遊戯王ZEXAL ―BRAVE HEROES― 作:神崎はやて
風野 駿は、ずっと1人だった。誰かと友達になりたいけれど、そう申し出る勇気もなくて。いつも勇気が出せないでいると、決まって誰かから虐められた。殴られたり、蹴られたり。カードを取られることも何度もあった。
そう、今回のように――。
「へっへっへ。こいつはありがたくもらっとくぜ」
「も、もうやめてよぉ……」
「ぎゃははっ、何言ってんだ。お前に拒否る権利なんかありゃしねえんだよっ!」
アンティルール。デュエルに勝ったら、相手のカードの中から好きな1枚をもらうことが出来るルール。
最初に導入されたのは、数十年も前に行われたバトルシティの時だったか。気弱ながら成績は優秀な駿は、朧気ながらそんなことを思い出す。
不良達は、駿が勝てないと知っていながらアンティを強要してきた。それを幾度も繰り返したおかげで、もう駿のデッキには強いカードはいくらも残ってなどいなかった。全て、彼らに奪われたのだ。
そしてまた、悪循環が回り始めると見られた、その時――。
「駿君っ!」
「遊輝君……ど、どうしてここに!?」
ここにいるはずのない、クラスメイトの声が路地裏に響いた。
「何だ、てめえ………?」
不良の意識が、遊輝の方へ向く。
気づけばその時には、駿は走り出していて――不良達が気付いた時には、遊輝の下へ走り寄っていた。
それを遊矢は背後へ庇うようにしながら、不良達へ睨みを利かせる。
「お兄さん達、弱いもの虐めはよくないんじゃないの?」
「うっせえ、部外者は引っ込んでろ!」
「それともてめえが代わりをしてくれんのか? 俺たちはそれでも一向に構わないんだぜ?」
いきり立つ不良達。それに小さく溜め息をつくと、遊輝は物怖じもせずに言った。
「いいよ。なら、僕が相手になる」
「ゆ、遊輝君!?」
「ほう……」
遊輝の言葉に駿は焦り、不良は新たな獲物を見つけた喜びに嗤う。
「ただし、僕が勝ったら、今まで駿君から奪ったカードを全て返すんだ」
「面白ぇ。なら、もし俺が勝ったら、お前のデッキを貰おうか」
「……解った」
「ゆ、遊輝君! やめなって……か、勝てっこないよぉ……」
涙目になって言う駿に、遊輝は大丈夫だよ、と声をかけて、デュエルディスクを起動させる。この程度で安心させられるとは思えなかったし、あの不良がどれほどの実力を持つ相手なのかは未知数だ。
けれど、退くわけにはいかない。デュエリストとしても、彼の友としてもだ。
「デュエルディスク、セット。Dゲイザー、セット!」
展開されたレッドカラーのデュエルディスクが左腕に、Dゲイザーが左目にセットされ、起動する。
『ARヴィジョン リンク カンリョウ』
女性の声でそう電子音声が鳴り響くと、辺りがAR空間に塗り代わりデュエルの準備が完了した。
「「デュエル!」」
〇遊輝
LP:4000
〇不良
LP:4000
叫びと共に、ARヴィジョンにより投影されたホロウィンドウに、互いの初期ライフ、4000ポイントが表示される。
初期手札である5枚のカードを引き、いよいよデュエルが始まった。
「先攻は俺だ。俺のターン、ドロー!」
男のドローフェイズ。デッキからカードを1枚ドローする。
「俺は、モンスターを守備表示で召喚! そしてカードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」
裏側守備表示で召喚されたモンスターと伏せカードが、場に紫電の弾ける音と共に現れる。
初手としては無難な手だろうか。そう分析しつつ、遊輝はカードをドローする。
「僕のターン、ドロー!」
先攻の第1ターン、プレイヤーはモンスターで攻撃することは出来ない。故に不良の1ターン目に動きはなかったが、ここからが本番だろう。
(そういえば、遊輝君の本当のデッキってどんなデッキなんだろう?)
遊輝は、いつもデッキケースを2つ持ち歩いている。1つは、遊馬と対戦した時に使用した除外リヴァイエールデッキ。そしてもう1つは、彼の本気のデッキである。
いつも使うデッキケースとは違うデッキをとっているところを見ると、おそらく今、彼の本気のデッキが見られるに違いない。そう思った駿は、自らの置かれた状況も忘れて胸を高鳴らせた。
ドローしたカードを確認し、遊輝はそれを手札へ加えると、別のカードを取ってデュエルディスクへ置く。
「僕は……手札から魔法カード、【融合】を発動!」
遊輝のデュエルディスク、その魔法・罠スロットに挿入された【融合】のカードがARヴィジョンに投影され、淡い光を放つ。
「【融合】だと!?」
「手札の【E・HERO ザ・ヒート】と、【プリズマー】を融合!」
烈火の力を持つ紅のヒーローと、全身を水晶で構成する千変万化のヒーローが、融合の渦に飲み込まれて1つになっていく。
「来い、豪火のE・HERO! 【ノヴァマスター】ッ!」
現れたのは、【ザ・ヒート】の何倍も激しい豪火を操る色鮮やかな赤の鎧を纏ったヒーロー。それが今、爆炎と共に顕現して遊輝の場に降臨する。
「え、E・HEROだと!?」
驚愕する不良に対し、遊輝は不敵に笑いながら手札を取った。
「更に、【E・HERO エアーマン】を攻撃表示で召喚!」
背部に大きなフィンのついたバックパックを背負い、バイザーを着けたヒーローが召喚される。攻撃力1800。遊輝の操るE・HERO、その主力となるモンスターだ。
「【E・HERO エアーマン】の効果発動! 召喚に成功した時、2つの効果の内1つを選んで発動することが出来る。僕は、場の他のE・HEROの数だけ、相手の場の魔法・罠カードを破壊する! その伏せカードを破壊!」
【エアーマン】の背後のフィンからトルネードが放たれ、伏せカードを微塵に砕く。
破壊されたのは、【魔法の筒(マジック・シリンダー)】。相手モンスターの攻撃を無効にし、その攻撃力分のダメージを相手に与える強力なカード。
「危なかったなぁ。もしそれを使われてたら、大ダメージを受けてたよ」
「ちっ………!」
「じゃあ、行くよ! 【E・HERO ノヴァマスター】で、セットモンスターを攻撃! 〝ノヴァ・ブラスター〟ッ!」
【ノヴァマスター】が突き出した掌から射出された極太の熱線が、砲撃と化して裏側守備表示のモンスターに迫る。
直前で、裏側守備表示で伏せられていたモンスタ――【機動砦のギア・ゴーレム】が表側表示になり、場に姿を現した。守備力は2200。優秀な壁モンスターだが、ノヴァマスターの攻撃力2600には敵わず、ノヴァ・ブラスターに飲み込まれて粉微塵に粉砕される。
「【ノヴァマスター】の効果。バトルで相手モンスターを破壊した時、デッキからカードを1枚ドロー出来る。更に、【エアーマン】でダイレクトアタック! 【トルネード・クラッシュ】!」
伏せカードをも砕いた背部のフィンが、今度は推進力となって【エアーマン】を加速させ、不良へ突撃する。
「ぐおぉぉぉぉっ!」
エアーマンの攻撃力は1800。直接攻撃の成功によりその分の数値が、不良がトルネード・クラッシュに吹き飛ばされるのと同時にライフから引かれる。
〇不良
LP:4000→2200
「何やってんだー!」
「しっかりしやがれー!」
「やかましい! 黙って見てろ!」
「カードを1枚伏せて、ターンエンド!」
伏せカードを具現化し、ターンの終了を宣言した遊輝の前で、野次を飛ばしてくる仲間へ怒鳴り返して、不良の男は舌打ちしつつカードをドローする。
「俺のターン、ドロー!……はっ!」
引いたカードを見た途端、男の口元が笑みに歪んだ。
「あの伝説のヒーロー使いじゃあるまいし、一丁前なことを。このカードで、お前なんざ所詮はヒーローの真似ごとしてるに過ぎねえ甘ちゃんだってことを教えてやるぜっ!」
男の口上に、何かが来ると悟った遊輝は、反射的に身構える。
「いくぜ……俺は手札から魔法カード、【死者蘇生】を発動! これにより、墓地から【機動砦のギア・ゴーレム】を守備表示で特殊召喚する!」
地面に濃い紫の色をした禍々しい魔法陣が描き出され、その中心に開いた穴から破壊されたばかりの【ギア・ゴーレム】が姿を現し唸りを上げる。
「更に、手札から【ランプの魔精 ラ・ジーン】を召喚!」
続いて不良の手札から現れたカードは、ランプの魔精 ラ・ジーン。御伽話のアラビアンナイトに出てくるランプの精のような姿をした魔人が、腕を組んで空中に漂う。
「レベル4のモンスターが、2体……」
ぽつり、と、遊輝の背後でデュエルの行方を見守っていた駿が呟いた。
レベルの同じモンスターが複数揃う、その全ての状況でモンスターエクシーズが来るわけではない。が、この世界ではそうすることこそが定石であり、故にその先の展開も自ずと想像できる。
「俺はレベル4の【ギア・ゴーレム】と、【ラ・ジーン】をオーバーレイ!」
【ギア・ゴーレム】と【ラ・ジーン】が、それぞれ金色と深緑の光となり、螺旋を描きながら天へと登っていく。
そして地面に、奈落へとつながっているようにも見える程の大穴が開き、2体はその中へと吸い込まれていった。
「2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚っ!」
新たな星の誕生を告げるかのような爆発が起こり、その内から、2つの衛星を従えて、モンスターが姿を現した。
「現れろ! EXNo.(エクストラナンバーズ)24! 【バンディッド・デーモン】!」
始め、羽の生えただけのモニュメントのような姿をしていたモンスターは、場に現れると同時に徐々に形を変え、手癖の悪そうな盗賊の姿をした悪魔へと変貌していく。
【バンディッド・デーモン】は、レベル4のモンスター2体で召喚された。ランク4のモンスターエクシーズだ。
〇EXNo.24 バンディッド・デーモン
ATK:2400
「モンスター、エクシーズ……! しかも、No.だって……!?」
モンスターエクシーズは大抵、通常のモンスターを凌ぐ強力な効果を持っている。
否、それだけではない。目の前にいるのは、No.。噂をすればなんとやらとはこのことか、昼間小夜子と話していたNo.が今、目の前で自分に牙を剥いている。
思わずその警戒心を声に出して呟いた遊輝へ、不良の男は更に追撃した。
「いくぜ、【バンディッド・デーモン】の効果発動! 1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使うことで、相手の場のモンスター1体のコントロールを得る!」
「なっ!?」
バンディッド・デーモンの周囲を一定の軌道で回っていた衛星――オーバーレイユニットが【バンディッド・デーモン】の身体に吸収されていく。バンディッド・デーモンが手を伸ばすとそこから半透明の腕が伸びて、遊輝の場のノヴァマスターを絡め取った。
「【ノヴァマスター】!」
【バンディッド・デーモン】が伸ばした手の引力に【ノヴァマスター】は少しの間抗っていたが、デュエルの強制力には勝てない。やがて絡められた腕によって強制的に男の場に連れていかれ、仕方なく攻撃の構えをとった。
「ギャハハハハハッ、最っ高だぜ! ギャハハハハハハハハッ!」
男の手に、いつの間にやら浮かんでいたEX24と描かれた紋様が光る。まるでその光に命じられるように、男は攻撃を宣言した。
「行くぜ、バトルだ! 【ノヴァマスター】、お前の同胞を蹴散らしなぁ!」
【ノヴァマスター】の【ノヴァ・ブラスター】が、【エアーマン】へ迫る。
【エアーマン】の攻撃力は1800。【ノヴァマスター】は2600。その差は歴然であり、このままでは破壊されてしまう。
「くぅっ、罠発動! ヒーロー・バリア!」
表になった伏せカード。その中から、その絵柄に書かれたものと同じプロペラが出現して、高速で回転しながら【エアーマン】を庇うように両者の間に割って入った。
「このカードは場にE・HEROが存在する時、相手モンスターの攻撃を一度だけ無効にする!」
【ノヴァ・ブラスター】をものともせずに蹴散らし、その役目を終えたヒーロー・バリアは消滅する。しかし、まだ男の攻撃は終わっていない。
「ちぃっ、なら【バンディッド・デーモン】で攻撃だ! 【ヘル・アサシンズ】!」
腰に刺した禍々しい赤色のダガーを手に、【バンディッド・デーモン】が【エアーマン】へ切りかかる。
攻撃力は、【バンディッド・デーモン】が上。【エアーマン】は断末魔を上げながら切り裂かれ、消滅した。そしてその差、600ポイントが遊輝のライフから引かれる。
「うあああぁぁっ……!」
【エアーマン】の消滅による衝撃に、遊輝は目の前で腕を交差させて耐え忍んだ。
攻撃力の差600ポイントが、遊輝のライフポイントから引かれる。
〇遊輝
「ターンエンド。バンディッド・デーモンの効果で奪ったモンスターが場に存在する時、ターン終了時に破壊され、俺は1000ポイントのダメージを受ける。……ぐぅっ!?」
〇不良
LP:2200→1200
苦しげに消えていく【ノヴァマスター】。その爆風が不良にも襲い掛かり、彼から更に1000ポイントのライフを奪っていく。
それを見つめ、遊輝は静かにデッキへ指をかけた。
「まだまだ……こんなところで、諦めないよ……!」
さすがはモンスターエクシーズ、さすがは噂のNo.だ。むしろ望むところだと、遊輝は己を鼓舞しながらカードをドローする。
「僕の呼びかけに答えて、僕のデッキ!……ドローッ!」
一気に引き抜いたカードを、遊輝は恐る恐る見――そして、笑った。
「僕は手札から永続魔法、未来融合 ―フューチャー・フュージョン―を発動!」永続魔法。その名のとおり、場にある限りその効力を永続的に発揮し続けるカードのことだ。
ARヴィジョンにより構築された緑色のフレームのカードが現れ、力の行使を示すように静かに発光する。
「【フューチャー・フュージョン】の効果! エクストラデッキから融合モンスターを選び、そこに書かれている素材モンズターをデッキから墓地へ送ることで、2ターン後の自分のスタンバイフェイズ時にその融合モンスターを融合召喚する! 僕は、エクストラデッキの【E・HERO エスクリダオ】を選択!」
【E・HERO エスクリダオ】。E・HEROと名のつくカードと、闇属性のモンスターカードによって融合召喚されるモンスターで、【ノヴァマスター】とは違う闇属性を司るヒーロー。
一方でその召喚のために発動した【フューチャー・フュージョン】は、手札に素材が揃っていない状況でも自在に融合が可能な万能カードだが、その効力が発揮されるのは2ターン後。
故に、遊輝の狙いは【フューチャー・フュージョン】による融合召喚ではない。
「僕は、この2枚のカードを墓地に送る!」
「なっ、そのカードは……!?」
カードを見て絶句したのは、デュエルの相手をしている男だけではない。周囲で観戦していた不良達、更には遊輝の後ろで見守っていた駿までもがカードの正体に息を呑んだ。
「E・HERO……ネオス……!?」
「あの伝説の、ヒーロー使いのエースカード……!?」
驚愕する一同の目の前で、遊輝はだけが淡々とデュエルを進行していく。
【ネオス】と闇属性のモンスター1体を墓地へ送って、更に1枚をデュエルディスクへセットした。
「更に魔法カード、【O―オーバーソウル―】を発動! このカードは、自分の墓地のE・HEROと名の付いた通常モンスター1体を、場に特殊召喚することが出来る!」
「なっ、まさかっ!?」
男の目の前で、墓地から排出された【ネオス】を、遊輝はモンスターカードゾーンへセットする。
鼓動が伝わってくる。
力の脈動。間違いなくそのカードは、遊輝へ力を貸してくれていた。
「【E・HERO ネオス】を、攻撃表示で召喚っ!」
『はぁっ!』
ARヴィジョンを通して見える勇姿は、遊輝へ力と勇気を与えるが如く、堂々と輝いていた。
どうも皆様、神崎です。
というわけで遊矢の真のデッキ、ヒーローデッキのお目見えでございました。
作者の使用デッキなので書きやすいことこの上ない……!
ENo.24の効果は、前回の希望者配布の際強すぎるというご指摘がありましたが、若干でも強くないと遊矢のピンチを演出出来ないので、エンドフェイズに受けるダメージ以外はそのままになってます。ご了承下さいませ。
さて、そんなわけで次回にもご期待いただければ幸いです。お楽しみに。
では、神崎でした。