遊戯王ZEXAL ―BRAVE HEROES―   作:神崎はやて

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ナンバーズ 8 奪われし英雄

 翌日の朝登校した遊輝は、まずネオスの噂が広まっていないことに安堵していた。

 なるべくならレアカード目当ての人間に取り囲まれることだけは避けたかっただけに、庸佑が周囲の人間にネオスの存在を漏らさぬよう念を押せなかったことだけが気にかかっていたのだ。けれど遊輝が通っても皆遊輝に無関心であるところを見ると、秘密は守ってくれたらしい。

 

(寺師君、解ってくれたんだ)

 

 自分の机に鞄を置いて、遊輝は安堵に微笑みながら、ちらと庸佑の机へ視線を移した。彼はまだ来ていないようで、机は椅子がきちんと机に収納されていた。

 

「おはよう、遊輝君」

 

「あ、おはよう小夜子さん」

 

 と、じっと庸佑の机を見ていると、隣の席に鞄を置いた小夜子が和かに挨拶をしてきたので、遊輝もにっこりと笑って返した。

 あの手島の事件の後、当然のように彼女から質問攻めを受けた遊輝は、正直に全てを話した。数日前、EXNo.と呼ばれるカードを手にしたこと。それ以後、No.というカードを持ったデュエリストとデュエルをしたこと。勿論、ネオスやHEROデッキのことを秘密にしておいて欲しい旨も。実際に目撃されてしまい、手遅れであると判断したためだが、その後優しく笑いかけながら頷いてくれた小夜子を見て、遊輝は彼女ならば大丈夫だろうと確信することが出来たのであった。

 

「あれからNo.は?」

 

「……まだ何も」

 

「……そっか」

 

 遊輝ならば大丈夫、と信じているとはいえ、やはり気になるのだろう。こうして事あるごとに訊ねてくるのがいい証拠だ。

 けれど遊輝は、小夜子とは別の意味でNo.のことを気にかけていた。No.を持つデュエリストと戦う時に聞こえてくる声。デュエルが終了した後、当然のように己のデッキケースに収まっているNo.といい、遊輝の戦いに何者かの意思が働いていることは間違いない。その正体が解らないというのは、居心地が悪くて仕方がなかった。

 

(次にNo.と戦う時、何か解ればいいんだけど……)

 

 所詮都市伝説だと思っていたものだ、そう簡単に〝次〟に遭遇するとは限らない。けれど何故か、遊輝はそう遠くない未来に次のNo.に出会う予感がしていた。

 程なくして担任の女性教師が教室の中へ入ってきて、出席簿を手にHRを始める。庸佑の机に再び目をやると、何時の間に入ってきたのか既に彼の姿があった。鞄から筆記用具を出している彼の姿にそっと微笑んで、遊輝は教卓で今日の連絡事項を話している教師の方へ視線を移す。

 

「はい、ちゅーもーく! 今日の一時限目の授業は国語の予定でしたが、国語の安藤先生が急な出張で欠席されていますので、金曜日の体育と授業変更することになりました! 皆、間違えないでねっ!」

 

 遊輝のクラスの女性教師、加藤 由紀。明るくめげない性格で、男女問わず人気のある、今時珍しい程に熱心な教師である。当然ながら遊輝もその例に漏れないが、かの不良生徒、シャークこと神代 凌牙すらも一目置いているという話を聞いた時には思わず耳を疑ったものだ。

 そんな彼女の話を熱心に聞いている遊輝は、気づくことができなかった。

 彼を見つめる、1人の少年の視線に。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

 その日の一時限目は、由紀が宣言したとおり体育の授業が行われた。唐突に決まったものであるため誰も体操着を用意しておらず、体育の教諭も特別日普段着での出席を許可したが、生徒たちは皆、各々の貴重品類をしまっておくべく、更衣室のロッカーへ集まっていた。

 

「まさかこんなに急に授業変更になるなんてね」

 

「うぅ。僕、体育苦手なんだけどなぁ……」

 

 カードや教科書を鞄ごと指定のロッカーの中に放り込む遊輝の隣で、駿が憂鬱そうな顔をして大仰な溜め息をつく。どうやら見た目どおり、運動が得意ではないらしい。確かにこれまでの体育の授業で、彼が活躍した姿はこれまで一度も見たことがなかった。とはいっても遊輝自身、派手な活躍をするようなスポーツマンではないのだが、その遊輝をもってして尚活躍していると思えないのだから、結構な運動音痴ということなのだろう。

 陰鬱な表情でとぼとぼと歩いていく駿を励ましながら、クラスメイト達の波に倣って遊輝達が更衣室を後にし、遂に更衣室は無人となる。そしてその時、それまで物陰で好機を伺っていた影が動き始めた。

 

「……行った、か」

 

 影――寺師 庸佑は物陰から姿を現わすと、真っ直ぐに遊輝のロッカーの前までいき、徐にロッカーを開けた。自動で戸が開き、遊輝のバッグが目の前に現れる。

 中身を探ること数分。漸く目当てのものを見つけた庸佑の表情が一気に明るくなった。

 

「〝E・HERO ネオス〟……! これさえあれば……!」

 

 せめて今一度このカードを拝みたいものだと、この機会を狙っていた庸佑の視線は感動のあまりネオスのカードに釘付けになった。やはりこのカードは、たとえレプリカであったとしても他のレアカードとは輝きが違う。もしこのカードに対抗できるとするなら、本物のネオスか、かの初代デュエルキング、武藤遊戯が愛用したエースカード〝ブラック・マジシャン〟や、彼の永遠のライバルとされる海馬コーポレーション社長、海馬瀬人の〝青眼の白龍〟くらいのものだろう。

 暫しネオスのカードの輝きに心奪われていた庸佑だが、ふとその心に邪(よこしま)な考えが過ぎった。このカードを我が物にしてみたい、と。幸い今なら誰も見ていない。今なら、このカードをこのまま自分のデッキケースにしまったところで、咎める者は誰もいないのだ。

 ネオスのカードを手にしたまま、良心と葛藤する庸佑。しかしそこへ、負の感情を後押しする悪魔の囁きが彼の耳へ届いた。

 

 

――そのカードが欲しいか?

 

 

「だ、誰だ!?」

 

 突如頭に響いた問いかけに、庸佑は叫んだ。けれど声は庸佑の問いを無視して、尚も語りかける。

 

 

――今ならば、貴様の行動を咎める者は誰もいない。さあ、そのカードを取るのだ。貴様の心の闇に従え……!

 

 

 声の主がそう語りかけた途端、庸佑の眼から光が消え失せ、声の命ずるまま庸佑はネオスのカードを己のデッキケースにしまい込む。そして何事もなかったかのように遊輝のロッカーの戸を閉めると、自分のロッカーへデッキケースを放り込んで、体育の授業が行われる運動場へと走っていった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「ふぅ、終わった終わった……」

 

 1時間後、体育の授業が終わった遊輝はやり遂げた表情で更衣室に戻ってきた。まずまずの結果が残せたのであろう彼の後ろに、意気消沈してがっくりと肩を落とした駿が続く。

 朝から早々に体力を使う羽目になり、この後の授業はおそらく睡魔との戦いになるであろう予感を感じながら、遊輝はロッカーを開けた。ごそごそと中身を弄り、カードケースを開けていく。これからデュエルをするわけではない。ただ、HEROデッキの入っているケースとラギアデッキの入っているケースのデザインが似ているため、別々の場所に収納するために中身を確認する必要があるのだ。最初に手に取ったデッキは、幸か不幸かHEROデッキのケースだった。

 

「……あれ?」

 

「どうしたの、遊輝君?」

 

 と、ケースの蓋を開けたところで遊輝は違和感を覚えた。いつもはデッキの一番下に置いて、ケースを開ければまず最初に目に飛び込んでくるはずである遊輝のフェイバリットカード、ネオスの姿がない。蓋を開けてすぐに見えたのは、〝E・HERO エアーマン〟。確かにHEROデッキの中でも重要な役割を担うカードには違いないが、明らかにおかしかった。

 まさか、という思いが遊輝の中で沸き起こり、慌てて遊輝はデッキの中を確認する。明らかに慌てている様子の遊輝を訝しげに見つめている駿の前で、最後の1枚まで確認した遊輝が愕然として呟いた。

 

「……ない」

 

「え?」

 

「ネオスのカードが……ない」

 

 遊輝の言葉に、遊輝と駿の間の時間が止まる。数秒の間硬直した後、遊輝は不意に顔を上げ、それに驚いた駿はびくりと身を震わせて後ずさった。遊輝の表情にはどこか鬼気迫るものがあって、それをじっと見ている駿のことにも構わずに遊輝は更衣室の出口へ向けて歩いていく。

 

「ゆ、遊輝君……どこへ?」

 

 恐る恐る話しかける駿に、遊輝は切羽詰った表情で振り返る。

 

「決まってるでしょ、探しに行くんだよっ!」

 

「ちょ、もう次の授業始まるよ!?」

 

「悪いけど僕休むから! 駿君、後宜しくっ!」

 

 言うが早いか、遊輝は更衣室を飛び出して何処かへと走り去ってしまう。後に残された駿が何かを叫んでいるが、それに構っている余裕もなく、遊輝はひたすら廊下を駆け抜けた。

 どこかで落とした可能性を考え、教室までの間を隅々まで見渡しながら走り抜けたが、ネオスのカードは見当たらない。血の気が引いていくのを感じて、遊輝は学園の下駄箱を通り抜け外へ出ると、置かれていたベンチに弱々しく座り込んだ。

 

「はぁ……」

 

 カードを失ったショックで、力なく溜め息をつく遊輝。普段の遊輝なら、授業を無断欠席するなど有り得ない。それだけ深く落ち込んでいるという証拠だ。暫しその場で項垂れていた遊輝だったが、見つめていた路面に影が落ちて、遊輝は何気なく顔を上げる。

 

「全く。何を湿気た面してやがる」

 

「……シャーク」

 

 目の前にあったのは、気怠げに鞄を背負った、藍色の跳ねた髪の下に鋭い目付きの男子生徒。シャークこと神代 凌牙の姿だった。本来なら彼も授業があるはずだが、皆が認める不良である凌牙にそんなことは関係ない。むしろ最近少しずつ学校に通い始めたこと自体が奇跡という他ないのだから、むしろ褒めるべきなのだろう。

 その彼の変化には、まず間違いなくあの九十九 遊馬の存在があることは、凌牙とある程度親交のある遊輝は薄々感づいていたが、それを凌牙へ訊いても答えてはくれなかった。

 

「どうした、今は授業中だろ。ま、俺が言えた義理じゃねえが」

 

「大切なカードをなくしちゃって。一生懸命探したんだけど、見つからなくて……」

 

 ネオスのことは、凌牙にはまだ明かしていない。彼は遊輝がネオスを持っていると知って無闇にもてはやしたりするような人間ではないと分かっているが、なくしたカードのことについてははぐらかしつつ、遊輝は彼に事情を説明する。

 

「……それで? 諦めるのか?」

 

「そんな! 諦めるなんて……そんなこと、有り得ないよ……」

 

「ふん、そうか。精々頑張るんだな」

 

 無愛想にそれだけを言って去っていく凌牙。相変わらず不器用な物言いの意味を噛み締めた遊輝の表情に、僅かながら笑顔が戻った。

 そうだ、立ち止まってなどいられない。ネオス程のカードだ、早く見つけなければ、第三者に見つかれば高値で売られてしまう可能性もないとは言えない。

 

「けど、手掛かりがないんじゃなぁ……」

 

 改めて冷静になって考えてみると思い当たる節が全くないことに気付き、遊輝は再び肩を落とした。けれど、一度諦めないと誓ったのだ。絶対に何か方法があるはずだと、必死に考えを巡らせる。

 

「心当たりのある場所には、どこにもなかったんだよね」

 

 バッグの中は確認したし、今日歩いた記憶のある場所も皆確認した。学校に来た時にはあったのを覚えているから、通学路のどこかに落ちている、ということはないだろう。そうなると遊輝自身が落としたというよりは、人為的なものを疑わなければならなくなってしまい、遂にそこで、最も可能性の高そうな人物が浮上してしまった。

 

「寺師君……!」

 

 信じたくはないが、最も可能性があるのも確かだった。昨日、ネオスを売ってくれと迫る彼の言葉には、並々ならぬものを感じていた。『そのようなこと』をすると思わせるのに、十分な程。

 確かめなければ。そう決意した遊輝は、教室に戻った。ちょうど授業が終わったところであったようで、遊輝は教室に入るなり庸佑の姿を捜す。けれど、彼の姿はどこにもなかった。

 

「あれ? 遊輝君、帰ったんじゃなかったの?」

 

「小夜子さん……あの、寺師君は?」

 

 不思議そうに首を傾げる小夜子の問いにも答えず、遊輝は訊ねる。それに小夜子は多少戸惑いながらも、体育の授業が終わったと同時に帰ってしまった旨を遊輝へ伝えた。

 

「そっか、ありがとう!」

 

「あ、ちょっと、遊輝君!?」

 

 礼を言う間もないまま、遊輝は教室を後にし、学校を出た。

 体育の授業が終わってすぐということなら、今頃はもう家についている頃だろうか。そう思いながら街中を走る。セレブな彼だ、ハートランドシティ広しといえど彼の家――もとい、屋敷の場所くらいは遊輝も知っている。そこへ向けて疾走する遊輝だったが、途中で道行く人々の話し声が聞こえてきて、遊輝は足を止めた。ただの世間話ならば気にすることはないが、その話の中に気になる言葉が含まれていたからだ。

 

「なんかあっちのカードショップで、中学生が暴れてるらしいぞ」

 

「ああ、そうらしいな。今日来たばかりだけど、滅茶苦茶強ぇって話だぜ」

 

 強い中学生。遊輝はそのデュエリストのことを、直感的に庸佑のことなのではないかと推測した。彼らの会話の中に直接そのデュエリストと庸佑を結びつける言葉はなかったが、遊輝は通行人からカードショップの場所を聞き出すと、再び走った。

 場所は、カードショップアルト。鶴屋が出来るまで、遊輝が通っていたカードショップだ。

 暫く走ったところで、大通りに面した場所にそのショップはあった。ハートランドシティ市内ではそこそこ大きく品揃えも豊富な、ハートランドのデュエリスト達の中では有名なカードショップだが、皆逃げてしまったのか、開店中であるにも関わらず店内に人影はなかった。

 ただ1つを、除いては。

 

「寺師君……」

 

 荒れた店内の中心に、ぽつんと立つ1人の少年。身体にはハートランド学園の制服を纏うその少年は、紛れも無く寺師 庸佑であった。雰囲気は全く違ってしまっているが、間違えるはずもない。

 

「俺は手に入れる……この世の全てのカードを!」

 

 言いながら振り返った庸佑の表情は狂気的に歪んでいた。似ている、と遊輝は思った。EXNo.を使っていた時の、不良の男と手島の時に。

 まるで所有欲が開放されたかのように店内のカードをかき集める寺師に、遊輝は問いかけた。

 

「寺師君。僕のカード、持っているのは……君?」

 

「君のカードぉ?……あはははははっ、もしかしてぇ……こいつのことかなぁ?」

 

「っ!?」

 

 寺師が懐から取り出したカードを見て、遊輝は驚愕に目を見開いた。

 信じたくはなかった――が、もはやどうしようもなかった。彼の手に握られたカード、それはまさしく遊輝の宝物とでも言うべきカード、〝E・HERO ネオス〟だったのだから。

 

「俺はねぇ、遊輝君。こいつが欲しくて仕方がなかった。このカードを颯爽と使いこなす君が羨ましくて仕方なかったさ。けど……手に入れた今となっては、それだけじゃもう満足できない。もっと多くのレアカードを集めなければ気がすまないのさぁっ!」

 

「寺師君、お願いだよ! ネオスを返して! 大事なカードなんだっ!」

 

 狂気に支配されている庸佑へ向けて、遊輝は諦めずに訴えた。それに対しニヤ、と笑っただけの庸佑だったが、思いもよらぬことを申し出た。

 

「……いいよ。けど、ただでというわけにはいかない。俺とデュエルだ、田神 遊輝! もし君が勝ったら、潔くネオスは返そう。けど、もし俺が勝ったら……そうだなぁ。その時は、君のデッキをもらおうかな!」

 

「デッキを……!?」

 

 そう言われて、遊輝は自分のデッキケースを一瞥した。一生懸命構築した、魂のデッキ。それを渡すということは、デュエリストとして魂を売り渡す行為と同義である。あの時、最初のNo.を持っていた不良とのデュエルと同じ条件だ。

 けれどこの勝負、ネオスを取り戻すためにも受けないわけにはいかなかった。

 

「……解った。そのデュエル、受けて立つよ!」

 

 決意を込めて叫ぶと同時、遊輝と庸佑は同時にDパッドを投げた。空中でディスクに形を変えたDパッドが腕のリストに結合し、デュエルディスクとなる。そして左目にDゲイザーが装着され、周囲の景色がARヴィジョンに塗り変わる。

 

「「デュエル!」」

 

○遊輝

LP:4000

 

○庸佑

LP:4000

 

 ライフポイントが表示され、デュエルディスクの赤いランプが交互に点滅し、ランダムに先攻・後攻を決定する。紅い光が止まったのは、庸佑。庸佑の先攻だ。

 

「俺のターン、ドロー! 俺はモンスターを裏側守備表示でセット! カードを2枚伏せてターンエンドだ!」

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 意外にも、初手は堅実な一手だった。けれど庸佑のデッキの場合、たった2枚の伏せカードでもプレッシャーを与えるには充分。警戒して、遊輝はデッキからカードを引く。

 

「僕は〝E―エマージェンシー・コール〟を発動! デッキからE・HEROと名のつくモンスター1体を手札に加える! 〝E・HERO エアーマン〟を手札に加え、召喚!」

 

 ネオスというエースを失った以上、ネオスの召喚を狙っていく戦法はとれない。ならば少しでも手を整えようと、遊輝は動いた。

 しかし。

 

「トラップ発動! 〝奈落の落とし穴〟! 相手が攻撃力1500以上のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚した時、そのモンスターを破壊しゲームから除外する!」

 

「なっ……!?」

 

 表になったのは、レアカード〝奈落の落とし穴〟。しかもただのレアカードではない。金色に輝く加工が施された、ゴールドレアのカード。ゴールドレアはパラレルレアやホログラフィックレアと同様、ごく少数しか存在しないと言われている幻のレアリティである。庸佑のデッキは、ただでさえレアなカードを、ゴールドレアで揃えた金色のデッキなのだ。

 しかも厄介なのは、そのどれもが超強力な効果を秘めているということ。

 

「けど、落とし穴でもエアーマンの効果は無効化されない! エアーマンの効果。このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、デッキからHERO1体を手札に加える。僕は〝E・HERO アナザー・ネオス〟を選択! カードを2枚伏せて、ターンエンド!」

 

 通常召喚の権利はもう使ってしまった。これ以上モンスターを召喚することもできず、遊輝はやむを得ず場にモンスターがない状態で庸佑へターンを渡す。

 

「俺のターン、ドロー! 俺は場のリバースモンスターをリリースし、〝サイバー・ドラゴン〟をアドバンス召喚!」

 

 伏せられたカードを糧に庸佑の場に降臨したのは、〝サイバー・ドラゴン〟。全身が機械で出来ている蛇の形をした龍で、サイバー流というデュエルの流派がエースとして好んで使用するモンスターだ。その影響かサイバー流門下生以外に出回っている数は極めて少ないため、庸佑が持っているようなゴールドレアともなれば、相当の希少価値があることだろう。

 

「更に手札を1枚捨て、〝THE トリッキー〟を特殊召喚! このカードは手札を1枚捨てることで、特殊召喚出来る!」

 

 頭部のマスクに?の文字が描かれた奇術師のようなモンスター。〝サイバー・ドラゴン〟に比べると希少価値は低いが、かの初代デュエルキング、武藤 遊戯が使用していたということもあり、高値で取引されている。これで庸佑の場に、攻撃力2000以上のモンスターが、たった1ターンで揃ってしまった。

 〝サイバー・ドラゴン〟と〝THE トリッキー〟。レベルはいずれも5だ。

 

「来る……!」

 

「俺は、レベル5の〝サイバー・ドラゴン〟と〝THE トリッキー〟でオーバーレイ! 2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚っ!」

 

 〝サイバー・ドラゴン〟と〝THE トリッキー〟がそれぞれ金色と翡翠色の光になって、フィールドに開いた穴へ吸い込まれ爆発する。

 

「現れろ、〝EXNo.77 ゴールデン・アミュレット〟!」

 

 光の中から2つの衛星を従えて現れたのは、まるで中央に宝玉を抱くアクセサリーのような形をしたモニュメント。それが徐々に形を変え、モンスターの形を成していく。左右からは長い腕が生え、先端には鋭い爪を伴う大きな手が。上部分には頭部が生え、紅いモノアイが妖しく発光した。

 

○EXNo.77 ゴールデン・アミュレット

ATK:2550

DEF:1900

 

「No.……!?」

 

 金色の輝きを前に、遊輝は己の予感が的中したことを悟っていた。それと同時に、やはりNo.との戦いは避けられないのだと思わせる程の、運命的なものすら感じてしまう。

 

「ゴールデン・アミュレットが場にいる限り、このカード以外の自分の全てのモンスターの効果は無効になる。そしてゴールデン・アミュレットの効果発動! 1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使い、デッキからモンスターカードを1枚選択して特殊召喚する。ただしこの効果で召喚されたモンスターは融合やエクシーズ召喚の素材に出来ず、効果は無効になり、ダイレクトアタックを封じられる!」

 

「……!」

 

 一見何のメリットもなさそうな効果だが、遊輝の表情は苦渋に歪んだ。通常、デッキからモンスターを召喚できる効果というのはとても便利な効果だ。たとえ攻撃できない、効果が無効になる、といったデメリットがあったとしても、融合やエクシーズ召喚に繋げる布石となりうるためである。けれどゴールデン・アミュレットの効果で召喚されたモンスターは、エクシーズ召喚の素材に出来ない。更に効果も無効になり、ダイレクトアタックも封じられる。かなりの制約があるように思われる効果だが、よく見れば幾つか抜け道がある。

 まず、エクシーズ召喚には使用できないが、アドバンス召喚のためのリリースに活用することが出来る点である。モンスターの中にはアドバンス召喚のためにリリースされることで効果を発揮するカードも存在するため、そういったカードをサポートするにはうってつけの効果と言える。そしてもう1つ、ダイレクトアタックは出来ないが、攻撃を全く封じられたわけではないという点だ。これは場合によって非常に驚異となる。ゴールデン・アミュレットの効果にレベル指定はない。つまり、ゴールデン・アミュレットのオーバーレイユニットが続く限り、高打点のモンスターが何体も出現するのだ。更に効果が無効になるということも、「能力値は高いがデメリットも多い」モンスターを召喚しやすいことに繋がるのだ。

 そして庸佑のデッキには、その2つの利点のいずれをも活かしうるカードが山ほど入っている。

 

「そうだな……俺はデッキから、こいつを呼ぼう」

 

「……まさかっ!?」

 

 遊輝が思い浮かべたカードは確かに上級モンスターだが、上級モンスターとしてはそれほど攻撃力が高いとは言えないし、ここで呼ぶメリットは小さい。けれどあえてそれを選ぶことで、ボードアドバンテージ以上に、心理的、精神的ダメージを誘う結果になることを遊輝は知らない。尤も使用している庸佑自身、ただ単に己の執着が招いたことであって、その結果に繋がることを計算しての行動ではないのだが。

 庸佑が手に取ったカードがゆっくりと表になる。黄土色のカードフレームの中央に描かれた、白銀のHERO。黄金色で書かれた、そのカードの名は――。

 

「俺の前に現れろ! 〝E・HERO ネオス〟!」

 

 ゴールデン・アミュレットの眼下に現れた魔法陣から、颯爽と現れるネオス。

 頼れる白銀のエース。だが今は、その力は敵となって遊輝の前に立ちはだかる。

 

「ネオス……」

 

 真っ直ぐに見据えてくるネオスの姿を前に、遊輝は悲しげに瞼を伏せる。けれど、勝たねばならない。再びあの輝きを取り戻すためにも、絶対に負けられない。

 立ち向かう決意を固め、遊輝は毅然とディスクを構えた。

 




―BRAVE HEROS No.図鑑―

○EXNo.77 ゴールデン・アミュレット

・属性:光
・種族:魔法使い
・種:モンスター(エクシーズ・効果)
・召喚条件:レベル5のモンスター×2
・ATK:2550
・DEF:1900
・効果:このカードは、「No.」と名のつくモンスター以外のモンスターとの戦闘では破壊されない。1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き発動する。デッキからモンスター1体を特殊召喚する。この効果で召喚されたモンスターの効果は無効になり、相手プレイヤーに直接攻撃できず、融合・エクシーズ素材にも使用出来ない。



以上、寺師庸佑君のEXNo.でした。

なんとかしてネオスを奪われる展開にしたくて効果を考えたのですが、コントロール奪取だとバンディッド・デーモンと被りますし、相手のデッキからカードを奪う、とかだと強すぎるので、デッキに最初から入っていることにして、デッキから特殊召喚する効果に変更しました。その分かなり効果に制約をかけましたけれど。
抜け道はアドバンス召喚と高打点モンスターの展開。シンクロの規制はありませんが、現実ならおそらくシンクロ素材に出来ない効果も入ってくるかと思います。
ゴールデンは金、アミュレットはお守りのようなものですね。どうせならNo.もセレブっぽい奴にしてやろうと思って神崎が考案しました。なかなか皆様の応募されたNo.を使えず申し訳ないです(汗) 庸佑君の次のお話で出てくるキャラにはとある方が送ってくださったNo.が使えそうなので、使わせていただこうと思っております。

そしてさり気なく登場したシャークさん。こうやって、原作キャラも時々登場させて、原作のファンの方にも楽しんでいただけるように書いていきたいと思っておりますので、どうかお楽しみに。


では、次回まで暫しの別れを。神崎でした。
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