遊戯王ZEXAL ―BRAVE HEROES―   作:神崎はやて

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ナンバーズ 5 2枚目のナンバーズ

 デュエル大会の翌日、週末である今日。遊輝は私服――真っ白なワイシャツの上に黒のブレザー、更に同じ黒の長ズボンに黒のロングコートという出で立ち――を纏い、遊歩道を駆けていた。

 何でも近所に新しいカードショップが出来るとかで、今日がそのオープンの日なのだそうだ。昨夜、電話で小夜子からそのことを聞いた遊輝は居ても経ってもいられず、朝食もそこそこに家を飛び出した。ドタバタと出ていった兄の背中を、呆れたような苦笑で見送った妹には最後まで気づいていない。

 小夜子や駿といった同級生組は勿論だが、今日は遊馬達もWDC――ワールドデュエルカーニバル前に最新パックを買って少しでもデッキを強化しようと集まるということで後ほど合流するらしい。

 ワールドデュエルカーニバル。近々開催されると発表された、ハートランド主催のデュエルのワールドカップとも呼べる大会だ。世界各国のトップレベルのデュエリストが集結するというだけあって、遊輝の周りのデュエリスト達も大会へ向けてどんどん熱気を高めていた。当然それは、生粋のデュエル好きである遊輝も例に漏れず、故に開店初日の今日入荷する限定パックは、是が非でも入手したいところであった。

 以前取り壊しが行われていたビルの跡地に、そのカードショップはあった。見るからに清潔な光沢を放つ看板には、店の名である『鶴屋』の二文字が堂々と描かれていた。

 

「変わった名前だなぁ……」

 

 苦笑しつつそう呟くと、早々に遊輝は自動ドアへ近付き、店内へ入っていく。

 

「いらっしゃいさー!」

 

「うわぁっ!?」

 

 と、店へ入ると同時に元気のいい声と共に女性が両手を上げて出迎え、驚いた遊輝は思わず声を上げてしまう。

 

「カードショップ『鶴屋』へようこそー! 店長の成田 伸子っさ。気軽にシャチョーって呼んでねっ♪」

 

「あ、はい、あの……た、田神 遊輝です。こちらこそ、宜しくお願いします」

 

 やたらと高い店長――成田 伸子のテンションにすっかり圧された遊輝は、求められるままに差し出された手を握り返した。

 成田 伸子。歳は遊馬の姉と同じかそれ以上といったところだろうか。しかし雰囲気はどうやら全然違うようで、元気溌溂な不思議系、というのが遊輝の第一印象だった。

 

「あの、開店記念の限定パックがあるって聞いてきたんですけど……」

 

「ああ、それならちょうどさっきダンボールから出したとこだよ。1箱目はあっという間に売れちゃったけど、2箱目まだあったはずっさ。ちょっと待っててねー」

 

「ありがとうございます」

 

 ぱたぱたとレジの裏へ駆けていく伸子の背中を見送ると、遊輝は手近なデュエルテーブルの椅子に腰を下ろし、デッキを開いた。

 除外をメインギミックとし、新たに恐竜族をメインアタッカーに据えたデッキ構成。〝セイバーザウルス〟のようにレベル4で、召喚にモンスターのリリースを必要としないながら高攻撃力を持つモンスターを始め、〝ジュラック・グアイバ〟のような展開力のあるモンスターを利用して、エクシーズ召喚へと繋げていくのだ。しかもその過程で上手く恐竜族モンスターを除外出来れば、〝ディノインフィニティ〟の攻撃力も跳ね上がる。手島戦の時のように、いきなり攻撃力3000の大台を超えるモンスターを召喚することも可能であり、一見テクニカルにも見えるが、その実なかなかの決定力を秘めたデッキ構成となっていた。

 

「〝エヴォルカイザー〟の召喚にも差し支えるし、恐竜族以外のカードは抜いた方がいいかなぁ、やっぱり……。でも〝切り込み隊長〟とか抜いちゃうと、展開力も落ちるし〝リヴァイエール〟の召喚が……うーん」

 

 デッキの改訂に次ぐ改訂により、恐竜族が多くなった遊輝のデッキ。結果、なかなかの曲者に成長したが、代わりにそれまで活躍していたカードを抜かざるを得なくなったのは、解っていることとはいえ若干心苦しい。

 特にデッキの要になっていた〝リヴァイエール〟を召喚しづらくなったことは、若干のマイナスと言える。〝エヴォルカイザー〟のエクシーズ召喚に使用される恐竜族の主力は全て、レベル4。〝リヴァイエール〟はランク3のモンスターエクシーズであり、召喚に必要とされるのはレベル3のモンスターだ。使用するには、レベル4を中心に投入している恐竜族とはあまり相性が良くない。戦力的にはメインギミックではなくなっている〝リヴァイエール〟を諦めるのが普通なのだろうが、ずっと〝リヴァイエール〟をメインに据えてきて愛着のある遊輝としては、なるべくならそんなことはしたくない。

 どうするべきかと悩んでいるところで、伸子がパックがたっぷりと入った箱を持ってやってきた。

 

「お待たせー♪……ってあれ、どうしたの?」

 

「あ、てん……じゃなかった、シャチョー。実は……」

 

 カードショップの店長なら、いいアドバイスをもらえるかもしれない。そう考えた遊輝は伸子へ事情を話す。話を聞いた伸子は、〝リヴァイエール〟と〝エヴォルカイザー〟を両の手に持ち、唸る。

 

「ふむふむ、なるほどねぇ……2つのカードのシナジーかぁ」

 

「あちらを立てればこちらが立たず……なんですよね。どうするべきなのかなぁ……」

 

「うみゅー、カードタクティクスとしてはやっぱり〝リヴァイエール〟を抜くようにアドバイスすべきなんだろうけど……お気に入りのカードなんだよね?」

 

 悩ましく表情を歪めながら「はい」と頷く遊輝に、伸子は一瞬何かを思案するような表情をすると、椅子に座ったままうんうん唸っている遊輝に問いかけた。

 

「君さ、このデッキ以外に何かデッキ持ってないのー?」

 

「え? はい、持ってますけど……」

 

 懐から第二のデッキ――本来のデッキである、E・HEROデッキを伸子へ手渡した。

 

「ふーん、どれどれ……へぇ、HEROデッキなんだ。ふむふむ……おお! これはあの伝説の〝E・HERO ネオス〟! すごーい、初めて見たっさー!」

 

「あ、あのー……」

 

「あ、ごめんごめん。つい興奮しちゃって」

 

 やはりカードショップの店長としては、レアカードには目がないのだろう。熱の入った視線で〝ネオス〟のカードを見つめていた伸子は遊輝の声に我に返ると、デッキを遊輝へと返して、にっこりと笑った。

 

「HEROデッキなら、〝リヴァイエール〟も活躍出来るはずだよ。このパックには、それを可能とするカードも入ってるはずだから、気合入れて開けるといいっさ!」

 

「HEROに、〝リヴァイエール〟を……?」

 

 伸子の言葉に驚いた遊輝は、思わず自分のデッキへ視線を落とす。確かに〝エヴォルカイザー〟と共存できないのなら、いっそ他のデッキへ組み込むという手もなくはない。が、遊輝のHEROデッキには〝リヴァイエール〟を有効に使用できる手立てはない。投入するには、伸子の言う〝リヴァイエール〟を組み込むことを有効とするカードを当てるしかないだろう。

 

「よぉし……!」

 

 伸子が持ってきたカードパックの山の中から、持ってきた小遣いの許す限りの数を選び取り、彼女へ代金を渡す。「まいどありー♪」というご機嫌な伸子の声もそこそこに、遊輝はパックを開けていく。

 出てくるカードの中には、遊輝のHEROに関連するカードも幾つか含まれていたが、〝リヴァイエール〟を利用するのに有効だという件(くだん)のカードは、なかなか引き当てることが出来ない。

 

「くうぅ、なかなか出ないなぁ……」

 

 悔しげに表情を歪める遊輝。そうこう言っている内に、ついに購入したパックは後1つとなってしまった。

 

「これが、最後……!」

 

 ごくり、と唾を飲み込む音すらも克明に感じ取れる程の緊張感の中。遊輝は最後のパックを手に取り、一息に開け放った。1枚、2枚とこれまでにも幾度か見たカードの絵柄が並び――ついにカードは残り1枚。これで違うのなら、貯金を切り崩して翌日改めて買いに来るか、次に小遣いが入る日を待たねばならない。

 意を決して、最後のカードを確認する遊輝。すると遊輝よりも先に、後ろでその様子を伺っていた伸子が感嘆の言葉を漏らした。

 

「おおー! やったね、それが私の言った〝リヴァイエール〟を使えるカードっさ!」

 

「これが……?」

 

 喜びに笑顔を浮かべながら、遊矢はカードのテキストを確認する。そして、確信した。伸子の言葉が、何を意味していたのかを。

 

「なるほど。確かにこのカードなら、〝リヴァイエール〟をHEROに組み込める……!」

 

「ね、ね? 本当だったでしょ? 褒めて褒めてー!」

 

「あ、えと……ありがとうございました」

 

「えへへー、どういたしましてー♪」

 

 妙に高い伸子のテンションに苦笑しながら、遊輝はHEROデッキの中へ手に入れたばかりのカードを投入した。ついでに、他のパックから入手したHERO関連のカードも何枚か入れておく。限定パックということもあってか、なかなかに強力で珍しいカードも多く、遊輝は満足げに〝リヴァイエール〟をエクストラデッキに組み込んだHEROデッキをデッキケースへしまい込んだ。

 漸く悩みも解決して、ほくほくした表情の遊輝は、ふと小夜子達のことが気になった。確か今日、ここで集合としていたはずだが、店内のどこにもいないところを見るとまだ来ていないのだろうか。到着するまで、既に店内にいるプレイヤーの誰かとデュエルでもしていようか。そう考えていた矢先、鶴屋の自動ドアがすっと開いたかと思えば、息を切らせた小夜子が駆け込んできた。

 

「あ、小夜子さんおはよう。遅かったね?」

 

「遊輝君、ちょっと来て!」

 

 遊輝の言葉へ返事をする余裕すらないのか、荒くなった息を整える間も無く、がっと彼の手首を掴む。

 

「え、あの、小夜子さん? ちょっと待って、まだいろいろ見てないのにぃっ……」

 

 対する遊輝は、訳も解らぬ内に小夜子の手に引っ張られ、店の外へ連れ出されてしまう。遊輝の戸惑いの声が段々と遠のいていく中、店先の自動ドアが閉まり、後には呆然と2人を見送った店長の伸子だけが残されたのだった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「これは一体……!」

 

 小夜子に腕を引っ張られ、辿り着いた場所。そこは、先日大会が行われていた広場であった。今日は休日。大会こそ行われていないが、本来なら多くのデュエリスト達が仲間とデュエルに励んでいるはずの場である。

 けれど、今日は違う。幾人もの少年達が、綺麗に舗装された地面の上に倒れ伏していた。彼らの腕と目にはデュエルディスクがとD-ゲイザーが装着されていて、つい先程まで彼らがデュエルをしていたのであろうことと、彼らが皆、その敗北者であるという事実を伝えている。

 

「遅かったな、田神 遊輝」

 

 そんな異様な状況の中、呆然とする彼に小夜子が状況を説明する前に、遊輝に声をかける人影があった。遊輝はそちらへ視線を向けると、はっと目を丸くして驚きを露わにする。

 

「君はっ……!?」

 

 倒れ伏す人々の中心にたった1人、黒いオーラを身に纏って立つ少年の姿があった。闇に若干くすんでしまっているが、あの切り揃えられた金の髪の少年は間違いなく、先日の大会で戦った戦士 手島その人である。

 

「彼が、ここにいた人達皆にデュエルを挑んで、それで……」

 

「そうさ。どいつもこいつも、歯ごたえのねえ相手ばかり。退屈すぎて欠伸が出るぜ」

 

 端的な小夜子の説明に、手島が傲慢な笑みを浮かべて嗤う。前に戦った時と明らかに雰囲気の違う彼と、あまりにも非日常的な光景に戸惑いを隠せない中、倒れた少年達の中に見知った顔を見つけた遊輝は、表情を変えて駆け寄る。

 

「駿君っ!」

 

「うぅ……遊輝、君……」

 

 弱々しく返事を返す駿に、遊輝は安堵しほっと溜め息をついた。見た目程大きなダメージは受けていないようだが、少し休憩が必要だろう。駆け寄ってきた小夜子に駿のことを任せ、遊輝は手島に向き直った。

 

「どうしてこんなことを!」

 

「どうして? ははっ、愚問だな。俺様は最強でなくちゃならないんだ。誰よりも強くなくちゃな! 俺は……俺様は誰よりも強いってことを証明するために生まれ変わったんだ!」

 

「何を……!?」

 

 まるで何かに取りつかれたように両手を挙げる手島に、もはや先日の面影はない。文字通り人が変わってしまった彼に呆然としながらも、遊輝は彼と戦う必要性を強く感じていた。

 

「デュエルだ、田神 遊輝! テメェには特に思い知らせてやんなきゃなんねぇ! 俺様の強さをなぁっ!」

 

「……いいよ。僕が勝って、君を止める!」

 

 宣戦布告に真正面から受けて立った遊輝は、手島の対面になるように立ち、デュエルディスクをD-パッドに装着し、D-ゲイザーをセットする。

 

『ARヴィジョン、リンク完了』

 

「「デュエル!」」

 

 女性の電子音声が鳴り響き、オートシャッフルされたデッキからカードを5枚ドローする。先攻後攻を決めるランプが両者の間で点滅を繰り返しやがて一方で止まる。デュエルシステムが決定した先攻は遊輝、後攻は手島だ。

 

「僕の先攻、ドロー!」

 

 カードを1枚ドローし、手札を確認し、カード数枚を抜き取ってデュエルディスクへと装填する。

 

「僕はモンスターを裏側守備表示でセット。カードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

 初手としては、それほど悪くない布陣である。見ようによっては逃げともとれる裏側守備表示で場に現れたモンスターを前にニヤリと嗤いながら、手島はデッキに指をかけた。

 

「俺のターン、ドロー! 俺は、〝終末の騎士〟を攻撃表示で召喚だ!」

 

 現れたのは、まさしくこの世の終末をも予感させる闇の騎士。銀の光沢を放つ剣を構えた戦士は、振り上げた剣を地面へ突き立てる。

 

「〝終末の騎士〟の効果発動。召喚に成功した時、デッキの中から闇属性モンスター1体を選択して墓地へ送る」

 

「自分からモンスターを墓地へ?」

 

 一見デメリットにしか思えない効果を持つモンスターの登場に小夜子が首を傾げるが、その意味を瞬時に理解した遊輝は、警戒感から表情を歪める。

 確かに、自分からモンスターを墓地送りにする〝終末の騎士〟の効果は一見デメリットにも見えるが、墓地を起点にして効果が発動するカードが多いデュエルモンスターズの世界では、むしろメリットとなる場合が多い。遊輝が使っていた〝ネクロ・ガードナー〟ならば攻撃を無効に出来るし、他にも墓地から己の力で場に蘇るモンスターなども多く存在する。そうでなくても、高レベルのモンスターを魔法や罠カードとのコンボで蘇らせることが出来れば、1ターンにして高攻撃力のモンスターを得ることも出来るのだ。

 果たして、手島の狙いはどこにあるのか。注意深く見守る中、手島はデッキから1枚のカードを選びとった。

 

「俺様は、デッキから〝ブラッド・ヴォルス〟を墓地へ送る。そして手札から魔法カード、死者蘇生を発動! 今墓地へ送った〝ブラッド・ヴォルス〟を攻撃表示で復活!」

 

 戦斧を構えた禍々しい褐色の戦士が、地に開いた魔法陣の穴から飛び出して猛々しく咆哮を上げる。攻撃力は1900と、レベル4の通常モンスターとしては高水準だが、おそらく手島の狙いは高攻撃力のモンスターを揃えることではない。攻撃力を求めているのであれば、単純に〝ブラッド・ヴォルス〟より強力なモンスターを選ぶはずであり、態々死者蘇生を使ってまで召喚する価値のあるカードではない。

 ならば狙いは――。

 

「レベル4のモンスターが、2体……!」

 

「俺様は、レベル4の〝終末の騎士〟と〝ブラッド・ヴォルス〟でオーバーレイ! 2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚っ!」

 

 2体の常闇の戦士が奈落へさえも続いていそうなARヴィジョンの穴へと吸い込まれていき、膨大な光の爆発と共に1つの力を顕現させる。

 

「現れろ、〝EXNo.34 アビス・イレイザー〟!」

 

 光の奔流の中から現れたのは、遊矢の持つ〝エクストリーム・エッジ〟とは違う邪悪に彩られた剣のオブジェ。そこから段々と変形していき、手が現れ、足が現れ、威圧感のある眼光が光り、対戦相手である遊輝を射抜く。完成したのは、禍々しい装飾の鎧を身に纏い、大きな曲刀を片手で振り回す豪腕の騎士だった。

 表示された攻撃力は2600。No.ではないが、レベル4のモンスター2体から召喚されるランク4のモンスターエクシーズとしては、〝ジェムナイト・パール〟に並ぶ攻撃力である。

 

「〝EXNo.〟……!」

 

「はははっ……このカードさえあれば俺様は無敵! いくぜ、バトルだ! 〝アビス・イレイザー〟! 裏守備モンスターを攻撃しろぉっ!」

 

 手島の攻撃宣言と同時に高く跳んだ〝アビス・イレイザー〟に反応するように、遊輝の場にセットされていた裏側守備表示のモンスターが表になる。〝E・HERO フォレストマン〟。その名のとおり森の木々と融合したかのような深緑のHEROであり、自分のターンのスタンバイフェイズに表側表示で場に存在した場合、デッキか墓地から〝融合〟の魔法カードを手札に加えることが出来る。守備力は2000と壁としても高い能力を持ち、〝融合〟カードを多用するHEROデッキには頼もしいモンスターだ。

 けれど、残念ながら〝アビス・イレイザー〟の攻撃力は2600。〝フォレストマン〟の守備力2000では攻撃を耐えることは出来ない。

 

「冥葬斬っ!」

 

 手島が高らかに技名を叫ぶと同時に、〝アビス・イレイザー〟が剣を振り下ろす。〝フォレストマン〟も腕をクロスさせて防御の姿勢をとったが、無情にも切り裂かれて消滅した。

 

「〝アビス・イレイザー〟の効果発動っ! オーバーレイユニットを1つ使うことで、戦闘で破壊したモンスターの攻撃力の半分をこのカードの攻撃力に加えるぜ!」

 

「なっ!?」

 

 〝アビス・イレイザー〟の周りを回っていた衛星の1つが胸甲の中心にあった藍色の宝玉に吸い込まれていき、眩い光を発する。すると墓地へと繋がる濃い紫の色をした魔法陣が開き、深緑の光が〝アビス・イレイザー〟の持つ剣へと吸い込まれていく。

 破壊された〝フォレストマン〟の攻撃力は1000。その半分、500ポイントが〝アビス・イレイザー〟の攻撃力に加算される。

 

「攻撃力、3100……!」

 

「俺様はカードを2枚伏せ、ターンエンド。どうだ、俺様は強ぇ! お前よりも! 誰よりもだ!」

 

「くっ、僕のターンッ! ドロー!」

 

 必ず勝つという決意も込めて、遊輝は自らを奮い立たせるように思い切りカードをドローした。

 

(よし、このカードなら!)

 

 ドローしたカードを確認し、遊輝は勝利を確信する。いかに敵がNo.だろうと、逆転出来る秘策が今の遊輝の手札には揃っている。後はどう転ぶかだが、手島の場に伏せカードがある以上は賭けてみるしかない。

 意を決し、遊輝はドローカードをデュエルディスクへセットする。ただし通常のモンスターカードゾーンや魔法・罠ゾーンではなく、ディスクの脇に収納されている特別なセットスペースへ。

 

「僕はフィールド魔法、〝摩天楼-スカイ・スクレイパー-〟を発動!」

 

 フィールド魔法とは、自分だけでなく相手にも効力を及ぼす魔法カード。カードの名のとおり、周囲にARヴィジョンの高層ビル街が出現した。

 

「更に僕は手札から、〝E・HERO プリズマー〟を攻撃表示で召喚!」

 

 現れたのは、全身がプリズムのような水晶体で出来た不可思議な姿をしたHERO。周囲の風景をも映す鏡は無論、ただの飾りなどではない。

 

「〝プリズマー〟の効果発動。エクストラデッキの融合モンスター1体を相手に公開し、その融合素材を墓地へ送ることで、このターン終了時までカード名をそのモンスターとして扱う。僕はエクストラデッキの〝E・HERO ネオス・ナイト〟を公開し、その素材となる〝E・HERO ネオス〟を墓地に送る。変身しろ、リフレクト・チェンジッ!」

 

 遊輝の声に応え、光を発する〝プリズマー〟の姿が変化していく。隆々たる肉体に白銀の身体、紛れもない〝ネオス〟そのものの姿となった〝プリズマー〟に、手島の表情が変わった。

 

「ね、〝ネオス〟だと!? 伝説のカードを、どうしてお前なんかが持ってるんだよっ!?」

 

「オリジナルじゃなくて、レプリカだけどね。更に僕も〝死者蘇生〟を発動! 蘇れ、〝ネオス〟!」

 

 未だに衝撃を受けている様子の手島。こんなところで伝説の英雄に出くわすとは夢にも思っていなかったであろうから彼の気持ちも理解できなくはないのだが、このままではデュエルが進まない。目を丸くしている手島を置いて、遊輝はデュエルを進めた。冥府へと続く巨大な穴から〝ネオス〟が姿を現し、偽物に負けて堪るかとばかりに雄々しく構えをとった。

 

「装備魔法、〝ネオス・フォース〟を〝〝ネオス〟に変身した〝プリズマー〟に装備。これで、〝プリズマー〟の攻撃力は800ポイントアップ。更に場に伏せた速攻魔法、〝禁じられた聖杯〟を発動。ターン終了時まで、モンスター1体の攻撃力を400ポイント上げる代わりに、モンスター効果を無効にする!」

 

 〝ネオス〟そっくりな〝プリズマー〟の拳に空色のオーラが宿り、攻撃力が800上昇する。更に〝禁じられた聖杯〟の効果により、手島の場の〝アビス・イレイザー〟の攻撃力が400上昇する代わりに、モンスター効果が封じられた。

 最終的な攻撃力は、〝プリズマー〟の2500に対し、効果が無効になった〝アビス・イレイザー〟は3000。僅かではあるが、まだ〝アビス・イレイザー〟の方が上回っている。

 

「ちっ、効果が無効になったってことは……!」

 

「そう。NO.がNo.でしか破壊出来ないのは、モンスター効果によるもの。無効にしてしまえば、たとえNo.でないカードでも戦闘破壊出来る! 更に〝スカイスクレイパー〟は、自分より攻撃力の高いモンスターをHEROが攻撃する時、攻撃力を1000ポイントアップする!」

 

 右手に膨大なエネルギーを宿した〝プリズマー〟が、まるで針のような摩天楼の時計台の頂点に立ち、腕を組んで眼下の敵を見下ろす。

 これで攻撃力は3500。〝アビス・イレイザー〟を超えた。

 

「行け、〝ネオス〟ッ! 〝アビス・イレイザー〟に攻撃!」

 

 時計台の頂点から徐(おもむろ)に足を離した〝ネオス〟は、真っ直ぐに〝アビス・イレイザー〟へと向かっていく。そして、空色のエネルギーの滾る右腕を、天高く振り上げた。

 

「ラス・オブ・ネオスフォース!」

 

「させるかっ! 罠発動、〝ドレイン・シールド〟!」

 

 最大の不安要素であった伏せカードが表になる。〝プリズマー〟の進路上に半透明の光の壁が立ち塞がる。既に攻撃の構えに入っていた〝プリズマー〟は拳を引き戻せずそのまま振り下ろすが、案の定攻撃は壁に阻まれ、EXNo.の身体に届くことはなかった。

 

「〝ドレイン・シールド〟の効果により、俺様は攻撃モンスターの攻撃力分のライフを得る!」

 

 〝プリズマー〟の攻撃力は、ダメージステップでスカイスクレイパーの効果が適用される前であるため、未だ2500のままだ。まだ1ポイントも削られていない手島のライフは、この一撃により一気に6500にまで回復してしまった。

 

「くっ……なら、〝ネオス〟で攻撃! ラス・オブ・ネオスッ!」

 

「罠カード発動、〝次元幽閉〟!」

 

 今度は、雄叫びを上げて飛び上がっていく〝ネオス〟の前の空間が歪んだ。空間の歪みは更に広がり、やがては大きな裂け目となって立ち塞がる。

 さすがの〝ネオス〟も、思わずその場で進行を止めた。

 

「解ってるよな? このカードの効果により、攻撃モンスターはゲームから除外される!」

 

「そんなっ……!?」

 

 遊矢が悲鳴を上げると、次元の裂け目が〝ネオス〟を吸い込んだ。〝ネオス〟も最初は抗っていたが、やがて耐え切れなくなったのか、抵抗虚しく次元の狭間へ吸い込まれていった。

 

「は……ははははっ……残念だったな! お前の精一杯の抵抗も無駄に終わったわけだ! はははははっ!」

 

「くっ……!」

 

 確かに手島の言うとおり、今の攻撃は遊輝渾身の一打だった。〝ネオス・フォース〟は、装備モンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した時、相手モンスターの元々の攻撃力分のダメージを与える。攻撃が通っていればNo.を破壊できたばかりでなく、手島に大ダメージを与えることも出来たのだ。

 しかしいざ戦闘が終わってみれば切り札のネオスはゲームから除外され、手札は0。しかも敵の場には未だオーバレイユニットを1つ残したEXNo.。圧倒的に不利な状況だが、しかし今の遊輝にはどうしようもない。

 

「……僕はこれで、ターンエンド」

 

 〝ネオス〟を失ったことと、あまりにも不用意だった自分の行動に対する悔しさが滲んだ遊輝のエンド宣言を最後に、手島のターンへと移行する。

 序盤から波乱の幕開けとなった、2枚目のNo.との戦い。早くもエースを失った遊輝の動揺に、手島は嬉々としてデッキトップに指をかけた。

 




-BRAVE HEROS No.図鑑-

〇EXNo.34アビス・イレイザー

・属性:闇
・種族:戦士
・種:モンスター(エクシーズ・効果)
・召喚条件:レベル4のモンスター×2
・ATK:2600
・DEF:1400
・効果:このカードは、「No.」と名のつくモンスター以外のモンスターとの戦闘では破壊されない。このカードが相手モンスターを戦闘で破壊した時、1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除くことで、破壊したモンスターの元々の攻撃力の半分、このカードの攻撃力をアップする。


はい、そんなわけで手島君のNo.でした。

皆様気合入れて考えてくださっているのは伝わってくるのですが、序盤で登場させられそうなお手頃な強さのNo.があまりなかったので、今回は自分で考えたものを出させていただきました。まあ、予てから彼のNo.にはある程度の構想があったので、それほど苦労はしなかったのですけど。

さあ、ネオスを除外されてピンチの遊輝君。次回は頑張っていただきたいものですね。


ではでは、今回はここまで。ここまでのご読了、誠にありがとうございました。
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