おじくま!!~おっちゃん熊に転生したけど殺処分は嫌だから頑張る~   作:メイカ39

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おっちゃん、人に会う

俺が毎日恒例の水浴び兼シンクロナイズドスイミング(経験は無いし一人だから実際はただバタバタしてるだけ)を楽しんで巣穴に帰ろうと歩いていると、なんだか普段と違う匂いを感じた。

いやに慣れ親しんだ匂い。

しかし熊生活を初めてから久しく嗅がなかった自然とはかけ離れた…チョコレートだ。

フスフスと地面に鼻を押し付けながら匂いを辿ると、女性サイズの運動靴の跡とチョコレートクッキーのカスを見つけた。

熊ってチョコ大丈夫だったっけ?

知らんけど貴重な栄養源であり糖分だ。

ありがたくぺろぺろしとこう。ぺろぺろ。

 

しかしこんな山奥になんで足跡が…。

今の所、人に会ったことないし夜はとことん冷える。

もう日も暮れて、街灯が無い山の中は星の光しか頼れない。

危ないなんてもんじゃないぞ。

プロの人ならいいが、素人が居ていい森じゃないって事ぐらいはインドア派の俺でも分かる。

おっちゃんは人生経験が豊富なんだ。テレビで聞いたことがある。

 

まぁ今のご時世、どんな所でも電波通るって聞くし何とかなるんじゃないだろうか。

まさかなんの装備もないなんてことは無いだろうしな。

 

 

だが俺の楽観的推測は、今しがた踏んだ土の上に転がっている物を見た時に凍りついた。

それはどう見ても3歳から5歳の子供用の小さい靴だったからだ。

 

おいおい…こりゃやばいんじゃないですか?

子連れでこんな山奥に?

しかももう日もほとんど傾いたこの時間に?

俺の水浴びはせいぜい5分。

行く前はこんなの無かったからずっと前の落し物とは考えにくい。

つまり…遭難?

 

俺ほどじゃなくても、デカい動物がゴロゴロいる山に子供と女性の二人なんて…放っておけばタダでは済まないだろう。

それは人として助けないのはどうなの?

今はガッツリ熊だが、まだ人間としての善意が残っている。

流石に放っておく訳にも行かなかった。

 

鼻をひくつかせながら周りをウロウロするとチョコの残り香が微かに感じられた。よし、まだ遠くには行っていないはずだから追える!

足元の土や枯れ木を蹴散らしながらドタドタと森の中を走る。

最初は戸惑っていた四足歩行も今では生活の一部だ。

前足で踏み込み、後ろ足で蹴り込む。

さながら自動車並の速さが出る足は、みるみるうちに匂いの元にたどり着いた。

 

そこにはまだ小さい体をカーディガンで包まれた5歳くらいの男の子と、それを何がなんでも守ってみせると言わんばかりに強く抱き締めた18歳位の少女だった。

どうやら相当歩いたらしく、足取りはフラフラとしている上に、意外に重たい(昔、姪っ子が遊びに来た時に抱き上げて腰をやったから重さは分かる)子供を抱いていたせいか息も絶え絶えだった。

やはり登山リュックのような物はなく、セーラー服に学生鞄でここまで来たようだった。

今セーラー服に反応した君は手を挙げなさい、先生怒らないから。

 

まだ俺に気づいてない少女は、辺りをキョロキョロと見渡して小さいため息をつくと顔を引き締め、また歩き出した。

時々男の子に「大丈夫、すぐ帰れるよ」と声を掛けながら笑顔であやしている。

…中々気丈な子らしい。

 

今飛び出しても彼女たちを怖がらせるだけだ。

何とかしなくては。

喋ったり文字を書けない今の体を少しだけ恨めしく思うが、出来ないもんは出来ない。

とにかく考え無くては。

 

「ひっ!?」

 

ウンウン唸っているとどうやら本当に唸ってしまっていたらしく、彼女は俺の姿を見つけてしまったらしい。かなり引きつった血の気が引いた顔で、抱いている男の子をできるだけ俺から遠ざけようと背を向ける。

やっちまったなぁ!

 

どうするかなぁ、こりゃ。

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