私はどうやら数時間、眠りこけていたらしい。
相当な酔いが回っていたと言う。まああんな高級酒ガブ飲みすれば、そうなるのは目に見えていた。まあピクシスが来ないからなんだけど。
手短にそこにいたスペイン私兵に聞けば、どうやら私の目論見通り中衛の訓練兵がガス切れを起こして壁上に這い上がることができなかったが、
補給施設への砲撃支援と、突如現れた『謎の奇行種』: 巨人殺しの巨人、さらには決死の作戦によってガス補給施設の奪還、そして壁上へと登ったらしい。
それだけ聞けば『良い話じゃないか。』で終わったんだ。
そう、その特例を除けば...。
「訓練兵、エレン・イェーガー!並びに同ミカサ・アッカーマン!アルミン・アルレルト!!
貴様らのしている行為は反逆行為だ!!
貴様らの生き死にはこの私が握っている!下手に誤魔化そうとしたり、
嘘をつけば今この場で貴様らに榴弾をぶち込むッ、私はぶち込んでやるぞ!!」
巨人殺しの奇行種の正体...そう、それは...[エレン・イェーガー]という一介の訓練兵だったのだから...。
壁上からウォールローゼ内の直下を見下ろせば、そこには例の3人組がいたと言う。
壁内にその危険分子を引き入れた時点で、私が寝ていた間にヴェールマン隊長は兵と固定砲を回して包囲し、いつでも殺せるようにしていたらしい。
「まずいな...。」
この壁の中にいる王政は偽物...それ故に『始祖の巨人』が見つかっていない以上、我々は秘匿されたその巨人の正体が誰なのか、突き止める義務がある。
こんな所で有耶無耶にこのいきなり現れたエレン・イェーガーという巨人化能力を持つ九つの巨人の内のどれかに当てはまる彼の情報を失うのは、我々だけではない、この壁内人類にとっても大損害でしかないのだ。
「ん...?」
風が靡くのが止まり、下では簡易的な尋問が行われていたそうだが、エレン・イェーガーが
「...ッ!人間ですッッ......!」
と、正体を開示することを迫られた際にそう叫んだ。
そうすると、あの護国卿にヘコヘコしていたヴェールマンの右腕がバッと、上に上がる...。
そうすると、左側に見える壁上固定砲班に通達が行き、同じく発射準備良しの合図として右腕が挙げられる。
「なッ...あの阿呆、相当にイカれてやがる!!」
ここで抹殺するなど論外ッ!戦略上の大いなるミスなのだ!
なのにあの男は平気でやろうとしている。
「ま、待て ー
そう言おうとした時だった。
バサッ
と、遠目に見てもわかるその大きな隊長の発射命令である右腕が振られた時だった。
ドォォンッッ!!
と、1発の榴弾が...下にいる3人に直進していった。
そして次の刹那...
ドォッ!! ギチギチッッ...シュゥゥゥ......。
肉と骨の引きちぎれる音が聞こえ、命中した事が理解できた...。
「......。」
私は、無言で下を見つめる。
そして、3人の有様を、砲撃後のホコリやチリの舞いが収まるまでに確認する。
すると......
「ッ!......やはり、殺す訳には、いや殺せる訳はなかったか。」
ふっ、と安心した。
下からは兵士達からどよめきが聞こえ、不安と恐怖が舞い上がっているようだった。
それもそのはず...ここ、ウォールローゼ内に...出来損ないとはいえ、上半身だけの巨人が生成されたのだから。
恐らく榴弾から身を守るため、二人を庇いエレン・イェーガーが形成した物であろうその巨人は、彼ら兵士をそのどんよりとした目でじっと見つめていたが、やがてその目は光を灯すのをやめた。
『......とにかく下に降りるぞ、全員砲兵部隊監視の者だけ残して付いてこい。』
そうとだけ言うと、私は壁の下へと一気にガァァァァッと言う風の摩擦音を聞きながら降りていった。
【アルミン’s】
「お前ら大丈夫かッ。」
突如として現れた巨人の肋骨の中で守られていた僕とミカサにエレンが上から降りてきて、怪我の有無を心配してくれる。
「え、エレンッ!これは一体...。」
「俺にもわからねぇ...けどもう時期、こいつの身体も蒸発しちまう、他の巨人みたいにな...少し場所を移したほうがいい。」
そう言うと、彼は僕らの方に近寄ってひとまず少し前の方へと移動した。
そして、しばらくしてからエレンは僕らに口を開いた。
「......アルミン、ミカサ...考えが二つある。」
真剣な顔で僕らに語り始めた内容は、深刻なものであった。
「すでに二人には迷惑をかけちまったが、俺を庇いさえしなければ命までは取られないはずだ...だから、俺はここから単独行動を取る。」
と、息も絶え絶えに、顔色の悪いエレンはそんなことを平気で言う。
「...俺にはこんなもん作っておいて話せるとは到底思えないッ。
巨人になるのも、さっきは無意識のうちにただ砲弾から身を守ろうとしたら身体が勝手に動いてた...。
なぜかはわからない。っ、けど、俺ん家の地下室...思い出したんだッ。
地下室に行けば全てわかる。俺がこんな体になっちまったのも多分親父が原因だ...。」
と、彼は僕らに知りうる全てを伝えてくれた。
「......だから俺は、これからシガンシナ区に、再び巨人の姿になって地下室に行く。
この壁を超えて、あそこまでたどり着くんだ...。」
そう言うと、彼は自分の胸にしまってあった鍵を見せた。
それが、恐らくその地下室の鍵なんだろう。
「ダメ。エレンが行くなら、私もついていく。」
ミカサが心配そうな目をして、そう言うが、
「はぁッ?いい加減にしろよッ、俺はお前の弟でもなんでもねぇんだぞ!」
と、いつものごとく怒らせてしまっただけだ。
それより、
「エレン、壁を超えたとして、再び巨人化するなんて...できるのかい。」
と、真剣に質問をする間にも、巨人の骨格がボロボロと崩れ去っていく。
壁上では固定砲班が再装填をしている頃だろう。
「わからねぇ...だがあん時みたいに...巨人を殺しまくっていたあの時みたいに、もっと強い15m級を作れれば、きっとッ!」
そう言いかけた所で、ミカサが待ったをかけ、
「エレン...は、鼻血が...っ。」
と、彼の体調異常を述べる。
彼も今気づいたのだろう、自分の鼻に手をやって、その血を見た瞬間に少し唖然とする。
が、それも束の間、彼は僕らの方に振り向き、
「体調不良なんて今はどうでもいいッ。俺はこれから単独で壁を登って、地下室に行くッ。」
この巨人も長くは持たないしな、と彼は上の巨大な巨人の頭部が地面へと轟音を立てながら崩れていくのを見ながらそう言う。
目の前で、ミカサとエレンが言い合っている。
すると、エレンの方から不意に口がもう一度開かれた。
「待てよ、考えは二つあると言っただろ。」
それを聞いて、ミカサはおしだまる。
そして、エレンは、僕の方を 見た。
「...アルミン...あとはお前の判断に任せる。」
【護国卿】
シュタッと、十数名の灰色の軍服をきたスペイン兵と共に地面についてみれば、ヴェールマン隊長と、その参謀と兵士達がそこでは冷や汗を大量にかきながら目の前で佇んでいた。
「ご、護国卿ッ...。」
ヴェールマン隊長が私の姿に気づくと、私の方に敬礼を取ったが、
「構わん、続けよ。」
と、今の状況への対処を求めた。
それを聞いたヴェールマンは了承し、再度あのエレンたちに向き直る。
壁上の榴弾砲の装填が完了しそうな頃合いを見て、私は
『...背後に回れ。各兵士の背後でエレン・イェーガーの方向に向けて一斉掃射の構えをしろ。だが決して撃つな。』
そうとだけ言うと、周りにいたスペイン兵アルマディア歩兵部隊はそれぞれ持ち場につき始めた。
そして私は目の前にいる隊長と参謀の背後で、時を待つ。
すると...
ガシャンッ
と、何か重いものが...この場合は立体機動装置だろう、それを外して、こちらへ走り込んでくる姿が巨人の蒸気の中から見えた。
そして、
「ひッ...と、とまれェッ!!」
と、ヴェールマン隊長はその姿に怯え、未知の相手が恐ろしく思たようだった。
「遂に正体を表したな化け物めッ!送るぞ、私は合図を送るッ!」
そう吠える隊長。
がしかし、目の前にいる少年は......
「エレン・イェーガーではない...か。」
金髪の青い目をしたまだまだ幼い訓練兵、それも武装を解除し、投降の意思を見せている。
すると、
「我々には、知り得た情報の全てを開示する意思がありますッ!!」
と、周りの兵士達にもよく聞こえる声で、あの少年は言う。
「今更命乞いなどしても遅いッ!貴様らが人類の敵でないと言うなら、証拠を出せッ!」
そう言い放った隊長に対して、金髪の少年は、
「...証拠は必要ありませんッ!」
と、一言述べた。
「何ッ!!」
そう不可思議な返答に隊長は怪訝な反応を返すが、彼は続ける。
「そもそも、我々が彼をどう認識するのかは問題ではないのです!!」
と、彼は冷静に事を分析し始める。
「大勢の者が彼を見たと聞きました...ならば、彼が巨人となり他の巨人と戦っている姿も見たはずですッ!
ッ、つまり巨人は、我々と同じく、彼を捕食対象として認識していますッ!!
我々がどれだけ知恵を絞ろうと、この事実だけは変わりませんッッッ!!!」
...立派な分析だった。拍手を送りたい。
この場にいるすべての兵士達が、その言葉を聞いてその手に持つブレードを下げ、銃砲を下げそうに成る程説得力があった。
だが...相手が悪かったな。
「......ッ、迎撃体制を取れッ!!」
まだ私は手を出さずいつでも動けるよう、見守るのみだ。
どうやら隊長は彼らを判断する事を放棄したらしい。
「奴らの行動は我々の理解を超えるッ!我々を欺き、我々を騙すことも容易なのだ!!
奴らの思惑に乗ってはならんッッ!!」
そう言い放った瞬間、再び巨人の恐怖に支配されたこの場にいる兵士達はガチャッとそれぞれ獲物を構え直し始めた。
それを見た金髪の少年は、絶望した目で隊長や私のことを見つめる。
そして......次の瞬間、あの忘れられぬモノを見ることになる。
「ッッ......!!」
バッッ!
と、振りかざされたその拳は迷うことなき幼き少年の胸にー心臓に当てられる。
「
私は永遠にッ!!
人類栄光の為ならば心臓を捧げると誓った兵士ッ...その信念の為に死ねるのであれば本望!!!!
ー
彼の巨人化の能力と、残存した兵力とが組み合わされば、この街の奪還も不可能ではありませんッ!!
ー
人類栄光のためッ これから死にゆくせめてもの間にッ......彼の戦術的価値を研ぎますッッッ!!!」
強力な自信と絶対的な信条から来る、彼の見事な敬礼と共に発せられるまごうことなき忠誠心。
それはこの場にいる全ての兵士たちが感じ取っているはずだ。
あらゆる武器を向けている兵士達に動揺が走る。
彼が味方なのか、敵なのか、味方なのか、わからないのだ。
「...ヴェールマン隊長、彼の言葉には一計の余地が」ーーー
「黙れッッ!!!!」
隊長は、参謀の男に再考を願われるが思考から掻き消す。
「奴らはどう足掻こうと反逆者なのだ...反逆者は規則に則り処罰せねばならない...それが兵士たる者の務めであろう...!」
小声でそう口ずさむ彼に、もはや思考能力はなかった。
それを見た私は、彼の今にも振りかざされそうになっている右腕を見つめ...
『...駐屯兵に向けて構えろ。』
と一言おいた。
すると、
ガチャッ ガチャッ スチャッ
と、それまで兵士達と同じように増援部隊としてエレン・イェーガーら三名に銃口を向けていたスペイン兵達が駐屯兵達に一斉に背後から銃口を向け始めた。
「なッ!」
「なぜ...!?」
各兵士達が動けず、壁上の榴弾砲も隊長の指示を待っており動く気配がない。
私は自前のボルトアクションライフルを極限まで切り詰めた、アブレツPistoleを隊長に向ける。
「....こ、これは...な、何の真似だ...護国卿ッ...!?」
そういきなりの驚きと共に、彼は振りかざそうとしていた右腕を停止させる。
『...今ここで彼を失うくらいなら、この場で皆殺しにしてでもエレン・イェーガーの解明を進めた方が良いのでな。悪く思うな。』
彼らに対して理解させないようにイスパニア語でそう釈明し、愚かな指揮官を殺そうと引き金に手をかけそうになるその時、背後から気配がしていた。
そして...
「よさぬか。」
そう、一言かけ、隊長の右腕を掴み、降ろさせながら僕の方を見つめるある男。
それに応じて僕も銃口を下げた。
「ぴ、ピクシス司令...!」
「まったく、図体ばかりデカイ割に、小鹿のように繊細な男じゃのう。
お前にはあの者の見事な敬礼が見えんのか?」
そう一言また述べたのちに、彼は少年を何か思うところがあるのかじっと見つめた。
そして私にも目を配らせた。
...言いたいことはよくわかる...付き合いも長い故に。
「...銃口を下げろ。」
と、スペイン兵達に伝える。
すると、私兵達はゆっくりと銃口を降ろした。
「早馬で大体の状況は伝わっておる。お主は増援の部隊の編成へと行け。ワシは、あの者らと話した方が良い気がするのじゃがな。」
と、一度隊長へ引き下がるように命じた。
「随分と遅かったじゃないか、ピクシス。」
私がそう声をかければ、彼はにこやかに
「おぉ、ヴァロワ卿が早馬過ぎて先を越されたわい。」
と、笑いながら答えられた。
「...家名で呼ぶのはやめることだな。」
と、むず痒い感じを受け取りながら、私もアブレツPistoleを腰のホルスターに仕舞った。
それを見たあの金髪の少年は、泣きながらその場にへたり込んでいた。
それを見た私は、ピクシスを放って彼らの方へと近寄り歩き、
「...訓練兵、名を何と名乗る。」
「あ、...あなたは...いえ、訓練兵第104期所属、アルミン・アルレルトです...。」
と、先程隊長が述べた名前をもう一度聞く。
そして彼の柔らかい金髪の頭にぽんっ、と手を置き
「...見事な敬礼だった。そして見事な分析能力。僕は君に惚れ惚れしたよ。」
そう言って、彼と距離を離した。
そう言われた彼は「ぇ...?」と、涙を流しながら僕を見上げる。
それを無視して、
「...何をぼさっとしている、エレン・イェーガーをピクシス司令の下まで運べ 早く!」
と、周りにいたイスパニア兵たちに声をかけ、彼らを移動させたのだった。
あ、ヒロインはアルミンです(真顔)。
嘘です。