「…や!楽矢!」
ここは…どこだ…?俺の目の前には真っ白な空間が映る。
凶香「楽矢ってば!」
辺りを見回すと景色が和式作りの部屋の中に変わった。
艶やかな黒い長髪に色鮮やかな着物を
身に纏った見覚えの有る少女が、
見飽きた黒いコートと銀髪の青年の横で騒いでいる。
…あぁ、これは夢か…
楽矢「あぁ、寝てしまっていたようだ…」
…声が出ない、どうやら今の俺は
どうやら凶香は違う方の俺を呼んでいる様だ…
何と言うか、自分が二人とはむず痒いな。
凶香「おはよう、随分と長く寝てたんだね」
楽矢「あぁ、済まない…疲れていたようだ」
記憶を辿っている…のではないらしいな
ある程度の事なら覚えてるはずだが
どう振り返ろうともこんな情景は記憶には無い。
凶香「ご飯なら出来てるよ」
楽矢「あぁ、今行く」
凶香「楽矢を待ってたらお腹空いたよ…」
楽矢「先に食べてればいいだろう…」
俺の視界が真っ白にフェードアウトしていく…
……そうか、そういう事なのか…
何と無くこの夢が何かが伝わってきたな
…今更こんなものを見せられてもな…
凶香は死んだ、その真実はどんな能力を
使ったとしても曲がる事のない現実だ。
「くや………楽矢!」
今度は何だ……現実か
目を開くとまた和式作りの部屋だ。
飛び起きて横を見ると、
心配そうな表情で紫が此方を見ていた。
あの悪夢は終わりを告げたらしい…
紫「珍しいわね、ずっと魘されてたわよ?」
…日の照らし方からして昼過ぎか…
どうやら寝てしまっていたようだな。
楽矢「済まない、どうやら深く寝ていたようだ」
紫「随分と魘されていた様だけれど…」
楽矢「あぁ、…水を貰ってもいいか?」
珍しいな、いつもは二日酔いなんて
無い筈なんだが…今日は一段と頭が痛む
藍は汲んできた水を何も言わずに俺に手渡した。
俺は藍から水を貰うと浴びるように飲んだ。
水がよく冷えていたせいですぐに俺の目は覚めた。
少しぼやけていた視界も直ぐにはっきりとした。
楽矢「少し…外の空気でも吸ってくる…」
紫「大丈夫?よければ藍でも付けるわよ?」
楽矢「気遣いは嬉しいが…大丈夫だ」
紫「…分かったわ」
紫はどうやら俺の顔色で何かを悟ったらしい…
此方と目が合うと何かを理解した様に微笑んだ。
それ以上は何も言わなかった。
俺は響く様に痛む頭を抱えながら外へと出た。
外の景色はまるで画家の絵を再現したかの様な
緑一色の自然の風景だ。
ここまで自然があると空気も澄んでいる訳だな。
俺は近くにあった岩に腰をかけた。
楽矢「はぁ…」
誰に向けたわけでもないが、つい溜め息が口から漏れた。
…あの夢は俺の望んだ未来、とでも言いたいのか…?
今更そんなものを俺に見せて何になるんだ。
凶香は消えた、それは理解している筈だ…
それでも、あんな夢を見せるのか…
藍「…大丈夫か?」
声に反応して俯いていた頭を上げると
心配そうな表情をした藍が立っていた。
楽矢「…来たのか?直ぐ戻るから大丈夫だ」
藍「…少し話せるか?」
藍は俺の隣を指差した。
俺が適当に了承を出すとゆっくりと藍は腰を下げた。
藍「…昨日はその、失礼な事をしてすまなかったな」
楽矢「失礼…何か俺にしたか?」
開口一番に謝られるとは思わなかった…
だが、謝られる様な事をされた覚えはない。
藍「紫様の式神の件だ、無理矢理誘って…その…」
………話が繋がった。
多分だが、こいつは勘違いをしている。
俺がそんな事で調子が悪くなるはずがないだろう…
楽矢「その件なら構わん、俺にも比はあるからな」
藍「…それで怒っているのではないのか?」
楽矢「…違う事だ、心配かけたな」
暫くの沈黙が続いた後、
俺たちは顔を見合わせてつい笑ってしまった。
藍「てっきりその事かと思ったじゃないか…」
藍は気が抜けた様に膝から崩れた。
だがその表情は安堵したように見える。
楽矢「あぁ…そういう事だったのか」
俺は久しぶりに声をあげて笑った。
藍「そ、そんなに笑わなくても…」
当の本人は顔を赤くして下を向いている。
…人と笑ったのは何時ぶりだろうか。
楽矢「…そろそろ、戻るとしようか」
藍「そうだな…」
藍はまだ俯いたままで顔を上げようとしない。
だが、藍のお陰で少し心が軽くなった。
…案外、自分の中で答えは出ていたのかもしれない。
紫「あら、お帰りなさい…藍?」
楽矢「今は何も聞いてやるな、誰にでも失敗はある」
紫「そう、藍にも慣れたみたいね」
楽矢「おかげさまでな…さて、仕事といこうか」
紫「ええ」
凶香は居ない、そこに変わる者も居ない…
…だが、俺は今まで気付かなかっただけで
俺の思っているほど望む世界は
現状から遠くないのかもしれない。
夜分遅くにこんばんは、空ネロです。
皆様、お久しぶりの投稿となってしまいました。
これについては申し訳ありませんでした。
春休み、と言って気を抜きすぎたせいで
更新意欲が発揮されずについ怠けてしまいました。
えーと、ご報告なのですが…
次回から更新頻度が落ちてしまうかもしれません。
今ですら落ち続けているのですが
空いた時間が今までよりも減ってしまう、
というのが大きな原因です。
必ず完結はさせますので寛容な心構えで
待っていただけると嬉しいです。
それでは今回もご閲覧ありがとうございました!