遊戯王ZEXAL ―BRAVE HEROES― 作:神崎はやて
至極当然のことではあるが、デュエリストとて人間である。
腹が減っては戦はできないし、いざという時に力を発揮できないようなことがあってはならない。故に、このデュエルカーニバル2日目の昼の街中には、デュエルしているデュエリストの姿は疎らだ。遊輝もまた、ちょうど見かけた雰囲気のいいレストランに腰を落ち着かせていた。
『人間とは、不便なものだな。そうやってエネルギーを摂取せねば活動できぬとは』
鼻歌交じりにメニュー表を眺める遊輝を見下ろしたエッジが言う。遊輝はそちらには目もくれないまま、呼び鈴のボタンへ手を伸ばした。
リン、という鈴の音がスピーカーから流れるのを聞いた後、手持ち無沙汰の遊輝はエッジを見上げる。
「……そういえば、ずっと気になってたんだけど。君って一体、どういう存在なの?」
『何だ、藪から棒に』
「いや、そういえば君の話ってほとんど聞いたことなかったなって。都市伝説でたまに聞くカードの精霊……とも違うみたいだしさ。異世界から来たっていうのは聞いたけど」
食うところも、眠るところも見たことがない。いや、そもそもその必要もないのだろう。であれば、そんな非生物的な彼は、一体何なのか。不思議に思いつつもこれまではあえて触れてこなかったが、いい機会だ。遊輝は思い切って問いかけてみることにした。
ダメかな、と小首を傾げる遊輝の目を真っ直ぐに見、ややあって溜め息とともにエッジは語り始めた。
『我は……秘宝を守護する、ただそのためだけに育てられた戦士だ』
彼の世界、〝ターミナル〟には古くから伝わる秘宝があった。曰く、その秘宝手にせし者は、万物を作り変えるほどの巨大な力を手にする。そう云われるほどの代物であった。エッジの血筋は、古くからその秘宝を守護するべく、彼の国の王宮に仕える戦士の一族だった。エッジも当然その例に漏れることなく、幼い頃より己が武を磨き、秘宝の力を求めてやってくる賊を打ち倒す力を手に入れるべく、研鑽を重ねていた。
『我々は日夜、秘宝を守って戦った。戦って、戦って……戦い続けた』
「ヴェルズと?」
『そうだ。正確には、ヴェルズに取り込まれた刺客と、だが』
「取り込まれた……?」
『ヴェルズとは、人々の邪念によって生み出された存在。その能力は、生物の骸に取り付き、操る力なのだ』
遊輝は息を呑んだ。そんな恐ろしい力を持つ者の存在に。そして、いずれはそれが自分の目の前に敵として現れるのだという事実に。
『我は秘宝の核と融合している。秘宝を巡る最後の戦いで、秘宝がNo.となって飛び散った影響だろう』
「食事も睡眠も必要ないのは、その秘宝の核の影響……?」
『おそらくな。何故カードの姿になってしまったのかはわからんが……。おかげで自分で探しに行くこともできん。全く厄介この上ない』
心底気に入らないといった風で頬杖をつくエッジ。言葉通り、可能なら今すぐにでも遊輝の下を離れてNo.を探しに行きたいのだろう。だがエッジの本体が今遊輝のデッキケースの中にある以上、持ち主である遊輝が決断しない限りそれも叶わない。
不満が全身から滲み出ているエッジを無視して、遊輝はちょうど運ばれてきた料理をつつく。トマトがたっぷり使われたソースのかかったハンバーグ。このレストラン一押しのメニューだ。少し箸を入れれば肉汁が染み出してくるほど、ジューシーなハンバーグに舌鼓を打つ遊輝の表情が綻ぶ。
半分ほど食べ終わったところで、不意にレストランの裏口の方から音がして、店主がドアを開けると、遊輝より一回り以上も大きい身体の大男が表れた。麦藁帽を被り、背にはこれまた大きな籠を背負っている。
「おーう、おやっさん! 今日もぎょうさん持ってきてやったぞぉ!」
「おや豊作君。いつもすまないね」
どっしりとした籠が床に置かれ、中から色とりどりの野菜たちが取り出されていく。
「でもいいのかい? 今日はほら……ワールドなんとかっていう、デュエルの大会の最中なんだろう?」
「ああ、それならもういいんじゃ。負けてしまったからのぅ、わしは」
「そうかい、それは残念だったねぇ」
野菜を、おそらくは業務用であろうサイズの冷蔵庫にしまいこみながら、そんなことを話す2人の会話に耳を傾ける。
(そうだよね。大会を戦っているのはNo.使いだけじゃない。一般のデュエリストだって、勝利を夢見てこの大会を戦い続けてる。……僕も負けてられないな)
ポケットに入れていたハートピースを握り締めて、遊輝は決意を新たにした。
遊輝のハートピースは、既にあとひとかけらを残すのみとなってはいるが、そのひとかけらがなかなか見つからない。既に何人かデュエリストを倒してはきたものの、どれも残り1枠にはまる形ではなかった。変なところでついていないものだと苦笑して、遊輝はハートピースをしまう。
「ところでおやっさん。この店、こんなに客足が少なかったかのぅ。お昼時は書き入れ時だと思うんじゃが」
「……やっぱり解っちゃうか」
それを聞いて、遊輝も店内を見渡した。ここは遊輝にとっても馴染みの店だが、確かに客の数が極端に少ないように見える。前はもっと賑わっていて、入るのにも苦労した覚えがあるだけに、違和感を感じていたところだった。
「ちょっと隣の店から嫌がらせを、ね」
「それは許せんなぁ。どれ、わしが一言言いに……」
「いや、それはやめてくれ。下手に文句を言うと余計に酷くなりかねん」
困ったように笑う店主に豊作という男はそれ以上何も言えず、またいつでも相談してくれよ、と告げて、野菜の代金を受け取って去っていった。
『No.か……?』
「さあ、どうだろ。なんとかしてあげたいけど……僕が安易に口を出せる問題じゃないしなぁ」
心残りはあるが、それでも自分にできることはそう多くない。そう思いながらハンバーグを食べ終えた遊輝は、支払いを済ませて店を出る。
この店はハートランドの市街でも大きな通りに面しており、集客にはそれほど悪くない立地だが――なるほど、確かに他の店に比べると客の数が極端に少ない。改めて店主の言葉を思い出していると、隣の建物から出てきた男が唐突に声をかけてきた。
「やあ君、この店で食べてきたのかい?」
「え? ええ、まあ……」
遊輝に声をかけてきた男は、見るからにシェフといった出で立ちで、白いエプロンにコック帽が蒼天に眩く映えている。その一方で帽子の下に見える顔はどこか嫌味っぽく笑みが浮かんでいて、遊輝は突然呼びかけられ驚いたこともあって、一歩後退ってから頷いた。
すると男は嫌らしい笑みをそのままに、店の方を見やって言った。
「ここはやめといた方がいいよぉ。料理に虫が入ってたりしたんだってさあ。いやー、嫌だねぇ」
ほらこれ、とその男から渡された写真には、確かに虫のようなものがカレーやスープの中に入っているところが写し出されている。しかしそれはどれも不自然だ。普通客に提供するまでの間に見逃されるはずもない大きさのものですら、写っていたのだから。
「それに比べてこの店はいいぞぉ! 安くて美味くて雰囲気もいい! 次はぜひこっちの店に来てくれ。決して損はさせないよ」
まくし立てるだけまくし立てて、男は再び店内へ入っていった。
『何だったんだ?』
「……嫌がらせ、か」
男が入っていった隣の建物のドアを見、続けてたった今自分が出てきた店の軒先を見て、遊輝は何かを決意したように拳を握ると、携帯電話を開いた。
お久しぶりです。神崎です。
はい、これまでに比べると非常に短いですがここで切りました。
迷いましたが、予定通り更新するためにも一度切った方がいいとの判断です。
これについては、また必要に応じて変えていこうと思っています。
そういえば今回出てきた豊作君、実は公式キャラなんですが解った方どれくらいいましたかねw 一度きりの登場だったようなキャラも、今後ちょくちょく出していけたらと思っております。お楽しみに。
では、また次回まで。神崎でした。