「やはり、見当たらんのう。」
壁上を渡り歩いてはそう愚痴をこぼす、生来の変態とも言えるこのおっさ...トロスト区南側領土最高責任者 ドット・ピクシスは僕の隣にいる。
「...なにが。」
僕がぶっきらぼうに彼の愚痴に付き合ってやると、
「超絶美女の巨人になら、食われても良いのじゃがのう...。」
「......ぺッ......。」
...ごめん、ただの変態のおっさんだったと、反吐を吐きながらも僕は彼と並行して歩く。
「...それにしてものう、ヴァロワ...お主はいつも王城に篭りっぱなしなはずなのに、今になって何故わざわざこんな所に出てきよったのだ。」
エレン達3人が隣で見ている中、僕に不意に聞いてくる。
確かに僕は王城に篭ってばかりで、いっつも何をしているのか向こうからしてみれば分かんないだろう。(ワザとそうしているんだけど。)
でもまあ、正直に答えるのは別に悪いことでもないかと思い、口を開き
「...はぁ、試作段階の新兵器[ナスハ]砲の実験のため...ってのが表向きだけど、
確かに護国卿がこんな所にいるのは変だ。」
僕はため息混じりに下の彼が見つめていた壁に群がる巨人どもを見下ろしながら、さらに続ける。
「......でも、おかしな話とは思わないか?」
そう不意に意味のわからないような質問に質問で返すという事をすると、
「何がじゃ。」
と、不思議な顔をされさらに質問で返される。
夕日で顔が熱くなりながら僕は彼に向き合い、
「僕は王城に近づけば近づくほど優秀な人材に恵まれてきた...。
でも、求められる壁際に近づけば近づくほど、優秀な人材はいなかった...。
だから、ここに来た。
おかしいとは思わないのか、ピクシス。」
そう真実を伝えると、彼は神妙な顔をして、顎に手を当てながら、
「...確かに、お主の申す通りじゃ。」
と一言、僕に返して、何か思案するように考え事を始めたピクシスだった...。
「そうか...その地下室に行けば、全てわかる、と...。」
あの後、ピクシス司令は大体の話を当の本人、エレン・イェーガー訓練兵から巨人化能力の事や、
巨人についての彼の父親が保持していたであろう機密情報が地下室にあるということを聞いていた。
「は、はい......信じてもらえますか...。」
ゴクリ、とエレンの喉を鳴らす音が聞こえた。
「...お主自身の確証が得られん以上、頭の片隅に入れておくと言った所じゃのう。」
と、トントンと人差し指で頭を叩いて示すピクシス。
「じゃが...。」
そう付け加えるピクシスは終始顔色を変えない。
「物事の真意を見極める程度の力は持っておるつもりじゃ...。
安心するが良い、お主らの命は、このワシが保証しよう...ヴァロワもそれでよいじゃろう?」
その言葉を聞いて、3人ともホッと安堵をした。
そして、ついでといった形で僕にも了承が求められ、
「今度は呼び捨てかよ...随分と舐められたモノだなピクシス。
...勿論、君達の命は、僕自身も保証させてもらうよ。君達としても、あんな変人に守られるよりずっといいだろう?」
いろんな意味でね、と心の中で付け足すと、エレン達は苦笑いをしながら、当の本人は「なんじゃ、その言い草は。」と文句を垂れていた。
その後、ピクシスは再びつまらん顔をして背を向けながら壁下の巨人達を見下ろして、こう問いかけた。
「...のぅ、アルレルト訓練兵よ。」
「は、はいっ。」
いきなりの呼びかけで、金髪の彼 アルレルト訓練兵は動揺を見せる。
「先程お主が言った
〈 この街の奪還も可能である 〉
という言葉は、何か打算があってのことか...或いは苦し紛れの命乞いか...?」
ピクシスは、鋭い目つきで彼の方を向き返り、そうじっと、答えを問いただす。
「え、えっと...。」
少々困惑した顔つきで思案したのちに、アルレルト訓練兵は口を開き、
「...両方です。」
と答えた。
「僕が思いついたのは、トロスト区外門の壊された時に見かけた、壁内に残存する大岩の事です。
それをどうにかエレンの巨人の力を使えば、壁の穴を塞ぐことができるんじゃないか...ってだけで...。
その、勿論ッ!
助かりたい一心、でしたけれど...。」
と、少々小さくなりながらも本音をこぼす彼に、ピクシスは好感を持った様だった。
「助かりたい一心...か。...何より信頼できる言葉じゃ。」
そう、彼は言いながら公爵からくすねた酒をグィッと一飲みする。
助かりたい一心とは、また彼にとっては普段相手をする兵士達からは聞き慣れない言葉なんだろう。
そして、数時の後に再度口を開いて話しかけた相手は、
「のう、イェーガー訓練兵よ...。」
と、彼だった。
そして、彼の元へとゆっくりと歩き近寄っていく。
そして、
「お主には、あの穴を塞げるか...?」
と、彼に質問する。
それを聞いたエレン・イェーガーは、
「えっ...。」
と一瞬動揺した後に、気まずそうに目を逸らしながら
「...自分には、この巨人の力の事が、皆と同じくらい知ってるかどうかというくらいなので、
今の自分に、壁の穴を塞げるかどうか、ここで無責任な答えは...言えません...。」
と、賢い判断を下したとも言える曖昧な返答だった。
がしかし、だ。
僕はそれを聞いて思わず横から、
「ばっか......そんな事を聞いてんじゃねえよ...。」
と、小声で口ずさんだが、その瞬間に同訓練兵 ミカサ・アッカーマンの目つきが急にキツくなった為、それ以上は物を言わなかった。
そしてその返答を聞いたピクシスは、
「おぉ、そうじゃったそうじゃった。」
呆けたフリをして、
「質問を取り間違えておったわい。」と、彼の失態を見逃す。
そして、彼の元まで歩み寄り、そして彼と同じ高さまで屈んで、顔の目前で、こう言う。
「
......お主は
やるのかやらんのか、どっちじゃ。 」
その強烈な視線と、言葉にエレン・イェーガー訓練兵は、明らかにその質問の真意を汲み取った。
そして、イェーガー訓練兵はピクシスの視線が指す方向を振り返る。
そこには、無限の緑の大地が広がっていそうな、それでいて限りなく狭いウォール・ローゼ壁内が見えていた。
イェーガー訓練兵はじっと、考え込む。
残された大地と民と、自分の巨人となれる能力とを天秤にかけたのだろう。
そして、その数秒後に、彼は思い切った顔で、
「............っ、やりますッ...!」
と、力強く答えた。
「出来るかどうかは、わかりません...。ですが、それでも、やりますッ......!!」
強い意志と共に、彼はその大業を成そうと決心したのだった。
それに満足そうな笑みを見せるピクシスは、じっと黙っている私の目には小悪魔に見えた。
「よう言った。お主は男じゃ。」
と、彼はそうイェーガーに言い、立ち上がった。
「...参謀を呼ぼう、早速、お主らの案を立案せねばならんのでな。」
そう言って彼は参謀二人に呼び出しの合図を送った。
「そ、そんなっ!まだ皮算用ですらない、単なる思い付きなのに......!」
アルミンがその急な突発性に驚き、自分のアイディアに不安を持ち始める、が。
「いや...司令はこの案をよく理解している...。
なによりも敵は、巨人だけじゃないって事だ...。」
「えっ...それじゃぁ...。」
エレンの返事にアルミンは思惑を馳せるが、
「時は一刻を争う...活躍してもらうぞ、若き兵士達よ......。」
ピクシス司令は、もう参謀を集めたのか、こちらへと戻ってきており、既にやる気は満々と言った所だった。
そして、その次に僕と後ろに立っているイスパニア私兵にも目配せをして、
「...護国卿、其方にも、失敬ながら力を貸してもらうぞ。」
と、今度はきちんとした呼び名で真剣に僕に向き合ってくれた。
「...元からそのつもりさ。」
と、僕は一瞥してから、彼らとは一度別れ、コンキスタドール砲兵部隊の方へと歩き始めた。