色々とオリ設定がありますので、原作と矛盾点があったらご容赦ください。
初春の冷たい冷気が漂う人気のない道路を、2台の自転車が並走する。
眼前に広がる本栖湖は昼過ぎの日光を反射し、青々と輝いていた。
「兄さん、今日は雲がかかって富士山は見えないね。」
晴れた際に一望できる本栖湖から望む富士山は千円札のイラストに用いられるほどの観光スポットであるが、この時間帯はあいにくの天気だった。
「残念だね、リン。予報では快晴だったんだけ…って、あそこのベンチ、誰か倒れていないかい?」
「ほんとだ。ちょっと様子を見てみようか。」
身長差のある男女が自転車から降りて向かったベンチには、猫のように体を折りたたんで少女が横たわっている。
「お嬢さん、大丈夫かい?」
心配して男性が少女に声をかけると、ごぉーっ、ごぉーっと大きないびきが返事として帰ってくる。
二人は顔をつきあわせ、肩をすくめて苦笑した。
「あいつ、このままだと確実に風邪をひくよ」
「もうすこししたら、日差しが差し込んで目が覚めるだろう。元気そうだし、チェックインの時間も差し迫っているから先を急ごうか。」
「ん。」
二人は気を取り直して自転車に跨り、先を急ぐべくペダルをこぎだした。
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「2名で明日まで1泊お願いします。」
「では、ここに連絡先と名前をお願いします。」
ストーブのきいた静寂なログハウスに、さらさらとペンの走る音が鳴り響く。
「ありがとうございます。チェックアウトは明日の10時。薪はキャンプ場に落ちているものを自由に使ってください。」
「ありがとうございます。」
キャンプ場のチェックインを手早く済ませ、ドアを開けると顔と肺に冷たい空気が差し込む。
「リン、おまたせ。早速だけどテントの設置を済ませてしまおうか。」
「ん、ありがと。兄さんは今日はテント泊?」
「さすがにこの時期にいつものハンモック泊はきついよ。わかって聞いているだろう?」
二人は軽い雑談をしながら慣れた手つきで互いのテントを設置し、拠点の準備を整える。
十分程が経過すると、テントやチェア、テーブル等の設置が完了し、リンと呼ばれた少女は椅子に腰かけ無言で本を開きページをめくりはじめた。
兄さんと呼ばれた少年、守は足元に転がる枝を一束拾い上げるとともに、椅子に腰かけナイフで削り出す。
ペラペラと紙がこすれる音と、シャリシャリとナイフの削ぐ音が木漏れ日のこぼれる木々の合間に響きだす空間にはゆったりとした時間がながれているようであった。
(ほぼ貸し切り状態、シーズンオフ最高…!)
リンは活字に目を落としながら、静寂に包まれた空間を堪能していた。
「リンとキャンプをするのも久しぶりだな。まさか誘ってくれるとは思わなかったけど。」
「兄さんは声をかけておかないと、休日にぷらぷら遠出しちゃうじゃん。この前の3連休はどこにいってたの?」
「伊豆大島。」
「遠出しすぎだろ。」
互いに思い思いの時間を過ごしながら、ときたま会話を交わす二人。
(昼と比べて少し冷え込んできたし、リンもそろそろカイロじゃ限界を迎える頃合いだな)
守がちらりとリンを眺めると、ちょうどカイロをぶんぶん振り回すリンの姿が映る。
ふっと口元をほころばせながら、ナイフを鞘にしまい立ち上がると少年は一つの提案をりんにもちかけた。
「すこし冷えてきたな。焚火をしたいと思うんだけど、リンはどうだい?」
守の提案に、リンは口元をもごもごとさせながら思考を巡らせる。
(まぁ、煙臭くなるとか服に穴が開くとか色々葛藤するよな。絶対に寒さに負けて焚火したくなるくせに)
「…する。なに笑ってるの?」
「ごめんごめん。凍死するところだったからすごい助かるなと思って。」
ほらねと微笑が止まらない守は、手慣れた手つきで焚火台を組み立て、先ほどからつくっていたフェザースティックを放射状に並べ始める。
”フェザースティックとは、木の棒をナイフで薄く削り重ねて羽毛(フェザー)のようにしたもの。「火口(ほくち)」や「焚き付け材」として利用するために薄く削り重ねて、空気の触れる部分を多くして着火しやすくしているのです。うまく活用できれば着火剤を用意する必要がなくなるので非常に便利!”
「松ぼっくりは設営中にいくつか拾ったから、少し太めの枝を一緒に集めようか。」
「おけ。あそこらへんにちょうどいいサイズのやつがいくつか転がっていたよ。」
「ありがと、めちゃめちゃたくさんあるな。必要な分だけ持っていこう。」
二人はてきぱきと枝を抱え、ほくほくとした顔つきで拠点に向かう。
「ひゃっはー、燃やし放題だぜ。」
「リン、常識の範囲内でだよ。」
二人は向かい合い、りんは鉈を、守はナイフを取り出し薪割りの準備を始める。
「きさまら全員、刀の錆にしてくれるぜ…」
「わが妖刀が血を欲しているぜ…」
「妖刀、ア〇ゾンでこのまえ買ってなかった?」
「それいうなし。」
カンカンと小気味よい音を奏でながら薪割りを初めて小一時間が経過したころには、十分な数の薪がたまっていた。
松ぼっくりとフェザースティックを用いて、あっという間に火起こしをすると、日が徐々に落ち始め、ほのかに薄暗くなってきた林間にオレンジ色の灯が煌々と明りを放つ。
(煙臭くなると知ってても、火花で服に穴が開くとわかっていても、この暖かさには勝てなかったよ…)
火のそばで厚手のストールにすっぽり覆われ、ちんまりと座るリンを見て守は微笑みを絶やさずにいた。
(こんな感じの妖怪いそうだよな。妖怪ストールみたいな?)
くだらないことを考えながら、守は焚き火用の三脚、トライポッドとケトルを設置し、コーヒーを入れる準備を整える。
「リンもコーヒー飲む?」
「あまめこいめ、ミルクましまし。」
「ラーメンかよ。」
ごりごりとハンドミルでコーヒー豆を粗目に引くと、大きめのマグカップに折り畳み式のステンレス製ドリッパーをセッティングし慣れた手つきでコーヒーを抽出する。冷えた空間に、ふんわりとコーヒー豆のふんわりとした香ばしい香りが漂う。
「ほい、おまたせ。にがめこいめ、ミルク抜きになります。」
「鬼か。」
二つのコップに注ぎ分け、片方にこれでもかというくらいの砂糖とミルクをぶち込んだものをりんに手渡す。
ずずずっとコーヒーをすすりながら、リンは趣味の読書を、守はナイフでウッドクラフトに没頭する。
焚火を囲みながら無言ながらも、心地の良い時間を過ごしていると時間はあっという間に過ぎ去り、すっかり日没の時間が訪れる。
「兄さん、ちょっとトイレ行ってくるね。」
「ん、だいぶ日も落ちてきたからランタン持っていきな。俺は晩飯用のお湯沸かしとくわ。」
「ありがと。」
リンが席を立ち、トイレに向かっている間、守はケトルに追加の水を水筒から注ぎ、改めて火にかける。
「おーさむさむ。早くカップ麺食べたいな。」
のんびりとチェアに深く腰掛け、作りかけの木製のマグカップを手に取ってウッドクラフトを再開しようとしたその時、二つの少女の悲鳴が山の間を駆け巡る。」
「ぎゃー!!」
「…って!…ってよー!」
「ん、リンか?何か虫でも踏んづけたかな?」
シーズンオフで自分たちの他に誰もいないことをチェックインの際に名簿で確認しているため不審者の可能性はやや低めだと思いつつ、何かあったらいけないと立ち上がり、悲鳴の方向に向かうと、リンが守のもとに全力で駆け寄り背中に抱き着く。
「なんだなんだ?」
「に、兄さんっ!ふふふ不審者がっ!」
「不審者?きょうはだれもいないはず…」
背中で震えるリンの様子から只事でないと感じ、暗闇に目を凝らすと徐々に小さな輪郭がこちらにすごい勢いで近づいてきた。
「まって、まってよー!って、ナナナナイフ持っている人が!ギャー!!」
「ギャー!!」
リンと、駆け寄ってきた少女の悲鳴にサンドイッチされたことで、守の聴覚は一時的に破壊された。
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「なるほど、各務原さんは今日山梨に引っ越してきて自転車で富士山を見に来たけど」
「疲れて横になったら夜まで寝過ごしたと…」
鼻をぐずぐずと鳴らしながら少女、各務原なでしこはこくこくと頷く。昼間道中で見た子だな、睡眠欲やばすぎだろと思いながら守とリンは事情を聴取していた。
「あっちの坂道を下ったら下まですぐだけど、さすがにこの時間帯はな…」
「むりむりちょうこわい!!」
「家に連絡して、迎えに来てもらうってのは?」
「あ、そっか!スマホスマホ…スマホない…」
ポケットからトランプを出した時点でもうこいつだめやなと思ったリンと守は悟ったかのような顔つきでなでしこを慰める。
「…ラーメン食べる?」
「コーヒーもあるぞ。」
「え?くれるの!?」
「ラーメン代、1500円。」
「コーヒー代、1500円。併せて3000円になります。」
「さ…さんじゅっかいばらいでおねがいしまふぅ…」
ぷるぷると震えながらなけなしであろう100円玉を差し出すなでしこに、冗談だよと笑いながら守はラーメンとコーヒードリッパーにお湯を入れる準備を始める。
「焚火あったかい…このケトル、すごい年季が入ってかっこいいですね!」
「焚火で沸かすと煤で真っ黒になるからね。兄さんはそのために焚火で調理をするけど、私は汚したくないからガス派かな。」
「へぇー!そうなんだ!プロみたいだね!!」
((何のだよ。))
二人で心の中でまったく同じ突っ込みを加えながら、守は沸いたケトルを火から外し調理を始める。
「兄さんが調理している間に、私の携帯を貸すから家の番号言って。」
「引越ししたばかりで分かりません!」
「…自分のスマホの番号は?」
「きおくにございません!」
(終わりだ…)
「まあ、空腹を満たしたら何か解決策がわくだろう。」
空を見上げ、絶望するリン。そこに両手にコーヒーとカップ麺を持った守がのほほんとした空気を漂わせながら現れ、なでしこに手渡す。
「温かいうちにどうぞ。」
「ありがとうございます!」
空腹だったのか、もっもっと一心不乱にカップ麺をすするなでしこ。
(うまそうに食うな…)
「んーっ!口の中、やけどしちゃった!!」
(なぜうれしそうなんだ…?)
おいしそうに頬張るなでしこと、不思議な生き物を見るような目でそれを見つめるリン。
「ねぇ、あなたどこから来たの?」
「あたし?ずーっと下の南部町ってところからだよ!」
(南部町…よくここまでこれたな。)
「お姉ちゃんに本栖湖の富士山は千円札の絵になってるって聞いたから長い坂上まで来たのに、曇ってて全然見えないんだもん!失礼しちゃうよね、奥さん!」
プリプリと可愛らしく頬を膨らませるなでしこに、リは湖を指さしほほえむ。
「見えないって、あれが?」
「え?………みえた、富士山……!」
なでしことリンが見つめた先には広大な本栖湖と富士山が月明かりに照らされ、神秘的な光景となって眼前にそびえたっていた。
黒と藍色と銀色に染まり、自然の雄大さを如実に感じさせられる光景になでしこが呆然と見入る中、守はコーヒーを啜りながらスマホの連絡先をスクロールしていた。
(各務原…南部町に今日引っ越してきた…妹。確認する価値はあるか。)
「もしもし、桜先輩ですか。夜分遅くにすみません。心当たりがあればでいいのですが…」
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「ほんっとーーーにお世話になりました!」
「いやいや別に大したことは…」
「あんた、持ち歩かなきゃ携帯電話とは言わないのよ!」
なでしこの姉、各務原桜はキャンプ場に到着した途端になでしこに拳骨を数発浴びせ、平身低頭リンと守に謝罪した。
「おらっ!!さっさと乗れ豚野郎!」
「いででで、カレー麺がでちゃうよお姉ちゃん!」
目の前に繰り広げられる一方的な暴力に苦笑いする二人。
「守君、ほんとにありがとね。ちょうど家族も帰りが遅くて心配していたとこだったの。」
「いや、まさか桜先輩の妹さんだとは。無事、家族の連絡先にヒットして幸運でしたよ。」
「あのダメ妹がスマホを家に忘れるから…連絡先を交換しておいてこんなによかったと思うことはなかったわ。」
「先輩も僕も大学ではあまり交友関係が広いわけでないですからね。ぼっちってわけではないですけど。」
「いうじゃない。今度、お礼をしたいからぼっち同士、食事にでも付き合ってもらおうかしら。」
「先輩が飯に誘うなんて珍しいですね。よければ…」
「ちょ、ちょっともう夜も遅いので早めになでしこを送ってあげたほうがいいかもしれません。なんか眠そうだし。」
(え、兄さんって大学でぼっちだらと思ったけどこんなに綺麗な女友達がいたの?てか連絡先交換しているのってどういう関係?)
桜と守が早々と予定を取り付ける最中、間にリンが割って入り、話の腰をへし折った。
「あらあなたは…守君の妹さん?たしかにそうね。家族の団欒に水を差すのもあれだからこの辺で帰らせてもらうわ。」
「ど、どうも志摩リンです。私は…」
「この子は遠い親戚で、小さいころから時々キャンプに付き合ってもらっているんです。もう夜も遅いので桜先輩も安全運転で気をつけて帰ってください。よかったら眠気覚ましのガムいります?」
「ええ、いただくわ。ありがとう。リンちゃん、これ大したものじゃないけどよかったらもらって。」
桜は袋いっぱいに詰まったキウイをリンに手渡す。
「それじゃ、おやすみなさーい。二人とも風邪をひかないようにね。」
ブルルッと静かな夜の闇に、エンジン音が鳴り響く。
(ラーメンとコーヒーがキウイに化けた…)
リンがキウイをもって立ち尽くしていると、出発したはずの桜の車が数メートルで立ち止まり、中からなでしこがリンに向かって駆け寄る。
「リンちゃん、これあたしの番号!カレー麺とコーヒーありがとう!今度はちゃんとキャンプやろね!!」
にっかりと屈託のない笑顔でリンに微笑み、携帯電話の番号を書き記した紙を手渡すなでしこ。
その後、車に乗り込み見えなくなるまで手を振りながら遠く離れていった。
「よかったね、リン。同年代のキャンプ友達は初めてじゃないか?」
「ん。まぁ…登録だけはしておくか。」
「嬉しそうにしちゃて。」
「そいえば、兄さんは大学に友達がいたんだね。」
「俺のことぼっちだと思ってたの!?」
むすっと口をとがらせたリンとともに、守は車を見送った後、キャンプ場に二人そろって戻り始めた。
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「なでしこ、明後日から学校でしょ。ふらふらしてないで早く準備しておきなさい。」
「だいじょうぶだよー。そういえば家ってキャンプ道具あったっけ?」
「あぁ…確か使ってない大きなテントがあったような気が。」
「ほんとっ!?そういえば、お姉ちゃん。リンちゃんのお兄さんとお知り合いだったんだね!」
「ええ、大学で少しね。」
「へー、なんかいつもより少し機嫌がよさそうだね!」
「そうでもないわよ。」
妹と他愛もない会話を交わしながら、ドリンクホルダーの近くにおいた目覚まし用のガムを見つめた桜はふっと口元をほころばせた。
誤字等ございましたら、それとなく伝えていただけると泣いて喜びます。
以下、軽くですが主人公の紹介です。
主人公:八百津守(やおつまもる)
苗字は岐阜県の市町村から。
志摩リンとの関係は、またいとこ同士。
(志摩リンの祖父(父方)の兄弟の孫という設定。)
現在大学生で甲府市に一人暮らししている。趣味は釣りとソロキャンプ。
休日はプラプラと単独で遠出しているが、2-3か月に1回くらいリンとキャンプに行く。祖母譲りのサバイバル能力を持ち、時折ナイフ一本をもって山に数日こもる癖がある。