遊戯王ZEXAL ―BRAVE HEROES― 作:神崎はやて
「エクストリーム・エッジで攻撃!」
少年の意識が、漸く戻りかけた頃。そんな声が、彼の耳に届いた。
意識は復活したばかりで、はっきりと認識することは出来なかったが、彼の耳には確かに、その威勢のいい声が届いていた。
「ネオスで攻撃っ!」
続いて声と共に少年の視界に躍り出たのは、白銀の肉体を持つ戦士の姿。朧気ながらもその双眸に映るその姿へ、少年は片腕を伸ばした。後、少し――後少しで、あの輝きに届く。そう思った矢先、突如巻き起こった衝撃によって吹き飛ばされた少年の意識は、再び暗転する。
けれど、彼の脳裏には、その雄々しき姿は大きな存在感をもって焼き付いていた。
〝E・HERO ネオス〟。田神 遊輝の、頼もしきエースの姿が。
○ナンバーズ 7 狙われし英雄
少年の名は、寺師庸佑といった。
実家は企業家。所謂セレブの出である彼は、金にものを言わせて数々のレアカードを手中に収めてきた。彼の家の力で手に入らないカードはなく、ひと度カードケースを開けば、眩い程に煌めくカード達がその姿を現す。
デュエルモンスターズのおけるカードのレアリティは、当然そのカードが珍しいか否かにも左右されるが、カードの真価はデュエルに使われることにこそある。デュエルでの有用度や、デュエリスト達の需要によっても価格は大きく変動するため、高額なカードは得てして強力なカードが多い。彼、庸佑のデッキもそれに漏れず、金をたっぷりとかけたレアカードデッキはデュエルにおいても相応の実績を残している。
けれど、そんな彼にも敵わない男がいた。ガキ大将、戦士手島である。手島のカードプレイングは庸佑のそれを大きく上回っており、いかに高い金を叩いて揃えたレアカードデッキも、彼には敵わなかった。それは偏に、彼のデュエリストとしての力量が手島を大きく下回っていたことに因る。彼に敗北して以来、庸佑は彼の取り巻きの1人になった。それは決して他の少年たちのように、彼の強さに惹かれたからではない。隙あらば彼の強さを盗んでやろうと、虎視眈々とその機会を伺うためであった。
そんな時である。ある日、デュエルカーニバルの特訓のために広場へ集まっていた取り巻き仲間を、乱心の手島が蹴散らした。彼も当然手島に挑んだが、以前にも増して勢いのあった手島に、自慢のレアカードデッキもあっさり敗北してしまう。
その後どうなったのかは、デュエル時に発生した謎の衝撃に気絶してしまった庸佑には解らない。けれど、最後の瞬間に確かにその目で見た白銀のHERO――その勇姿だけは、いつまでも頭から離れなかった。
(あのモンスター……あれは確かに、伝説のネオスに間違いない)
学校の椅子の上で腕を組みながら、庸佑は虚空に視線をさ迷わせる。あの出来事があってから数日。ネオスと思しきモンスターの影に遭ってからというもの、勉学も身に入らず、彼はひたすらネオスについて物思いに耽っていた。最初は、あのモンスターの輝きが強く印象に残っていて、「凄かった」、「かっこいい」といった有り触れた感想が浮かぶばかりであったが、それは次第に「どうすればあの輝きが手に入るだろうか」という、いかにもセレブの彼らしい思考に置き換わっていった。
あれは確かに、ARヴィジョンだった。であれば、彼をデュエルで呼び出したデュエリストが確かに存在するわけで。それならば、当然のことながら、ネオスのカードも実在するということになる。そして、庸佑が覚えている限り、ネオス程のレアカードを所持しているという情報のあるデュエリストは、ハートランド広しといえどただ1人しかいない。
田神遊輝――庸佑のクラスメイトであり、大のデュエル好きの少年である。
(I2社主催のカード大会……噂だと思ってた)
遊輝がネオスを所持しているかもしれないことは、庸佑の家の人間による調査で既に解っていたことであったが、出てくるのは噂程度のことばかりで、事の真偽を確信出来る程の情報は何1つとして浮かんではこなかった。けれど、あの時見たネオスの姿は絶対に幻ではないと断言できるし、今考えてみればあの時ネオスに攻撃を命じた声は彼、遊輝に似ていたように思える。庸佑の中で、遊輝がネオスの所持者なのではないかという疑念は、深まるばかりであった。
そんなことを考えていると、不意にテンプレートなチャイムの音が鳴って、教諭が授業の終了を告げた。帰宅の準備をし、蜘蛛の子を散らしたように去っていく生徒達の中で、自身も帰宅の準備をするふりをして、庸佑は遊輝の会話に耳を傾けた。
「さてと、そろそろ僕も帰ろっと。小夜子さんはどうする?」
「そうね、少し鶴屋寄っていこうかな。カードも見てみたいし。よかったら一緒に行く?」
「そうしたいんだけど……妹に買い物頼まれちゃって。残念だけど、また今度にさせてもらうよ」
それじゃあね、と手を振って教室を後にする遊輝。その後ろ姿に、庸佑は徐に立ち上がった。
帰宅するふりをして、遊輝の後をこっそりと尾行する。どうやら彼の目的地は、ハートランド内でも平凡な大きさのスーパーのようだった。そのような場所に単独で入店することなど初めてである庸佑は、庶民的な店内の雰囲気に戸惑いつつも、メモを片手に食材を籠に放り込んでいく遊輝を追跡する。
「ありがとうございましたー」
会計を済ませ、定員のこれまたテンプレートな言葉を背にスーパーを後にする遊輝の後を、庸佑も気づかれないように着いていく。
どうやらそのまま帰宅するようで、遊輝の足は真っ直ぐ、彼の家のあるエリアの方角へ向かっている。これ以上は何もないか、そう判断した庸佑が自分も帰宅しようと踵を返しかけた――その矢先。
「うわーーーーーーーー!?」
「っ!? 今のは!?」
突如上がった悲鳴にも聞こえる声に、遊輝が走り出した。反射的に、庸佑もその後を追って駆け出す。
大通りからは奥まった場所にある裏道。よくデュエルギャングと呼ばれる不良達が屯していると言われるそこは、スプレーの落書きなどが幾つもあって、一般人――特に庸佑のような人間にとっては、お世辞にも居心地のいい場所とは言い難い。
迷路のように蛇行する通路を道なりに進みながら遊輝の背中を追いかけていると、やがて大きな廃工場のような場所に行き着いた。敷地と見られる広い空間には、遊輝と、彼と対峙する人影が2つ。
「そのカード、その子のでしょ。返して」
染められた髪に、清潔とは言い難い服装。明らかにデュエルギャングだが、遊輝は臆さずそう告げる。けれどやはり子供の戯言だと思われているのか、2人のデュエルギャングは彼の言葉を鼻で笑った。
「はっ。部外者が俺達の取引に口出ししてんじゃねーよ」
「失せろや」
2人は口々にそんなことを言って遊輝を挑発するが、彼の目は不良を見ていなかった。彼が見ていたのは、片方の男の腕に捕らえられた少年の姿。遊輝から見てもまだ子供であろうその少年、おそらく初等部の生徒なのだろう。
「そうはいかない。僕とデュエルだ! 勝ったらそのカード、返してもらうよ!」
「へっ、やれるもんならやってみな!」
遊輝の啖呵に、デュエルギャングの男達は意気揚々とデュエルディスクを構える。
これはチャンスだ、と庸佑は物陰から様子を伺いながら考えた。聞くところによると、遊輝には普段使っているのとは違う〝本当のデッキ〟なるものが存在するらしい。ここぞという時にしか使うことはないらしいが、この状況ならば遊輝も本気にならざるを得ないだろう。
そしておそらくその時には、本当のデッキとやらもあわよくば拝むことが出来るかもしれない。そう庸佑は考えたのだ。
そんな企みがあるとは知らず、遊輝とデュエルギャングの男2人のデュエルの準備が完了したのか、機械音声と共にARヴィジョンが展開されていき、庸佑は慌てて鞄に入れてあったDゲイザーを装着した。
「「「デュエル!」」」
○遊輝
LP:4000
○ギャングA
LP:4000
○ギャングB
LP:4000
「な……2対1!?」
表示されたライフと、Dゲイザーに表示されたルールを見た庸佑は驚愕に思わず声を出してしまい、慌てて口を塞ぎつつ様子を伺う。
ルールはどうやら、バトルロイヤルルール。複数人でデュエルを行う変則的なもので、3人以上のプレイヤーがそれぞれのライフ・手札を持ち、基本的にはどのプレイヤーを狙って攻撃してもいいルールになっている。
だが、場合によっては事情が変わってくることもある。デュエルギャングは2人。対して遊輝は1人。この場合、確かにルール上はデュエルギャング達はどちらも敵同士であるはずなのだが、十中八九、彼らは協力して遊輝1人を狙うだろう。そうなれば遊輝は実質、1人で共闘する2人を相手にしなければならなくなるのだ。
それを知らぬ遊輝ではなかろうに――驚く庸佑の前で、まずは遊輝がカードをドローする。
「僕の先攻、ドロー! 僕は〝E・HERO エアーマン〟を召喚!」
○E・HERO エアーマン
ATK:1800
DEF:300
HEROデッキにはお馴染みの、風を操るE・HERO。けれど、庸佑の関心はそこにはなかった。
(やっぱり、E・HERO!)
ネオスを使うにしても、何のシナジーもないデッキに組み込むはずはないと思っていた。だからこそ彼の本当のデッキとは、即ちHEROデッキであると推測したのだが、予想は見事に的中したと言えよう。彼がネオスを持っているという庸佑の疑念は、確信的なものへと変わっていく。
「エアーマンの効果発動。このカードが召喚、または特殊召喚に成功した時、2つの効果から1つを選んで発動する。僕は、デッキからHEROを手札に加える効果を選択。〝E・HERO プリズマー〟を手札に加える。これでターンエンド!」
「うし、今度は俺のターンだ。ドロー! 俺は〝神獣王バルバロス〟を妥協召喚!」
続く、細身のギャングのターン。場に現れたのは、従属神と呼ばれるモンスターの1体。本来の攻撃力3000を、1900にまで下げることで通常召喚が可能になる最上級モンスターだ。獅子のような鬣を靡かせ威厳溢れる神は、槍を携え遊輝の場のHEROを前に咆哮する。
○神獣王バルバロス
ATK:3000→1900
「バルバロス……!」
デュエリストとして、遊輝もあのカードの知識はある。あのカードが入っているということは、デッキ傾向も絞られてくる。場のモンスター効果を無効にする〝スキル・ドレイン〟を利用して、バルバロス等の妥協召喚モンスターの効果を無効にした上で、相手の効果をも封じ、高攻撃力で攻め込むデッキ。或いは、バルバロス等の最上級モンスターのアドバンス召喚を積極的に狙うシンプルなパワーデッキ、その2択である。
せめて前者でないことを祈りながら、遊輝は次なる一手を待つ。
「カードを2枚伏せ、ターンエンドだ」
(さすがに、1ターン目から仕掛けてはこないか……)
おそらく、バルバロスの効果を無効にするカード等を伏せ、カウンターを狙っているのだろうと遊輝は読んだ。でなければ、わざわざ攻撃力の高い最上級モンスターであるバルバロスを、攻撃の出来ない1ターン目から妥協召喚するメリットがない。
続いて、もう1人の――先程の男と比べると、小太りで背も低い、デュエルギャングのターンだ。
「俺のターン、ドロー! 俺は〝代打バッター〟を召喚!」
現れたのは、巨大なバッタ。野球の代打、バッターとバッタをかけたものだが、昆虫族デッキでは主軸となる活躍を見せるモンスターだ。
「更に魔法カード、〝殺虫剤〟を発動! 場の昆虫族モンスターを破壊する! 俺は〝代打バッター〟を破壊!」
謎の不気味な手に握られたスプレー缶から殺虫剤が噴射され、〝代打バッター〟を破壊する。
「〝代打バッター〟の効果発動。このカードが破壊された時、手札から昆虫族モンスター1体を特殊召喚出来るぜ! 来い、〝ポセイドン・オオカブト〟!」
○ポセイドン・オオカブト
ATK:2500
DEF:2300
消滅した〝代打バッター〟の代わりに現れたのは、鎧を纏い、槍を携えたカブトムシ、〝ポセイドン・オオカブト〟。リリースを2体必要とする上級モンスターとしては攻撃力はそれほど高くはなく、特筆すべきコンボカードもない。昆虫族の中でも、平凡な能力値の上級モンスターだ。
「〝ポセイドン・オオカブト〟! エアーマンを攻撃だ!」
槍を構え、背の翅で飛翔して、〝ポセイドン・オオカブト〟はエアーマンへ襲いかかる。攻撃力の差は歴然だ。背部のフィンでトルネードを発生させて迎撃しようとしたが、それを巧みに回避した〝ポセイドン・オオカブト〟の槍に貫かれ、健闘虚しく消滅した。
「うっ……!」
○遊輝
LP:4000→3300
「どうだ! ターンエンドッ!」
自慢げにターンの終了を告げる男。ARの衝撃にたたらを踏んだ遊輝は、なんとか踏み止まると、デッキに指をかける。
ここまでプレイして、分かったことは2つ。1つは、それぞれの相手のデッキの特性。そしてもう1つは、彼らのデッキは、特別、タッグデュエルに対応出来るようには作られていないということだ。2人の場をよく見定め、遊輝はカードを引いた。
「僕のターン、ドロー! 魔法カード、〝大嵐〟! 場の魔法・罠カードを全て破壊する!」
「ちっ! チェーン発動、〝禁じられた聖杯〟! 場のモンスター1体の効果を無効にして、攻撃力を400ポイントアップする! 対象はバルバロスだ!」
遊輝の発動した〝大嵐〟に舌打ちした細身のギャングが、それにチェーンして発動した〝禁じられた聖杯〟。本来は相手モンスターの効果を無効にするべく用いられるカードだが、バルバロスを主軸としたデッキを使用する者にとって、その意味は若干異なる。
バルバロスの攻撃力低下は、その効果による妥協召喚が原因である。つまり、効果さえ無効にしてしまえば、攻撃力は元に戻るのだ。つまりは――。
○神獣王バルバロス
ATK:1900→3400
「危ねぇ……」
「プリズマーを召喚して、効果を発動。エクストラデッキの融合モンスターを相手に公開し、その融合素材を墓地へ送ることで、プリズマーはターン終了時までそのモンスターとして扱う。エクストラデッキの〝E・HERO ネオス・ナイト〟を公開し、ネオスを墓地へ送る!」
(……!!)
ネオスの名を聞いた時、デュエルギャング達も十分驚きを露にしていたが、それよりも遥かに驚愕していたのが物陰から観戦していた庸佑である。
未だどこか信じられない気持ちが渦巻く中、遊輝がデュエルディスクのセメタリーゾーンへ送ったカードに呼応して、プリズマーの姿が変わっていく。
庸佑が待ちわびた、あの白銀の英雄の姿に。
「〝死者蘇生〟で、墓地からエアーマンを復活! 効果でデッキから〝E・HERO バブルマン〟を手札に加える。そして、エアーマンとプリズマーでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 来て、新しい僕の仲間! 〝ダイガスタ・エメラル〟ッ!」
○ダイガスタ・エメラル
ATK:1800
DEF:800
新緑の色をした装甲を全身に纏い、剣と盾で武装した戦士。鶴屋で買った開店記念のカードパックで、〝レスキューラビット〟とは別のパックに入っていた、遊輝の新しい仲間だ。攻撃力こそ上級には届かないが、このモンスターの効果は遊輝のエースを大いに助けてくれる。
「〝ダイガスタ・エメラル〟の効果発動! オーバーレイユニットを1つ使い、墓地の効果モンスター以外のモンスター1体を特殊召喚出来る。蘇れ、僕のヒーロー! 〝E・HERO ネオス〟ッ!」
ARヴィジョンの地面に開いた魔法陣の穴から、ネオスが雄々しく飛び上がった。逸る鼓動と、今にも飛び出していきたい衝動を必死に抑えながら、庸佑はその勇姿を見守る。
庸佑の場所からはネオスの背中しか見ることは出来なかったが、その姿には伝説のカードに相応しい風格があった。
「ね、ネオス……!?」
「本物か……!?」
「まさか。レプリカだよ」
「は、ははっ……たとえレプリカでも、伝説のネオスなんて超絶級のレアカードじゃねえか! おい坊主! 俺達が勝ったら、そのカードは俺達がいただくぜ!」
デュエルギャングのその言葉に、庸佑ははっとした。そうだ、確かにネオスは彼が言うとおり、凄まじい程貴重なレアカード。であれば、その存在を知った者であれば、誰であろうと欲するに決まっている。それが彼らのような悪人であれば、尚更。
もし、あんな悪人にカードを取られてしまったら――。金を詰めば手放してくれる可能性は、遊輝自身と交渉するよりも遥かに高いに違いない。
そんな思いが芽生えた庸佑の目の前で、遊輝は不敵に笑った。
「いいよ、それで。……倒せたら、の話だけど! 魔法カード〝受け継がれる力〟! 場のモンスター1体をリリースして、他のモンスター1体にそのモンスターの攻撃力を加える! 〝ダイガスタ・エメラル〟をリリースして、ネオスにその攻撃力を加える!」
○E・HERO ネオス
ATK:2500→4300
〝ダイガスタ・エメラル〟が光の粒子となって、ネオスに吸収されていく。仲間の力を受け継いだネオス。その力は、ついに禁じられし杯の力で己が力を取り戻した従属神をも容易に上回った。
「攻撃力、4300……!?」
「更に2枚の装備魔法を発動。〝アサルト・アーマー〟は、場に戦士族モンスターが1体しか存在しない時のみ装備することが出来、攻撃力を300ポイントアップする。そしてもう1つ、〝ネオス・フォース〟。ネオスに装備し、攻撃力を800ポイントアップする!」
○E・HERO ネオス
ATK:4300→5400
「攻撃力5400だとぉ!?」
「〝アサルト・アーマー〟の効果発動! このカードを墓地へ送ることでこのターン、装備モンスターは1度のバトルフェイズで2回の攻撃が出来る!」
○E・HERO ネオス
ATK:5400→5100
ネオスの纏うオーラが弾け、攻撃力が僅かにダウンする。けれどそれでも5100という高攻撃力を維持している。伏せカードも大嵐で吹き飛ばされてしまったデュエルギャング達に、この攻撃を防ぐ手立ては――ない。
「バトル! ネオスで〝神獣王バルバロス〟を攻撃! 〝ラス・オブ・ネオスフォース〟!」
力の集約した凄まじい手刀の一打が、バルバロスの体躯へ直撃した。凄まじい轟音を挙げ、バルバロスは堪らず爆散する。
「装備魔法、〝ネオス・フォース〟の効果。装備モンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した時、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!」
「な……ぐあああぁぁぁぁぁっ!?」
○ギャングA
LP:4000→0
「〝アサルト・アーマー〟の効果を受けたネオスは、もう1度攻撃出来る! 〝ポセイドン・オオカブト〟を攻撃だ! 〝ラス・オブ・ネオスフォース〟ッ!」
「そんな馬鹿なああぁぁぁっ!」
○ギャングB
LP:4000→0
「……」
圧倒的。まさにその一言に尽きた。2人のデュエルギャングを相手に、無傷とはいかないまでも、僅か2ターンで決着をつけてしまったのだから。しかもその結末は、初期のライフポイント4000を一撃で削り取るというとてつもなく暴力的な攻撃によるものだ。
そして、その戦略の中核を担ったのは〝E・HERO ネオス〟。そのあまりに圧倒的な風格に、庸佑は言葉を失って、ただゆっくりと消えていくその勇姿を目に焼き付けていた。
「さあ、約束通りあの子のカードは返してもらうよ!」
「お、覚えてやがれ!」
遊輝の言葉に、少年のものらしいカードを投げ捨て、捨て台詞を吐いて逃げ去っていくデュエルギャング2人。遊輝はそれを追うようなことはせず、カードを拾うと、少年へそっと差し出した。
「さ、君のカードだ。大切にするんだよ?」
「うん、ありがとうお兄ちゃん!」
遊輝から受け取ったカードを大切に握り締め、礼を述べた少年は去っていく。その足音に、庸佑は我に返った。
(……今しかない)
ネオスの存在を目撃した、今しかチャンスはない。そう庸佑は悟った。意を決し、庸佑は少年と入れ替わるようにして、物陰から姿を現す。
「遊輝君」
「えっと、君は確か同じクラスの……寺師君?」
遊輝は、きょとんとあどけない童顔で首を傾げた。デュエルの最中とはまるで別人のような彼の雰囲気に戸惑いながら、庸佑は言葉を続ける。
「遊輝君、見てたよ今のデュエル。凄かったねぇ」
「そ、そうなんだ。なんだか照れるな」
頬を掻いてはにかむ遊輝に、庸佑は感触が決して悪いものではないことを確信して、さらに続けた。
「で、今のデュエルで使ってた……ネオス、なんだけど……」
「ああ、うん。僕のエースモンスター。カッコイイでしょ?」
いつの間にデッキケースにしまったのか、いつも彼がハートランド学園で使っているものとは違うデッキケースから、遊輝は1枚のカードを取り出す。
〝E・HERO ネオス〟と確かに黄金色の文字で描かれているHEROは、デュエルギャング達が言っていたとおりたとえレプリカであったとしても、この世にそれを持つ者は遊輝と、伝説のHERO使いくらいのもの。レアリティもさることながら、オーラのようなものを幻視してしまう程のプレッシャーは、ARヴィジョンが消えて尚失われてはいなかった。
「お、お願いだ遊輝君! そのネオスを、俺に譲ってくれ!」
「え……えええぇぇぇぇっ!? だ、ダメだよそんなの! 大切なカードなんだ!」
「か、金なら幾らでも払う! 言い値で買うよ! カードが欲しいなら、俺のコレクションから好きなだけトレードに出す! だから……だから頼むよっ!」
必死に頼み込む庸佑に、困り果てた様子で遊輝はネオスを背後に隠した。
そうして彼の姿を見ていると、最初は驚いていた遊輝も徐々に冷静さを取り戻したようで、穏やかに語り始めた。
「寺師君。僕がどうして、HEROデッキを普段使わないか解る?」
「え? それは……強すぎるから?」
突然の遊輝の問いの真意を推し量れず、思わず問い返してしまった庸佑に首を横へ振った遊輝は、ネオスのカードを優しく撫でる。
「デッキに完璧なんてない。確かに一生懸命組み上げたこのデッキは、僕の持っているデッキの中では最強のデッキ。けど、その強さだって、絶対じゃないんだ。僕がこのデッキを隠してるのは、ネオスが見世物になるのが嫌だったから。レアリティがあるってだけで、持て囃されるのが……。そう、今の君みたいに」
HEROが好きなら、普段からHEROを使っていればいい。けれどそうしないのは、ネオスの存在を公にして、今の庸佑のようにネオスを目当てにデュエルを挑んでくるような輩が増えるのが嫌だったから。遊輝にとってデュエルとは、以前の手島のように己の地位を確立するためのものでもなければ、レアリティの高いカードを求めることでもない。ただ、楽しくデュエルがしたい。そう思っているからこそ、遊輝はあえてエースカードであるネオスの入ったデッキを滅多なことでは人前に出さなくなった。鶴屋でデッキを見せたのは、リヴァイエールのことで真剣に悩んでいたためで、そうでもなければああも簡単に他人に晒すことなど有り得なかっただろう。
「ネオスは僕にとって、とても大事なカードなんだ。ただレアリティが高いってだけじゃなくて……。だから、どれだけお金を積まれても、レアカードを出されても僕はこのカードを手放さない。絶対に、ね」
本当に大切にネオスを胸に抱く遊輝の言葉を、庸佑は黙って聞いていた。何も言葉を発することなど出来なかった。
カードにレアリティか実用性か、そのどちらかしか求めて来なかった庸佑に、彼の言葉は理解し難いものであった。だが、朧げながら感じ取っていた。彼自身が言うように、彼は絶対にネオスを手放したりはしないだろう、と。
「……そう。よく分かったよ」
「あ、寺師君っ!」
ただ一言そう言うと、庸佑は遊輝の言葉をも振り切ってその場から走り去った。後ろ髪を引かれる想いを、大いに感じつつ。
彼の欲望が暴走する時は、すぐそこに迫っていた。