シャァァァッ
と、ワイヤーが弾きまかれる音を聞きながら、私は大岩前の建物の上へと着地する。
スッ、と音も立てずに着地したのに驚いたのか、その同じ屋根の上に佇んでいた四名の駐屯兵に声をかけられ、
「ご、護国卿!?」
「護国卿がなぜッ...!」
と、口々に私に対してそう反応を返すが、私はそれを意に介さずに、
目の前にあるあの巨大な肉塊...巨人化したエレン・イェーガーが頭部から蒸気を発しながら大岩前で座り込んでいるのを一瞥して、
「...嫌な予感はしたが...、これはどういう事だ。作戦失敗か?」
と、私が目を鋭くして大層嫌な感じを醸し出しながら聞くと、彼らはうっ、と痛い所を突かれたかのように動揺し、
「...その、通りです。」
と、見れば銀髪の隊長補佐...リコや駐屯兵最精鋭のイアン・ディートリヒ...確かこのエレン護衛班の隊長を務めている...と、ミタビ・ヤルナッハが一同に集まっていた。
それに...あのミカサ、ミカサ・アッカーマンも...。
アッカーマン...その姓を聞いて、思い当たる節があったためだ。
その中で、リコが口を開く。
「見ての通り、エレン・イェーガー訓練兵は巨人の身体を掌握しきれず...アッカーマンを殴り殺そうとして、自滅しました...。」
と、非常に顔色を悪くしながらそう告げる。
その時、後方から私の後を追ってきていたイスパニア兵が到着したようで、足音を最小限にしながら同じ屋根上に飛び降りてきた。
「なっ...護国卿、彼らは確か...。」
と、イアンが私に聞いてくる通り、彼らは...
「私の私兵部隊、コンキスタドール所属の歩兵連隊だ。」
と、彼らを雑に紹介しながら、私は目の前のエレン・イェーガーの方を向く。
「...イアン隊長はどうするつもりだ?」
そう彼に今後の作戦展開を問い直す。
このままでは展開している他のエレン・イェーガー護衛班が消耗し、全滅する可能性まであるからだ。
更には周囲を見てみれば、14m級七体が前、後ろ、左右の四方面から同時に迫ってきていた。
それを鑑みて、イアン隊長も私の言葉にどうするか決めあぐねているのだろう。
そんな所に、突発的な声が挙げられる。
「て、撤退です!!」
と、威勢良く言い放ったのは他でもない、あの銀髪女 リコだった。
「り、リコッ!貴様...!」
イアンが彼女を睨みつけるが、それを静止して
「ふむ...理由は。」
と、続けさせると、彼女は首をこくりと振り、
「げ、現状で巨人化したエレン・イェーガーが役に立つとは考えられません。
故に!早急な撤退の判断を下し、最小限の被害で済ませるべきです...!」
と、その解答を潔く答えてくれた。
「だからと言って、人類最後の希望であるエレン・イェーガーをここに放って帰るというのか、リコッ!!」
そう切羽詰まった言葉で彼女に詰め寄るのはまがいもなくイアンだった。
「えぇそうよ!!
それの何が悪いっていうのよ...彼らは皆、家族や...愛する人...親や兄弟のいる人間なのよ!
それをむざむざと殺してでも、あの得体の知れない訓練兵の方が大事だっていうの!?」
「あぁそうだ!!」
彼女は本当に仲間想いが強いようで、答えは曲げなかったが、イアンも一方に譲る事はない。
その間に、私は後ろに佇んでいるイスパニア兵隊長フェルナーに隊列を組ませるよう指示をする。
そんな中、判断に困りあぐねたのか、
「......ッ! 護国卿ッ!
どうか人類最後の希望であるエレン・イェーガーを回収させてくださいッ!!」
「護国卿!撤退の命令をッ!」
と、あろうことか私にその判断を委ねてきた。
その言葉に、私は白けた顔をしながら、こう述べた。
「......お前達に告ぐ。」
ゴクリ、と喉を鳴らす音が聞こえた気がする。
後ろではミカサ・アッカーマンが私の事を鋭い目で貫いているが、無視して続ける。
「......イアンの判断に従え。」
「なッ...!」
その言葉にリコは衝撃を受け、私に問い詰める。
「な、なぜ......!」
と。
彼女の哀れな姿を見る事に耐えかねた私は、彼らの前でこう付け足す。
「......この場で、全権を委任されている指揮官は、イアン・ディートリヒ...お前だ。
今のお前は私よりも上の指揮系統のはずだ。
...自分の言葉に従え。」
イアンの方を見つめながらそうとだけいい、私は後方の部下を引き連れて屋根の上を移動する。
「ご、護国卿ッ!?
一体どちらへ......危険です!!」
リコが私を止めようとするが、手を振りかざし、それを静止する。
「......イアン、お前の言葉を信じるぞ。」
とだけ言い、私はこのデクの棒の巨人になり損ねたエレン・イェーガーを守る為、周囲の巨人の討伐へとアンカーを射出しながら屋根を飛び降りた。
ガシャンッ シュゥゥゥッ!
と、アンカーが突き刺さった音と同時にワイヤーが巻かれ、推進力が得られ、前へと我らは進み始める。
その間、後ろの四人では
「リコ...。人類が、巨人に勝つためには...あのエレン・イェーガーの力が必要だ...。
...俺たち人類にできる事なんて、これくらいなんだ。頼む...彼の護衛に就いてくれ。」
と、イアンがリコを説得していた。
それを聞いていたリコは、背を背けながら...
「...納得、できないッ...!」
と、歩き去ろうとしていた。それをみたイアンは驚いた顔で、
「ッ、リコッ!!」
と、呼び止めようとするが...本人のリコは振り返り、
「......命令には従うよ。そこの極秘兵器かなんか知らないけど、あの訓練兵に私達の未来がかかってるんだ...。
前方の三体は私の班でやる...。」
そうとだけ言って、ガスをふかし行ってしまった。
「リコ......お前......。」
イアンが彼女の想いに打たれていると、じっと傍観していたミタビも
「......後ろのは俺の班でなんとかする。頼んだぞ、イアン。」
「ミタビ......あぁ、わかった。左右の巨人は俺の班でなんとかする。
......エレン・イェーガーを死守せよッ!!」
最大の指揮権を委ねられた隊長 イアン・ディートリヒは新たなる任務を制定したのであった。
「「「了解ッ!!」」」
それに応じた各班の班員たちが応じ、それぞれ戦闘に当たっていく中で、
「アッカーマン、お前は当初の予定通り、自由に動け。その方がお前の力が発揮されるはずだ!」
それまでのエレンへの心配で顔がひどく歪んでいた彼女に、声がかかる。
「っ...了解です!」
アッカーマンにそう言ったのち、隊長はその場から離れ、左右の二体に対して立体機動に移り始めたのであった。