遊戯王ZEXAL ―BRAVE HEROES―   作:神崎はやて

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ナンバーズ 9 その名はエッジ

 

遊輝

LP:4000

 

庸佑

LP:4000

 

「ネオス……」

 

 遊輝の縋るような声が、照明が落ちて、辺りを外から差し込む陽の光だけが薄ぼんやりと照らすだけの真っ暗なフィールドの中に響き渡る。いつも頼もしく感じていた背中は彼の前にはなく、いつも相手プレイヤーを威圧していた鋭い目は、今は自分へと向けられている。ネオスを召喚した庸佑はもう既に勝った気になっているのか、普段のデュエルでは見せたこともない程強気な表情で笑った。

 

「お前の場にはモンスターはいない。ネオスでダイレクトアタック!……といきたいところだけど、ゴールデン・アミュレットの効果で召喚したモンスターは相手プレイヤーへダイレクトアタック出来ない。だから攻撃するのはこいつだ! 行けっ、ゴールデン・アミュレット!」

 

 先程の遊輝のターン、遊輝が召喚したエアーマンは〝奈落の落とし穴〟によって破壊されゲームから除外されている。彼の言うとおり、今、遊輝の場に彼を守るモンスターはいない。

 金色に輝く機械的な魔人は、頭部のモノアイを妖しく発光させ、その色と同じ紅の光線を遊輝へ向けて発射した。

 

「うああぁぁぁぁっ!」

 

遊輝

LP:4000→1450

 

 吹き飛ばされた遊輝の身体が店の床に転がり、半分以上のライフがごっそりと消し飛んだ。3000にも迫る勢いの大きなダメージは、ライフポイントだけではなく、遊輝自身の身体にも手痛いダメージを残していく。

 

「僕はこれでターンエンド。さあ、君のターンだ、田神 遊輝」

 

「僕の……ターン。ドロー」

 

 時を追うごとに失われていく戦意をかき集め、遊輝はカードをドローする。

 手に握られた5枚の手札は、それほど悪いものではない。けれど厳しいのは、その5枚ではゴールデン・アミュレットを突破できない点だ。たとえエクストリーム・エッジを召喚しても、遊輝の墓地には効果発動のために必要なHEROが1体もいない。ただ召喚しただけでは攻撃力で勝るゴールデン・アミュレットを突破することは出来ず、仮に攻撃力を上回るモンスターの召喚に成功したとしても、No.はNo.以外のモンスターとの戦闘では破壊されない。次の庸佑のターンで、確実にデッキから更なる最上級モンスターを召喚されるだろう。

 

「僕は手札から魔法カード、〝融合〟を発動! 手札の〝E・HERO ザ・ヒート〟とアナザー・ネオスを融合! 現れろ、〝E・HERO ノヴァ・マスター〟!」

 

 融合の渦の中に真紅と白銀のHEROが溶け合い、1つとなる。

 灼熱の炎を纏って現れた豪火のHERO、ノヴァ・マスター。攻撃力2600。しかしNo.ではないため、ゴールデン・アミュレットを戦闘破壊することが出来ない。

 それならば、狙いは――。

 

「ごめん、ネオス。……バトル! ノヴァ・マスターで、〝E・HERO ネオス〟を攻撃! 〝ノヴァ・ブラスター〟!」

 

 小さく謝罪の言葉を述べて、遊輝は攻撃を宣言した。ノヴァ・マスターの掌に炎のエネルギーが集中し、真紅のビームとなってネオスへ迫る。

 

「させるか! カウンター罠発動、〝攻撃の無力化〟!」

 

 ネオスの眼前の空中に開いた時空の穴。ノヴァ・マスターの放った光線は軌道を変えることが出来ず、そのまま穴へと吸い込まれていく。

 

「〝攻撃の無力化〟は相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる」

 

「……ターンエンド」

 

 ノヴァマスターの攻撃が通っていれば、ネオスのプレッシャーも消え、その上ノヴァマスターの効果で1枚ドロー出来ていた。たかが1撃、されど1撃だが、この攻撃が通らなかった事実は思いの外遊輝の心に重くのしかかる。

 

「俺のターン、ドロー! ゴールデン・アミュレットの効果発動! デッキから〝コスモクイーン〟を特殊召喚だ!」

 

「〝コスモクイーン〟!?」

 

 嘗て行われた世界的に有名なデュエル大会において、上位入賞者に贈呈された限定カードの1つ、それがこの〝コスモクイーン〟。世界に数枚しか存在せず、かなりのプレミアがついている超レアカードだ。

 一説には、オークションに出品された際には高級住宅一件が買えてしまう程の値がついたという噂すらある。が、庸佑ならばそれほどのカードを持っていてもなんら不思議はなかった。

 

〇コスモクイーン

ATK:2900

 

 〝コスモクイーン〟の攻撃力は2900。〝ゴールデン・アミュレット〟の効果で召喚されたため、ダイレクトアタックは出来ない上、エクシーズ召喚の素材にも出来ない。けれど、ノヴァマスターを倒し、遊輝の場を再び丸裸にするには十分な数値だ。

 

「行け、〝コスモクイーン〟! 〝ノヴァマスター〟を蹴散らせっ!」

 

 〝コスモクイーン〟の絵に紅い光球が出現し、〝ノヴァマスター〟に投げつけられた。

 攻撃力の差は歴然。けれど遊輝も、そう易易と攻撃を通してやる気などない。

 

「罠発動、〝ヒーロー・バリア〟! 自分の場にE・HEROが存在する時、一度だけ相手モンスターの攻撃を無効にする!」

 

「ちっ、しぶといな……。カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 攻撃が通らないと見るや、伏せカードを出して庸佑はターンの終了を宣言した。

 

(庸佑君、強い……!)

 

 頬を伝う冷や汗を袖口で拭い、遊輝は真っ直ぐに、対面に立つ庸佑を見た。

 以前、庸佑のデュエルを見る機会は幾度かあったが、彼は決して強いと言えるデュエリストではなかった。金に物を言わせて作られているであろうデッキのカード1枚1枚は確かに強力だったが、それらを組み合わせての構築は1枚1枚の繋がりを考えたものとは言い難く、また彼自身の力量もそれほどではなかったために、勝利への道筋が見えてこない、ただカードのレア度だけが際立っているように見える。そんなデュエリストだった。

 それが、今はどうか。No.を起点とした見事な戦い方。〝ネオス〟や〝コスモクイーン〟といった最上級モンスターを場に並べ、これ程までに遊輝を追い込んでいる。

 逸る鼓動の中に、僅かに入り交じり始めた歓喜から微かに口角を上げ、遊輝はカードをドローする。

 

――その時、遊輝の鼓動がひときわ大きく波打った。

 

「……え?」

 

 遊輝は身体に違和感を感じて胸を押さえるが、脈動は遊輝の身体から生じたものではなかった。

 ドクン、ドクンと、まるで心臓の拍動のような鼓動の本当の発生源は――。

 

「デッキケースが……!」

 

 気付けば、遊輝のデッキケースが眩い光を発していた。デッキをデュエルディスクにセットしている今、その正体は1つしかない。

 

「まさか……!」

 

 遊輝ははっとして、腰についたデッキケースを開いた。

 光の源は、エクストラデッキに眠るNo.達だった。

 〝EXNo.24 バンディッド・デーモン〟。〝EXNo.34 アビス・イレイザー〟。そして、〝EXNo.30 E・HERO エクストリーム・エッジ〟。それら3枚のNo.が、まるで共鳴するように、光と鼓動を一度に発していた。

 その時。遊輝の耳に、またあの声が響く。

 

――何をしている。早くNo.を回収しろ。

 

「お前は……! お前は一体誰なんだ! 姿を現せっ!」

 

――我はもう、お前の手の中にある。

 

「何だって……!?」

 

 謎の声の言葉に、無意識に遊輝の視線が手元のNo.達に注がれる。

 そうだ。思えばこの声が聞こえるようになったのは、〝このカード〟を手にしてからではないか。それならば、やはりこの声の主は――。

 

「……エクストリーム、エッジ」

 

 遊輝がその名を呟くと、〝エクストリーム・エッジ〟のカードが一層眩く発光し、遊輝のすぐ隣の空間にその光が集中して、1人の男の姿を形作った。

 

「君は……?」

 

『我が名は、エッジ』

 

 人間の男では、歳は青年程であろう姿をした人型は、凛々しい声でそう短く遊輝の問いに答えた。

 

「エッジって、やっぱり〝エクストリーム・エッジ〟……けど、カードの絵柄とは随分違うね」

 

『そんなことはどうでもいい。それよりもこのデュエル、必ず勝て。奴にNo.を渡してはならん』

 

「それって一体……」

 

「おい、何を独り言言ってるんだ! お前のターンだぞ、田神 遊輝!」

 

「独り言って……庸佑君、こいつのこと見えてないの?」

 

「なんのことだ? それより早くターンを進めろ。どんなカードを出そうと、次の俺のターンで粉砕してやる!」

 

 どうやら庸佑には、エッジと名乗るこの謎の男の姿は見えていないらしい。いよいよ訳が解らなくなってきた遊輝は、結論を先送りにすることにした。庸佑の言うとおりこれ以上引き伸ばすわけにはいかないし、何より今は、このデュエルに勝たなければならないことに変わりはないと結論づけたからだ。ドローカードと手札を見比べ、遊輝は勝利への道筋を思い描くべく思考を開始する。

 と、その時、横から遊輝の手札を覗いていたエッジが声を上げた。

 

『おい、貴様。レベル4のモンスターを2体場に揃えろ』

 

「は? ち、ちょっと待ってよ、何を勝手に……ていうか、貴様じゃない! 僕には遊輝っていう名前があるんだ! ちゃんと名前で呼んでよね!」

 

『このデュエルに勝ったら考えてやろう。さあ、早くしろ』

 

 取り付く島もない。けれど今の手札では、おそらく彼が狙っているのであろう、エクシーズ召喚しか対抗手段がないのも事実だ。渋々、遊輝はデュエルディスクのボタンへ手を伸ばす。

 

「僕は場に伏せた罠、〝リビングデッドの呼び声〟を発動。自分の墓地のモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。〝E・HERO アナザー・ネオス〟を特殊召喚し、更に手札から〝E・HERO スパークマン〟を通常召喚!」

 

 地面に空いた魔法陣の穴からもう1つのネオスの名を冠された白銀のHEROが飛び出し、続いて手札より雷を操るHEROが姿を現す。

 遊輝としては釈然としないが、とにかくこれでエッジの希望どおり、レベル4のHEROが2体揃ったことになる。

 

『よくやった。さあ、今こそ使え。〝EXNo.34〟を』

 

「34、って……」

 

 エクストラデッキから取り出した奇妙な悪魔の姿が描かれたカードを見、遊輝は戸惑った。

 これまで遊輝には、手に入れたNo.を使うことを、半ば感情的に避けていた。いつの間にかエクストラデッキに入っていた、得体の知れないカード。それを使うことに少しでも躊躇いが生まれたとしてもおかしくはない。

 けれど、既に何度も使っている〝エクストリーム・エッジ〟も、それらと同じNo.。背に腹は変えられないと、遊輝は覚悟を決めた。

 

「……僕は、レベル4の〝アナザー・ネオス〟と、〝スパークマン〟でオーバーレイ! 2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築!」

 

 〝アナザー・ネオス〟と〝スパークマン〟が黄金色の光となって、ARの穴へ吸い込まれていく。

 

「エクシーズ召喚! 現れろ、〝EXNo.34 バンディッド・デーモン〟!」

 

 邪悪なモニュメントが形を変え、現れた邪悪な悪魔の嫌らしい眼差しが庸佑へと向けられた。

 

「何かと思えば、攻撃力たったの2400じゃないか。その程度のモンスターで、俺の強力! ゴージャス! エクセレントな俺のモンスターに敵うと思っているのか!」

 

「勘違いしてもらっちゃ困るね。君を倒すのはこのカードじゃない! 僕の……僕の、最高の1枚さ! 僕は、〝バンディッド・デーモン〟の効果発動! 1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使い、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体のコントロールを得る!」

 

「何だって!?」

 

 〝バンディッド・デーモン〟が自身の周囲を飛び交う衛星を1つ切り裂き、半透明な腕が庸佑の場へ向けて伸びる。

 今、この場で最も攻撃力が高いモンスターは〝コスモクイーン〟。場の状況だけで見るなら、〝コスモクイーン〟を奪い、〝ネオス〟を倒しておく程度しか遊輝に出来ることはない。〝ゴールデン・アミュレット〟を奪うという手もあるが、〝ゴールデン・アミュレット〟の効果で特殊召喚されたモンスターはエクシーズ素材に出来ない。遊輝のデッキは、レベルの低いモンスターの多いHEROデッキ。奪われたところで、攻撃力2900の〝コスモクイーン〟を上回ることなど不可能。――そう庸佑は考えていたのか、余裕の笑みを絶やさない。

――次の瞬間、〝バンディッド・デーモン〟の手が別のモンスターを掴むまでは。

 

「僕は〝E・HERO ネオス〟を選択! 戻ってきて、〝ネオス〟!」

 

「何ぃっ!?」

 

 あろうことか、〝バンディッド・デーモン〟が掴んだのは〝コスモクイーン〟ではなく、逞しい〝ネオス〟の双肩だった。図らずも、遊輝が初めてNo.を手にした時の、名も知らぬ不良とのデュエルの再現。ただ1つ違うのは、〝バンディッド・デーモン〟の効果に〝ネオス〟が全く抵抗を示していないということだ。まるで、本来の主に戻るだけだというかのように。

 

「〝ネオス〟……」

 

 漸く帰ってきた頼もしい背中。遊輝は感嘆の声を上げて、〝ネオス〟の頼もしい後ろ姿を見つめ――そして、切り札を発動する。

 

「魔法カード、〝ラス・オブ・ネオス〟! 場の〝ネオス〟をデッキに戻し、フィールド上の全てのカードを破壊する!」

 

「な、何だって!?」

 

 空色の巨大なエネルギーを纏った右手を、〝ネオス〟は大きく頭上へ掲げた。

 

「……消え去れッ!」

 

 遊輝の叫びと同時、〝ネオス〟が右手を一気に振り下ろし、地面へ叩きつける。〝ネオス〟を中心に広がっていく空色の光が、遊輝と庸佑、それぞれの場にあるモンスターと伏せカードを全て飲み込んでいった。

 眩い破壊の光を前にして、たとえNo.といえど抗えるわけもなく、〝ゴールデン・アミュレット〟と〝バンディッド・デーモン〟もまた、膨大な光の中へ消えていく。

 

「く……け、けどっ! お前のライフはもう僅かなんだ! 次のターン、俺がモンスターを召喚すればそれで終わりだ!」

 

 実際、庸佑の手札には強力なドローカード、〝強欲で謙虚な壺〟がある。特殊召喚は封じられるが、強力なモンスターを手札に加えることが出来れば、モンスターが場にいない遊輝の敗北が確定する。

 けれど、遊輝の口元からは笑みが消えない。〝ネオス〟の頼もしさに勇気づけられた今の彼を止められる者は、もはや誰もいない。

 

「僕は手札から、〝E・HERO バブルマン〟を特殊召喚! このカードは手札にこのカード以外のカードがない時、特殊召喚できる。更に〝バブルマン〟の効果発動! このカードが特殊召喚に成功した時、自分の場に他のカードがなければ、デッキから2枚ドロー出来る!」

 

 その昔、バブルマンは場にカードがないという条件だけで2枚のドローが許されたカードだった。つまり先攻の1ターン目に出すことができれば、ほぼ必ず2枚のドローが約束されたのだ。今ではその効果にも修正が加えられ、手札のカードも全て枯渇した状態でなければドローできないようになっている。まさしく、起死回生の一手だ。

 ここで何も特別なカードをドロー出来なければ、遊輝の敗北は濃厚だ。けれど――〝ネオス〟の勇姿に鼓舞されたからだろうか。

 全く、負ける気がしなかった。

 

「ドローッ!……庸佑君、このデュエル貰ったよ!」

 

「な……う、嘘を言うな!」

 

「嘘じゃないさ。今こそそれを教えてあげるよ! 僕は手札から装備魔法、〝D・D・R〟を発動! このカードは手札を1枚捨て、除外されている自分のモンスター1体を特殊召喚できる! 僕は〝E・HERO エアーマン〟を特殊召喚!」

 大きなファンを背負った風のHEROが、1ターン目の雪辱を晴らさんとばかりに、次元の彼方から雄々しく降臨する。

 

「〝D・D・R〟は特殊召喚したモンスターの装備カードとなる。そして〝エアーマン〟の効果で、デッキから〝E・HERO プリズマー〟を手札に加える。……いくよ! 僕はレベル4の〝バブルマン〟と、〝エアーマン〟でオーバーレイッ! 2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れろ、〝EXNo.30 E・HERO エクストリーム・エッジ〟!」

 

 〝ネオス〟に並んで遊輝が信頼する鎧の騎士が場に降臨する。この頼もしい戦士と、今も横で不遜な態度を貫いている男が同一人物などとは、未だに信じられない。

 

「〝エクストリーム・エッジ〟の効果発動! 1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使い、自分の墓地からE・HEROと名の付くモンスター1体を選択して特殊召喚する! 蘇れ、〝E・HERO ザ・ヒート〟!」

 

 〝エクストリーム・エッジ〟と〝ザ・ヒート〟の攻撃力の合計は4100。〝ザ・ヒート〟は自分フィールド上に存在するE・HERO1体につき200ポイント攻撃力を上昇させる効果があるが、その効果を抜きにしても勝利を決定付けるき十分な値であった。

 

「そ、そんな馬鹿な……」

 

〝ネオス〟を奪い、悦に浸っていた庸祐の表情が驚愕に塗り替わる。

 奇跡のワンショットキル。その成功を前にして、〝エクストリーム・エッジ〟は大剣を、〝ザ・ヒート〟は炎を纏った拳を振り上げる。

 

「これで終わりだ! 〝エクストリーム・エッジ〟と〝ザ・ヒート〟でダイレクトアタックッ!」

 

「う、うわあああぁぁぁぁぁーーーっ……!」

 

○庸祐

LP:4000→0

 

 庸祐のライフが0になり、ARヴィジョンが解除され始めると同時に、遊輝はDゲイザーを外して庸祐の下へ駆け寄った。心なしか必要以上に吹っ飛ばされたように見えた庸祐が不意に心配になったのもあるが、なんといっても一番の理由は――。

 

「……お帰り、〝ネオス〟」

 

 遊輝の呼び掛けに答えるように、外から差し込む日の光を反射してキラリと輝く〝ネオス〟。その光を大切に胸に抱いて、遊輝は暫しその場に佇んだ。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

 その後暫くしてハートランド警察が店に到着した頃には、既に店内はもぬけの殻だった。残されたのは散乱した瓦礫とカードのみ。防犯カメラの映像から犯人を特定しようとするも、店内をこんなにされた際に全て破損していたらしく、手掛かりになりそうな記録は何1つ残っていなかったという。

 しかし後日、店内にいた人物の証言等から、庸祐が容疑者に浮上。紆余曲折あった後、最終的には彼の父が店側に多額の和解金を支払う形で決着した。

 

「一応これで一件落着……ってことでいいのかな」

 

 学園近くの喫茶店のパラソルの下へ腰を下ろし、遊輝はそう呟いた。

 結局のところ、庸佑は無実放免となること確実なので、友人としては無論喜ばしいことなのだが、悪事に手を染めた罪を償わなければならないのでは、という思いも少なからずあるのだ。

 

「で、どういうことかそろそろ説明して欲しいんだけど」

 

 不意に遊輝は、そう〝心の中へ向けて〟呼びかけた。実際に声に発したわけではない。ある種のテレパシーのようなものだというのは、語りかけた相手が教えてくれたことだ。

 

『何のことだ?』

 

 と、今度は遊輝の頭の中にそんな男性の声が響く。

 

「惚けないでよ。勝って無事No.を手に入れたら、教えてくれるって約束でしょ。君のこと……それと、No.が一体どんなものなのかも」

 

 元気のいいウェイトレスが運んできたアイスコーヒーをストローでくるくるとかき混ぜながら、そう心の中へ尚も語りかける。流れに従い渦を巻くミルクからふと視線を前へ移せば、近未来的なデザインの車が幾つも行き交っている。休日のはずだが、ハートランド中心市街地はやはりいつ来ても賑やかなものだと思いながら遊輝がコーヒーを1口啜ったその時、漸くエッジが口を開いた。

 

『……そうだな。貴様には、これからも戦ってもらうことになるのだ。いつまでも隠しておくわけにもいかんか』

 

「話してくれる気になった?」

 

『いいだろう。……ふむ、では何から語るべきか……』

 

 思いの外簡単に口を割る気になったらしいエッジは、逡巡するような姿勢を見せた後(遊輝には姿が見えないのであくまでも勘だが)、徐に語り始めた。

 

『この世界では、多次元世界に関する理解は一般的ではないのだったな。では、まずはそこから話そう。この世界……いや、この世に数多ある多くの世界について』

 

「多次元、世界……?」

 

『この時空は、幾つもの次元世界が折り重なるようにして存在している。お前達が生きるこの世界の他にも、次元世界には様々な世界がまるで宇宙のように存在している。この世界は、その中のたった1つに過ぎないのだ』

 

「……待って。その流れによれば、君って……」

 

『察しがいいな。そのとおり、我はこの世界の住人ではない。この世界に散らばったNo.を求め、〝ターミナル〟という世界からやってきた。貴様らから見れば、我は異次元人、ということになるのだろうな』

 

 それまで傍から見ればまるで手持ち無沙汰に待ち人を待っているかのようにも見えた遊輝のストローを操る手が、エッジの言葉を聞きぴたりと止まった。さすがに、片手間に聞けるような類の話でないことを察したのだろう。

 

「でも、君ってカードだよね? カードが人って言われても……なんかしっくりこないよ」

 

『知ったことか。そう説明するしかないのだから仕方ないだろう』

 

「えーと、それで……さっき、No.を集めるためにって言ってたよね。あれはどういうことなの? ていうか、君だってNo.じゃないか。No.がNo.を集めるって……」

 

『No.とは、我の世界、〝ターミナル〟の秘宝の欠片だ。その力は、一説にはこの世界を作り替えることすらできるとさえ言われている』

 

「作り替えるって……!」

 

 あまりに突拍子もない話。けれど悲しいことに、既に他ならぬエッジ自身という非現実的存在と出会ってしまっているのだから、そんな馬鹿なと切り捨てるわけにもいかない。

 

『我は我が主に命じられ、その秘宝を守る番人をしていた。だがある時、ヴェルズと呼ばれる謎の勢力によって、〝ターミナル〟の秘宝はNo.カードという形となって分かれ、この世界へ飛び散った』

 

「ヴェルズって、モンスターのヴェルズ?」

 

 遊輝は上着のポケットから、カードを取り出した。〝ヴェルズ・ヘリオロープ〟。先程、この喫茶店へ来る前に寄ったカードショップで買ったパックに入っていたカードだ。そのカードを見てか、エッジはそうだと答えた。

 

『秘宝の力が解き放たれたその時、近くにいた我は秘宝の核と融合してしまった。そしてNo.となり、あの廃工場でお前と出会ったのだ』

 

「ちょっと待って。君の話が本当なら、そのヴェルズっていうのもNo.を狙ってくるんじゃないの!?」

 

 遊輝の問いに、しかしエッジは黙したまま答えない。無言の沈黙は、肯定を意味していた。

 

『我は、ヴェルズの者共がこの世界に来る前に、No.を全て回収せねばならない。そのためにも、お前には力を貸してもらうぞ』

 

「カードのまんまじゃ、モンスターと戦うなんて出来ないもんね」

 

 そう言って、遊輝は苦笑した。――してしまってから、正面にいた自分を応対したのとは別のウェイトレスが怪訝そうにこちらを見てきたので、慌ててそっぽを向く。頬が紅潮しているのが自分でも解った。

 

『……いいのか?』

 

 初めて、驚いたような声音の問いかけが遊輝の頭に響いた。頬の熱を冷ますかの如くアイスコーヒーを吸引し、遊輝は首肯する。

 

「乗りかかった船だしね」

 

『……感謝する、〝遊輝〟』

 

「うん。これからよろしくね、〝エッジ〟」

 

 大変なことに巻き込まれてしまった、そう感じながら、一方でワクワクしている自分を否定できない。

 そんな矛盾した思いを抱えながら啜ったアイスコーヒーは、若干苦く彼の舌に残った。

 

 




はい、そんなわけで第9話をお送りしました。
この作品のNo.設定とエッジの設定の説明回でもあったわけですが、お楽しみいただけましたでしょうか。また例の如くおかしい描写などありましたらご指摘お願いします。

さて、これでたぶん方向性と、感想で言われていた読者様の疑問への答は粗方示せたのではないかと思っているのですがいかがでしょう(何故遊矢はEXNo.に支配されないのか、等)。
遊矢がNo.に支配されないのは、No.を回収しているのがエッジだからです。遊馬&アストラルと似たようなものですね。秘宝の核と融合しているエッジがいるおかげで、No.を回収しても影響を受けずに済むわけです。


そしてここで、皆様にお知らせがあります。

前々からこの作品では、メインヒロインに関するアンケートを行なってまいりました。
しかしながらストーリーを考えていくにつれ、ヒロインに関する設定も同時に構築されてきてしまったため、誠に申し訳ありませんが、ヒロインに関してはやはりこちらで決めさせていただきたく思っております。既に投票くださいました方々には本当に申し訳ありませんが、どうかご理解の程宜しくお願い致します。


では、次回まで暫しの別れを。神崎でした。
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