「さあ、アルス選手立て続けに巨大魔法を発動する!!鎧を失ったエクス選手はどう対処するのか!?」
Aブロック第2試合も佳境。実況にも熱が入る。詠唱が始まってから30秒。回転をしながら魔力を貯め続けていた魔法陣が遂に動きを止める。誰の目から見ても明らかな発動可能の合図。と、エクスは魔法陣が止まるやいなやアルスへと突っ込む。究極魔法の発動準備完了と同時のこのタイミング。
観客から見ても──────────
「明らかな自殺行為ですね......。ヤケになったんでしょうか?」
他の部屋より広く豪華な控室。その部屋の主は加賀美ハヤト。加賀美インダストリアル代表取締役にして、今大会の出資者の一人だ。出資者と言っても本人の意志で資金を出したわけではない。本人が殆ど知らないうちに、先代の社長によって出資が決まったのだ。本人が絡んでないとはいえ、加賀美インダストリアルの資金であることに間違いはないので、対価として控室がグレードアップした。ちなみに他の出資者には鷹宮リオン、春崎エアル、リゼ・ヘルエスタなどがいる。もちろん全て彼らの親が出資を決めただけで、本人には知らされていなかったのだが......。
「少なくとも悪手ではあるよねー。今突っ込むくらいなら詠唱中のほうがまだマシだった」
そう答えたのはパンダを抱き、中国風の衣装を身にまとったライバー、緑仙。今は、友達のライバーのところに遊びに行ったら、自分の部屋を見て興奮した社長に連れられ彼の豪華な控室で一緒に観戦しているところだ。
「近づけないなら剣でもぶん投げればよかったのにねー」
部屋に何故か置かれていたぶどうを食べながら鷹宮はそうつぶやく。彼女の部屋も加賀美と同じくらい豪華ではあるのだが、誰かと一緒に見てたほうが楽しいということで、ここで一緒に観戦している。本来の控室が今頃某悪魔によってめちゃめちゃにされていることを彼女はまだ知らない。
「いや、剣ぶん投げても雷に迎撃されるのがオチだろーよ」
薄幸そうなSE、社築が反論する。ムッとした鷹宮がぶどうを社の後頭部に投げつけようとするのを、加賀美がまあまあとなだめる。
「エクスは抜けたやつではあるが............こと戦闘においては適当なことするやつじゃねーよ」
そう言うと視線を闘技場へと戻し、体を前へ傾けた。
「なんとエクス選手!!正面から突っ込んだァ!?」
アルスまでの道に遮蔽はない。それどころか、彼女の半径20m以内に近づけば空から致命的な一撃が降ってくる。
(どういうつもり......?突っ込んでくるなんて......)
──────────残り50m
(このまま撃ったら先輩は......)
アルスの究極魔法は大岩を砕き、山と見紛うほどの巨獣をも屠る。小さな農村程度なら、地図から消すことすら造作もない。生身の人間に当てれば骨すら残すことなく滅することができる。エクスは確かに英雄だ。だが、英雄である前に人間なのだ。喰らえば確実に死ぬだろう。少女にこれは重すぎる。地面を睨み、逡巡する
──────────残り40m
(............ううん)
──────────残り30m
(もう迷わない!"英雄"は"英雄"のまま、師匠の私が終わらせる......!)
前を向くと、突っ込んでくるエクスと目があった。その顔には、自分と同じ鋼の覚悟。
──────────残り20m、究極魔法発動圏内
その刹那、エクスの頭上に不可避の雷槌が振り下ろされた。神雷は轟音と共に英雄を飲み込み、辺りに閃光が走る。すべてを焼き尽くす神雷に飲まれて生き残れる人間はいない。
そう、それがただの人間であったのならば──────────
「師匠......
「......嘘でしょ」
自らの胸に深々と突き刺さる聖剣とそこから滴り落ちる鮮血。雷が落とされてからわずか数秒の攻防。なぜ圧倒的有利の状況から魔法使いは敗北したのか。それは、英雄のある"策"、いや策と言うにはあまりにも無茶な行動に起因する。
彼女の眼前には信じられない光景が広がっていた。英雄目掛けて一直線に落ちた雷は、村一つを焦土に変えるほどの代物だ。それを、天に向けて掲げた聖剣で受け止めると、そのエネルギーを自らの内に留め置いたのだ。もちろん無傷で済むはずもない。膨大なエネルギーは聖剣にひびを入れ、英雄の体にも深刻なダメージをもたらしている。服で隠されているものの、雷によって肉は焼かれ、骨も砕かれた。吹出た血は熱によって瞬時に固まり彼の体を赤黒く染め上げている。もう立っていること、生きていること自体が奇跡なのだ。平時の彼ならもう地に伏しているだろう。だが彼を奮い立たせたのは、英雄としての本能か、大義に対する使命感か、それとも......。
その姿を見てアルスももう一つの究極魔法を発動する。お互いの距離は約10m。間違いなくこれが最後の衝突になる。光り輝く魔法陣から放たれたのは巨大な雷神の腕。目の前の英雄を砕かんと、空気を震わせながら拳を叩き込む。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「はあああああああああああああああ!!」
今にも崩れそうな体を誤魔化すかのように、咆哮を上げながら突撃する。眼前に迫る神の拳。それを切り裂かんとと、先程吸収した雷のエネルギーを剣に込め突進する。神雷VS神雷。雷を纏った聖剣はアルスの究極魔法をも斬り裂く、が巨大な雷の腕に突っ込んでいるのだ。相殺しきれない雷によるダメージは確実に英雄の体を蝕んでゆく。
「ぐっ......ああああああああああああああ!!」
二人の距離があと5mまで近づいたとき、雷と雷の衝突はついに臨界を迎え、会場は閃光に包まれた。
数秒後、光が晴れ、観客の目に飛び込んできたのは............魔法使いの胸を貫く一本の聖剣と、彼女の横で膝を突いている英雄の姿だった。
「すみません、師匠............。でも、もうこうするしかなかったんです...........」
天を仰ぐように倒れる魔法使いへ、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。もう長くないことは誰の目にも明らかだった。その声は震え、視界は滲んでいた。
「最後に師匠らしいところ見せたかったんだけどね............。だめだなぁ............。どうしても君の笑顔が浮かんできてね......」
「っ!まさか.......さっきの魔法、手加減して............!?」
「ごめんね......君を、君を救ってあげたかった......」
「..............................師匠?........................師匠!!!!」
最後に頬へと伸ばした手は、英雄に届くことなく、ただ寂しく地を撫でた。英雄の慟哭は、一人で立つには広すぎる会場に木霊する。
「..................っは!失礼いたしました!第2試合!勝者はエクス・アルビオ選手!」
少し経って我に返った司会が勝利のコールをするが、会場は静まり返っている。血に塗れたズタズタの体で、自らが手にかけた少女の亡骸を抱き、止めどなく涙を流している男が祝福されるべき勝者だとは誰にも思えなかった。
(どういうことなんだ......!本当に師匠はこの戦いを仕組んだ黒幕なのか......!?オレには......オレにはどうしても信じられない!!)
彼女が死の直前に見せた笑顔。慈愛に満ちたあの笑顔。あの顔を見てなお、彼女が悪であると思えるほど彼は非情な男ではない。
「ふふふっ、やあエビ君!!大義のために自分の師匠を殺すなんて......なんて英雄的なんだろう!!僕は感動したよ!!」
通路の奥、客席からは影になって見えない暗がりで能面のような笑顔を見せる男。数十分前英雄に見せたものと同じように見えて、全く違う悪意に満ちた顔。叶は、自らに騙され師匠を殺した英雄を嘲るように佇んでいた。
「........................騙したんですか」
「アルスはあんなことする子じゃないって、君が一番分かってると思ったんだけどね」
「っ!!貴様ァ!!」
怒りに任せて叶へ投げた聖剣は、無常にも結界によって弾かれた。
「だめだめ、僕達が当たるのはまだ先だろう?」
叶は指でバッテンのジェスチャーを作ると、高笑いをしながら通路の奥へと消えていった。
「ぐっ、くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
全て、全てやつの手のひらの上だったのか!!じゃあオレが師匠を殺したのは......!!
英雄の心に呼応するように、究極魔法を発動し終え役目を終えたはずの雷雲からしとしとと雨が降り始めた。雨脚は次第に強くなり、数秒後には中継カメラから二人を隠すほどになった。雨は失ったはずの英雄の鎧を、精神を黒く染め上げた。言葉にならない悲痛な叫びは天からの雨音でかき消されてゆく。英雄の涙を、少女の血を。全てを洗い流すまで、雨は止まなかった。
「さあ、次はAブロック第3試合!!対戦するのは"亜人"レヴィ・エリファと"狩人" 叶」
観客はわあわあと先程の試合を忘れるかのような歓声を上げた。もちろん理由はそれだけではない。叶は人気、実力ともににじさんじ屈指の実力者だ。彼の初戦を楽しみにするものは男女問わず多い。
「......叶センパイ、さっきエクスくンとアルスちゃンに何をしたんですカ」
「あれ?おかしいなぁ。エビくんにしか聞こえないように話したはずなんだけど」
「アジンは耳が良いものデ」
「なるほどね......。まあ声に指向性持たせるなんていうマジックもどきじゃあ見破られても仕方ないか」
「......話をそらさないでくださイ」
「そうだったね。まあ君が勝てたら教えてあげるよ」
そう言うとレヴィに背を向け所定の位置へと歩きだした。レヴィも不服そうな顔をしながらも位置につく。
「それでは、第3試合、始め!!」
「
「さあ、始めようか」
開始の合図とともに、レヴィは能力を、叶は銃をそれぞれ取り出す。
能力発動と同時に、空からは
「勝ったら教えるとのことでしたガ......ボクが勝つということハ、あなたはもう何一つ話せなくなるということですヨ?」
「やってみなよ」
そう言うと両手に持った2丁のSMGによる機銃掃射で一気に屍人を倒しにかかる。
1マガジン分を吐き出すと屍人たちの腕は吹き飛び、頭は欠け、胸に空いた穴からは向こう側の景色が見えるほどの損傷を負った。だが屍人たちは止まらない。
「おかしくない?」
「屍人は死ななイ。傷を受けてもまた動き出ス。常識でしょウ?」
「拳銃の弾数発で止まるはずだよね?」
「これがゲームなラ、そうでしょうネ」
そうこうしているうちに、吹き飛んだ腕が再生し、胸にポッカリと空いた穴は完全に埋まった。明らかに通常ではありえないほどの再生速度だ。
だったら......!と叶は懐からグレネードを取り出すと、ピンを抜き、次々と屍人たちに投げる。屍人は再生による異様な耐久力をもつが、スピードは遅く、装甲が厚いわけでもない。グレネードを避けるすべもなく十数秒で全ての屍人が肉と化した。すぐに再生すると言ってもさすがに肉片からの再生には時間がかかるようで、全く元通りになる素振りはない。
「...........なんだか余裕そうだね」
「エエ、こんなのはピンチじゃないですかラ」
〜〜〜♪そういうとレヴィはぽつりぽつりと歌い出した。その歌は聞いているだけで精神を病んでしまいそうな、暗く不穏なものだった。普通の者にはなんと歌っているのかさえわからない。かろうじて聞き取れる範囲では、天におわす光り輝く神へと捧げる歌ということがわかる。
叶はそれが最後の歌でいいかな?というとにっこりと笑いながらライフルの引き金を引いた。まともに当たればコンクリートの壁をも貫くライフルは、亜人の額に向けて真っ直ぐ撃ち込まれ、そのまま頭を貫───────────────かなかった。
弾丸が彼女の頭を捉える直前、再生した屍人が彼女を守ったのだ。周りを見れば、先程の肉片状態が嘘だったかのように完璧に再生している屍人たち。これをたまたま再生が間に合ったと捉えるほど叶は楽観的ではない。
「歌......。なるほど、
「そうでス。
「チッ」
再生した屍人たちへ叶はバックステップで距離を取りつつ一斉掃射で攻撃する。だが能力によってすべてが底上げされた屍人たちは、マシンガンをの弾をどれだけ喰らっても少しの間動きを止めるだけで、どれだけ損傷しようが瞬時に回復し、人間の疾走程度の速さで距離を詰めてくる。銃を二丁しか持てず、合間合間のリロードも必要な叶はジリジリと追い詰められてゆく。もはやグレネードも時間稼ぎ以上の意味をなさない。
「叶センパイ、
「............その必要はないよ、レヴィちゃん。なぜなら、君に勝つ方法を見つけてしまったからね」
「............そうですカ。ならせめてあなたを倒して、アルスちゃンのかたきを討ちまス!!」
〜〜〜♪再び歌い出した"奉神御詠歌"は先程よりも数段力強く魂の込められたものだった。屍人たちのスピードは更に上がり、もはやマシンガンのDPSでは動きを少し遅くする程度にしかならない。
叶は四方八方にマシンガンを次々に連射して応戦するが、必死の抵抗も虚しく、屍人の肩への噛みつきを許してしまった。
「ぐっ!」
銃身で屍人を殴り、なんとか引き剥がすも時すでに遅し。叶の体液は少しづつ赤い雨と置き換わりつつあった。肩を中心に体へ赤い筋が伸び、心なしか顔色も悪くなっている。
(これで終わりダ!!)
レヴィが更に力を込めて歌うと、屍人たちは一斉に叶へと飛びかかった。もういくらマシンガンを撃って応戦しても止められる人数ではない。レヴィは勝ちを確信した。
(勝っタ!!──────────)
「ガハッ!!!」
突如、レヴィの喉が爆ぜた。かつて美しい旋律を奏でていた彼女の口からはヒューヒューと空気が漏れている。
(な、なにガ!?)
直後、パラララララララという銃声と閃光。レヴィが音のした方を見やると倒れる屍人たちと不敵に笑う叶。
「歌が無ければ、射撃訓練場の人形みたいなものだよ。」
屍人たちには先程までのようなスピードも、再生力もない。レヴィが動けない今、落ち着いて対処すれば棒立ちの肉塊に過ぎない。
「な、ナんッでっ」
「あんまり喋りすぎると傷が余計ひどくなるよ」
すべての屍人を片付けるとゆっくりとゆっくりとレヴィに近づいてゆく。その手に握られたライフルが不敵に笑っていた。
「まあ冥土の土産ってやつかな?左の壁を見てごらん」
左の壁には失血でかすむ目でなんとか見える程度の数個の小さな銃痕があった。
「
ガハァッゴバッ
いくら喉を押さえても流れ出した血は止まらない。亜人の蝋燭の火は今まさに消えつつあった。
「君が聞いたんだから最後まで聞きなよ」
血を吐き下を向くレヴィの額に銃口をぐりぐりと押し当て、上を向かせる。レヴィがいくら睨んでも叶の嗜虐心を煽るだけだった。
「......最後にもう1つ教えといてあげるよ。二人を殺し合わせたのは僕だ。真実を知ったときのエビくんの顔、最っっ高に気持ちよかったよぉ!」
しゃがみ込むレヴィの耳元まで顔を持っていき、そう囁く。
(そんな............エクスくン、アルスちゃン、ごめン。仇、取れなかっタ)
「じゃあそろそろいいよね。ばいばーい」
(アア、最後にお母様と歌いたか───────────────)
..................彼女の願いは試合の終わりを告げる、一発の銃声によって遮られた
次回、姐御VS探偵
┌─ イブラヒム
┌─┤
│ └─ フレン・E・ルスタリオ
┌─┤
│ │ ┌─ 葛葉
│ └─┤
│ │ ┌─ エクス・アルビオ
│ └─┤
│ └─ アルス・アルマル
─┤
│ ┌─ レヴィ・エリファ
│ ┌─┤
│ │ └─ 叶
└─┤
│ ┌─ 早瀬走
└─┤
└─ シェリン・バーガンディ
Aブロック前半のトーナメント表です