遊戯王ZEXAL ―BRAVE HEROES―   作:神崎はやて

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ナンバーズ 21 ランカー

 No.というモンスターエクシーズの存在は、始めは都市伝説程度のものでしかなかった。同族以外に対しほぼ無敵を誇る戦闘耐性と、強力な効果。しかしその存在を実際に見たデュエリストはいない。ある者は、それをデュエリスト達の野心が生んだ偶像と嗤いさえした。

 

 しかし事実、No.というカードは実在する。それも、このハートランドシティだけに留まらず、世界のあらゆる場所にばら撒かれた。それでもそれを認知できた者が限りなく少数であるのは、使用者にNo.を持っている間の記憶が存在しないからだ。だからこそ、その存在が大っぴらに広まることも今までなかったのである。

 

 

 

 遊輝の前に現れた男は、No.という言葉に敏感に反応した。

 

 

 

「お前、今No.って言ったよな。その話、詳しく聞かせてもらえねーか」

 

 

 

 いきなりのことに戸惑いつつも、言葉を選ぶよう努めながら、遊輝は口を開いた。

 

 

 

「あの、どちら様でしょう……?」

 

 

 

「俺か? 俺はこういうもんだ」

 

 

 

 上着のポケットから差し出されたそれを遊輝はまじまじと見つめ、そして目を丸くした。それは、ハートランド市に特別に認められたデュエリスト――特別な意味を込めて、ランカーと呼ばれる――が持つパスカードだった。

 

 簡潔に定義するなら、ハートランド公認のエリートデュエリスト。それがランカーである。時には町の平和を守る警察の真似事すら引き受ける、デュエルのエース。しかし彼の外見に、その肩書きは似ても似つかなかった。

 

 

 

「……あー、その顔、その顔だ。解ってるよ、俺がそんなガラじゃねえってことくらい。畜生、俺だってなぁ……」

 

 

 

 と、つい思っていたことが顔に出てしまっていたらしい。しまった、と思ったが既に遅く、男は頬を引きつらせながら頭を掻く。

 

 

 

「あ……ご、ごめんなさい」

 

 

 

「はぁ……別にいーよ。自分の顔がどうなってるのかなんて、自分が一番解ってることだしな。……って、今はそんなことはどうだっていいんだよ。さっきお前、No.がどうとかって呟いてただろ。お前、No.を知ってるのか?」

 

 

 

 言われ、男の言葉にどう答えるべきか、遊輝は考えた。この男がどんな目的を以って遊輝にそんな問いかけをしているのかは解らない。興味本位か、或いは。

 

 ややあって、遊輝は口を開いた。

 

 

 

「……いえ、ちょっと噂で聞いた程度です」

 

 

 

「そうか。ま、そうだよな。そうそう都合よく出くわすわけもねえか……。呼び止めてすまねえな。ありがとよ」

 

 

 

「あ、はい。では、僕はこれで……」

 

 

 

 頑張れよー、と手を振る男に同じく手を振り返しながら遊輝はそそくさとその場を後にする。

 

 

 

『……おい、あの男』

 

 

 

「うん、解ってる」

 

 

 

 ある程度離れたところで、エッジの言葉に遊輝は振り返らぬまま小声で答える。

 

 

 

『我ら以外にNo.を集めている者の存在……考慮していなかったわけではない。むしろこれだけ広範囲に散らばってしまえば、いずれはその力を求める者が現れるのは当然だろうと思っていた。遊輝よ、もはや一刻の猶予も許されはせぬ。この大会に集まったNo.を全て回収するのだ』

 

 

 

「言ったでしょ、君の命令には従わない。僕は僕の意思で戦う。……僕自身の意思で、No.と」

 

 

 

 もう二度と、謙羊のような被害を出さないためにもNo.とは戦う。だが、エッジの命令のまま動くようなことだけはしたくなかった。デュエルは戦いの道具ではない。そう信じているからこそ、「大会などどうでもいい」と吐き捨てたエッジの言葉に従うわけにはいかなかった。

 

 何の迷いもなく告げられた言葉に、エッジは遊輝の意思が固いことを感じ取ったのか、そのまま押し黙る。埋め難い深い溝を感じつも、2人はそのまま、暫く無言で歩き続け――。

 

 

 

 

 

 

 

「うああああっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

「今のは……!?」

 

 

 

 ハートランド市街に響く悲鳴。既にカイザーのデュエルを観戦していた人々は散り、辺りに人の姿はまばらになっている。静寂を取り戻しかけていたその場に唐突に響いた悲鳴に、ランカーの男は舌打ちして駆け出していく。

 

 

 

『遊輝、我々も行くぞ』

 

 

 

「う、うん!」

 

 

 

 呆然としていた遊輝はエッジの言葉で我に返り、慌てて男の後を追う。

 

 どれほど走っただろうか。遊輝も入り込んだことのない路地裏の一角に、1組の男女が向かい合っている。片や、Dゲイザーとディスクを構えた少年が1人。地面に仰向けになって呻いている。対するは――おそらくは、女。おそらく、というのは、全身にあのグールズのものに似た真っ黒なローブをまとっていて、フードに隠れた顔から表情を伺うことすら困難であったためだ。倒れた少年のライフカウンターは既に0を刻んでおり、ARヴィジョンが強制解除されていった。

 

 女は完全に気絶している少年からハートピースを、衝撃によりディスクから吹き飛んだのであろう彼のデッキから、めぼしいカードを拾い集めていく。

 

 

 

「何もんだ、てめぇ」

 

 

 

 遊輝より先にたどり着き、様子を伺っていた男が問いかける。それで漸く、女は2人の存在に気づいたようだ。ローブの裾についた埃を払うと、徐に立ち上がった。

 

 男は鋭い目つきを険しく歪めて、女を睨みつける。

 

 

 

「そうか、お前か。カード強奪事件の犯人は」

 

 

 

「……見られたか」

 

 

 

 口を開いた男へ、舌打ちと共に女は男への警戒を濃くする。その反応を肯定ととった男は、見つけたぜ、と小さく呟くと口元に笑みを浮かべ、ランカーのパスカードを提示する。

 

 

 

「俺様はこういうもんだ。このWDC期間中のみ、ハートランドシティから、WDC運営委員およびハートランド警察と同等の権限を与えられてる。悪いが拘束させてもらうぜ」

 

 

 

「……そういうわけにはいかない」

 

 

 

 逃げようと踵を返した女。だが――。

 

 

 

「おっと、逃がすかよ!」

 

 

 

 真っ赤な光が少女の手首に巻きつき、女の動きを封じ込めた。それでもと女は腕を引くが、ロープのような光線の先は男の腕のブレスレットに繋がっている。逃走が不可能だと悟ると、女は抵抗をやめ再び男と向かい合った。

 

 

 

「まあ待てよ。そんなに逃げたきゃ、俺とデュエルしようぜ」

 

 

 

「何?」

 

 

 

「テメェが勝てば、テメェは無罪放免だ。俺からはもう手も出さねえ。が、もし俺が勝ったら……その時は大人しく捕まってもらう。どうだ、悪くねえ提案だろ?」

 

 

 

 少しの間、両者黙しての睨み合いが続く。だがややあって、女の方が体勢を変えた。警戒し、身構えるような姿勢から、立ち姿へと。腕に黒い靄が集まり、デュエルディスクを形成する。

 

 

 

「へっ、やる気じゃねえか。いいねぇ、話が解るやつは嫌いじゃない」

 

 

 

「……御託はいい。始める」

 

 

 

「いいぜ、この俺様がぶっ倒してやるよ!」

 

 

 

 

 

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 

 

 

○男

 

LP:4000

 

 

 

○少女

 

LP:4000

 

 

 

 

 

 

 

 男の左目に紋様のようなものが浮かび、デュエルディスクが投影するARヴィジョンを視覚に同期させる。辺りの空間が塗り変わっていくことを確認し、男はデッキから手札をドローした。

 

 

 

「始まった……!」

 

 

 

『……まずは様子見だな』

 

 

 

 エッジも、とりあえずは静観することに決めたらしい。ちら、と横目で様子を伺っていた遊輝は安堵から小さく息を吐いて、デュエルフィールドへ視線を戻す。

 

 デュエルディスクのランプが点灯したのは赤髪のランカーの男。男の先攻だ。

 

 

 

「俺のターン、ドロー! 俺はモンスターをセット。カードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

 

 

「私のターン。モンスターをセット。カードを2枚伏せてターンエンド」

 

 

 

 互いに、モンスターの姿もない地味な立ち上がり。カードをドローしつつ、男は思考した。

 

 

 

(今俺の場には、裏側守備表示のモンスターだけ。リバースカードがあるとはいえ、攻撃に躊躇う程の場じゃねえ。とすると、あいつが伏せたカードに何か意味があるのか……?)

 

 

 

 女の場にある2枚の伏せカード。相手の行動に反応して発動する罠ならば、それこそが彼女の狙いということになる。モンスターを罠にはめてカウンターを仕掛けてくるのが狙いなのだろう、と男は読んだが。

 

 

 

「……けっ、悩んでても仕方ねえ。男は攻撃あるのみだ! 俺のターン、俺はセットモンスター〝炎王獣 ヤクシャ〟を反転召喚!」

 

 

 

 セットされたモンスターが表になる。現れたのは、槍を携えた虎の獣人。灼熱の炎を従えた獣戦士だ。

 

 

 

 

 

○炎王獣 ヤクシャ

 

ATK:1800

 

 

 

 

 

「更に俺は、〝炎王獣 バロン〟を召喚!」

 

 

 

 虎を肩を並べて立つのは、獅子の獣戦士。黒い鬣をなびかせサーベルを振りかざすその出で立ちは、傍らの〝ヤクシャ〟と比べても更に野性的な印象を抱かせる。

 

 

 

「いくぜ! まずは〝炎王獣 ヤクシャ〟で裏側守備表示のモンスターを攻撃!」

 

 

 

 攻撃を先導したのは虎の獣人、〝ヤクシャ〟。槍を振り回し、裏側のカードへ急速に迫った。

 

 〝ヤクシャ〟の敵意に反応して、裏側のカードが表になる。糸で吊るされた機械仕掛けの針鼠が姿を現し、カタカタという奇妙な音だけを残し、悲鳴すらも上げずに〝ヤクシャ〟の炎槍に切り裂かれる。

 

 

 

「……〝シャドール・ヘッジホッグ〟のリバース効果。このカードが表になった時、デッキからシャドールと名の付く魔法・罠カードを手札に加える。〝影依融合〟を手札に」

 

 

 

「シャドール……? 聞いたことのないカードだな。けどこれで、お前の場にはモンスターがいなくなった。〝バロン〟でダイレクトアタックだ!」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

○女

 

LP:4000→2200

 

 

 

 

 

 バロンのサーベルをディスクで受ける。さすがに衝撃が大きかったのか、女はやや後方に突き飛ばされた。華麗に体勢を立て直した女は、何事もなかったかのように黒衣についた埃を掃う。

 

 

 

「まだ俺のターンは終わってないぜ! カードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

 

「このエンドフェイズ、リバースカードオープン。罠カード、〝針虫の巣窟〟を発動。デッキの上からカードを5枚墓地へ送る」

 

 

 

「墓地肥やし……なるほど、俺の攻撃に反応しないわけだぜ」

 

 

 

「私はこの5枚を墓地へ送る」

 

 

 

 女が公開したのはモンスターが3枚、魔法・罠カードが1枚ずつ。それを墓地へ送るのを確認して、改めてターンエンドを宣言しようとした男に、女の言葉が待ったをかける。

 

 

 

「墓地へ送られた〝シャドール・ビースト〟、〝シャドール・ドラゴン〟、〝シャドール・ファルコン〟の効果発動」

 

 

 

「墓地へ送られるだけで発動する効果だと!?」

 

 

 

「効果を処理。〝シャドール・ファルコン〟の効果。このカードが墓地へ送られた時、このカードを裏側守備表示で場にセットする。〝シャドール・ドラゴン〟の効果。このカードが墓地へ送られた時、相手の場の魔法・罠カードを1枚破壊する。右の伏せカードを破壊」

 

 

 

「ちっ……」

 

 

 

 迸る暗黒の波動が男の場の伏せカード、〝聖なるバリア-ミラー・フォース-〟を粉々に粉砕する。数ある攻撃反応型罠の中でも、強力な罠カード。それを破壊したというのに、僅かに覗く女の口元には笑みすら浮かばない。無表情のまま、カード効果の処理を続けていく。

 

 

 

「〝シャドール・ビースト〟の効果。このカードが墓地へ送られたら、デッキからカードを1枚ドローする。そして私のターン、ドロー。私は魔法カード、〝影依融合〟を発動。手札から融合素材となるカードを墓地へ送り、シャドール融合モンスターを特殊召喚する」

 

 

 

「今度は専用の融合カードかよ……!」

 

 

 

「手札の〝シャドール・リザード〟と、〝ペロペロケルベロス〟を融合。……いでよ、新たなる世界をも操りし糸……融合召喚、〝エルシャドール・シェキナーガ〟」

 

 

 

 玉座に腰かけた巨大な人形。その全身は糸で吊るされ、虚ろな瞳で男を見下ろす。全てを睥睨する巨躯を見上げ、男は目を見開いた。

 

 

 

 

 

○エルシャドール・シェキナーガ

 

ATK:2600

 

 

 

 

 

「で、でけえ……!」

 

 

 

『なんという威圧感か……!』

 

 

 

「融合素材として墓地へ送った、〝シャドール・リザード〟のモンスター効果を発動。このカードが墓地へ送られた時、デッキからシャドールカードを1枚墓地へ送る。私は〝シャドール・ヘッジホッグ〟を墓地へ。効果で〝シャドール・ドラゴン〟を手札に加える」

 

 

 

「融合素材として墓地へ送られても効果を発動できるだと……!?」

 

 

 

「しかも、手札融合までしたっていうのに手札が減ってない……!」

 

 

 

 〝エルシャドール・シェキナーガ〟のサイズもさることながら、それに付随する融合素材が攫っていくアドバンテージの量に、実際にデュエルをしている男はもとより、傍で見ている遊輝ですら思わず驚愕の声を漏らす。女の手札は現在4枚。ファーストターンに3枚ものカードを伏せ、手札融合まで行ったとは思えない枚数だ。何枚かは確定情報であるとはいえ、この状況では気休めにしかならない。

 

 

 

「バトル。〝エルシャドール・シェキナーガ〟、〝炎王獣 バロン〟を粉砕せよ」

 

 

 

「ぐっ、やらせるかよ! 罠発動、〝神風のバリア-エア・フォース-〟! 相手モンスターの攻撃宣言時に発動し、相手フィールドに存在する攻撃表示モンスターを全て手札に戻す!」

 

 

 

 旋風が巻き起こり、攻撃に移ろうとしていた〝シェキナーガ〟の巨体を揺らす。〝シェキナーガ〟には破壊され墓地へ送られた時、墓地のシャドール魔法・罠カードを1枚回収できる効果がある。それを男が知っていたわけではないが、図らずもこの場でベストなカードを破壊されずにいたのは奇跡だった。

 

 

 

「消えろ、デカブツ!」

 

 

 

 烈風にあおられた〝シェキナーガ〟が大きく体勢を崩し始める。風にフードをはためかせながらそれを見上げていた女の、白魚のような指先がデュエルディスクのボタンを叩く。

 

 

 

「カウンター罠、〝神の宣告〟。ライフを半分払い、〝‐エア・フォース-〟の効果を無効にし破壊する」

 

 

 

「んなっ!? まさか、滅多に手に入らない超レアカードだぞ!?」

 

 

 

 

 

○女

 

LP:2200→1100

 

 

 

 

 

 神の一喝で、巻き起こりかけていた旋風の防壁が掻き消されていく。モンスターの召喚・特殊召喚、魔法・罠カードの発動と効果のいずれかを無効にし破壊する万能カウンター罠、〝神の宣告〟。コストとして半分のライフを要求するピーキーさもあるが、それでも効果は強力であり、滅多にお目にかかれないレアリティも手伝って、罠カードの中でも最高クラスのカードとして名の知れた逸品である。まさかこんなところでお目にかかれるとは夢にも思わず、〝シェキナーガ〟の攻撃に押しつぶされ破壊される〝バロン〟を前に、男は目を丸くした。

 

 

 

 

 

○男

 

LP:4000→3200

 

 

 

 

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

 

 

「畜生、随分好き勝手やってくれたじゃねえか。今度はこっちの番だぜ! 俺のターン!」

 

 

 

 男の手札は4枚。仕掛けた罠が軒並み処理されてしまった以上、正面から〝シェキナーガ〟を突破するしかない。幸い手札には、それを可能にするカードも来ている。勝負に出るなら今だ。

 

 

 

「俺はフィールド魔法、〝炎王の孤島〟を発動するぜ」

 

 

 

 フィールドが塗り替えられていく。近未来的なハートランドの街並みが消え去り、代わりに緑の生い茂った熱帯の島が出現する。鳥や獣の鳴き声まで、事細かに再現されたフィールドに降り立ち、男はプレイを続ける。

 

 

 

「ここは炎王獣達の楽園。神獣を崇める火の島だ。……更に俺は、〝熱血獣士 ウルフバーク〟を召喚!」

 

 

 

 サングラスをかけ、後ろ脚だけでしっかりと大地を踏みしめる狼の獣戦士。〝ウルフバーク〟の攻撃力は1600であり、〝シェキナーガ〟には届かない。だが、このカードの真価は戦闘に非ず。炎属性獣戦士族のデッキでこそ、このカードは真の力を発揮する。

 

 

 

「〝ウルフバーク〟のモンスター効果を発動するぜ。このカードは1ターンに1度、墓地に存在する炎属性・獣戦士族・レベル4のモンスターを1体、効果を無効にして守備表示で特殊召喚する。俺は〝炎王獣 バロン〟を選択!」

 

 

 

 〝ウルフバーク〟が遠吠えを上げ、地面を思い切り殴りつける。僅かに抉れた大地から炎が噴き上がり、〝炎王獣 バロン〟が雄叫びと共に蘇った。

 

 

 

「これで、レベル4のモンスターが2体……」

 

 

 

 女の声音に、僅かな焦りが混じる。エクシーズ召喚の条件は揃った。ランク4のモンスターエクシーズといえば、優秀な効果を持ったものが多い。警戒するのも無理はないと言える。けれども、男はここで終わらせる気は全くなかった。

 

 

 

「甘いぜ。俺は更に、〝炎王の孤島〟の効果発動! このカードは1ターンに1度、2つの効果の内片方を選択し発動することができる。俺は1つ目の効果、場か手札のモンスターカードを1枚破壊して、デッキから〝炎王〟と名の付くモンスターカードを1枚手札に加える。場の〝バロン〟を破壊して、デッキから〝ヤクシャ〟を手札に加えるぜ」

 

 

 

「わざわざ自分の場のモンスターを破壊……?……っ」

 

 

 

「気付いたか。更に手札に加えた、〝炎王獣 ヤクシャ〟の効果発動! このカードは場の炎王が破壊された時、手札から特殊召喚できる! 来い、〝ヤクシャ〟!」

 

 

 

 再び大地を踏みしめ咆哮する獣戦士、〝ヤクシャ〟。フィールドのカードの枚数は変わっておらず、一見無意味に見える行動だが、破壊された〝バロン〟にはカードの効果で破壊された場合に発動できる効果がある。その効果の発動を狙った上で、デッキから新たなモンスターを呼び寄せる。結果、場のモンスターを維持しつつ、墓地を肥やし、モンスター効果の誘発のトリガーにまでしてしまったのだ。

 

 

 

「いくぜ、俺はレベル4の〝ウルフバーク〟と〝ヤクシャ〟でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 現れろ、EXNo.47! 〝炎獄獣士 バーンアウト・パンサー〟!」

 

 

 

 場に浮かびあがるEX47の刻印。赤く滾るマグマを内包した鎧のようなオブジェが出現し、形を変えモンスターとなる。炎を宿す金色の鎧を身に纏い、右手に大太刀、左手に盾を構えた黒豹の戦士が大地に降り立ち、大きく咆哮を上げる。

 

 

 

 

 

○EXNo.47 炎獄獣士 バーンアウト・パンサー

 

ATK:2600

 

 

 

 

 

「No.……!」

 

 

 

『馬鹿な、No.だと……? あの男、何故それを手にしていながら正気を保っていられる!?』

 

 

 

 それまでポーカーフェイスを貫いていた女の表情が、初めて目に見えて崩れた。最初は驚き――そして続いて、おそらくは喜びによる笑みへと。一方で、それまで冷静にデュエルの経過を見守っていたエッジの表情が初めて動いた。No.は、手にする人間の心の闇、欲望を糧に暴走する。それが何故、というのは当然の疑問だった。遊輝もエッジの言葉にはっとして彼を見るが、その間にもデュエルは進んでいく。

 

 

 

「こいつが俺様のNo.よ。いくぜ! 〝バーンアウト・パンサー〟の効果発動! 1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使い、自分の墓地に存在する炎属性・獣戦士族モンスターの数×500ポイント、相手モンスター全ての攻撃力をダウンさせるぜ。俺の墓地にはさっきのターンにぶっ潰された〝バロン〟と、オーバーレイユニットだった〝ヤクシャ〟がいる。よってテメエの場のモンスターの攻撃力は、1000ポイントダウンするぜ!」

 

 

 

「甘い。私は〝エルシャドール・シェキナーガ〟のモンスター効果を発動。特殊召喚されたモンスターの効果が発動した時、それを無効にして破壊」

 

 

 

「何ぃ!? そんなんありか!?」

 

 

 

 炎逆巻く〝バーンアウト・パンサー〟の効果が発動しようとした瞬間、〝シェキナーガ〟の双眸が光を放ち、膨れ上がった藤色のオーラが〝バーンアウト・パンサー〟を包み込んだ。炎は忽ち消え失せ、〝バーンアウト・パンサー〟は苦し気な声を上げて消えていく。

 

 

 

「更にその後、手札からシャドールカード1枚を墓地へ送る。墓地へ送られた〝シャドール・ドラゴン〟の効果でそのリバースカードを破壊。これで貴様の場はがら空き。次のターンで……私の勝ち」

 

 

 

「へっ、気が早えこったな。だがな、奥の手はまだまだあるんだよ! 俺は罠カード〝エクシーズ熱戦!!〟を発動! こいつは自分フィールド上のモンスターエクシーズが破壊された時に発動する罠カードだ! 互いにエクストラデッキのモンスターエクシーズを選択して公開し、公開したモンスターの攻撃力を比較して低い方が高い方のモンスターの攻撃力分のダメージを受ける。公開しなかった場合も、公開した側のモンスターの攻撃力分のダメージを受けるぜ」

 

 

 

「……!」

 

 

 

「気付いたみてえだな。見たところ、テメェのデッキは融合モンスターを軸としたデッキだ。モンスターエクシーズも、最低限のものしか入ってねえんだろ? そんなデッキでこのカードの効果を受ければ……」

 

 

 

 今、少女のライフは1100しかない。〝エクシーズ熱戦!!〟の効果でダメージを受ければ、ほぼ確実に燃え尽きる数値だ。

 

 

 

「これで俺の勝ちだ!」

 

 

 

「ッ!!

 

 

 

「この効果が通れば……!」

 

 

 

『奴の勝ちだ!』

 

 

 

 男の手がエクストラデッキへと伸びていく。このままゲームが続けば、女の敗北はほぼ確定的だ。男も、遊輝も、エッジも。そしておそらくは、男と対峙する女自身も。その場の誰もがデュエルの結果を確信する中、〝それ〟は起きた。

 

 

 

「……何だ?」

 

 

 

 いつの間にか、周囲に黒い靄が立ち込めていた。それはやがてデュエルフィールドの中央に収束し、形を成していく。それは人の姿を形作るのに、さほど時間を要さなかった。生意気に笑んだ黒装束の少年は徐に目を開けると、辺りを一通り見渡して、女の方を見た。

 

 

 

「おー、姉ちゃん。なんだ、もしかしてこの程度の相手に苦戦してんの?」

 

 

 

「……リュー、何しに来た」

 

 

 

「いやー、ジジイはほっとけって言ったんだけどさー。やっぱアジトでじっとしてんのって俺の性分じゃねえんだよ、うん」

 

 

 

 で、と言葉を切って、今度は対峙する赤髪の男を、次に遊輝の方をそれぞれ見やり、少年はやれやれ、と肩を竦める。

 

 

 

「ダメだなー姉ちゃん、そんなんじゃ。ちょっとイケてないぜい。何なら俺が代わってやろうか?」

 

 

 

「余計なことはするな。これくらいの相手、私だけで……」

 

 

 

「へっ、随分と余裕じゃねえか。これからやられるって奴がよ!」

 

 

 

思わぬ邪魔が入ったが、男が発動した〝エクシーズ熱戦!!〟の発動は止まっていない。男はエクストラデッキに手を伸ばし、カード効果の処理に入る。が、男の手がエクストラデッキのカードに届くより早く、少年が何かを投擲した。小さなボックス状の形をしたそれは向かい合うデュエリスト2人の間の空間に入ると、何かに衝突し激しくエネルギーをまき散らした。デュエルの開始と同時に透明化していたデュエルアンカーが可視化され、ボックスが爆発すると同時に切断され霧散する。

 

 

 

「ぐっ、何……!?」

 

 

 

 周囲に衝撃が走り、爆発で発生した煙によって視界が遮られる。合間から、逃げ去っていく2人の後ろ姿が辛うじて見えた。

 

 

 

「あ、コラ! 待ちやがれ!」

 

 

 

 ランカーの男がデュエルアンカーを射出するが、アンカーの先端は何者をも捕らえることなく虚空を貫く。煙が晴れるとそこには2人の姿はなく、男は舌打ちとともに拳を握り締めた。

 

 

 

「ちっ……逃げ足だけは速ぇ奴らだ」

 

 

 

 デュエルディスクが元に戻り、フィールドのARヴィジョンが解除されていく。Dゲイザーを外した遊輝は無言のまま、こちらへ歩いてくる男の姿を見つめていた。

 

 間違いなく、実力はランカーのそれだ。大雑把のようでいて緻密な戦略には、目の前の敵を打倒することに余念がない、彼自身のデュエリストとしての姿勢が垣間見える。

 

 

 

「悪かったな、巻き込むような形になっちまって」

 

 

 

「い、いえ、そんな……。首を突っ込んだのはこっちですし」

 

 

 

「まあなんつーか、今見たことは気にすんな……って言っても無理かもしれねぇが。こればっかりは無理やりにでも忘れろ。覚えててもなんもいいことねぇからな」

 

 

 

 服についた埃を払いながら言う男。

 

 傍らでじっと見つめるエッジや、エクストラデッキに眠るNo.の存在には気づいていないはずだ。そう解っていても、つい緊張してしまう遊輝の心中を知ってか否か、男は踵を返す。

 

 

 

「俺はこのままあの女を追う。お前は大会に戻りな。一般人が、こんなことに首突っ込むもんじゃねぇよ」

 

 

 

 じゃあなー、とひらひら手を振り去っていく男の背中を、複雑な表情を浮かべて見送る。

 

 

 

 

 

(一般人、か……)

 

 

 

 無意識に拳を握る遊輝の瞳が、揺れた。




皆様お久しぶりです、神崎です。

リアルの事情でかなりの間更新できていませんでしたが、ちょっとだけ帰ってきました。
しかし書き溜めていた分なので次回の更新は未定です。あしからず。
また書きあがり次第投稿したいと思います。その時までまた暫しの別れを。ではでは。
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