俺が目を開くとさっきまでの自然に溢れた風景とは一転して
辺りには雲が浮かび、目の前にはまさに天国と呼ぶに
相応しい形をした大きな門が建っていた。
出来る事なら生きてる内には見たくもないがな…
…この門から俺が人間を辞めたのかと思うと懐かしいものだ。
元々地獄やら天国やら存在自体を信じていなかった俺だ
あの時いきなりここは天国です、と言われて
理解出来たのが今では不思議なくらいだ。
俺にとって人生は事故という形であの時終わった筈だった。
…あの時の俺は仕事に追われ、唯一の娯楽が読書だ。
勿論、仲間と会話する事で気は紛れたが直ぐに現実に戻る。
そんな中で俺は本を読む事で人を殺したという罪から逃れ、
現実から目を背けようとしたのだろう。
今となっては馬鹿馬鹿しい話だが昔の俺は
其処までしなければならない程に壊れかけていたのだろう。
そんな俺にとって生き返る、という選択肢は無かったのだ。
何処でも良い。何処か遠くへ行って罪から逃れたい。
不老不死や邪神、空間能力といった沢山の願いは叶った。
だが肝心の遠くの場所が俺には思いつかず、
頭を捻って考えている時にふと浮かんだ言葉が東方という二文字だ。
別に俺は東方、という作品なんて知らなければ見た事も無かった。
だが、脳に浮かんだその二文字が無意識のうちに、
まるで人が息をするかの様に自然に口から零れ出たのだ。
邪神については、試しに好きな本のテーマを口にしただけだ。
俺は邪神という存在よりも狂気に満ちた作品を読む事で
自分が平静である事を再確認していたのだろう。
あの時の決断が今の俺に繋がったと思うと
本当に運命や未来とは分からないものだ。
1つの失敗で二度と会えなくなる事もあれば
1つの決断で穂冒楽矢という男の人生そのものを
変えてしまったのだ。
俺が一歩踏み出すと足元周りの雲が霧の様に消え
人一人が渡れるであろうほどの道が現れた
どうやらこの空間の主は歓迎はしてくれる様だ。
足を踏み外す、なんて考えたくも無いが一応細心の注意をはらい
足元を見ながら一歩、また一歩と門との距離を縮めた。
門の前まで来たがどうやら自動ドアの様には
いかず自力でこじ開けねばならないらしい。
俺が力を込めると門と地面の擦れ合う音が俺の耳に響いた
門を開くと見覚えのある小さな神様が此方を睨んだ。
光を反射するかの様な金色の髪に神には見えない体格。
俺を飲み込む様な大きな瞳に変わらない白い衣装…
龍神「久しぶりじゃな…随分とやらかしてくれたの」
それは俺が最も嫌う神、龍神だ。
…どうやら久しぶりの再会を喜ぶ言葉よりも
冷めた怒号が飛んでくる程度にはお怒りらしい。
楽矢「久しぶりだな、相変わらず神に反した見た目だな」
龍神「余計なお世話じゃ!ったく…久々の再会でも
相変わらず可愛げの無い野郎じゃ」
見た目に合った可愛げが無いのはお前もだろう…
といつもなら野次を飛ばしているところだが、
今日は別に喧嘩を売りにきたわけじゃない。
楽矢「お互い様だろ…今日は頼み事がある」
龍神「物を頼む時の礼儀も知らんのか?
頭を下げてお願いします、じゃろう?」
龍神は此方をニヤニヤと見つめながら耳に張り付く様な
ねっとりとした声で交渉を持ちかけた。
…本当に勘に触る神様なこった…
一々こっちの苛立つポイントを執拗に攻撃してきやがる。
楽矢「悪いなぁ…礼儀なんて教わった事がなくてな」
少しの間お互いを睨み合い歯軋りの音がその空間に広がった。
本当、今回の頼まれごとされなければ殴り飛ばせるんだがな…
だが、その異様な空間で先に口を開いたのは俺では無かった。
龍神「まぁ構わん…今回は大目に見てやろう」
楽矢「…本題に移らせてもらおうか」
俺は龍神に対する怒りを堪えながら
紫と霊華に頼まれた事の趣旨を伝えた。
最初の内は不満そうな龍神だったが話を進めるにつれて
俺に向ける視線が変わり瞳に輝きが生まれた。
龍神「成る程…要するに新しい世界作ったから
我に守り神になってくれ、そう言いたいわけじゃな?」
楽矢「まぁ、要点をまとめるとそうなるな」
龍神「あのお主がの…」
龍神は俺を見ながら丸い目をして驚いた。
何に対して驚いているかは大体は予想がつくがな…
龍神「お主が人の為に動くか…あの最後の時を待つ
監獄囚の様に死んだ目をしていたお主が…」
自分でも自分の変わりようには驚かされてばかりだ。
そのお陰で物事を考える時に前の自分ならどうしただろうか、
今の自分と昔の自分の判断、どちらが正しいだろう、と
つまらない考え事をする癖が付いてしまった。
だが、流石にあの時程腐りきった目は今はしていないだろう。
楽矢「頼み事は受けてくれるのか?駄目なら他を当たる」
龍神「待て、急かすでない…管理する世界が増えるというのは
そう一時の判断で出来るほど簡単な話じゃない」
龍神は俺に目もくれずに暫くの間腕を組み、
ひたすら下を向いて考え事をしていた。
俺は神の都合なんかは知らないがこいつが
人の前で悩む姿を見えるくらいには大きな問題なのだろう。
龍神「………お主の顔に免じて今回の頼みは受けるとしよう」
二人の中に暫くの沈黙が生まれた。
俺があまりの時間の長さに欠伸をしてしまう程のな。
龍神の重く閉ざされた口が開き、判断の答えが出た。
その顔色は決して明るくはない、重たい表情だ
楽矢「そうか、助かる。」
龍神「契約主はお主で構わんかの?」
契約…紫はそんな話をしていただろうか…
いや、していなかっただろう。そんな話をされた記憶は無い。
楽矢「契約?そんな物は依頼されていないぞ」
龍神「まぁ、あれじゃ簡単に言うとわしと
その幻想郷じゃったか?を繋げる鎖みたいなもんじゃ」
要するにその鎖が無いと今回の俺の仕事は達成されないわけか…
まぁ、俺の身に何か起こらないければどうであれ構わない。
楽矢「契約主になる事で生まれる俺にとっての不利益は?」
龍神「お主の名を借りるだけじゃ、特に被害は生まれん」
楽矢「それなら構わない、面倒事は早く済ますとしようか」
龍神「…それじゃあ契約を始めるぞ」
龍神が目を瞑り大きく深呼吸をすると龍神の身体が
光の球体となり瞬きをする毎を巨大化していった。
辺りの空間を吸い込むかの様な勢いで光の球体は大きくなり、
最終的に俺の高さの何倍にも膨れ上がり俺までも飲み込み、
その球体は瞬きをすると白い鱗の美しい竜に姿を変えた。
「……どうじゃ、中々の見た目じゃろ?」
…俺は龍神の真の姿に見惚れている様だ。
龍神の重く辺りに響く声すらも俺の耳には届かない。
俺の知っている美しいという言葉では表現しきれない程の
美しさに俺は暫く言葉を失った。
楽矢「…あぁ、お前が名だけの神じゃない事は分かった」
龍神はその大きな身体をとぐろを巻く様に固まり、
その白い頭に映える宝石の様な目を此方へ向けた。
「この姿は疲れるんじゃ…さっさと終わらせるぞ…」
龍神がそう吐き捨てると辺りの様子が変わっていき、
晴れていた空が雲が黒くなりやがて曇り空へと変わる。
遠くの方では雷鳴までもが轟いた。
楽矢「終わらせるとは言っても儀式のやり方は聞いてないぞ」
「安心せい、わしが尋ねる事に応えるだけじゃ」
今まで神の類はごまんと見てきたが、
俺をこんなにも唖然とさせた神はこいつだけだろう。
いや、今までとは格が違う。これが最高レベルなのだろう…
「さぁ、人の子よ。名は何という」
楽矢「穂冒楽矢だ」
「我と契約を結ぶ地の名は」
楽矢「…幻想郷」
「了解した。…契約を開始する」
楽矢「これで終わりか…」
俺が安堵の溜息を吐こうとした矢先に
龍神は人型程の光の集合体を俺へと飛ばした。
俺はその不意打ちに対応しきれず、光の集合体は俺を飲み込んだ。
光が俺の身体に触れた途端に身体中に電撃の様な激痛が走った。
身体のあらゆる所から血液が流れ出ている様だ。
今まで味わった事の無い程の痛みに声にならない声が
辺りに響いた。
…だが、声を出そうにも声が出ない。
喉が焼け爛れている様に痛む。龍神は此方を見ながら
何かを呟いた。
「………、……………」
…が耳もやられたらしい。何も聞こえすらしない。
手足を動かしてポチとクロを出そうにも指すらも動かない。
初めは龍神を睨み付けていた目も段々と視界が暗くなっていく。
「…………、……………」
これまでの生涯がつまらない映画の様に淡々と
俺の脳内へと浮かび上がる。
そのつまらない映画も徐々に暗くなっていく。
…前にもこうした光景を見た事がある。
……段々と考える事すら出来なくなっているようだ。
脳が徐々に死んでいく感覚だけが死にゆく俺の身体に
最後までこびり付いた。
「契約成立じゃ」
はい、夜分遅くにこんばんは。空ネロです。
皆さん、急ですが夏風邪って怖いですよね…
自分も絶対にならない!と意気込んではいましたが、
案の定風邪を引いてしまいました。
私の絶対の安心にはフラグが建っていたようです…
皆さんも水を頭から被ったりだとか
風邪を引くような自殺行為には気をつけましょう…
その場のノリだけでは済まされない場合もあります。
是非、風邪には細心の注意を払って残りの夏も過ごして下さい…
本編の方の説明となりますが今回で
話を区切らせて頂く事となりました。
詳しくは言えませんが、大きな区切りとさせて頂きます。
それでは今回もご閲覧ありがとうございました。