私、護国卿は所謂国防を担う役職だ。
国内の防備や予算、壁内の全兵団の部隊監視を命じられている。
細かなことは各兵団に一任しているが、大部分の方針を決定する役目だ。
だが、その分私は部下に書類仕事を押し付け、時間を作りに作り、私兵部隊『コンキスタドール』を設立した。
実際には[私と同じイスパニア人潜入兵]で構成されるイスパニア軍なんだが。
それ故に現在に至るまで志願兵を募ったことなど一度もなく、当然顔見知りのスペイン兵だらけだ。
まあ、自分の金で運営してる王側近の私兵部隊なんだからいいだろそれくらい。
んで、今に至るまで、
ドドォンッ!! ドォンッ!
ドドドォンッッ!!
と、もはや数百発を撃ち尽くして砲弾の補給待ちになりかけている固定砲を眺めながらあるモノの到着を今か今かと待っている。
「右舷班は仰角56° から60°、水平172°から180°を一成掃射しろ。
中央・左舷固定砲班は再装填を急ぎ仰角36°、水平102°を狙え。合図があるまで撃つな。」
そう命令を下し、兵士たちを忙しなく動かす。
彼らは今のところ、砲撃とその命中、そして巨人の撃破に夢中でさの異常さにはあまり触れていない。...いや、彼らからしてみればそんな事今はどうでもいいんだろう。
私の特殊な細工を加えられた『あらゆる物を腐敗させる』霧の効果を弾薬に付与されていなければ何の役にも立たない大砲を、今だけは彼らの手の上で遊ばせてやる。
ドドドォッ!!ドォンッ!!
轟音が響く中、壁の下の巨人達を見下ろしながら腰のブレードとは一線を画す帯剣を見つめる。
「...流石に怪しまれるな。」
そう、立体機動装置なくしても、我々は[空中]に足場を霧を固形化する事で作成可能、更に言えばまどろっこしい事せずとも背後に霧状となり瞬時に移動して巨人のウナジを削げる。
だがそれを側から見れば、どう見たって黒い霧も見えず、たとえ白い濃霧を発生させても味方の邪魔になるし、その上至近距離では確実に『浮いている』ように見られるだろう。
だからこそ、私が実戦に出ることはまず無いのだ。
首まで切り詰められた銀髪と18にしては幼すぎる童顔を頭の上に被せてるハットを深く被ることで隠す。
この顔を最初、王の側近5人組に見せた時は笑われた。まだ子供じゃないかって。
この歳でヴァロワ家当主として田舎貴族から成り上がったなんて、流石に無理があるかもしれなかったが、彼らは私の持つ『黄金の財産』コレクションを見て押し黙った。
更には国内の物資流通を見通して道路を私有化し、関所を設け、関税をかけ、
水車を電力源とした農業機械の開発など、それぞれの利権を獲得した結果私の懐はこの国の税収の45%に相当した。
それだけの財力、そして影響力を鑑みられ、私は、ヴァロワ朝ヴェッテ一世は6人組の中の一人となったのだ。
どいつもこいつもありったけの私腹を肥やす腐敗役人だったが、私は時折前線に放浪してやってきたり、気ままに動く割と好き勝手な人物だ。
ちなみに事あるごとに王の名を出すが、偽りの王だからこそあの眠りこけてる王の名を出しても誰も怒らないからだ。
『ヴェッテ・ヴァロワ卿、届いたようです。』
壁上の線路沿いをふと見てみると、隣でイスパニア語で耳打ちしてきたスペイン私兵の通り、そこには90mm榴弾砲[ナスハ]4門とアルマディア砲兵部隊が路線に導かれて数台持ち込まれてきた。
先程の固定砲の、私が黒霧を与えた砲弾と、こちらの装薬と弾頭を一体化させ試作した重榴弾砲は圧倒的な発射速度、更には射程距離を保っており、先程の固定砲とは比べものにならないだろう。
まあ、試作ゆえにこの試作品への技術を私は誰にも公開していない訳だ。
コイツをこの赤の他人の国に売り渡すつもりはない。
「固定砲班は砲の摩擦が酷い為部隊、『アルマディア』砲兵連隊と交代しろ。」
「はッ。」
いきなりの新兵器の出現に彼ら兵士とヴェールマン隊長は驚きを隠せない。
「ご、護国卿、その大砲は一体......。」
「...聞くな。」
私はそう一言だけで威圧した。
すると、彼もそれを感じとったのか、
「も、もも申し訳ありません、護国卿!秘匿兵器であるならば勿論の事でありますなッ。
...おいお前達!ジロジロと見てはいかんッ!早く固定砲を下がらせろ!!」
「は、はッ!」
新たな新兵器の登場に周囲の固定砲班と駐屯兵団兵士達は唖然としていた。
見れば私と似たような銀髪の女兵士参謀も居た。
が、しかし接点はない為関わらない。
壁内人類の事など気にしても仕方ない。それよりも地下に眠るお宝 黄金を寄越せと言うのが私だ。
『装填完了。』
そうイスパニア語で声をかけられた。
周りの兵士たちは怪訝な顔で、何の言葉を喋っているのか全くわからない為摩訶不思議な様子だった。
それを尻目に、私は壁上に簡素な椅子と机を用意させて置いてあったのものに腰掛け、その机上の地図 トロスト区全般を模した地図を見下す。
「ふーん...おい、標的を探せ。」
ボウッと突っ立っていたヴェールマンの後ろの参謀らしき銀髪の女兵士に言うと、
「あ...はッ!」
と、単眼鏡をカチャッと伸ばして索敵を開始した。
そして、数秒後に
「...302m先に...ガス補給施設に群がる12m級が一体...10m級も数体です。」
「...ばっか、地図に書け。」
ポトリ、と私が地図上にペンを懐から投げ落とすと、彼女は恐れ恐れと言った感じで地図上に丸を付けていく。
「ふむ...ヴェールマン、わかるか?」
まだ昼間のこのどんよりとした曇りの空を見上げながら、隣で私の行動を一挙一動見つめる彼に聞く。
「は...何がでしょうか。」
「...仮に中衛や前衛が生き残っていたとして、なぜこんなにも帰還が遅くなるか、と聞いている。」
その質問に、当人は思い当たる節があるのだろう。ハッと目を見開き、
「そ、それは...。」
と、口籠るが、
「...補給施設だ。ガス補給施設が占拠されていては元も子もない。故に彼らは今頃ガス切れで孤立無援の状態であろうな。」
「...ッ。」
その言葉にヴェールマン隊長は苦虫を噛み潰したような顔をする。
それを尻目に、他の兵士たちが持ち場に戻ったのを確認してから、私は口を開く。
『...砲撃する。5秒後、3-1-4-2-2に2発、3-1-4-2-3に1発、3-1-4-2-0に2発。それぞれ4門ある野戦砲の内3門で各地点を狙い、残る1門で各地点に1発ずつ確実に仕留める為に砲撃しろ。』
『了解...。』
そう明確に司令をすると、スペイン私兵達は砲のハンドルを回して仰角、角度を付け元から私に伝えられていた地図上の地点への弾道計算を頭に入れながら調整し、そして次の瞬間...
ドォッ!! ドドドォォォッッ!!
「おい銀髪の女参謀、弾道を見ておけよ。」
と、ぶっきらぼうにいつの間にか出していた豚からくすねたワインボトル片手に飲みながらそう言った。
「は、はぁ...。」
気の抜けた声を出しながら、渋々困惑気味で弾道を単眼鏡で追っていく彼女...確か名前はリコだったな。
リコはその弾道を追っていく時間が伸びれば伸びるほど、「ぁ...ぉぉ...?」と、今にも来るか、と言う声の数秒後に、
「め、命中を確認ッ!計8発の砲弾の内5発が命中し、ガス補給施設付近の巨人が一部壊滅!」
「「「おぉぉぉッ...!」」」
リコの報告と周りの歓喜を聞いた僕は更にグィッと酒を煽る。
僕なのか私なのか、女なのか男なのかわからなくなるくらいには酔う。
「ぷはぁ...でもガス補給施設がこのままじゃ倒壊しかねない。だからこれで砲撃は一時停止だ...。リコ参謀にぃ...ヴェールマン隊長、ピクシスが来たら起こしてくれ。」
「えっ、ちょっ...。」
「ぴ、ピクシス司令が...だと...ッ!」
それぞれ勝手な私の振る舞いに心底困惑しながらも、私は無視して平たいハットを深く被ってこの簡易椅子に深く腰掛け眠りこけ始めた。
その間、スペイン私兵は野戦砲の近くでじっと佇む事になったのは辛い話だが。
【アルミン’s】
先程、ガス切れで補給施設へと生き残りをかけて先導を買って出たミカサが地面に激突したところを助け、ガスを交換した後、
ミカサとコニーにあの『巨人を殺す巨人』...稀に見る奇行種を利用して補給施設付近の巨人を一掃する計画を立案した...。
だがこれで上手くいくのか、僕は不安なままだ。
僕の身体はコニーに抱き抱えられたままもう時期ガス切れを起こす缶で何とか補給施設へ向かっている。
ヴ......ォ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”ッッ!!!
遠くからあの奇行種の叫び声が聞こえてくる。
重い地響きと共に力強い一撃がまた巨人に振りかざされているのを想像するだけで、ますますあの巨人を見殺しにはしたくなくなった。
やがて、補給施設付近にまで到着した時、その時になってようやく異変に気づいた。
「ッ...!?...巨人の数が...減ってる......?」
先程見た時には少なくとも12体の大小合わせての巨人が居たはずなのに、そこに居たのは14m級が3体と5-6m級が4体程度と、だいぶ数が減らされていた。
更には地面には、巨人を殺傷した際に残る多少の肉片さえ残っていない...。
しかもこんな短時間で蒸気も上げずに、まるで骨以外が溶かされたみたいに...何なんだ...わからない...わからないよ。
「っ、おいアルミン!しっかりしろよ!!こんな時に考え事してる場合じゃねぇ!
...それにもうすぐ突っ込むぞ!体制維持しとけよッ!」
コニーにそう注意されて僕はハッとなり、すぐに思考を切り替えた。
そうだ、状況がなんであれこれは好都合なんだ。
ミカサは例の巨人殺しの奇行種を惹きつけるために周囲の巨人を一掃し、無事に補給施設まであの奇行種を誘導させることが出来そうなんだ。
後は...
「いくぞアルミン!!」
シュゥゥゥッッ
と、勢いよくアンカーが壁へと伸び、補給施設の窓へと3人は急接近し、
ガシャァァンッ
とガラスの破片をちらばめながら、補給施設を目指したジャン達とも合流したのだった。