしますっ!」

 

 まるでアイドルとの握手会に臨むファンのような面持ちで、緊張気味に亮太と握手を交わす。しかし、その喩えも決して間違ってはいない。何故なら遊輝にとって彼は、まさしくアイドルのような存在だからだ。

 あまりの強さに中等部在籍中無敗、高等部でも更にその記録は破られず、未だに負け知らずの実力を誇り、学園最強の名をほしいままにしているデュエリスト。それが彼、加賀美 亮太。完璧な勝利を追い求め、常に貪欲に上を目指すその姿勢に憧れるデュエリストは多く、容姿端麗、成績優秀といった要素も手伝って、女子生徒の間では密かにファンクラブが結成されるほどの人気ぶりだ。

 遊輝もファンクラブに入るとまではいかずとも、彼のデュエルに密かに憧れていた1人。その憧れの相手が前にいるとなれば、興奮するのも無理からぬことだろう。用事があってこの先の公園へ向かっていたとのことで、2人は並んで歩き始めた。

 

「カイザーもこのWDCに……?」

 

「ああ。……だが、下手に有名になるというのも考え物だな。デュエルを挑もうとすると、いつも逃げられてしまう。おかげで2日目の朝だというのに未だにハートピースが集まっていないんだ」

 

 そう言って苦笑交じりに差し出されたハートには、1つの穴。相手がいないと言いつつ、遊輝同様あと1つで決勝進出が決定するようだ。それを見た遊輝は、さすがだ、と感嘆の声を漏らした。

 

「君もWDCに参加しているんだろう? どうだろう、俺とデュエルしないか?」

 

「僕は……」

 

『……遊輝?』

 

 歯切れの悪い遊輝にエッジがやや驚いたように彼を見た。憧れのカイザーとのデュエル。いつもの遊輝なら、嬉々として受けることだろう。けれど、遊輝は躊躇した。

 デュエルが解らない。謙羊という身近な存在は、デュエルによって2度も人生を狂わされた。そんなデュエルに、自分がどう向き合えばいいのかさえ分からなくなり始めている。

 立ち止まり、俯く遊輝の姿を見ていた亮太は僅かに眉を寄せると、ややあって小さく溜め息をついた。

 

「……そうか」

 

「すみません……」

 

「いや、君が気にすることじゃない。誰にだって、気の乗らない時くらいはある」

 

 そう言って笑いかけるが、内心では残念に思っているのか苦笑が隠せていない亮太に、遊輝はますます申し訳なく感じてしまう。ただやはり、今だけはどうしてもデュエルをする気にはなれなかった。たとえその相手が、憧れのカイザーであったとしても。

 

「……そう気に病むな。君にデュエルを挑んだのは、WDCとは直接は関係ないんだ。WDCの決勝へ進むためのデュエルは既に約束をとりつけてあってね」

 

「そうだったんですか……。相手は? やっぱりハートランド学園の誰かですか?」

 

 遊輝の言葉に亮太はいや、と首を横へ振ると、いつの間にか近くまで来ていたらしい公園の入り口を――否、その先に見える大柄な男の姿を真っ直ぐに見据え、言った。

 

「……プロだ」

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

 デュエリストにも、プロの世界というものがある。プロリーグの歴史も長く、デュエルアカデミア第一校が創られた頃には既にプロデュエルの世界は形作られていた。当時はまだARヴィジョンなどというものもなく、デュエルディスクも旧型で持ち運びには若干嵩張るような代物であったが、発足以降多くの伝説的デュエリストを輩出したプロリーグは、瞬く間に多くのデュエリスト達にとっての憧れの舞台となった。

 そんなプロデュエルの世界に、かのカイザーこと加賀美 亮太がスカウトを受けたという噂は、ハートランド学園に在籍する者なら知らぬ者はいないという程の大ニュースとして、あっという間に知れ渡った。大企業として世界に名を馳せる万丈目グループを始めとして、多くの企業が嘗てプロデュエルの世界に君臨した伝説のカイザーの再来と呼び声高い彼のスポンサーとして名乗り出たという。その話は亮太自身が、「学生の身である内は普通の学生として学業を全うしたい」と申し出たのもあって卒業までお預けとなったが、彼が卒業した暁には真っ先にプロ入りするであろうことは間違いないだろう。それほどまでに、彼のデュエリストとしての腕前は群を抜いていた。

 そのカイザーが、現役のプロとデュエルをする。観戦のために集まってきた群衆の中央で、真正面からプロと見られる大男と対峙する亮太を見て、遊輝は心が騒つくのを感じていた。

 

「あれ、アンタ……」

 

 様子を見ていると背後から声が聞こえ、遊輝が振り返ると、見覚えのある2人が立っていた。真っ赤なカチューシャが眩しい桜色の剣士ツァン・ディレと、栗色のショートカットの無邪気なHERO使い、宮田ゆまだ。駆けてきたのか若干息は荒く、僅かに肩が上下している。

 

「お久しぶりですね、遊輝君っ!」

 

「ツァンさん、ゆまさんも……。お2人とも、どうしてここへ?」

 

「どうして、って……アンタも聞いたんじゃないの?」

 

「聞いた、って……?」

 

「加賀美 亮太……カイザーが、ここでプロとデュエルをすることになった、っていう噂が広がってね。僕もゆまもそれを聞いてここまで来たってわけ。その様子だと、アンタは知らなかったみたいだけど」

 

 言われてから初めて周囲を見渡してみれば、ハートランド学園でも見かけたことのある顔がちらほらと見て取れる。それに心なしか、ギャラリーは同年代が殆どのようだ。中にはプロデュエリストの方のファンもいるようだが、それでもギャラリーの表情を見れば、その殆どがカイザーと呼ばれる男の試合を観戦しに来たハートランド学園生徒であろうことは想像に難くなかった。

 今か今かと始まりの時を待つギャラリーが見守る目の前で、プロデュエリストの男が亮太と向かい合っている。大柄で筋骨隆々な大男。確か、中堅レベルの実力を持っているプロデュエリストだったはずだ。ランキング上位に食い込むことはないが、地味であるようで、それでいて堅実な手で対戦相手をじわじわと追い詰めていく、そんなタイプのデュエルをするデュエリストだっただろうかと、遊輝は数日前に書店で立ち読みした月刊プロデュエルという雑誌の記事を思い出す。

 

「お前か。ハートランド学園のカイザーなどと呼ばれている男は」

 

「貴方のようなプロに名を知られているとは。光栄ですよ」

 

「聞いているぞ、学生でありながらプロにも匹敵する実力の持ち主だとか。だが、プロはただ一時の栄光があれば通用するほど甘い世界ではない。ひよっ子が甘く見ていると痛い目を見るということを教えてやろう」

 

「……お手柔らかに」

 

 プロデュエリストの挑発にも涼しい顔のまま、亮太は礼をした。それが面白くなかったのか、プロは舌打ちをしつつD-パッドを腕に着け、懐からハートピースを取り出す。

 

「ハートピースは何個賭ける?」

 

「俺はあと一個で完成する。よって、1個賭けでお願いしたい」

 

「いいだろう」

 

 互いに距離を取り、D-パッドとD-ゲイザーを装着する。それを見たギャラリーも、この大一番を一瞬たりとも見逃さぬよう、D-ゲイザーを装着した。

 

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 

○亮太

LP:4000

 

○プロ

LP:4000

 

 

 

「俺の先攻! ドロー!」

 

 ディスクが示した先攻プレイヤーはプロデュエリスト。デッキからカードをドローしたプロは、にやりと笑みを浮かべる。

 

「俺は、モンスターを守備表示で召喚。ターンエンドだ」

 

「伏せカードを出さない……?」

 

「学生相手だからって、余裕を見せているつもり……?」

 

 プロの先攻ターンは、壁モンスターを出すだけという単純な一手で終わった。それに、ゆまとツァンが怪訝そうに声を上げる。プロ故の驕りか、それとも――。

 

「……俺のターン」

 

 続く亮太のターン。手札を見、一切の迷いもなく1枚のカードがディスクに置かれる。

 

「このカードは、自分フィールド上にのみモンスターが存在しない時、特殊召喚することができる。……来い、〝サイバー・ドラゴン〟ッ!」

 

 雄々しき雄叫びを上げ、一体の機械龍がフィールドに降臨する。蛇のように長く伸びた機械の身体が、太陽光を受けて眩まばゆく輝いた。

 

 

○サイバー・ドラゴン

ATK:2100

 

 

「更に、〝サイバー・ドラゴン・コア〟を召喚する。このカードは召喚に成功した時、デッキからサイバーと名の付く魔法・罠カードを1枚手札に加えることができる。〝サイバー・リペア・プラント〟を手札に加える。バトルだ。〝サイバー・ドラゴン〟で攻撃! 〝エヴォリューション・バースト〟!」

 

 〝サイバー・ドラゴン〟の口から放射されたレーザーが裏側守備表示のカードを表にする。頭に天使の輪を持ち背に翼を生やした、黄色地に黒い斑模様の蛙が熱線に焼かれて消えていった。

 

「更に〝サイバー・ドラゴン・コア〟でダイレクトアタック! カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

 

○プロ

LP:4000→3600

 

 

「俺のターン、ドロー。このスタンバイフェイズ時、墓地の〝黄泉ガエル〟の効果発動。モンスターカードゾーンに同名カードや魔法・罠カードがない時、このモンスターは墓地から特殊召喚できる。現れろ、〝黄泉ガエル〟!」

 

 〝サイバー・ドラゴン〟によって破壊された〝黄泉ガエル〟が、その名の通り墓地から蘇り特殊召喚される。場にモンスターを維持することが彼の狙いであることは、〝黄泉ガエル〟の姿を見たその瞬間に亮太も無論気付いていた。だが、今更悔いても仕方がない。

 考えている間にも、プロの手は次の一手へ向けて動く。

 

「〝サイバー・ドラゴン〟。なるほど、確かに強力なモンスターだ。だが、どんなに強力なモンスターも、このカードの能力の前には無力! 俺は永続魔法、〝帝王の開岩〟を発動し、〝黄泉ガエル〟をリリースして〝邪帝ガイウス〟をアドバンス召喚!」

 

 禍々しい邪悪な力を身に纏った帝王が、〝黄泉ガエル〟という供物を糧に降臨する。

 

「帝みかどデッキか……!」

 

「ほう、知っていたか。ならば帝モンスターの威力、その身をもって思い知れ! 〝邪帝ガイウス〟の効果発動! このカードが召喚に成功した時、フィールド上のカードを1枚除外する。消えろ、〝サイバー・ドラゴン・コア〟!」

 

 〝ガイウス〟が放った濃い紫の色をした球体が〝サイバー・ドラゴン・コア〟を包み、異次元へと吹き飛ばそうとする。これを受けるわけにはいかない、そう判断した亮太の手が動いた。

 

「伏せリバースカードオープン。速攻魔法カード、〝神秘の中華なべ〟。フィールド上のモンスター1体をリリースして、その攻撃力か守備力の数値分のライフを回復する。〝サイバー・ドラゴン・コア〟をリリースし、その守備力、1500ポイントのライフを回復する」

 

 

○亮太

LP:4000→5500

 

 

「上手い。対象を失った〝ガイウス〟の効果はこれで不発……!」

 

「しかもライフを回復した上、〝サイバー・ドラゴン・コア〟は除外されず墓地へ残る。……さすがカイザー、と言うべきかしら」

 

 ゆまとツァンが感嘆の声を漏らす中、遊輝はただ見惚れていた。一切の無駄もないカード捌きに、ただただ見とれる。

 

「〝帝王の開岩〟の効果で、デッキから〝風帝ライザー〟を手札に加える。……帝を前にして尚動じないか。その精神力は誉めてやろう。だがこれで、お前の場には〝ガイウス〟よりも攻撃力の劣る〝サイバー・ドラゴン〟が1体のみ。蹴散らせ、〝邪帝ガイウス〟の攻撃っ!」

 

 〝ガイウス〟の拳が〝サイバー・ドラゴン〟を押し潰す。鋼鉄のボディを貫かれ、致命的なダメージを負った〝サイバー・ドラゴン〟は悲しげな悲鳴を上げて消滅した。

 

 

○亮太

LP:5500→5200

 

 

「くっ」

 

「私はこれでターンエンド。さあ、お前のターンだ」

 

「……そうか、そういうことか」

 

「どうしたんです、遊輝君?」

 

 先ほどからじっと両者の場を見つめ考え込んでいた遊輝は、合点がいったとばかりに頷く。ゆまの問いに、遊輝は再び口を開いた。

 

「あのプロの人、カイザーを侮って伏せカードを出さなかったんじゃない。わざと出さなかったんだ」

 

「どうしてです? カイザーのデッキは、火力に定評のあるサイバーデッキ。伏せカードがないんじゃ……」

 

「……〝黄泉ガエル〟、ね?」

 

 ツァンの言葉に、そうです、と遊輝は頷く。ゆまもどうやら漸く理解できたようで、あ、と小さく声を漏らした。

 

「〝黄泉ガエル〟は自分フィールド上に魔法・罠カードがあったら特殊召喚できない。次のターンで〝黄泉ガエル〟を蘇生するためには、伏せカードを伏せてはならない……!」

 

「そういうことでしょうね、きっと……」

 

「でも、ゆまの言うことも尤もよ。カイザーの火力を、たかだか2400程度の攻撃力しかない帝モンスターで受け切れるとは僕にも思えない。場を制圧しつつ次への布石を忘れないのはさすがだけど、次のカイザーのターンで負けたら意味ないじゃない。……どうするつもりなんだろ」

 

 帝モンスター1体1体の攻撃力は2400。半上級モンスターとして、決して低い数値ではない。それを以てしてツァンにたかが、と言わしめるのは、「サイバー」モンスターが抱える尋常ではない程の攻撃力にある。機械族専用の融合カードに、〝パワー・ボンド〟というカードがある。このカードは、融合召喚した機械族モンスターの攻撃力を永続的に倍加させる。更にはダメージステップでも発動できる速攻魔法〝リミッター解除〟は、効果を受けたモンスターをエンドフェイズ時に自壊させてしまうデメリットがあるものの、自分フィールドの機械族全ての攻撃力を更に倍加させる。

 結果、攻撃力5000を超えるモンスターがポンと並ぶことになり、時には10000をも超える怪物が現れることもある。いかに帝モンスターのステータスが優秀であろうと、心許なく感じるのも無理はないだろう。

 

「けど、あの人だってプロデュエリストなんだ。それくらいのことは解ってるはずなんですけど……」

 

「そうね……」

 

 この世には数多のカードが存在するとはいえ、サイバーデッキといえばサイバー流というデュエル流派が開かれる程有名なデッキである。嘗てはサイバー流の継承者のみが使うことを許されたキーカードの〝サイバー・ドラゴン〟も、数が少ないながらも少しずつ一般に流通し始めている。そんなカードの特徴を、仮にもプロである男が知らぬはずはない。必ず何か裏があるはずだと遊輝達が勘繰る中、ぴくりとも表情を動かさない亮太が静かにカードをドローした。

 

 






どうもお久しぶりでございます、神崎です。

またかなり間が空いてしまい申し訳なく思っております……。神崎自身、私生活にいろいろと変化が生じ始めており、なかなか投稿する余裕がなく書き溜めるのが精一杯な状況でした。
今回の話は1つが長くなり過ぎて2つに分割したということもあって、次回の投稿はそう遠くない内にできると思います。

さて、今回のお話ですが。おそらく読者様方の間でも好きな方と嫌いな方とで意見が真っ二つに分かれるであろう、サイバー流の登場です。(神崎は大好きです)
サイバーといえばインフィニティの登場で良くも悪くも湧いたと思うのですが、皆様はどのように受け止められましたでしょうか。
おそらく「こんなの全然サイバーらしくねぇ……!」という意見が大多数を占めていることと思いますが、神崎はこれはこれでありだと思っています。理由もちゃんとありますが、それについては今後のネタバレになってしまう可能性がありますのでまた後日。

アークファイブの方も物語が進んでいくにつれて面白くなってきましたね……! またいずれはアークファイブの二次創作の方も書いてみたいものです。

では、次回まで暫しの別れを。神崎でした。
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