遊戯王ZEXAL ―BRAVE HEROES―   作:神崎はやて

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ナンバーズ 4 胎動する闇

「遊輝ー! 朝ご飯出来てるわよ。そろそろ起きてきなさーい!」

 

 お掃除ロボットにDゲイザー、ハイテク機械が山ほどあるハートランドシティでも、人の住まう住居というものは意外にレトロなものから最新鋭の技術を盛り込んだ高層ビルまで、ありとあらゆる家屋が存在している。遊輝の家は、そんなハートランドシティの一角にある、とある一軒家。外観は極めて普通の三角屋根の家屋で、白塗りの外壁に赤い屋根を乗せた家が朝日を照り返して悠然と佇んでいた。

 そんな田神家の中で、けたたましい声と共に聞こえてくる階段を上がる足音が段を上がるごとに徐々に大きくなっていき、やがて可愛らしい木製プレートで〝保管庫〟と書かれた部屋の前で止まる。

 

「遊輝、ご飯!……って、あれ?」

 

 木目の鮮やかなフローリングの上に幾つもの棚が並べられた室内に、声の主であった少女がドアを勢い良く開け放って姿を現した。遊輝に似たさらりと伸びる黒髪に、くりくりと可愛らしい眼が印象的な少女。遊輝の妹、名を百合という。

 しかし彼女は、中に目的の人物がいないのを見るときょとんと立ち止まり、そのチャーミングポイントたる目をぱちくりとさせる。

 

「どこ行ったのかしら……」

 

 棚の脇。空いたスペースに敷かれている、誰も寝ていない布団を見て、百合は大きく溜め息をつく。

 

 

 

「ご飯冷めちゃうじゃない……もー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○ナンバーズ4 胎動する闇

 

 

 

 百合が保管庫でぽかんとしていたその頃、遊輝の姿は家の裏庭にあった。庭、といってもそれほどの広さがあるわけではない。街の裏路地程度の隙間しかない小さな場所で、陽の光もあまり差し込まない場所だ。遊輝はそこにあった、自分の腰程にまで届く石と対面するように腰掛けて、その前に一枚のカードを差し出した。

 

「父さん。昨日ね、こんなカード見つけたんだよ」

 

 小声で囁く遊輝の表情は、楽しそうでいて、どこか寂しげ。昨日手に入れたばかりのカード、〝EXNo.30 E・HERO エクストリーム・エッジ〟を石の前の石盤に大切に置く様子は、さながら墓前に花でも備えているかのようだ。

 

(それにしても……)

 

 そこでふと、遊輝は寂しげな表情を一転、思案するように顎へ手を当てると、腰のデッキケースからカードを1枚取り出した。書かれている名は、〝EXNo.24 バンディッド・デーモン〟。盗賊の名に相応しい、嫌らしい笑みを浮かべてダガーを構える悪魔の姿が描かれたそのカードは、気付けば遊輝のデッキケースの中に入っていた。

 無論、あの不良の提示したアンティルールに従うつもりは遊輝にはなく、そもそも不良はデュエルが終わると同時に子分達に担がれてどこかへいってしまったのだから、〝それ〟が遊輝の手に渡る機会はなかったと言っていい。奇抜な絵柄もあって、まるでホラーのような気味の悪い話であった。しかし、ホラーと言った方がまだ納得できる話であるのもまた事実である。実際、遊輝はそれを裏付ける体験をしているのだ。他ならぬ――あの不良とのデュエルの最中に。

 

「あの時の声は、君……なの?」

 

 再び石盤の上から拾い上げた〝エクストリーム・エッジ〟のカードを見つめ、遊輝は1人、答えの返ってこない問いを投げかける。スタイリッシュな蒼と白の鎧を身に纏ったHEROは、剣を構えた凛々しき姿のまま何も喋ってはくれない。代わりに鮮やかな色合いのカードの絵柄が、朝日を反射して神々しく輝いていた。

 そんなわけないか、きっと自分の空耳だろう。そんな結論からか遊輝が大きく溜め息をつくと、勝手口の方から彼の背へ向けてかけられる声があった。

 

「あ、遊輝やっぱりここにいた」

 

「え?……ああ、何だ百合か」

 

「何だじゃないでしょ、もうっ!」

 

 遊輝の薄い反応に、腰に手を当てて頬を膨らませるのは、遊輝の妹の百合。2つ年下の小学生で、カードデザイナーである父と母に代わり家を切り盛りしている。

 ちなみに田神家にはもう1人、カードコレクターを自称する遊輝達兄妹の祖父がいるが、珍しいカードを集めるため常に世界中を飛び回っており、I2社で年中カードのデザインを考えている母親以上に家に帰ってくる頻度は少なかった。そのせいか、デュエルやゲームよりも料理やファッションなどに元から興味があった妹の百合が、家事を担当することになるのは必然であった。尤もただ飯を食らうわけにもいかないので、遊輝も定期的に手伝ってはいるが。

 

「朝ご飯出来たよ。早く食べないと学校遅れるわよ」

 

「いっけない! すぐ行くよ!」

 

そんな妹の指摘に、遊矢は慌ててカードをデッキケースにしまうと、家の中へと駆けていく。

 

ケースの中で、〝エクストリーム・エッジ〟のカードが微かに淡い光を発していた。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「〝リヴァイエール〟でダイレクトアタックッ!」

 

「きゃあああぁぁぁぁっ!?」

 

 所変わって、ここはハートランドシティ市内の隅にある広場。いつも遊馬達とデュエルしている広場とはまた違う場所だが、デュエル大会用に作られた特設のデュエルフィールドで、遊輝と小夜子のデュエルが今ちょうど終了した。

 〝リヴァイエール〟の放った尾の一撃が小夜子を薙ぎ、僅かに残った小夜子のライフを根こそぎ削り取る。

 

 

○小夜子

LP:500→0

 

 

「あいたた……」

 

「ごめんごめん、大丈夫?」

 

「あ、ありがと……」

 

 〝リヴァイエール〟の攻撃に吹っ飛ばされたところへ慌てて駆け寄り、手を差し伸べた遊輝へ小夜子は礼を述べると、その手を取る。

 遊輝のクラスにも、デュエルの授業がある。デュエルアカデミアという名義ではないが、ハートランドシティ市内で数少ない学校であるということもあって、デュエルもまたカリキュラムの中に含まれているのだ。しかしいかにデュエルがカリキュラムの中にあるといっても、デュエルアカデミアのようにデュエルを専門に学ぶ学校とでは、どうしてもプレイ時間に開きが生まれてしまう。遊輝のように日々をデュエルに生きる生徒はそれだけでは飽き足らず、こうして市内で行われている非公式大会に出場しては腕を磨いているのだった。

 ちなみに現在の遊輝の戦績はといえば、2回のデュエルでいずれも勝利。まずまずの戦果だ。今日の大会では、適当に自分で見繕った対戦相手とデュエルをし、最初に3勝した者が優勝となる少々変わったルールだ。弱いデュエリストでも、平等にデュエルを楽しめるよう考えられたらしい。

 つまり後1回、誰かに勝てば遊輝の優勝が決定するのだ。

 

「さすが遊輝君、強いなぁ」

 

「あはは、そんなことないよ。小夜子さんのデッキには毎回苦しめられてるし」

 

 Dゲイザーを外し、互いの健闘を讃え合う2人。小夜子の腕も標準的な視点から見ればなかなかのものだが、結果的には遊輝の方が今のところ勝ち越している。とはいえ遊輝も言うように彼女の腕は回を重ねる毎に上達してきており、遊輝としてもうかうかなどしてはいられないのも事実であった。

 

「あーぁ。こんなんじゃ、遊輝君の本当のデッキ見られるのもまだまだ先になりそうだなぁ……」

 

 悔しそうに――しかし、それでいてどこか嬉しそうに言う小夜子の横顔を見ていると、不意に横からどよめきが上がり、遊輝はそちらを見やった。何やら人だかりが出来ている。皆がDゲイザーを着けているのを見ると、どうやらデュエルを観戦しているようだ。

 

「あ、駿君だ」

 

 人だかりの中心で、あの駿がおっかなびっくりデュエルディスクを構えているのが、人垣の間から見えた。深緑の髪が、おどおどと身を震わせる度に揺れているのが、遊輝のいる場所からも確認できる。そしてその対面では、切りそろえた金の髪を揺らしながら、1人の男子生徒が意気揚々とカードを引いた。

 

「いくぜ、俺様のターン! ドローッ!」

 

 大振りのモーションでドローしたカードを確認し、少年の顔つきが変わった。きっと、いいカードを引き当てたのだろう。少年はそのままドローカードを、デュエルディスクへ装填した。

 

「〝ゴブリンドバーグ〟を召喚!」

 

 場に現れた、セスナに乗ったゴブリン。かの九十九 遊馬が愛用するカードの1つで、展開力に優れた優秀なモンスターだ。

 

「〝ゴブリンドバーグ〟の効果で、俺様の手札の〝闇魔界の騎士 ダークソード〟を特殊召喚!」

 

 漆黒の鎧に全身を包んだ闇の騎士が、〝ゴブリンドバーグ〟の落としたコンテナから颯爽と姿を現す。〝ゴブリンドバーグ〟と同じ戦士族であり、更にここで注目すべきは、2体共にレベルが4であるという事実。

 

「〝ゴブリンドバーグ〟と、〝ダークソード〟でオーバーレイ! 2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚っ!」

 

2人の戦士が光となって高く舞い上がり、地面に空いた穴へ吸い込まれて爆発を起こす。

 

「現れろ、〝機甲忍者 ブレード・ハート〟!」

 

 光の海を切り裂いて、現れたのは二刀流の忍者。それが今少年の場に降り立ち、鋭い眼光が駿を撃ち抜く。案の定、気弱な駿はそれだけで「ひっ!」と竦み上がった。

 

「見たことのないモンスターだなぁ……」

 

「忍者、かぁ」

 

 一方、遠目に見ていた遊輝の横で面白いね、と笑いながら小夜子もまた少年の場に現れたモンスターを見る。威風堂々とした威圧感から駿が怯んだ隙に、少年は効果を発動した。

 

「俺様は、〝機甲忍者 ブレード・ハート〟の効果発動! 1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使うことでこのターン、俺様の場の忍者1体は2回の攻撃が出来る!」

 

「えぇ!?」

 

 駿のライフは2000、場には守備モンスターが1体のみ。〝リチュア・エリアル〟。水属性で、大きな帽子を被り、空色の髪をした魔法使い族の女の子で、守備力は1800。伏せカードは何も伏せられておらず、攻撃力2200の〝ブレード・ハート〟の2回攻撃を凌ぐことは出来ない。

 

「これで終わりだぜ! 〝ブレード・ハート〟で〝リチュア・エリアル〟を攻撃! 電磁抜刀、カスミ斬りぃぃぃぃっ!」

 

 二刀を手に〝リチュア・エリアル〟へ肉薄し、素早く幾度も斬りつける。〝リチュア・エリアル〟はその斬撃に、堪らず悲鳴を上げて消滅した。

 しかしそれでも、〝ブレード・ハート〟の攻撃はまだ終わっていない。

 

「〝ブレード・ハート〟で、プレイヤーへダイレクトアタックだぁっ!」

 

「うわああぁぁぁぁっ!?」

 

 続け様に幾度も切りつけられ、駿の悲鳴が上がると共にライフカウンターが0を刻む。

 ARヴィジョンが幾何学模様と共に消えていくのを確認すると、少年の周りを数人の男子生徒がすかさず取り囲んだ。

 

「すっげー、さすが手島!」

 

「やっぱり駿じゃ相手にならねぇよー」

 

「がっはっはっはっ! 当然当然!」

 

 次々に褒めちぎる男子達に豪快な笑いで答えるこの手島という少年を横目で見ながら、遊輝と小夜子は〝ブレード・ハート〟の攻撃による衝撃で吹っ飛んだ駿の下に駆け寄る。

 

「大丈夫、駿君?」

 

「ゆ、遊輝君……」

 

 抱き起こされた駿の表情が、遊輝の姿を見た途端、僅かに晴れた。

駿がこの大会に度々参加していると聞いた時、正直な話、遊輝は驚いた。気弱で、学校では常に友人とのデュエルの申し出を断っていた彼が――という思いが少なからずあったためだ。

 彼によれば、学校の知り合いが少ないこういう場であるからこそ、気兼ねなくデュエルが出来たのだとか。けれど、彼――初等部の戦士 手島というあのデュエリストが現れてからは、その大会にすらもやがて出なくなった。彼は常に駿の一歩上をいっていたし、何より彼のようなタイプは駿が苦手とするところであったから、というのは、今日ここへ来る前に駿本人から聞いていたことであった。

 では何故、そんな大会にまた出ようと思うようになったのか。何のことはない、遊輝が出てみたいと言ったのをたまたま傍で聞いていたからだ。どうやらあの不良との一件で遊輝はすっかり彼に認められてしまったらしく、「遊輝君が出るなら僕も……」といった具合に、彼の後をついてきたのだった。

 

「ご、ごめん。僕負けちゃった……」

 

「謝ることなんかないよ。いいデュエルだったじゃないか!」

 

「そうよ。そんなに落ち込むことないと思うわ」

 

 実際、あの手島という少年のライフポイントも結構な数が削られていた。負けたとはいえ、十分にいい戦いだったと言えるだろう。遊輝と小夜子に励まされて幾分元気が出てきたのか、駿は弱々しくも確かに頷いた。

 

「さて、それじゃあ僕も最後の相手を探そうかな」

 

「それなら俺様が相手してやるよ!」

 

 気を取り直して伸びをしながら遊輝がそう言うと、いつの間にやら近くまで来ていたらしい手島が強気な笑顔を浮かべながら駿を見上げていた。

 

「君、確か手島君……だっけ」

 

「そう! このお方こそ!」

 

「ここら一帯を荒し回っていたデュエルギャングの1人、ヤバスを倒した伝説の男!」

 

「戦士 手島様だっ!」

 

 と、まるで「どーん!」という効果音までつきそうなまでに高々とした名乗りを上げたのは、戦士 手島という少年本人ではなく、彼の周囲を囲んでいた取り巻きの少年たちの方だった。ガキ大将、という言葉がこれほど似合う人間はそうはいまい、と思う遊輝であったが、同時に彼に興味も湧いてきた。正確には――彼の使う戦士族デッキの方に。

 中でもあの忍者の姿をしたモンスターエクシーズ。あのカードとは先程一目見た時から、一度戦いたいと思っていたところだ。遊輝としても、彼の申し出はまさしく望むところであった。

 

「よし、やろうか。僕は田神 遊輝、よろしく」

 

「遊輝か。ま、一応覚えておいてやるぜ」

 

 互いに不敵な笑顔を浮かべ、戦いの前に相手を牽制する。ある程度距離を離して対面すると、2人はDゲイザーのデュエルターゲットを互いに設定した。Dゲイザーとデュエルディスクは連動している。デュエルディスクが読み取った情報をDゲイザーが制御し、ARヴィジョンとして投影するのだが、その場でDゲイザーを起動しているのが戦っているデュエリストだけとは限らない。ARヴィジョンはDゲイザーを装備している者にしか目視出来ない。であれば当然、デュエルを観戦する観客もまたDゲイザーを装着する必要があるのだ。けれどその時、召喚したモンスターや使った魔法・罠の効果が正しい相手を認識しなければ意味がない。そこで、前もってデュエルのターゲットとなる相手の情報をDゲイザーに認識させる必要があるのである。

 デュエルターゲットをロックオンし、デュエルディスクがオートシャッフルしたデッキから5枚の手札をドローする。デュエルの準備が完了した。

 

「「デュエル!」」

 

 

○遊輝

LP:4000

 

 

○手島

LP:4000

 

 

「先攻は俺様だ! 俺様のターン、ドローッ!」

 

 デュエルディスクがランダムに選出する先行後攻。高速で点滅するランプが先攻に選んだのは、手島だった。デッキトップから、カードを1枚ドローする。

 

「俺様は、〝アックス・レイダー〟を召喚!」

 

 戦斧を持った逞しい戦士が場に出現する。攻撃力1700のモンスターで、戦士族。攻撃力はそれなりに優秀だが効果を全く備えていない、通常モンスターと呼ばれる類のカードである。

 攻撃表示で召喚された〝アックス・レイダー〟は、立派な戦斧を手に攻撃の構えをとった。

 

「更にカードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 ドローしたカードを手に、遊輝は思考する。

悪くはない手だ。やろうと思えば、すぐにでも仕掛けることも可能である。けれど遊輝としては気になるのが、手島の伏せた1枚のカード。たった1枚でも軽視は出来ない。たった1枚のカードが、形勢を変えることなどそう珍しいことではないのだから。

 慎重にカードを選びながら、遊輝はデュエルディスクへセットする。

 

「僕は、〝セイバーザウルス〟を攻撃表示で召喚!」

 

 AR空間に光子が収束していき、大きな恐竜の形を象っていく。どこかトリケラトプスに似た赤い体表の恐竜は、頭部に生えた刃の如き角を雄々しく振りかざし、咆哮する。

 遊輝は数瞬の間逡巡した後、臆せず攻めることを決めた。

 

「いくよ。〝セイバーザウルス〟で攻撃!」

 

 巨体には似合った突進力で、猛然と襲いかかる剣の如き角を持つ恐竜。角の剣は〝アックス・レイダー〟を貫き、衝撃の余波が手島のライフポイントを削り取る。

 

 

○手島

LP:4000→3800

 

 

「これくらい、なんでもねぇぜ!」

 

 何でもない素振りでダメージを甘んじて受ける手島。ブラフだったのか、それとも――。変わらず警戒しながらも、遊輝はカードをセットする。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

「いくぜ! 俺様のターン……ドローッ! 俺様は、伏せておいた〝リビングデッドの呼び声〟を発動!」

 

(蘇生カードだったのか……!)

 

 〝リビングデッドの呼び声〟は、先日の不良とのデュエルで遊輝も使用した便利な蘇生カードである。特殊召喚するターンは攻撃表示で、またこのカードが破壊されれば蘇生したカードも破壊されてしまう欠点はあるが、発動後場に残ったこのカードを回収すれば何度でも使える上、相手ターンにも使用できるという罠カードならではの強みもあり、何かと便利な永続罠カードである。

 

「俺様は〝アックス・レイダー〟を墓地から特殊召喚! 更に手札から〝闇魔界の騎士 ダークソード〟を通常召喚!」

 

〝アックス・レイダー〟の隣に、黒衣の騎士が降り立つ。攻撃力1800。遊輝の〝セイバーザウルス〟に僅かに届かないが、〝アックス・レイダー〟と〝ダークソード〟は同じレベル4の戦士族モンスターだ。

 と、いうことは――。

 

「来るか……⁉」

 

「俺様はレベル4の〝アックス・レイダー〟と、〝ダークソード〟でオーバーレイ! 2体の戦士族モンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 光となって、地に開いた穴へ吸い込まれていく2体の戦士。やがて光は大きな爆発を起こし、光の本流を切り裂いて、二刀の忍者が姿を現した。

 

「現れろ、〝機甲忍者 ブレード・ハート〟ッ!」

 

「出てきたか……!」

 

 二刀の忍者の鋭い眼光と、嬉々とした遊輝の視線が交錯する。爛々と輝く遊輝の瞳に、傍でデュエルを見ていた小夜子は苦笑した。

 

「あはは、遊輝君ってば楽しそう」

 

「が……頑張って、遊輝君!」

 

 遊輝が精一杯の勇気を込めて応援する駿の声援に応えると、手島は若干表情を歪めながら、デュエルディスクに手を伸ばす。

 

「更に、〝ブレード・ハート〟の効果発動! オーバーレイユニットを1つ使い、このターン、俺様の場の忍者と名のつくモンスター1体は2回の攻撃が出来る! よってこのターン、〝ブレード・ハート〟は2回攻撃の権利を得たぜ! 行け、〝ブレード・ハート〟! 電磁抜刀、カスミ斬りぃっ!」

 

「罠カード発動! 〝攻撃の無敵化〟!」

 

 遊輝の場の伏せカードの内1枚がオープンになり、発動光に包まれた。〝攻撃の無敵化〟。攻撃に際し、自分のモンスターを様々な破壊から守るカードである。

 

「〝攻撃の無敵化〟によりこのターン、セイバーザウルスは戦闘で破壊されない!」

 

「けど、ダメージはしっかり受けてもらうぜ! 電磁抜刀、二連撃ぃっ!」

 

「うっ……!」

 

 光の膜に包まれた〝セイバーザウルス〟を、〝ブレード・ハート〟が連続で切りつける。たとえモンスターは破壊されなくとも、攻撃力の差はダメージとなって遊輝に降りかかる。

 ダメージの余波に軽く呻き、遊輝は攻撃を耐えきった。

 

 

○遊輝

LP:4000→3700→3400

 

 

「ターンエンドだ。どうだ! 俺様の力、思い知ったか!」

 

「確かにパワーは凄いね。でも……それだけじゃ勝てないのがデュエルだ! 僕のターン、ドロー!」

 

 遊輝はドローしたカードを見――そして笑った。

 

「僕はまず、伏せてあった罠を発動する。罠カード、〝マクロコスモス〟発動!」

 

「〝マクロコスモス〟……確か、墓地にいくカードを皆除外しちまうカードだったな」

 

「そ。よく知ってるね」

 

 惑星の並びを掌握しているかのように、その腕で包み込む人間のシルエット。そんな、まるで絵画のような絵柄を持つカードが表になり発光する。そのカードの効果を口にした手島を、遊輝は純粋に賞賛した。

 一応、〝マクロコスモス〟には手札またはデッキから〝原始太陽 ヘリオス〟というモンスターを特殊召喚する効果もある。〝原始太陽 ヘリオス〟はゲームから除外されているカードの数だけ攻撃力が上がるため、〝マクロコスモス〟を生み出したデザイナーとしてはむしろ〝ヘリオス〟との連動を想定して考案したカードなのだろうが、デュエリストがこのカードを使用する主な目的といえば、手島が説明した除外効果の方だろう。

 除外をメインギミックとしている遊輝のデッキには、まさにうってつけのカードである。

 

「そうさ! デュエルのことなら手島さんは何でも知ってるんだ!」

 

「テストはいつも10点以下だけどな!」

 

「よ、余計なこと言うんじゃねえテメェらっ!」

 

 取り巻きの失言に顔を赤くして怒鳴る手島に苦笑しつつ、あえてそこには触れずに遊輝はドローしたカードをディスクへセットした。

 

「さらに僕は、魔法カード〝化石調査〟を発動! このカードの効果により、デッキからレベル6以下の恐竜族モンスターを手札に加える。僕はデッキから、〝ジュラック・グアイバ〟を手札に加える!」

 

「恐竜デッキか……だが、そんな虚仮威(こけおど)しでこの俺様の戦士達は踏み潰せないぜ!」

 

「虚仮威しかどうか、今に解るよ。〝マクロコスモス〟の効果で、〝化石調査〟はゲームから除外。そして手札から、〝切り込み隊長〟を召喚!」

 

遊馬とデュエルした時にも登場した、精悍な戦士が場に降臨する。

 

「せ、戦士族だとっ!?」

 

「隊長は部下を従えて戦うものさ。〝切り込み隊長〟の効果! 召喚に成功した時、手札のレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。僕は手札の〝ジュラック・グアイバ〟を攻撃表示で召喚!」

 

 切り込み隊長の呼び掛けに答え、遊輝の手札に眠っていた〝ジュラック・グアイバ〟が雄叫びと共に場に現れた。炎を纏いし恐竜はしっかりと大地を踏みしめ、セイバーザウルスと並び立ち雄々しく牙を剥く。

 

「いくよ。〝ジュラック・グアイバ〟で〝ブレード・ハート〟を攻撃っ!」

 

「へっ、なめてんのかっ! 俺様の〝ブレード・ハート〟の攻撃力は2200。いかに雑魚を並べ立てようとも、攻撃が通ることはないぜ!」

 

「けど、モンスターの攻撃力だって絶対じゃない! ダメージステップに手札から速攻魔法、〝突進〟を発動! このカードの効果により、場のモンスター1体の攻撃力を700ポイントアップする! 効果は〝ジュラック・グアイバ〟へ!」

 

「な、何ぃ!?」

 

 〝ジュラック・グアイバ〟の攻撃力は1700。確かにこのままでは、手島の〝ブレード・ハート〟の攻撃力2200には及ばない。けれど、その差を埋めることが出来るのが魔法や罠とのコンビネーションであり、故に何が起こるか最後まで解らない。それがデュエルである。

 〝突進〟の効果で700ポイントの攻撃力を得た〝ジュラック・グアイバ〟の最終的な攻撃力は2400。〝ブレード・ハート〟は二刀で炎を纏った突進を受け止めるが、次第に耐久力が尽きた二刀に罅が入り始め――。

 

「……あっ」

 

 ベキン、と、半ばから折れた二刀の先端が宙を舞う。その間に〝ジュラック・グアイバ〟の、勢いの衰えぬ突進が〝ブレード・ハート〟を突き飛ばした。衝撃に、悲痛な断末魔を上げて〝ブレード・ハート〟は爆散した。〝マクロコスモス〟の効果で、あくまでも墓地へはいかず、〝突進〟と共にゲームから除外される。

 

 

○手島

LP:3800→3600

 

 

「ち、畜生っ……!」

 

「〝ジュラック・グアイバ〟の効果。このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時、デッキから攻撃力1700以下のジュラック1体を特殊召喚できる。〝ジュラック・ヴェロー〟を召喚!」

 

 〝ジュラック・グアイバ〟が巻き上げた炎が激しく唸り、次第に形を成していく。その中からやがて現れたのは、真紅の鱗を持つ二足歩行の恐竜だった。

 

「〝ジュラック・グアイバ〟の効果で特殊召喚したモンスターはこのターン、バトルに参加出来ない。〝切り込み隊長〟でダイレクトアタック!」

 

「ぐぅっ……!?」

 

 

○手島

LP:3600→2400

 

 

 〝切り込み隊長〟のきらりと光る長剣が、直に手島の身体を切り裂く。〝切り込み隊長〟の攻撃力、1200が手島のライフからごっそりと削られる。

 けれど、遊輝の攻撃はまだ終わっていない。

 

「続いて、〝セイバーザウルス〟でダイレクトアタック!」

 

「うおああぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

手島

LP:2400→500

 

 

 〝セイバーザウルス〟の突進が手島の身体を吹き飛ばし、その攻撃力と同じ数値、実に1900ものライフポイントを削り取る。さすがにこれは効いたのか、片腕を抱えながら手島はよろよろと立ち上がった。

 

「メインフェイズ2。僕はレベル4の〝ジュラック・ヴェロー〟と、〝セイバーザウルス〟でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 〝ジュラック・ヴェロー〟と〝セイバーザウルス〟が同時に吼え、それぞれが赤と茶の光となって、螺旋を描きながら天空へ舞い上がる。

 

「現れろ、〝エヴォルカイザー・ラギア〟!」

 

 爆炎を巻き上げ、電子データのような外見の薄緑色の体表を持った巨竜が、2つの衛星を従えて場に降臨する。モンスターエクシーズとしてはレアな部類に入るモンスター、〝エヴォルカイザー・ラギア〟。攻撃力は2400と手頃だが、このカードの真価が発揮されるのは戦いの場ではない。

 手札を使い切ってしまった遊輝にこのターン、これ以上出来ることはなく、遊輝はそのままターンエンドを宣言した。

 

「畜生……認めねぇ! こんなん絶対認めねえぞ! 俺のターン、ドローッ!!」

 

 どうやら、今のターンで大ダメージを受けたことが彼に火を着けたらしい。激昂しながらドローしたカードを手札に加え、別のカードをデュエルディスクへ叩きつける。

 

「俺は手札から、〝異次元の女戦士〟を召喚!」

 

「!……へぇ」

 

 漆黒のボディスーツを着込んだ金髪の女戦士が、光の剣を手に現れる。遊輝も使用しているモンスター。その登場に、遊輝の目が純粋な驚きから僅かに細められた。

 けれどそれも一瞬のこと。すぐさま手は、〝異次元の女戦士〟への対抗措置へと動き出す。

 

「〝エヴォルカイザー・ラギア〟の効果発動! オーバーレイユニットを全て使うことで、モンスターの召喚・特殊召喚、魔法・罠カードの発動のいずれか1つを無効にし、破壊する!」

 

 2つの衛星(オーバーレイユニット)を吸収した〝エヴォルカイザー・ラギア〟の口から放たれたブレスが、〝異次元の女戦士〟を飲み込み霧散させる。使用されたオーバーレイユニットも、例外なくゲームから除外され、遊輝の墓地には何1つ残らなかった。

 それでも、手島の手は止まらない。〝マクロコスモス〟の効果で女戦士が除外されたと見るや、次のカードへと手は動き続ける。

 

「魔法カード、〝フォトン・リード〟! 自分の手札から、光属性、レベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する! 俺は〝ライトロード・ウォリアー ガロス〟を特殊召喚っ!」

 

 ライトロードというカード群の1つだが、おそらくは戦士族というだけで入れているのだろう。光り輝く戦斧を掲げ、〝ガロス〟は遊矢の場へとそれを突きつけた。

 

「そして俺も、魔法カード〝突進〟を発動! 〝ライトロード・ウォリアー ガロス〟の攻撃力を700ポイントアップするぜ! 行け、〝ガロス〟で〝エヴォルカイザー〟を攻撃っ!」

 

 〝ガロス〟の攻撃力は、突進の効果を受けて2550までパワーアップしている。戦斧を低く構えた凄まじい突進に、〝エヴォルカイザー・ラギア〟は悲しげな声を上げて消滅した。

 

 

○遊矢

LP:3600→3450

 

 

「やるね。〝異次元の女戦士〟を囮に使ったのか」

 

「へっ、この程度俺様にかかりゃ朝飯前だぜ! さあ、テメェのターンだ。尤も、お前の場と手札じゃ満足なことは出来ねえだろうがな!」

 

 確かに、と遊輝は己の置かれた状況を確認する。

場には、攻撃力1700の〝ジュラック・グアイバ〟と、攻撃力1200の〝切り込み隊長〟、そして未だその力を十分に発揮できていない〝マクロコスモス〟。2体のモンスターのレベルはそれぞれ4と3。レベルが揃っていなければ、エクシーズ召喚は出来ない。

 何か打開策を見出せねば負ける。それを理解し、冷や汗を浮かべながら遊輝はカードを引くが――。

 

(違う。このカードじゃ、この状況は逆転できない……けど!)

 

 仕方なく、遊輝は今ドローしたばかりの1枚を場に出した。

 

「僕は場の全てのモンスターを守備表示に変更し、〝カードカー・D〟を攻撃表示で召喚!」

 

 現れたのは、青塗りの車――なのだが、その外見は非常に個性的であった。最大の特徴は、その名のとおり、まるでカードの如く薄っぺらく潰れたボディ。それでも、ARヴィジョンとして現れた〝カードカー・D〟は、レーシングカーのような轟音を上げながら自由自在に場を走り、やがて静止する。

 

(内蔵機械とか、どこに詰まってるんだろう……)

 

 自分で召喚したモンスターでありながら、そんな内心での疑問に苦笑すると、遊輝は〝カードカー・D〟の効果を発動する。

 

「〝カードカー・D〟の効果! このカードをリリースすることで、デッキからカードを2枚ドローする!」

 

「ドロー強化カードか……」

 

 祈りを込めて目をつむり、一息にカードを引く。

 そして。2枚のドローカードを確認した遊輝の表情が、目に見えて明るくなった。

 

(これは……! けど、このターンはもう……)

 

 欲しいカードは手元に来た。しかし、〝カードカー・D〟の効果を使用した後、プレイヤーはターンを終了しなければならない。残念だが、このターンはそのまま手島へ譲るしかない。

 次のターンで、勝負をつけられないことを祈るしかない。

 

「……ターンエンド」

 

「はっ、何もできないまま終わりか! だったら俺様がこのまま決めてやるぜ! 俺様のターン、ドロー! 俺様は、〝忍者マスター SASUKE〟を攻撃表示で召喚だっ!」

 

 白銀の鎧を全身に身に纏う忍者が、クナイを手に現れる。攻撃力は1800。既に召喚されているモンスター達と共に、遊輝の場のどのモンスターの攻撃力をも上回っている。

 

「いくぜ! まずは〝ガロス〟で、〝ジュラック・グアイバ〟を攻撃っ! さらに〝忍者マスター SASUKE〟で〝切り込み隊長〟を攻撃だ!」

 

 〝ガロス〟の戦斧が、燃え上がる炎ごと〝ジュラック・グアイバ〟の体躯を切り裂く。悲鳴を上げて爆散した〝ジュラック・グアイバ〟から発生した爆煙を裂いて、〝SASUKE〟が切り込み隊長〟の眼前へと躍り出る。

 クナイの一刀の下、切り伏せられる〝切り込み隊長〟。堪らず、〝切り込み隊長〟は苦痛の悲鳴を上げ消滅した。

 

「ターンエンド。もう諦めな! 俺様の勝ちは決まったぜ!」

 

 ターンの終了宣言と同時、手島がそう挑発する。確かに、遊輝の場には〝マクロコスモス〟が存在するのみ。このままでは次のターン、相手モンスターの総攻撃を受ける。いかにライフポイントで上回っているとはいえ、次のターンで高攻撃力のモンスターを召喚されればひとたまりもないだろう。けれど、遊輝の表情は少しも歪むことはなかった。

 むしろ――楽しくて仕方がないとばかりに、瞳は今まで以上に爛々と輝いている。

 

「まだまだ! 絶対そんなふうには終わらせないよ、こんな楽しいデュエル! いくよ……僕のターン、ドローッ!!」

 

 運命のドローカード。手島だけでなく、いつの間にか言葉もなく2人のデュエルに魅入っていた小夜子や駿、手島の取り巻きも固唾を呑んで見守る中――遊輝はカードを確認し、宣言した。

 

「この勝負……僕の勝ちだ!」

 

「何、だと……!?」

 

「僕は手札から、〝ディノインフィニティ〟を召喚!」

 

 山羊のような角を持った、二足歩行の恐竜族モンスター。大きな咆哮を上げながらARヴィジョンが顕現した。

 さて。ここで通常ならば、モンスターの表示形式に合わせ、パラメータが表示される。遊輝の召喚した〝ディノインフィニティ〟も、攻撃力数値を表示するウインドウが開いたのだが――表示されていた文字は〝?〟。

 

「攻撃力が、決まってない!?」

 

「〝ディノインフィニティ〟の攻撃力は、ゲームから除外されている恐竜族モンスターの数×1000ポイントの数値になる」

 

「ということは……」

 

「ゲームから除外されている恐竜族は3体だから……」

 

「攻撃力……3000だとぉっ!?」

 

 遊輝の解説に、小夜子と駿が除外されている恐竜族の数を数える。

まず、〝エヴォルカイザー・ラギア〟のオーバーレイユニットとして使用され、〝マクロコスモス〟の効果で除外された〝セイバーザウルス〟と〝ジュラック・ヴェロー〟。そして、手島の〝ガロス〟に戦闘破壊され、同様に〝マクロコスモス〟で除外された〝ジュラック・グアイバ〟。

合計3体。その結論に至れば、いかに計算に疎い手島でも自ずと答は理解できた。そして、今手島の場には、無防備に攻撃表示で存在するモンスターがいるのみ。

 〝SASUKE〟との攻撃力の差は、1200。手島の残りライフ500を、十分に上回っている。

 

「そっか……〝マクロコスモス〟はこのために! 凄いわ、遊輝君!」

 

「馬鹿な、この俺様が……!?」

 

「これでフィニッシュだ! 〝ディノインフィニティ〟で、〝SASUKE〟をこうげ……」

 

 手島の表情が驚愕に歪み、遊輝が意気揚々と攻撃宣言を行おうとした、その時だった。突如聞こえてきたけたたましいホイッスルの音が、その声をかき消した。続いて大会の運営委員の女性が、拡声器を用いて広場で戦っているデュエリスト達へ呼びかける。

 

『そこまで! 制限時間となりましたので、デュエルを終了してください。制限時間内に3勝したデュエリストは確認できなかったため、勝利回数で本大会の順位を決定します。繰り返します――』

 

「お、惜しいっ。決着、つかなかったね……」

 

「でも2勝したんだし、あの手島って子も遊輝君もきっと同着1位よね。遊輝君、表彰台行こー?」

 

「うん、解った! じゃあ手島君。また後で」

 

 運営の呼び掛けに残念そうに笑いながら、遊輝達は表彰台へ向けて駆けていく。最後に遊輝は手島へ向けて声をかけたが、手島はといえば完全に気勢を削がれた形となり、呆然と、ただ黙って俯いていた。

 

「残念だったっすね……」

 

「俺達も行こうぜ、手島!」

 

 そんな彼の様子にも気づかず、取り巻き達は口々にそんなことを曰う。だが、手島の中では今、様々な衝撃が渦巻いていた。

 負けるはずがないと思っていた。いつもこの大会で優勝していたのは自分だったのだ。今回も当然の如く優勝を掻っ攫っていけると、そう思っていたのに。

 それなのに――。

 

「ほら、行こうぜ手島。あんな引き分けの試合、気にすることねえって」

 

「……うるせえっ!」

 

 それでも尚、無責任に声をかける取り巻きの言葉に、ついに手島は怒鳴り声を上げた。取り巻きの方はといえば、そんな彼の言葉に驚いたのか、目を見開いている。

 

「あんなの……あんなの、負けたも同然だろうがっ!」

 

「あ、おい手島っ!」

 

「待てって!」

 

 仲間達の静止も無視して、手島は我武者羅に走り去った。

 認めたくなかった。デュエルを覚えてこの方、負けたことなど数える程しかない。ましてや、ああして取り巻きを従え、大会に出場するようになってからは負けることなどありえなかった。けれど――負けた。どこの誰とも知らぬ、初出場の男などに。

 気付けば、手島はハートランドシティの何処とも知れぬビルの間の路地裏にいた。ここまで無我夢中で走ってきたため、自分でもどうしてこんなところへ来てしまったのか解らない。

 

「はぁ、はぁ……ちっ」

 

 荒くなった息を整え、舌打ちする。少し頭が冷えてくると、段々と自分のやったことが馬鹿らしくなってくる。取り巻きの少年だって、手島を心配して声をかけてくれただけだったというのに。

 

「何やってんだ俺……馬鹿らし」

 

 戻ろう。尤も、もう戻っても大会は終了しているだろうから、家に返ってゆっくり頭を冷やそう。そう思い踵を返そうとした、その時――手島の目に、あるものが飛び込んできた。

 

「何だ、これ……?」

 

 〝それ〟は、足元に落ちていた。試しに拾ってみると、1枚のカードであったことが解る。黒いフレームのカードはモンスターエクシーズである証であったが、肝心の絵柄もテキストも描かれていない。手島が訝しんでいると、突如カードが紫の光を発する。大きな光に飲み込まれた手島の手の中で、カードの絵柄が浮かび上がり、見たこともないような文字のテキストが現れた。

 そして。膨大な光の奔流が収束すると同時に、手島の身体がゆらりと揺れた。その目には明らかに以上な色が宿り、身体を包むオーラからは、元の彼らしい快活さはなく、暗く淀んでいる。

 

 

「俺は……勝つ。どんなことをしてでも……!」

 

 

口元が――狂気の笑みに醜く歪んだ。

 

 

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