「はっはっはッ!ピクシスぅ、これで何度目じゃぁ?南方領域の最高責任者であるお主が、これで務まるのかのう?」
そう、菓子をバリボリと貪り食いながら内地から届いた高い酒を飲み干す豚 公爵が吼える。
「はは...公爵には敵いませんのう。」
そう言って向かい側に立つのは、南方領域最高責任者 ピクシス司令だ。
この男は見ても取れるように明らかに不真面目にチェスをしている。
そしてその後方には彼の参謀が呆れた眼差しを隠しながら立ち尽くしている。
「のう、ヴェッテ卿、今日はお主も一戦交えぬかぁ?」
ぶっきらぼうに豚が喋りかけてくる。
私は隣に佇んでいたその姿勢を崩して、
「いえ、結構。公爵、それより通達が届いておるようです。」
「なんじゃとぉ...?」
そう言い含み、この広い遊戯場の入り口へと目をやる。
すると、それに呼応するかの如く、焦って息遣いの荒い駐屯兵団兵士が突然断りもなく入ってくる。
「何をしておる!この無礼者がぁッ!」
酔った勢いに任せて公爵はいきなり現れた兵士に激怒するが
「き、緊急通達です!トロスト区南門にて、超大型巨人が出現ッ、壁が破られ壁内に巨人が多数侵入した模様!!」
その言葉に
パリンッ
と、公爵の持っていたワイングラスが落ち、砕け散った。
「そうか...。」
ピクシス司令はそうとだけ言って、呆然としている公爵の前に置いてある、高級酒を片手に持ち上げ、
グィッ
「...ふむ、これは中々に上手い酒じゃのう。...それではこれは戦場への土産として有り難く頂戴するかの。」
と言い、席を立った。
後方の二人も彼に追従し、どうやらもう行くようだ。
「ぴっ、ピクシス!おいピクシス!」
それを見た公爵はこの緊急事態に慌てて声を荒げて彼を追っていく。
私はそれを、呆れた顔で見やりながら
「 Setiño , Vanomos . 」
と、一言かけ、周囲で待機していた3名の灰色の軍服を着た私兵を連れて、彼 ピクシスの後を追う。
そうして行ってみれば、これまた豪華な庭園で彼はピクシス司令を引き止めようとしていた。
「ピクシス!お主は行かんで良いのだ!ここで我を守っておくれ、頼む!!」
必死の形相で任務に就こうとする彼を引きとどめようとするが、
「...任務に背く行為を煽るとは、貴様 国家反逆罪に問われたいのか。」
私が腰の十字架状の帯剣に手をかけると、彼は
「ひッ...いやそんなつもりは全くない!全くないぞヴェッテ卿!!」
と、腰を抜かして後ろへと転がりこけた。
「ふむ...ヴェッテ卿、それに公爵...今まさにワシらがこうやって話してる間にも、おそらくじゃがトロスト区では多数の兵士達が犠牲になっておるじゃろう。
ここでゆったりと長話をしている暇はないのでな。失礼させていただく。」
そう言って、彼は参謀2人とともにこの城を出て行った。
それを尻目に、
「...では私も、王の名の元至急現地へと調査へ参ってまいります。公爵、今後王に楯突く真似はくれぐれも、御用心なされよ。」
そうとだけ忠告して、私達もその場を白い濃い霧と共に、姿を消した。
「ヴェッテ!ヴェッテ卿、あぁそんな...。」
公爵はそのまま、項垂れているだけであった。
845年 かの年より、壁は破られた。
シガンシナ区が破られ、ウォールマリアが破られ、人類はウォールローゼへと撤退した...。
我々、イスパニア人は百数十年前からこの地に根を張り、王政の監視を続けてきた。
偽りであっても構わない。
自分達の道具になればそれで良かったからだ。
我々の目的は金銀黄金の採取。この地から、地下資源である銅、錫、金銀を山ほど採取する事が目的だ。
そしてその為に我々はスパイとして送り込まれたのだ。
850年、更に壁は破壊され、今日トロスト区へとその戦火は広がった...。
それまでの間、私は中央政府へと近づきに近づいた。
世界の半分を手中に収め、その富を利用すれば造作もない大出世だった。
私の偽造した身分は一介の田舎貴族だったが、今や王の側近の6人組のウチの1人、護国卿に任じられている。
私の名を語るのを忘れていた。
私はヴァロワ・ヴェッテ卿。
この国の重鎮の一人でもあり、潜伏者でもある。
黄金を手にする為には外にいる害虫を駆除しなければ、我々でさえ活動が難しくなってしまうのでな。
それに、これ以上、マーレ人に好き勝手させるわけには行かない...超大型巨人を継承する、秘匿された人物がこの地に送られてきたということは...これは奴を仕留めるチャンスでもあるのだから。
それ故に、私はトロスト区内門の壁上へと、向かっているのだった。
「ふむ...まさかピクシスより早く着くとはな。」
我々、イスパニア人の中には、悪魔と契約を結んだユミルの民の様に、神と契約を結んだ者もいる。
我々のように、身体を黒霧状にし、数十メートルごとにあたかも瞬間移動の如く移動する者にとって移動は造作もない事だった。
白い濃霧を同時に発生させながら、我々は周囲の人間に見られないように移動したのだ。
そうして濃霧が晴れれば...
「ッ、護国卿!なぜこのような所に!?」
「護国卿!」「護国卿...。」「今の濃霧は一体なんだ...。」
反応はさまざまだが、いきなり壁上の固定砲の近くに現れた我々4名に驚愕の表情をあらわにする。
が、しかし。
「...状況を報告せよ。」
そう私が述べた瞬間、目の前にいた固定砲配属班の兵士が綺麗な敬礼をし、
「は、はッ!現在トロスト区外門が破られ、駐屯兵団の先遣隊は全滅!避難民の誘導が済みましたので、内門は完全に閉ざされ、鎧の巨人による追撃に備えております!
訓練兵団の後衛はほぼ帰還しましたが...前衛、中衛は未だ帰還ならず、恐らくほとんどが...。」
そう口籠った瞬間、兵士は私から目を背けた。
「ふむ...そうか。」
「それで...護国卿は一体ここになにをしに?」
兵士が未だ疑問にいる中、私は考え事をし始める。
すると、
「ご、護国卿!!」
一際大きな声で私の方に近づいてくる一人の髭を生やした男が足早に来る。
「...トロスト区駐屯兵隊長か。」
「は、はッ。...護国卿、何用でいらしたのでしょうか。...ここは巨人が侵入して来うる人類最前線、早くご安全な場所へご退却を...。」
と、私に進言するが、私は手のひらでシッシッと追いやり、
「黙れ。それよりここの砲台は使えるか。」
私はそれを問うた。
「は、...は?」
と、彼は一瞬呆けたが、すぐに
「も、もちろんであります!いつでも発射可能であります!」
と、彼は言い放った。
「ふむ......そこの固定砲配属班に早速準備させろ。」
そうと言いながら私は、この砲台付近の弾薬箱に近づき、微かに黒い霧を纏わせた。
「りょ、了解であります!何をぼさっとしている!早くせんかッ!」
そう怒鳴った隊長の声に震えて班が動き出した。
「隊長、しばしの間ここの砲台班は私の直接指揮下に入る。...王の命としかと承れよ。」
そう恐喝すると、彼は「はッ!」と敬礼をした。
すると、現在照準器を取り付け、発射角度を決めかねてる班は、恐る恐ると言った形で私に詰め寄り、
「あ、あの...護国卿...。」
と、恐る恐る班の兵曹であろう女性兵士が訪ねて来た。
「なんだ。」
「...その...目標の指定は...いかがしましょう。」
視界内に目標の巨人が複数いるが、それはトロスト区区画内の相当な離れた距離に位置する本来なら射程外の標的であった。
だが、私はそれを単眼鏡をカチャリと引き伸ばしながら目標までの目測を行う。
そして、
「...右前方の固定砲に命令する。」
そう言い放った瞬間に、全員がいきなりの指揮権の異なる命令に固まった。
そして、
「目標 14m級2体に対し仰角35° 水平132°の方角に合わせろ。
左前方の固定砲、仰角38° 水平127°。合図が出たら撃て。」
その的確な命令に兵士達は急いで照準を合わせた。
そうして奇妙な命令にこのトロスト区駐屯兵...名前は確か
「...ヴェールマンか。」
「は...?」
「いや、名前を聞いてなかったからな... ピクシスに委任された権限を用いてよく戦った。」
「い、いえ。お褒めにあえて光栄です、護国卿。まさか護国卿自ら現場指揮を執りに来られるとは...。」
...無茶苦茶僕に腰を曲げるな、この隊長。
そんなに偉そうに見えるか、この僕が...。
「...それでは、私の名誉ある初戦を開くとするか。」
そう言うと、私は右腕を大きく上に振りかざし、そして次の刹那
「砲撃。」
そう一言、腕を下げながら述べた。
「...ほ、砲撃開始ぃッ!!」
ドンッ ドォンッ
と、轟音を響かせながら、黒い何かを帯びた...恐らく他人には見えないのだろう、その二発の砲弾が放たれた。
そして...
ヒュゥゥゥ......
グチャッ...! ギチッ!
遠くで肉の弾きつぶれる音が聞こえた気がする。
「ッ、め、命中!!命中です護国卿ッ!!14m級二体、共に215m遠方で命中を確認ッ!」
ウォォォォォォォ!!
と、その言葉を皮切りに周囲の兵士達は歓喜の声を上げた。
「まさか当てるとは...。」
「護国卿の指揮能力は本物だ...。」
など、口々に叫んでいるが、私はそれらを無視し、次なる命令を下す為に口を大きく開く。
「...ッ、命を下す!!
王の名の下に従い、壁上固定砲班左舷及び右舷は中央班と合流し直ちにここに集結させよ!!
火力を中央に重心化させ、一撃で葬り去るのだ!!」
その命令を聞いた各班の兵士達は命令通達のために動き始め、中央の今動いてる固定砲班は再装填を開始する。
「ご、護国卿!あれを見てください!!」
そう観測手兵士が声を荒げる。
「なんだ。」
私が自分の単眼鏡を再び棒状に伸ばして遠くを見ると、
「ほ、砲弾の命中した巨人が...蒸気をあげ、倒れて...います...。」
...やはりな。
私は砲弾に手品をかけた。
そして初の被検体である巨人がそれを喰らい、命中した箇所から私の[濃霧]に捕食され、地面に肉の液状化したモノを垂れ流し、『地獄』へと送り返しているのだろう。
「そ、そんな...固定砲だけで...どうやって...。」
「あ、ありえねぇ...一体護国卿は何者なんだ...。」
口々に声を出すが、隊長であるヴェールマンは冷や汗を大量に描きながらも、
「...き、聞こえなかったか貴様らッ!護国卿の命令に背く者は王に叛逆する愚か者として今ここで死罪に問うッ!!」
ガチャッ
と、腰のブレードを装備した彼に一掃されて兵士達は口を閉じて大人しく命令に従い始めた。
「よくやった、ヴェールマン隊長。」
「いぃえ、これも隊長として当然のことッ。」
と、彼は堂々と今の私の戦果に満足した様子で指揮権を譲ってくれた。
私がここに来た目的はここの固定砲の指揮権を譲渡させ、低能な照準より私の精密な弾道計算の脳内演算と...数秒後の未来を予想しての百発百中を行い、何としてもトロスト区を守り切る為だ。
そして、この地下に深く眠る黄金の銀の鉱脈を守るためでもある...現在ここの銀の鉱脈は私以外に知り得る者はおらず、他人に譲渡してやるつもりもない。
全ては故郷、イスパニア帝国に献上するためだ。
その一心で私は兎に角、固定砲を使った遠距離からの『砲撃支援』と言う新たな戦術を生み出した者としての責務を果たし始めた。